プロトプラスト ―単離と融合― 理数科課題研究 生物班 大浦 冬樹 楠井 悠平 石戸 克尚 森田 紘一郎 吉岡 昌樹 若林 未来 理数科課題研究 生物班 大浦 冬樹 楠井 悠平 石戸 克尚 森田 紘一郎 吉岡 昌樹 若林 未来 (ふゆ) これから、生物プロトプラスト班の発表をはじめます。
プロトプラストとは? 細胞壁のない植物などの細胞 原形質体 (ヌード細胞) ともいう 細胞融合や遺伝子の操作が容易 突然変異しやすい (ex.日本人好みの米) ポマト・オレタチ・ヒネなどの作物のもと 丸くてかわいい (by 大浦) 突然ですがみなさん、プロトプラストとは何かご存知でしょうか。どこぞで聞いたことがある人もいるでしょうが、最初から説明します。 プロトプラストとは細胞壁のない植物などの細胞のことで、原形質体やヌード細胞とも呼ばれます。 ここで、模型を使ってみてみましょう。 (よしおの実験) (バーン) はいみなさん、眠気が覚めたところで次いきましょう。 プロトプラストを使うと突然変異を起こしやすいので、新しい品種を作るときなどに用いられます。 細胞融合の成功例としてはポマトなどがありますが、これについては後程紹介します。
プロトプラストの単離 細胞を一つ一つばらばらにする 細胞壁を取り除く それでは実際にプロトプラストを作ることにします。 植物の細胞同士はペクチンという物質がくっつけています。図で黄色の部分です。
プロトプラストの単離 細胞を一つ一つばらばらにする 細胞壁を取り除く そして、このペクチンをペクチナーゼという酵素で溶かします。図のように細胞1つ1つがばらばらになります。 (次のスライドにかけて) 細胞壁は、セルロースという物質でできています。これを、セルラーゼという酵素で溶かしていきます。
プロトプラストの単離 細胞を一つ一つばらばらにする 細胞壁を取り除く 植物細胞は細胞壁によって形が決まっているので、細胞壁がなくなるとまんまるのかわいらしい形になります。
プロトプラストの単離 ――使用薬品―― D-マンニトール (森田) さて、単離に使う薬品にD-マンニトールというものがあります。D-マンニトールは特に藻類、菌類などに多く含まれています。 また、蔗糖の 5,60% の冷涼な甘味があり、低酸産性のためガムなどにも利用されます。
浸透圧の測定 ――実験器具と薬品―― 試験管 ショ糖 顕微鏡 0.65mol/l 0.75mol/l 0.85mol/l (さらり) この D-マンニトールを今回の実験では浸透圧の調整に使います。そのための量をはかります。
浸透圧の測定 (さらり) 図のように原形質分離しているほうが単離しやすいので、その濃度を調べます。
浸透圧の測定 0.65 0.75 0.85 ニンジン ▲ ● ピーマン × 赤パプリカ (mol/l) これが結果です。丸が十分に原形質分離しているということです。この結果から、すべての材料の浸透圧を 0.75mol/<I>l</I> に統一しました。
プロトプラストの単離 ――使用薬品―― D-マンニトール 13.663g (0.75mol/l) セルラーゼ 0.80g (ふゆ) (さらりと流す) ほかには、塩酸と水酸化ナトリウムを、 pH の調整のために使います。
プロトプラストの単離 ――酵素液作成―― D-マンニトール・セルラーゼ・ペクチナーゼをそれぞれ電子天秤で量る メスフラスコに入れる 蒸留水を入れて全体の体積を 100ml にしてよくかき混ぜる それぞれの薬品をメスフラスコに入れます。それから、蒸留水を足して全体の体積を 100m<I>l</I> とします。
プロトプラストの単離 ――使用材料の処理①―― 材料を細かく切り、 2 g ずつに分ける 材料と酵素液をツンベルク管に入れる アスピレーターで空気を抜き、酵素液を細胞間に染み込ませる 24 時間放置 次に細かく切った材料と酵素液をツンベルク管に入れ、空気を抜きます。そして、24時間プロトプラストができるまで待ちます。
プロトプラストの単離 ――使用材料の処理②―― 下部の溶液をピペットで取り出す 沈殿管に入れ、遠心分離器にかける 次の日、プロトプラストが入っているであろう液を沈殿管に入れ、遠心分離機にかけます。 (写真を指す) この写真が遠心分離機です。 遠心分離するのはプロトプラスト以外の組織などを振り分けるためですが、あまり速く回すとプロトプラストが壊れてしまうので注意しなければなりません。
プロトプラストの単離 ――観察―― 溶液をホールスライドガラスに取り出す 顕微鏡で観察 (さらりと流す) では観察しましょう。このとき、普通のスライドガラスを使ってもよいのですが、真中に穴があるホールスライドガラスが使いやすいです。
プロトプラストの単離 ――赤パプリカ―― これが赤パプリカの写真です。倍率は150倍です。
