わが国における自殺 年のデータより 人( 1998 年以降 3 万人超、交通事故死の約 3 倍) 年齢: 60 歳以上( 35 %)、 50 代( 23 %) 原因(遺書から推定) :健康問題>経済・生活問題>家庭問題 警察庁生活安全局地域課
がん患者における自殺率 - メタアナリシス Harris et al. Medicine つの追跡研究 (フィンランド、アメリカ、スイス、スウェーデン、デンマーク) 自殺率:一般人口に比べて 1.8 倍 ( 95 % CI: ) 時期: がん診断後 1 年以内 病期: 進行がん 部位: 頭頚部、 肺、胃腸系、中枢神経系等
がん患者の自殺の疫学 - 小括 - 1. 一般人口に比べて自殺率は有意に高い( 2 倍程度)。 2. がん患者の 0.2 %程度が自殺で亡くなっている。 3. 男性、進行がん、診断後早期の時期に多い。
がん患者における自殺 - 心理学的剖検 自殺したがん患者( N=60 )、フィンランド 年齢: 歳 性別: 男性 (83%) 部位: 胃腸系( 17% )、頭頚部( 10% )、肺( 8% ) 病期: 終末期 (30%) 、寛解期( 42% ) 身体症状:痛み( 58 %)、他の症状( 52 %) 精神科診断 (DSM III-R) : うつ病( 32% ) その他のうつ病性障害( 30% ) アルコール依存( 13% ) 不安障害( 13% ) 適応障害( 12% ) 診断なし ( 5% ) Henriksson et al, J Affective Dis 1995
終末期がん患者の希死念慮の頻度と関連要因 Chochinov et al, Am J Psychiatry 1995 対象 緩和ケア病棟に入院した終末期がん患者 200 名(カナダ) 痛み 家族のサポート うつ状態 希死念慮 数値:相関係数 Chochinov et al, Psychosomatics 1998 頻度 18% 絶望感
終末期がん患者の希死念慮の頻度と関連要因 Breitbart et al, JAMA 2000 対象 緩和ケア病棟に入院した終末期がん患者 92 名(米国) 身体的機能(低) ソーシャル サポート(低) うつ状態 希死念慮 頻度 17% 絶望感 多変量解析 で有意
対象:希死念慮を表明した進行がん患者 (緩和ケア受療中、 n=7 ) 方法:面接による質的研究 Coyle N et al, Oncology Nursing Forum 2004 希死念慮は何を意味しているのか? ・ “ 生きたい ” ことに対する逆説的表現 ・死にゆく過程のつらさ ・今、現在の耐え難い苦痛(痛みなど)に対する援助の求め ・今後、起こり得る耐え難い苦痛から解放される対処法の一つ ・自己コントロールの主張 ・一人の個人として関心を抱いて欲しいという欲求 ・愛他性の表現 ・家族から見捨てられる不安 ・悲嘆、苦悩 希死念慮の背景には多彩な意味が潜んでいる
がん患者の自殺、希死念慮の関連要因 - 小括 - 1. がん患者の自殺の最大の要因は、うつ病、うつ状態 2. 希死念慮に関連する要因 痛みなどの身体症状、うつ状態、絶望感、実存的な苦痛 3. 希死念慮の背景には、複雑な身体 - 心理 - 社会 - 実存的要因 が存在
がん患者と自殺:わが国における経験 - 小括 - 1. 自殺に関連して依頼されるがん患者の大多数は痛みを 有し、かつ身体的機能が低下した進行がん症例 2. 進行がんにおいては、希死念慮は稀ではない 3. 欧米での報告同様、痛み、うつ状態が重要な関連要因 4. わが国においても ‘ 死にたい ’ と述べるがん患者の ほとんどは生きることへの援助を求めている Block et al, Psychosomatics 1995
がん患者の自殺の予防 - 評価 Breitbart, Adv Pain Res Treat 病気と症状を患者がどのように理解しているかを把握 2. 精神症状の評価(特にうつ病) 3. 身体症状の評価(特に痛み) 4. ソーシャルサポートの評価 5. 精神症状、希死念慮・自殺企図の既往の評価 6. 家族歴の評価 7. 希死念慮の評価(有無、強さ、計画の有無)
希死念慮を有するがん患者への対応 Rosenfeld et al, Hand book of Psychiatry In Palliative Medicine 患者が述べたことに対して、避けることなく話合いを行う 姿勢を直ちに示す 患者がオープンに話せる状況を提供 非審判的な態度 ( ‘ 自殺は許されないことです ’---× ) このような話し合いを行うことが、患者の希死念慮を増強 させることはなく、適切に行えばそれ自体が治療的 2. がんやその症状に対する患者の理解について話し合う 背景に存在する患者の苦痛を把握 合理性の評価 オープンで非審判的なコミュニケーションがまず何より重要
希死念慮を有するがん患者の評価 Block et al, Arch Intern Med 身体症状は適切にコントロールされているか? 2. 精神症状 (特に抑うつ、悲嘆、不安、器質性、人格障害) が 背景にないか? 3. 家族、友人、医療スタッフとの関係は良好か? 4. 患者自身は人生や経験している苦悩の意味をどのように 理解しているか? 身体 - 心理 - 社会 - 実存的側面のすべてを評価
自殺後の対応 - 家族・患者 Kaye et al, Am J Psychiatry 1991 (一部改) 家族 早期に面談(プライバシーが保たれる場所で) 医療者が感じている気持ちもオープンに伝える 治療に最善を尽くしたことを伝える 葬儀が終わるまで接触を続ける 必要に応じて、精神科医・臨床心理士を紹介 Death conference ・心理学的剖検の結果を伝える 患者 自殺のリスクの高い患者をピックアップし、注意深く 観察(群発予防)
自殺後の対応 - 医療スタッフ 早期に伝える 看護師の場合は、集団を対象として伝える 責めない 自分自身に対する援助を求める 信頼できる同僚や上司に相談、精神科医・臨床心理士に相談 Death conference ・心理学的剖検 直接関係のない医療スタッフが司会をする 感情の表出を促す ‘ 何が悪かったのか ’ ではなく、症例から ‘ 学び ’ 、 ‘ 今後に生かす ’ という姿勢が重要 Kaye et al, Am J Psychiatry 1991 (一部改) 高橋祥友、福間詳. 自殺のポストベンション 医学書院
自殺への対応 - 小括 - 1. 自殺予防のためには、身体 - 心理 - 社会 - 実存的要因の 包括的評価およびこれらへのケアが肝要 2. 自殺未遂後は医療チームで症状緩和 3. 自殺のポストベンションとして、家族、医療スタッフの ケアが重要。 Death conference や心理学的剖検も有用。