第10章 人事労務管理の変遷と展望 森谷 新実 平山 銭貫 石岡 沼倉
1節 第2次大戦後の人事制度の変遷 <労働需給の推移に影響する要因> 労働力構成の変化:少子高齢化 2.労働に関する考え方 1節 第2次大戦後の人事制度の変遷 <労働需給の推移に影響する要因> 労働力構成の変化:少子高齢化 少子化 2016年 合計特殊出生率 1.44 高齢化 2016年 人口全体に占める65歳以上の割合 27.3% 2.労働に関する考え方 時代とともに変化 3.進学率 大学や短大への進学率上昇により労働供給の中心は大卒者に
家計が苦しくなると構成員の多くが働きに出る 5.経済成長:高成長から低成長へ オイルショック、バブル景気、リーマンショックが影響を与える 4.家計の状態 家計が苦しくなると構成員の多くが働きに出る 5.経済成長:高成長から低成長へ オイルショック、バブル景気、リーマンショックが影響を与える 6.失業率と有効求人倍率 労働需給のバランスを占める 有効求人倍率:有効求職者数に対する有効求人数の比率のこと 7.労働法制 労働関連法の改正、新たな制定は企業内の人事制度に影響を与える
人事制度の変遷 (1)電産型賃金 (2)学歴別年次別管理 ①身分制を採用せず、全員が一つの制度に統合された ②月単位で計算された (1)電産型賃金 ①身分制を採用せず、全員が一つの制度に統合された ②月単位で計算された ③本人の年齢や勤続などの要素と能力給という人事考課によって変動する可能性のある部分をもっていた ④摂取カロリー、栄養、エンゲル係数などの要素から生活保障給を算出した ⑤労働基準法制定前にも関わらず時間外割増を明示していた *個人能力による差を賃金に反映することを是認 ⇒その後の日本の賃金制度へ方向性を示した (2)学歴別年次別管理 最終学歴と入社年次で従業員をグループ化 学歴別に初任給を決め、その後は毎年の定期昇給によって賃金が積み上がっていく方式 *賃金管理の複雑化 *失敗や病気を理由に評価が低くなった場合、その差を挽回することがむずかしい ⇒こういった問題解決のために、職務遂行能力に基づいた制度が出てきた
(3)職務給導入への挑戦と挫折 (4)能力主義管理と職能資格制度 賃金の近代化を目指して、アメリカの「職務給」導入を目標とした 賃金の近代化を目指して、アメリカの「職務給」導入を目標とした (職務給・・・職務分析し、点数換算するなどして評価 その後一時間あたりの賃金額を設定) *毎年のように新しい技術が導入される状況の中では、職務分析が追いつかない *労働実態と職務給制度が合わない ⇒鳴り物入りで導入された制度だったが、経営にとってプラスにならないと見なされた (4)能力主義管理と職能資格制度 能力主義管理 人事労務管理諸施策の総称 職務遂行能力という指標を提示し、これを基準として従業員の育成、配置、処遇を決めるというもの ⇒企業における経済合理性と人間尊重の調和を掲げ、仕事を通した自己実現を目指すべきだという価値観を日本企業の人事に提供した 職能資格制度 能力主義管理の理念に基づいて始まった 職務遂行能力によって従業員を職能資格に分類し、賃金を決める *仕事と緩やかに対応しており、情勢に合わせた柔軟な変化が可能である ⇒バブル崩壊後、職能等級と担当する仕事のバランスが崩れ、成果主義的な制度の登場へと繋がった
結果:企業の業績が低迷することもしばしば *職能資格制度➡成果主義的人事制度 しかし! ・低い目標を立てる従業員が続出 ・客観的の判断が困難 ⇩ 結果:企業の業績が低迷することもしばしば 所詮、人間が作るものであるということ。
2節 人事労務管理の国際比較 <何を比較するのか> ・国際比較研究 →他国と比較した場合様々な共通点や相違点が存在するが、そこでそれらが一体いかなるもの であり、それを規定する要因を明らかにすること ※ 最低限押さえておくべき点→「同じ対象を比較する」 ・「他の変数をコントロールする」 : 国際比較研究を行うためには、国の違いという変数以 外は可能な限り条件を一定にしなければならない。 例 : 産業、企業規模、従業員タイプ
