専門家としての腕を磨く -エキスパートになるまでの道程- MEDC FELLOSHIP 2016 モジュール2 課題① 専門家としての腕を磨く -エキスパートになるまでの道程- 東京大学医学部附属病院 総合研修センター 木村 光利 末梢静脈確保スキルの習得 今回の課題にあたって、私は外科出身ということもあり医療技術(臨床 技能)習得に関して検証したいと考えました。 しかし、手術手技に関しては、私はエキスパートになる遥か手前で進路 を変更したため、十分な振り返りができません。 そんな中、末梢静脈確保の臨床スキルであれば自分のスキル習得過程を 振り返ることができ、かつこの振り返りは手術手技等への応用も可能で はないかと考えました。
私の臨床医としての歩み 大学病院 外科研修医 地方中核病院 新米外科医 末梢静脈確保の臨床技術は概ねこの間に習得 大学病院 外科中ベン① 大学病院 外科研修医 大学病院で外科系診療科を3ヶ月ずつローテーション 麻酔科、心臓外科、肝胆膵外科、小児外科(計1年間) 地方中核病院 新米外科医 静岡県の公立病院で新米外科医として臨床トレーニング 鼡径ヘルニア・虫垂炎の術者からスタートし、胃切除術まで 大学病院 外科中ベン① 大学病院で外科医として勤務 大学病院では術者経験はほとんどなく第2助手が主 スタッフ医師の中では最も下、研修医の直上の指導医として病棟内を走り回る 小児病院 外科スタッフ 小児病院で外科スタッフ(の最も若手)として勤務 大学病院 外科中ベン② 大学病院で外科医として勤務、たまに術者も経験するが第1助手の経験が増える 末梢静脈確保の臨床技術は概ねこの間に習得
末梢静脈確保のスキル習得(自身の経験) 大学病院 外科研修医 麻酔科 初級 心臓外科 初級 大学病院 外科研修医 麻酔科 初級 末梢ルート確保のために準備する器材の準備をオリエンテー ション(研修医マニュアル)でまず教わり、麻酔がかかって 血管が拡張した(しかも痛みを訴えない)患者にルート確保 をさせてもらう。1~2回失敗すると指導医と交代。肘静脈 だろうが手背だろうが取れればOKという環境だった。 心臓外科 初級 病棟で初めて意識のある患者さんのルート確保をするように なる。場所が悪いとすぐ点滴が漏れることに気付くが、マシ なところに確保する余裕はなかった(ように思う)。麻酔科 の時よりも細い点滴でよいのだが、意識のある患者というこ とで麻酔科の時よりも難しく感じた。
末梢静脈確保のスキル習得(自身の経験) 大学病院 外科研修医 肝胆膵外科 中級 小児外科 初級 大学病院 外科研修医 肝胆膵外科 中級 受持ち患者が増え、末梢ルート確保の機会がさらに増えた。 肝炎等の合併で病悩期間が長くなかなか点滴が取りにくい 患者も多かった。指導医にヘルプを頼みにくく、自分で何 とかしないと、というプレッシャーが強かった。夜中の 2時に点滴漏れでNsに呼び出され、1時間かけてようやく 新しい末梢ルートの確保に成功した翌朝に点滴が終了にな る、という苦い経験もした。 小児外科 初級 小児の末梢静脈確保は成人とは全く異なることを認識する。 1回トライさせてもらえたが、失敗すると2回目以降は指 導医に交代となった。高齢者とは違う困難さを感じた。
末梢静脈確保のスキル習得(自身の経験) 地方中核病院 新米外科医 中級~上級 大学病院 外科中ベン① 上級 地方中核病院 新米外科医 中級~上級 通常の末梢ルート確保は、病棟Nsがやってくれるようになり、 病棟Nsがルート確保が困難だった症例が回ってくるようになる。 一方で、中心静脈ルート確保の手技を覚えるようになり、末梢 静脈確保が困難な症例の逃げ道(というのが適切かは分かりま せんが)ができ、どの症例を末梢ルート確保を粘るか(末梢 ルート確保にこだわるか)を判断する機会が増えた。 大学病院 外科中ベン① 上級 初期研修医の末梢ルート確保を指導するようになる。それまで 意識せずに行っていた手順やコツを言語化する必要が出てきた。 また、自分が失敗した行為の振り返りだけでなく、他者(研修 医等)が失敗した手技の原因も分析する機会が増えた。
エキスパートを生み出す練習 本人のやる気 自己評価/内省 継続性 ① 研修開始時は、「やらなければ」という義務感が強かった 一 方で、数少ない研修医ができる医療スキルであり、それを「身 に付けたい」という欲求もあった ② 地方中核病院に異動になると、病棟Nsが苦戦した症例を依頼さ れることが増え、そこで成功させると格好いい(逆に失敗する とメンツが悪い)という別のモチベーションが働いた 自己評価/内省 フィードバックとも関連するが、ルート確保の成否はすぐに分かる。 それに対して、何故失敗したのかを「患者の血管が悪い」とせずに、 どうすれば良かったのかを常に振り返るように心掛けた 継続性 末梢ルート確保の必要性は多かったので、自身の希望の有無に関わ らず、継続して練習(といっては失礼だが)できた
エキスパートを生み出す練習 良きコーチ 最適な難易度 フィードバック 研修開始時には指導医がいたが、すぐに指導医の下を離れて自分一 人でルート確保に赴く必要が生じた(定期的に手技をみてくれる コーチがいればより熟達化が早かったのか?) 最適な難易度 偶然だが自身の熟達化に合わせた環境に身を置くことができた ① 麻酔科から研修を開始したが、意識がなく、太い口径という以 外に制限の少ない(手背でも肘静脈でも構わない)条件で末梢 ルート確保の訓練を開始できた ② 心臓外科で初めて意識のある患者のルート確保に携わったが、 ここでの症例数はそれ程多くなかった。手技になれてきた肝胆 膵外科で、ルート確保の機会が急激に増えた ③ 大学病院の初期研修で基本手技を習得してから、より難度の高 いルート確保ばかり回ってくる地方中核病院に異動になった フィードバック 末梢ルート確保の成否はすぐに判明したが、その理由を教えてくれ る人はいなかったので、自身で原因を振り返る必要があった
考察 -エキスパートになるために- 知識の再確認 手技の反復 適切なフィードバックを受ける 後輩の指導 OJT(On the Job Training)が中心であったため、末梢静脈確 保スキルに関する体系化された知識(解剖学等)と文献的知識 を補う 手技の反復 末梢ルート確保の機会を増やし数をこなす ⇔ 後輩の機会を奪うことへの懸念 ※難度の高いルート確保のみ上級医がやるべきか? 適切なフィードバックを受ける 誰からフィードバックを受けるか (末梢静脈確保のエキスパート or/and 患者 or/and その他 ?) 後輩の指導 後輩への指導が自身の知識の再確認になると同時に、問題分析 能力にも寄与する可能性がある