プロトプラストの単離 ――黄パプリカ―― こちらは黄色のパプリカのものです。同じく、倍率は150倍です。
プロトプラストの単離 ――ニンジン―― これがニンジンの 300倍の写真です。
プロトプラストの単離 ――確認―― 細胞壁がある 細胞壁がない プロトプラストの単離 ――確認―― 細胞壁がある 細胞壁がない ここで、観察されたものが本当にプロトプラストであるかを蒸留水を流すことで確認します。 (スライドを指す) こちらの図をご覧ください。植物細胞は蒸留水に浸すと浸透圧の関係で原形質が膨れ、細胞が緊張状態にあります。 (細胞壁ありのアニメーション) よく、キャベツを水に浸すとしゃきしゃきになるというのは、細胞がこのように緊張状態になっているからなんですね。 ところが、プロトプラストの場合は、細胞壁がないので、細胞が水を吸って破裂してしまいます。 (細胞壁なしのアニメーション)
プロトプラストの単離 ――確認―― これが実際に撮影した映像です。(指す) この辺りに注目してください。 プロトプラストの単離 ――確認―― これが実際に撮影した映像です。(指す) この辺りに注目してください。 (二回目の再生) 見逃した方のためにもう一度見てみましょう。巻き戻しで復活するところもわかりやすいです。
プロトプラストの単離 ――結果―― 多量のプロトプラストが確認できたもの 赤パプリカ ニンジン ある程度のプロトプラストが確認できたもの ピーマン ミカン プロトプラストが観察できなかったもの コマツナ 大根の葉 結果をまとめるとこのようになります。(スライドを指す) 観察できなかったものがありますが、これは、材料を細かく切ったときに葉の細胞を壊してしまい、色素が大量に出てしまって、ファーフロム観察状態でした。 (話術で受けを狙うべし)
プロトプラストの融合 単離した細胞をくっつける PEG 溶液による化学的融合と電気パルスによる物理的融合がある 交配できない遠縁の種の間でも融合可能 (まさき) 次にプロトプラストの融合について説明します。 融合というのはその名の通り、単離した細胞をくっつけることです。 融合には化学的方法と物理的方法があるのですが、今回は設備の関係で化学的方法を用いました。 異種の植物の細胞融合に成功すると、両方の植物の性質を持った新しい植物ができます。特に、交配ができない縁の遠い種同士でも融合可能です。
プロトプラストの融合 ――薬品と器具―― PEG 溶液 柄つき針 駒込ピペット 顕微鏡 ホールスライドガラス (一つ穴) (さらりと流す) このような薬品や器具を使います。
PEG――ポリエチレングリコール 酸化エチレンの重合体 (polymer) 平均分子量 200 ~ 20000 程度が汎用 分子量の低いものには毒性 保湿剤・粘度調整剤に用いられる - + PEG は酸化エチレンの<ruby><rb>重合</rb><rp>(</rp><rt>じゅうごう</rt><rp>)</rp></ruby>体で、水溶性で刺激があまりなく、普段は保湿剤や粘度調整剤として用いられます。 この薬品をプロトプラストの融合に用いるのは、「+」に帯電している細胞膜を部分的に「-」に帯電させて、プロトプラスト同士を引き合うようにさせられるからです。
プロトプラストの融合 ――結果―― ニンジン同士やピーマン同士ではわずかに融合 異種間ではまったく融合せず 結果としては、ニンジン同士やピーマン同士ではわずかに融合するのが見られましたが、異種間ではまったく融合しませんでした。 この写真 (指す) はピーマンのプロトプラストが融合するところです。
実験方法への疑問 酵素の最適温度を考慮せず 空気を抜く必要はあるのか 24 時間も放置する必要はあるのか (さらり) そこでいくつか疑問点が挙げられました。 まず、夏に生物部でプロトプラストの実験をしたときは、あまりうまく単離することができなかったのですが、今回は比較的良く単離していたので、やはり酵素の最適温度を考慮しなければならなかったのではないかという点。 2つ目は、材料を酵素液に入れたときにアスピレーターで空気を抜きましたが、空気を抜いたものと抜かなかったもので比較実験したときに、双方ともプロトプラストを観察することができたことから、ほんとうに空気を抜く必要があるのかどうかという点。 3つ目は、24時間も待つ必要があるのかという点。これは時間の関係上 実験で確認できませんでしたが、以上3つの疑問点が挙げられました。
実験方法の見直し ① 富山大学理学部生物学科を訪問 増田恭次郎講師 (せっきさん) これらの疑問について、文献なども調べていましたが、富山大学でもプロトプラストの研究が行われていることを知り、訪問して増田先生にアドバイスを頂きました。 増田恭次郎講師