<国際比較の3つのタイプ> 1.地域間で異なる資本国籍企業を比較すること ・2つの研究方法 ・2つの研究方法 ・直接投資型:調査者が母国の調査を行うとともに、自ら他国にも出向く ・国際協調型:言語や調査対象の選定で優位性のある母国の研究者が各々の国の調査を行う 2.同一多国籍企業のなかで本社と進出先の現地法人とを比較すること 3.同一多国籍企業を異なる進出先間で比較すること
多国籍企業の人事労務管理を規定する要因(p277図10-6) 同一地域における国際比較 多国籍企業の人事労務管理を規定する要因(p277図10-6) ①ホームカントリー効果 →資本国籍ごとに異なる雇用制度が並立し、ホスト国に雇用制度の多 様化をもたらす。 ②ホスト国効果 →ホスト国の雇用制度への収斂がみられる。ベストプラクティスへの 「模倣」
イギリスの投資銀行 東京の投資銀行 ⇒「ホームカントリー型」が重要である。 日系投資銀行の「差別化戦略」 ・日本株を重視することで他国籍の競争相手との差別化を図る。 →「日本的経営」を重視し、ローカルのベストタレント獲得が困難。 東京の投資銀行 ①部門完結型(米系):タテ割りの人件費が完結している。 ②部門プラス人事部門混合型(欧州系):サラリー・レンジが設定され、 初任給を低く抑える代わりに小刻みに昇給する。 ③人事部門主導型(日系):経営側と労働側の交渉。最終的には人事部門 が決定する。 ⇒「ホームカントリー型」が重要である。
3節:戦略的人的資源管理 <人事管理から人的資源管理へ> ・アメリカ、イギリスでは、 ~1960’s Personnel Management 1970’s~ Human Resource Management (人事管理論) (人的資源管理論) *背景 「人材」像と人事労務管理の役割の位置付けの変化 ①Personnel Management (人事管理論) ↪「人材」=「代替可能」 (労働市場から調達可能な労働力) ②Human Resource Management (人的資源管理論) ↪「人材」=「人的資源」 (能力開発によってその「人的資源」を開発することができる) *「人的資源」の開発やマネジメントのあり方が、企業経営の競争力を左右する 人的資源管理論は資源ベース理論と呼応 →資源ベース理論 (企業の競争力の源泉を企業内部の経営資源の蓄積に求める) ↪①経済価値を生み出すもの ②稀少性が高いもの ③模倣困難性が高いもの ④代替不可能性が高いもの)
↪Strategic Human Resource Management (SHRM:戦略的人的資源管理論) <戦略的人的資源管理> Human Resource Management (人的資源管理論)が企業経営の競争力を左右する ↪Strategic Human Resource Management (SHRM:戦略的人的資源管理論) 人事戦略、人事制度のあり方などが研究対象 *しかし実際の企業経営が、理論の変化に対応して変化しているかは実証研究が必要 本書のタイトルが人事労務管理のままで、人的資源管理を使用していない理由 → 日本企業における人事労務管理は従来から人的資源の開発を重視し 企業の競争力を支える資源と考えてきたため呼称を変える必要性がないと理解した 近年日本における戦略的人的資源管理への関心の高まりの背景には 人事部の地位や発言力の低下がある。
両アプローチは、人的資源が競争優位の源泉とする点で共通 <経営戦略と人事戦略> 1 ベストフィットアプローチ →経営戦略によって望ましい人事戦略や人事管理制度は異なる 2 ベストプラクティスアプローチ →好業績企業には、人事戦略や人事管理制度に共通した特徴が存在す る ↓ 両アプローチは、人的資源が競争優位の源泉とする点で共通 3 内的なフィット →人事管理制度の設計に関わる。人事制度のまとまりを一つの束とし て考え、人事管理制度の組み合わせや一貫性を研究