学習者同士のコミュニケーションを重視した 多読教育を支援するWebアプリケーションの開発

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学習者同士のコミュニケーションを重視した 多読教育を支援するWebアプリケーションの開発 政策・メディア研究科 修士課程 川村 昌弘

研究概要 多読教育を支援するWebアプリケーション (IRCシステム)の開発 IRCプログラムという新しい英語多読教育 プログラムを支援 学習者と本との出会いを支援する工夫を盛り込み,教育プログラム自体を充実させることができた

研究の位置付け システム開発の過程で, 教育プログラムの改善にも貢献 開発過程における評価の段階 で,システムだけでなく教育 プログラムを評価する 評価の結果明らかになった 問題点を次の開発で改善 する IRCプログラム (教育法) 改善提案 反映 IRC システム 評価 設計 運用 実装

多読教育 多読教育とは? 多読教育のメリット 外国語Reading教育の一つ 学習者が自分のレベルや興味にあった本を自由に選択し,自分のペースで読んでいく 学習者の意識を語句の意味や文法理解ではなく読んだ本の内容の理解に向ける 多読教育のメリット 読書量の増加(様々な本が読める) 学習者のモチベーションを維持しやすい

IRCプログラムとは IRC(Interactive Reading Community)プログラム 慶應義塾大学英語科非常勤教員水野邦太郎氏が考案した多読教育プログラム 慶應義塾大学SFC・上智大学で1999年より実施 (2004年度後期:慶應3クラス,上智2クラス 計156名が履修)

IRCプログラムの特徴(1) 学習者同士のコミュニケーションを重視 学習者は・・ 教師は・・ 本を読む 自分のReading Skillや興味に応じて好きな洋書を選び,各自のペースで読み進める Reaction Report投稿 RR 読んだ本についてReaction Reportという本の紹介を書き,Web上の掲示板に投稿する Web上の 掲示板 学習者 学習者 コメント コメント投稿 投稿された他人のReaction Reportの中から自分が印象に残ったものに対してコメントを書く 教師 評価 教師は・・ 授業での学習者の活動状況を評価する どれだけの本を読んだか? どれだけ活発にコミュニケーションしたか?

IRCプログラムの特徴(2) 学習者の多読の達成状況を独自の指標で評価する これらの指標をもとに学習者をランキングする Reading Marathon 読書量の指標 本ごとに規定された読破距離(Word数)の合計 Reading Stars 読んだ本の冊数 Comment Olympics コミュニケーションの活発さを表す指標 コメント投稿数と投稿したコメントに対する評価によってポイントが増える これらの指標をもとに学習者をランキングする

IRCプログラムのメリット 読解を深める 学習者のアウトプットの質の向上 同じ本に対する他の学習者の意見を知る ことができる アウトプット(投稿したReaction Reportと コメント)に対して,他の学習者からフィード バックがある

IRCプログラム開始当初の問題点 IRCプログラムを支援するシステムが存在しなかった 学習者が本を見つける為の環境が提供されていない 学習者の達成状況の集計は手作業 汎用的な教育支援システムでは対応できない 学習者の提出物を共有することはできても,それらを 本を中心としたコミュニケーションを実現できない 達成状況を集計し確認する仕組みが支援されていない

IRCシステム開発の経緯 第1期開発 第2期開発 1999 IRCプログラムを支援する環境が十分に整っていない 2003 Web掲示板プログラムの集合体 IRCプログラムを支援する環境が十分に整っていない 2003 7月 第1期開発 IRCプログラムを支援するWebアプリケーション(IRCシステム)の開発 9月 運用(2003秋・2004春) 2004 学習者と本との出会いの支援が不十分である 7月 第2期開発 学習者と本の出会いを支援する工夫の導入 9月 運用(2004秋)