実験方法の見直し ② 酵素液の温度 25~30℃ 空気は抜かない 待ち時間は 3,4 時間程度 その他、酵素の量を調整 空気を抜くと当然、細胞は死滅 より空気と触れ合うよう、三角フラスコを使用 待ち時間は 3,4 時間程度 その他、酵素の量を調整 酵素液の温度を25度~30度くらいに保ち、空気を抜かず、逆に空気と触れる面が多くなるように三角フラスコなどを用いたほうがよいということがわかりました。 また、果実をあえて使う必要はなく、葉肉を使ったほうがやりやすいということです。 更に、この条件では、3,4時間でプロトプラストができ、長時間置くと融合してしまったり、質が悪くなったりしてしまうようです。
融合細胞の培養 核が融合する 近種ならスムーズに融合 遠種なら染色体が淘汰、強いものが残る 細胞壁が復元される 無菌培養 カビなどの増殖を防ぐ さて、融合に成功してうまく進めばどうなるかということですが、細胞が融合すると、それぞれの細胞の核が融合します。その核内では、近い種の場合は比較的スムーズに融合していくのですが、遠い種の場合は染色体が淘汰されて強いものが生き残ります。 また、遠い種の場合は融合しても成長することが少なく、融合細胞のまま死んでしまうことが多いそうです。 それから、プロトプラストは全能性を持っているので、培養を進めると細胞壁が復元されます。 プロトプラストの培養を進めていく上では、徹底した滅菌が必要となります。器具はすべて殺菌・消毒したものを使用し、作業はすべて無菌箱の中で行います。また、使用する薬品の殺菌も必要となり、大変難しい作業となります。
融合成功した植物 ――オレタチ―― オレンジ + カラタチ 世界で初めて融合成功した果樹 (1985年) 種子を作ることに成功 オレンジの葉の大きさ、丸み、実の大きさ カラタチの葉の形、実の強い香り 世界で初めて融合成功した果樹 (1985年) 種子を作ることに成功 果樹試験場とキッコーマンの共同研究 (くすい) それでは、融合に成功した植物を紹介します。まず、種子を作ることに成功したオレタチがあります。オレンジとカラタチをあわせてオレタチという絶妙なネーミングなのですが、オレンジの実の大きさにカラタチの強い香りを併せ持つ実ができました。
融合成功した植物 ――ポマト―― ジャガイモ (ポテト) + トマト 耐寒性のあるトマトが目的 実用にはならず ポテトの芽の毒 (ソラニン) 小指くらいの太さの芋 ミニトマトより小さな実 また、「ポマト」は有名なので知っている方もいらっしゃるでしょうが、トマトにジャガイモの耐寒性をプラスする目的で作られました。 しかし、できた実は小さくまずく、ジャガイモの芽の毒性を持つトマトもできてしまったそうです。
融合成功した植物 ――その他の例―― バイオハクラン (ハクサイ + 赤キャベツ) ヒネ (ヒエ + イネ) 先宝菜 (キャベツ + コマツナ) メロチャ (メロン + カボチャ) トマピーノ (トマト + ペピーノ) ネギタマ (タマネギ + ネギ) そのほか融合・培養に成功した植物としてこのようなものがあります。細胞融合でできた新しい植物にはだいたい、元の植物の名前を足し合わせることにしているようで、このように絶妙な名前のものばかりです。
プロトプラストと遺伝子技術 米の新品種開発によく使われる 植物は生育に時間がかかる 融合結果が意図どおりとは限らない 融合ではなく、遺伝子を直接操作 (組換えなど) する方法が主流へ プロトプラストによる細胞融合は米の新種を作ることによく使われています。 しかし、プロトプラストによる細胞融合では、植物の生育に時間がかかるとか、もし融合・培養に成功したとしても、ポマトのように計画とは違うものができてしまうとか、手間がかかる割に報われない作業となります。 そのため、最近ではプロトプラストによる細胞融合ではなく、遺伝子組換えなどの方法での品種改良がよく行われるようになっています。
おわりに プロトプラストはバイオ技術の先駆け 実験方法の誤りを正すことができた 継続して更に研究したい 融合植物のカルス形成――大きな目標 背景知識を更に深める (ふゆ) 今回、バイオテクノロジーの先駆けともいうべきプロトプラストの研究ができて本当に面白かったです。 はじめは実験の仕方に多くの誤りがありましたが、ニッポンジーンや富山大学のみなさまの助言もありまして、正しい知識を身に付けることができてよかったと思います。 今後も継続して研究を続け、ゆくゆくは融合植物のカルス形成ができればと思っています。
プロトプラスト ―単離と融合― 理数科課題研究 生物班 大浦 冬樹 楠井 悠平 石戸 克尚 森田 紘一郎 吉岡 昌樹 若林 未来 理数科課題研究 生物班 大浦 冬樹 楠井 悠平 石戸 克尚 森田 紘一郎 吉岡 昌樹 若林 未来 これで、生物プロトプラスト班の発表を終わります。