日本語統語論:構造構築と意味 No.8 連体修飾 上山あゆみ(九州大学)
「AのB」のいろいろ Bが項をとる名詞で、AがBの項になっている場合 AがBに(何らかの意味で)関連づけられている場合 「メアリの弟」、「箱の色」、「トヨタの社長」、「医者の奥さん」 AがBに(何らかの意味で)関連づけられている場合 「ジョンのパソコン」、「ジョンのメアリ」、「福岡のハガキ」 Aが特性を表す名詞で、AがBの特性となる場合 「木製の椅子」、「突然の大雨」、「フロリダ産のオレンジ」 「の」によって、AがBの特性となる場合 「バイトの大学生」、「医者の奥さん」
英語の関係節 [The book [which I bought yesterday]] was very interesting. *[The pen [which Lincoln wrote the famous letter]] is on sale. [The pen [which Lincoln wrote the famous letter with]] is on sale. 関係代名詞の役割=関係節の主要部名詞を、関係 節内の意味役割に結び付けること (本来の意味役割の位置から移動すると考えられてい ることが多い。)
その他のタイプの「連体」修飾節 [The news [that the governor is going to resign soon]] surprised us all. He applied a force to [an object [such that the object bounces and flies]]. → 関係節構文と比べると、ほとんど分析されていない。
日本語の連体修飾節 [[昨日、買った] 本]は、とても面白かった。 [[リンカーンがあの手紙を書いた]ペン]が売りに出ている。 [[パーティに行く] 服]を買いに行きたい。 [[社長がテレビに出ていた] 会社]の株が下がった。 [[父親が物理学の教授の] 学生]が、面接に来た。 太郎は[[種がない] スイカ]を食べたらしい。 [[メアリが正解した] 犬]はどれですか。(たとえば、「この 犬の値段はいくらでしょう?」というクイズ番組を見ていた として)
文法片4での連体修飾節の分析 英語の関係代名詞に相当する表現もなく、主要部名 詞が連体修飾節内の意味役割に対応しない場合も区 別できないので、特に「移動」を仮定する理由がない。 単に、連体修飾節が表す事態と主要部名詞を(何ら かの意味で)関連づけるだけで十分なのではないか。
授業内演習 文法片4と文法片3で「ギョウザをうまく作るコツ」を派 生させてみて、システムのどの部分が異なっているか、見 つけてください。
リボンをつけた 女の子が立っている リボンをつけた 女の子が立っている
犬を抱いた 女の子が立っている 犬を抱いた 女の子が立っている
かわいいリボンをつけた女の子が立っている かわいい リボンをつけた女の子が立っている
かわいいリボンをつけた女の子が立っている かわいい [リボンをつけた] 女の子が立っている
リボンをつけた犬を抱いた女の子が立っている リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている
リボンをつけた犬を抱いた女の子が立っている リボンをつけた [犬を抱いた] 女の子が立っている
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている 組み合わせだけからすると次の6つの可能性があっても いいはずである。 「かわいい」が「リボン」に、「リボンをつけた」が「犬」に係っている。 「かわいい」が「犬」に、「リボンをつけた」が「犬」に係っている。 「かわいい」が「女の子」に、「リボンをつけた」が「犬」に係っている。 「かわいい」が「リボン」に、「リボンをつけた」が「女の子」に係ってい る。 「かわいい」が「犬」に、「リボンをつけた」が「女の子」に係っている。 「かわいい」が「女の子」に、「リボンをつけた」が「女の子」に係って いる。
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている かわいい リボンをつけた 犬を抱いた女の子が立っている
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている かわいい [リボンをつけた犬を抱いた]女の子が立っている
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている かわいい リボンをつけた [犬を抱いた]女の子が立ってい る
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている かわいい リボンをつけた[犬を抱いた]女の子が立っている
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている かわいい リボンをつけた[犬を抱いた]女の子が立っている こういう「ねじれた」修飾関係は、樹形図に書くことができ ない。 → 私たちの頭の中で、このような樹形図で表される構造 に基づいて、意味が解釈されていることの証拠と考えられる。
かわいい リボンをつけた 犬を抱いた 女の子が立っている どうしても、そのような修飾関係にすると、語順が変わって しまう。 リボンをつけた[かわいい 犬を抱いた]女の子が立っている
crossing effects かわいい リボンをつけた[犬を抱いた]女の子が立っている 上のような解釈ができないのは、computational system の問題ではなく、人間は、こういう「ねじれた」 関係を処理することができないものである、という考え方 もある。 しかし、→
crossing effects この村に 田中警部は[犯人がひそんでいる]と考えている. 関係が「ねじれ」ていても、解釈可能な場合もある。 → やはり、指定された解釈と語順で適格な派生ができる かどうかという問題である。