第1期開発:IRCプログラムを支援する環境整備 学習者同士のコミュニケーション システムを通して,他の大学やクラスの学習者 ともコミュニケーション可能にする 学習者・教師が達成状況を確認する 達成状況による学習者の順位付け IRCプログラムに参加している学習者全員の達成状況を把握できるようにする 自分自身の活動履歴の表示 自分で学習・読書目標を立てられるようにする

学習者同士のコミュニケーション 学習者が投稿したReaction Reportとコメントをツリー形式で表示 議論の記録を本ごとにまとめる 本をめぐる学習者同士のコミュニケーションを支援 コミュニケーションの記録は本を選ぶ際の参考資料になる 本についての情報 本をめぐる学習者同士の議論

達成状況による学習者の順位付け Reading Marathon Reading Stars Comment Olympics Reaction Reportやコメントの投稿状況に応じてこれらのランキングをリアルタイムで行う 学習者自身が授業における自分の達成状況を把握できる 教師による成績評価の指標として活用

自分自身の活動履歴 自分の成長記録を振り返る 自分自身の読書傾向を分析し, 学習(読書)目標を立てる 自分が書いたReaction Report・コメント それに対してもらったコメント 自分自身の読書傾向を分析し, 学習(読書)目標を立てる 他人の活動履歴を見ることで,IRCでのコミュニケーションを通して知り合った相手に対する理解を深める

第1期開発で明らかになった問題 問題:学習者が読みたい本と出会えていない 原因 IRCプログラムで用意されている本は約1,600冊 読まれていない本が多い IRCプログラムで用意されている本の全体像を学習者が把握 するのは不可能 学習者に存在を知られず,全く読まれていない本が多い 原因 学習者が本と出会うプロセスが支援しきれていない 学習者が本と出会うプロセスは多様である 読みたいと思った本を忘れてしまう IRCシステム上で読みたい本を見つけても,すぐに手にして 読むことができなければ,その本を忘れてしまう

学習者と本との出会いのプロセス これまで支援されていなかった,「学習者と本の出会い」のプロセス 他の学習者から 学習者の関心分野から 教師からの紹介 見つけた本は,「読みたいと思った本の一覧」として一時的に記憶しておく その他 教室での紹介 本の検索 他の学習者から 関心分野から 教師からの紹介 読みたい本の発見 読みたい本の一覧 (読書計画) 読書

第2期開発:学習者と本との出会いを支援する工夫 他の学習者を通した本との出会い (Reading Fan Club) 学習者の関心分野を通した本との出会い(Favorite Genres) 教師を通した本との出会い (Recommended Titles) 読書計画 (Book Wish List)

他の学習者を通した本との出会い (Reading Fan Club) 他人の書いたReaction Reportやコメントを通して,その人の価値観に共感した場合,その人が読んだ本を読みたいと思う傾向がある 学習者を通した,本との出会いを支援する 自分のファンができることで,モチベーションに繋がる ファンになる Bの最新の投稿 状況の自動告知 学習者A 学習者B

関心分野を通した本との出会い(Favorite Genres) 自分が関心のあるジャンルを登録しておくと,そのジャンルに属する本がランダムで表示される 自分の関心のあるジャンルから本を探す学習者が多かった 知らなかった本との出会いの可能性 自分の関心のあるジャンルに属する本をわざわざ探さなくても自動的に推薦される 学習者Aの Favorite Genres 自分の関心 のあるジャン ルを登録 指定したジャンルに所属する本 の中からランダムに本を表示 IRC 学習者A

教師を通した本との出会い(Recommended Titles) 学習者 教師 IRC 教師の推薦する本を学習者に提示 教師から学習者に本を 推薦する IRCで提供されている膨大な本を把握しているのは教師だけ 学習者では見つけられないような本を教師が学習者に提示することができる 教員も学習者と同じ立場で参加する

読書計画(Book Wish List) IRCシステム上で見つけ, 読みたいと思った本を記憶しておき,簡単な読書計画とする 読了(=Reaction Report投稿)と ともに自動的にリストから消える 読みたい本を見失わないようになる IRCに登録されている本 学習者Aの Book Wish List 読みたいと思った 本を記録しておく IRC 学習者A

