文字の認知単位 第4回NINJALフォーラム 2011年9月11日 横山詔一 (国立国語研究所 理論・構造研究系)
1.文字を読む 2
1rl5 = 1RL5? ninjal = NINJAL? アシモフの推理小説に似た例。 アルファベット表記も難しい。
出口(でぐち) ほかの読み方は? 4
出口(でろ) 日本語学習者から聞いた話。
降り口(おりろ) たしかに,そうも読める。
ゼンリン ゼリソン ン,ソ,リ や ツ,シ などは 区別が難しい。
他人の空似「弁似」の例。 左が「かき」で,右が「こけら」。
犬 太 大 「犬」は, たしかに「いぬ,ケン」か?
シミがついたのかも? かすれてしまったのかも? 犬 太 大 シミがついたのかも? かすれてしまったのかも? 10
文脈が必要(語や文の一部)。 文字単独では読めない。 土佐犬,秋田犬 高知大,秋田大 文脈が必要(語や文の一部)。 文字単独では読めない。 11
視点(文脈)の切りかえができる。 「刺激認知に役立つモノサシの目盛り」は,見方次第でしなやかに変化する。 文字認知はルービンの壺の知覚と似ている 視点(文脈)の切りかえができる。 「刺激認知に役立つモノサシの目盛り」は,見方次第でしなやかに変化する。 12
錯視図形は視点の切りかえ不能。 「刺激認知に役立つモノサシの目盛り」は,刺激のなかに固く刻印されている。 文字認知はミューラ・リヤー錯視とは違う 錯視図形は視点の切りかえ不能。 「刺激認知に役立つモノサシの目盛り」は,刺激のなかに固く刻印されている。 13
2.文字を思い浮かべる 身体という文脈と文字生活。 「読み書きの生態系」を支える根源的な環境要因。 14
「黄」+「木」→横 「口」+「十」+「共」→? 「黄」+「木」→横 「口」+「十」+「共」→? 「空書(くうしょ)」現象。 似た現象:ソロバン上級者が暗算をすると指が動く。 15
漢字課題で,日本人と中国人の空書行動を比較すると,ほぼ同じ傾向。英単語課題はどうか? 「月」+「口」+「糸」→? 漢字課題で,日本人と中国人の空書行動を比較すると,ほぼ同じ傾向。英単語課題はどうか? 16
日本人の空書は8割。 中国人は3割(日本人より少)。 欧米人の空書はゼロ。 フラワー スペルを口で言ってください。 日本人の空書は8割。 中国人は3割(日本人より少)。 欧米人の空書はゼロ。 17
フラワー スペルを後ろから言うと? r-e-w-o-l-f 日本人の空書は6割。 中国人は3割(日本人より少)。 欧米人はゼロ。 18
日本人の空書は8割。 中国人は8割(日本人と同じ)。 欧米人でも1割。 f_ie_d 単語を完成させるには? r, n 日本人の空書は8割。 中国人は8割(日本人と同じ)。 欧米人でも1割。 19
日本人は空書群の方が成績がよい。 中国人も日本人と同様。 欧米人は空書すると成績が低下。 英単語課題 空書群と空書禁止群の比較 日本人は空書群の方が成績がよい。 中国人も日本人と同様。 欧米人は空書すると成績が低下。 20
漢字や英単語の形を思い浮かべるとき,カラダ(身体)の動きという運動感覚成分の単位・まとまりもあわせて活用している。 「なぞる」と読める,という現象。 純粋失読の症例。 古文書の解読など。 21
3.文字を選ぶ 「書く」=「選択する」という時代。 読み書きの生態系を支える根源的な要因はなにか? 22
「会-會」は,「会」を選択する人がほとんどで,「會」は1%以下。 では,「ひのき」は? 「ひのき」を漢字変換したところ, 「桧-檜」の二つの候補が出てきました。 あなたはどちらの字を選びますか? 「会-會」の場合はどうでしょうか? 「会-會」は,「会」を選択する人がほとんどで,「會」は1%以下。 では,「ひのき」は? 23
会 は 會を圧倒。 では, 桧 は 檜を圧倒するか? 字体の人気度 会 は 會を圧倒。 では, 桧 は 檜を圧倒するか? 「木」+「会」→「桧」 「木」+「會」→「檜」 字体の好みが部分要素の足し算で決まるなら「桧」の方が好まれるはず。 24
「桧-檜」 20歳代はどちらを好むか? 25
会會と桧檜,観觀と潅灌, 亜亞と壷壺,銭錢と賎賤, など類例はたくさんある。 文字の認知は,部分要素という単位の足し算によって成立するわけではない。 26
言語と社会と心理の3者が文字の認知単位を作る ことば 社会 読みまちがい→心理的要因 空書行動,文字選択の年齢差→社会的要因 *言語と社会と心理の3者関係は分離不能。 27
空書アート 28
丸山晋一氏による制作風景 (ニューヨーク在住の写真家) 29
30 現実社会 心内辞書 文字環境:円環構造としてのマクロモデル 「社会的使用頻度」や「接触頻度」に関連する要因 接触して読む頻度 漢字政策 ・教育,出版,新聞,放送:常用漢字 → 「書き言葉コーパス」で実態把握 ・情報通信:JIS漢字,UCS → 同上 ・戸籍:人名用漢字など → 基礎資料の整備が期待される ・地名,略字など → 看板などの「景観調査」 心内辞書 接触して読む頻度 政策へのフィードバック ・用字用語調査 ・世論調査 漢字政策 社会的使用頻度 記憶痕跡 痕跡強度の測定手法 ・読み書きテスト ・連想検査 ・心像性評定 ・接触意識評定 ・親近度評定 ・表記の適切性評定 など 規範性,標準性,適切性, ポライトネスなどの 推論・思考 辞書や教科書 世間の慣習 時代精神 <情報機器で書く> 他者に配慮した 表記の選択 個人の美的直観 好み(選好) なじみ(親近度) 単純接触効果 30