企業ファイナンス 2009年10月28日 資本コスト 名古屋市立大学 佐々木 隆文
今日の講義について 最初に、理解度確認アンケートをやってみてください。 そのあと、TA(ティーチングアシスタントの山本諭氏(大学院修士課程2年、みなさんの先輩です)による説明があります。
資本コストとは? 投資において、最低限クリアしなければならないリターン(ハードルレート) 投資の意志決定 金融投資 実物投資 予想されるリターン>資本コスト 実物投資 資本コストで評価したNPV>0 内部利益率>資本コスト (費用が初期投資のみの場合)
資本コスト 投資家が要求するリターン =価格を維持するために必要なリターン
債券の資本コスト 債券の資本コスト=毎年支払うクーポン? →債券発行後、毎年払うのはクーポンのみ 新しく発行された債券の場合はOK ・資本コスト=最終利回り=クーポン 過去に発行された債券の場合は,資本コスト=最終利回り≠利子率 キャピタルゲイン=0の場合はOK NPVも資本コストも税引後ベース
株式資本コスト 株主が要求するリターン 株価を維持するために必要なリターン 例:株式発行により100を資金調達。100を投資して、翌期に110(つまり、10%)のCFが受け取れるプロジェクト。配当利回りは5%とする。株主が要求しているリターンは15%とする。 投資を行うとどうなるか?
株式資本コスト 投資を行わない →株価=100 投資を行う →工場を所有していることの価値=110÷(1+0.15)=95.6→投資を実行した後の株価 →工場を建設するための費用=100 NPV=-4.4 分子が分母と同じ割合以上で増える必要がある
資本コストと経営者行動 株主は15%の資本コストを要求 経営者は10%を基準に投資 →株価が下がる 経営者が株価を気にしない場合 →株価が下がるような投資を行う なぜ、経営者はそのような投資を行うか? ・経営者の利害が株価と関係ない ・大きな会社を経営することによる満足感 ・投資家が合理的でない場合
資本コストと証券価格 投資家が要求する期待リターン =証券(株式、債券)の価格を維持するために最低限稼がなければならない収益 証券の価格 =証券(株式、債券)の価格を維持するために最低限稼がなければならない収益 証券の価格 将来のキャッシュフローの現在価値 割引計算:1年毎に1/(1+r)倍 分子が(1+r)倍以上増えないと、現在価値は減る
CAPMの復習 Ri = rf + βi ( rm - rf ) Ri ー rf = βi ( rm - rf ) 各個別株式の期待リターンはβとともに増える 各個別株式の期待超過リターンはβに比例 Ri :企業iの要求期待リターン(資本コスト) rf:安全資産の利子率 βi :企業iのβ値 rm:市場全体の期待リターン
βの決定要因 売上高の変動性 営業レバレッジ:生産活動からの利益に関するリスク(借方リスク) 将来の配当金に関する リスクが株主のリスク 売上高の変動性 営業レバレッジ:生産活動からの利益に関するリスク(借方リスク) ⇒営業費用のうち、固定的な部分がどれだけあるか? 財務レバレッジ:リスクがどの程度株主に集中しているか?(貸方リスク) ⇒金融費用のうち、固定的な部分がどれだけあるか? ⇒資本構成に依存する
営業レバレッジ EBIT:資金提供者に帰属する税引前利益 EBIT=S(1-v)-F ⇔ S(1-v)=EBIT+F 変動費(原材料費)を支払った後の利益 人件費等 EBIT:資金提供者に帰属する税引前利益 EBIT=S(1-v)-F ⇔ S(1-v)=EBIT+F S:売上、v:変動費比率、F:固定費 ΔEBIT=ΔS(1-v) 営業レバレッジ: (ΔEBIT/EBIT)/(ΔS/S) ={ΔS(1-v)/EBIT}/(ΔS/S) = {(1-v)/EBIT}/(1/S) = {S(1-v)}/EBIT={EBIT+F}/ EBIT =1+F/EBIT
例題 企業Aは薬品事業と食品事業を手がけている 企業Bは食品事業のみを手がけているとする A社の薬品事業、及び、A社、B社の食品事業のリスクは同じであるとする どちらの企業の資本コストが低くなるか? 2社とも同じ資本コストになる