合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系) 化学合成によって作られた感染症治療薬で、微生物が産生する抗生物質を基本骨格としないものを、一般に合成抗菌薬という。ここでは、サルファ剤(スルフォンアミド剤)とピリドンカルボン酸系(キノロン系とも呼ぶ)の合成抗菌薬などについて述べる。
抗菌薬がその効果を発揮するためには、病原微生物の生育部位にまで到達し有効な濃度(MIC以上)を維持しなければならない。しかし、抗菌薬による感染症治療は、患者の防御機構の状態や感染部位の状況などによっても、その成否は影響を受ける。免疫機能や食細胞機能が高ければ、抗菌薬が微生物に静菌的に働くだけで治療ができる場合もあるが、好中球減少症の緑膿菌感染者など患者の防御機構が低下している場合には、速やかに殺菌性の抗菌薬を使用する必要がある。
β-ラクタム系抗生物質では、一定の薬剤濃度を保つために、分割投与(例えば、1日4回6時間ごと)の方が、間歇投与(例えば、同量を1日1回で投与)より効果が優れていると言われているが、アミノ配糖体系の抗菌薬では、1日1回投与の方が分割投与より効果に優れ、かつ副作用の発生が少ない。投与方法として経口投与と注射が良く利用されるが、両投与ル−トの特徴を表12−2に示す。
抗菌薬併用療法 2種類以上の抗菌薬を併用する方が有用となる場合が知られている。これには、腹腔内・肝・脳の膿瘍(のうよう)や生殖管感染症、起因菌が不明の重症感染症あるいは特異感染症(細菌性心内膜炎や好中球減少性の緑膿菌感染症など)の治療が含まれる。 例えば、黄色ブドウ球菌の治療に対するペニシリン系とアミノ配糖体系抗生剤の併用、結核症に対するイソニアジドとリファンピシンの併用などがある。また、トリメトプリムとスルホンアミドの併用やフルシトシンとアムホテルシンBの併用による協力効果も認められている。
補 足 説 明 広域スペクトル(抗緑膿菌)ペニシリン系はアンピシリンに類似する活性を示すが,エンテロバクターおよびセラチアの一部の菌株,ならびに緑膿菌の多くの菌株に対しても活性である。チカルシリンは腸球菌に対してピペラシリンよりも活性が低い。βラクタマーゼ阻害薬の追加により,βラクタマーゼ産生メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,大腸菌,肺炎桿菌,インフルエンザ菌,およびグラム陰性嫌気性桿菌に対する活性が増強するが,ampC βラクタマーゼを産生するグラム陰性桿菌に対する活性は増強しない。広域スペクトルペニシリン系はアミノ配糖体系との相乗効果を示す(両者は通常,緑膿菌感染症に対して併用される)。
しかし、逆に、バンコマイシンとトブラマイシンの併用では腎毒性が強まり、β-ラクタム系やアミノグリコシド系などの殺菌性抗菌薬と、テトラサイクリン系やクロラムフェニコ−ルなどの静菌性抗菌薬を併用すると効果が減弱する。一般的に、殺菌性と静菌性抗生剤の併用は効果が拮抗し減弱するので、使用しないことが望ましい。抗菌剤の併用療法は副作用を増強する可能性や、本来必要でない抗菌剤に対する耐性菌を増加させる可能性があることなどを理解して実施すべきでる。