IRCシステムの評価 IRCシステムを評価するため学習者を対象としたアンケートを実施 回答:124名

教育プログラムの支援についての評価 7割以上がIRCシステムによって教育プログラムが支援されていると回答 無回答 4% わからない 11% かなり 不十分 1% やや 14% 十分支 援して いる 70%

他の学習者を通した本との出会い (Reading Fan Club)に対する評価 活用している学習者は3割弱 気後れがする 色々な人のReaction Reportを読みたい(相手が偏るのが嫌) 半数が,自分に注目している人がいることがモチベーションに繋がると回答 あなたはReading Fan Clubに何人登録していましたか? 無回答 2% 1人 14% 3人 8% 2人 4% 1人も 登録し ていな い 72% 自分をファンとして登録してくれた人についてどう思いますか? 嬉しい・ 励みに なる 50% 無回答 21% 恥ずか しい 9% 特に気 にしない 20%

関心分野を通した本との出会い (Favorite Genres)に対する評価 3割以上の学習者が,関心分野からの 自動推薦が読書に繋がったと回答 Favorite Genresから自動で選ばれて くる本を読んだことがありますか? いいえ 63% 無回答 2% はい 35%

教師を通した本との出会い (Recommended Titles)に対する評価 読書に繋がったのは,12% 殆ど全員が教師からの推薦に関心を持っていた 8割が教師の紹介文が参考になったと回答 Recommended Titlesを活用していますか? 一覧にある本を読んだ 12% 一度も見 ていない 2% 一覧を 眺めた だけ 42% 一覧に ある本 のリンク をクリッ クしてみ た 43% 無回答 1% Recommended Titlesの紹介文は参考になりましたか? はい 80% 無回答 5% いいえ 15%

読書計画(Book Wish List)に対する評価 ほぼ全ての学習者が活用(10冊以上を登録) 9割近くの学習者が,読書計画として登録した本が 読書に繋がったと回答 あなたのBook Wish Listには今 何冊くらいの本が登録されていますか? 5-10冊 6% 20-25冊 26% 15-20冊 27% 10-15冊 15% 25-30冊 20% 無回答 2% 0冊 1-5冊 Book Wish Listに登録した本を読んだことはありますか? いいえ 11% 無回答 1% はい 88%

次に読む本を決める際に最も決め手となっているのは何ですか? 本との出会いの支援についての評価 6割以上の学習者が読みたい本にだいたい出会えたと回答 今回導入した工夫が,次に読む本を選ぶ手段として定着している(25%を占めた) 次に読む本を決める際に最も決め手となっているのは何ですか? 25% 自分が読みたいと思っていた本と 出会えましたか? 無回答 2% Book Wish List 自分のファン その他 あまり出会 18% の読んだ本 無回答 えなかった 10% 2% 2% 2% とくに決ま Favorite Genres っていない に表示された本 25% 5% どちらとも 最新の投 言えない 稿状況 32% だいたい 7% 出会えた 週間優秀書評 64% 4% 教室で 教室での先生など からのアドバイス 21% Achievements 4% で見つけた本 2%

まとめと今後の展望 IRCシステムの開発による成果 今後の展望 IRCプログラムという新しい多読プログラムを支援 学習者同士の本についてのコミュニケーションの実現 達成状況の振り返りを可能に IRCプログラム自体の問題点を指摘し,改善した 学習者と本との出会いを支援する工夫を盛り込み,教育プログラム自体を充実させることができた 今後の展望 英語以外の教育への応用を検討する データを交換するだけで,他の言語の多読教育にも応用可能

IRCの評価基準 読破冊数13冊以上 or 読破距離130km以上で単位を認定 (読破冊数18冊以上 or 読破距離180km以上ならばA) この他,Reaction Reportコメントの投稿状況・内容や授業への出欠などで成績を評価

Reaction Reportとコメントのコミュニケーション