脳血管障害の神経症候 飯塚病院神経内科 山田 猛
脳血管障害の発症様式 数分で突発完成 1 ~ 2 時間進行 脳塞栓 くも膜下出血 脳出血 階段状進行 動揺性 脳血栓 発作性 一過性脳虚血発作
診察手順 自発運動 反射 画像診断 意識障害発症特定 yes no 脳卒中可能性 yes no 会話可能 no 言語機能評価 yes 神経学的診察
鑑別診断 片麻痺・半身感覚障害:脳腫瘍 多発性硬化症、頚髄症、 Todd 麻痺、 MELAS 単麻痺:神経根症、末梢神経障害 四肢麻痺:頚髄症、ギラン・バレー症候群 周期性四肢麻痺、ミオパチー 失語・失行・失認:大脳変性疾患、 PML 意識障害:脳炎、代謝性脳症 視野欠損:脳腫瘍、 MELAS けいれん:てんかん めまい:内耳疾患
神経症候 運動障害 片麻痺,単麻痺,四肢麻痺 構音・嚥下障害,運動失調,不随意 運動 感覚障害 半身感覚異常,めまい,視野欠損 意識障害 高次脳機能障害 失語,失認,失行 精神症状
責任病巣 意識障害:大脳広範,間脳,脳幹 共同偏視:前頭葉,脳幹 ( 橋 ) 運動麻痺:大脳,脳幹 感覚異常:視床,脳幹,大脳 運動・感覚異常:内包,脳幹 めまい・失調:脳幹,小脳 視野欠損:視神経~後頭葉 高次脳機能障害:大脳 脳神経麻痺:脳幹
大脳解剖 ( 1 ) 中心前溝 中心溝 角回 Wernicke 野 中心後溝
大脳解剖 ( 2 ) 頭頂後頭溝 中心溝 Wernicke 野 Broca 野 Wernicke 野 シルビウス裂
片麻痺:運動野皮質・白 質 右 MRI T2WICT 右
片麻痺:内包~錐 体 MRI DWI 右
失調性片麻痺 右 MRI DWI
前脈絡動脈症候群 MRI DWI 右
体部位局在
単麻痺(右 手) 右 MRI DWI
単麻痺(左下 肢) 右 MRI DWI 右 CAG (側 面)
四肢麻痺 MRI DWI 右 MRI T2WI
内頸動脈解離 右 MRI DWI 39 歳 女 左 CAG
半身感覚障害:視床 MRI DWI 右
視野欠損 右 MRI FLAIR
意識障害(脳塞 栓) MRI DWI 右
症例 右左
症例: MRA 頭部頸部
症例: CAG (1) 右左
症例: CAG (2) 右左
症例: VAG
Wallenberg 症候 群 右
水平眼球運動経路
MLF 症候群 MRI DWI 右
Vertical one and a half 症 候群
MRI DWI 右 上方注視麻痺 左眼下転障害 後交連 左 riMLF
垂直眼球運動経路
Abulia (無 為) 右 MRI T1WI
簡易高次脳機能評価 意識レベル、麻痺 ( 右・左 ) 難聴のチェック 失語:名前を尋ねる ( 難聴 → 筆談 ) 口頭命令 復唱 あいさつ 失行:左 ( 右 ) 手動作 失認:物品名呼称、半側無視 記憶
高次脳機能の研究 脳障害患者の分析 損傷部位⇔機能障害 cf. 動物での破壊実験 健常者の賦活研究 課題遂行時の活性化脳部位を同 定 方法: PET/fMRI/ 近赤外線
離断 中枢 A 中枢 C 中枢 B 刺激 X (聞く) 刺激 Y (見る) 反応 P (話す) 反応 Q (書く) 中枢 D 中枢 E
言語野 中心溝 視覚連合野 視覚野 Wernicke 野 Broca 野 Sylvius 裂 縁上回 角回 弓状束
失語 自発語言語理解復唱書字読字 Broca 失語 ×○× ×○ 純粋語唖 ×○× ○○ 超皮質性 ×○○ × ○ 運動失語 Wernicke 失語錯語 × × 錯書 × 純粋語聾 ○○× ○○ 超皮質性錯語 × ○ 錯書 × 感覚失語 伝導失語錯語△ × 錯書 △ 健忘失語喚語困難 ○○ △△
失語関連用語 流暢性:構音の明瞭さ、発語時の努 力 最長発語の長さ、プロソディの性 状 プロソディー:言葉のメロディ 強勢、速度、抑揚 → 意味の陰影 錯語:音節性 やま → かま 語性 鉛筆 → 消しゴム
失語の診断 自発言語:量、発語努力、プロソディ、錯 語 復唱能力:単音節、単語、文 言葉の理解:日常的話題、命令、物品指示、 テニオハを含む文の理解 呼称・喚語能力:語彙、物品命名、カテゴ リーに属する語想起 文字言語理解:音読・理解、漢字・仮名、 数字、文字、単語、文、模写 書字能力:自発書字、書き取り、漢字・仮 名
Broca 失 語 右 CTMRI T2WI
超皮質性運動失語 右 MRI DWI
右 CTMRI T2W 感覚失語
全失語 右
読み書きの神経機構 体性感覚野 角回 Wernicke 野 側頭葉 後下部 視覚野 (二重神経回路仮説 岩田)
漢字失読(左側頭葉後下 部) 全体の把握障害 森 → き 赤 → つち 青 → 月 白 → ひ 文字形態の混同 鍵 → ぎん 雲 → くもり 毛 → て 耳 → つき 意味的錯読 象 → いのしし 馬 → いね、とり 音価選択の障害 空席 → そら・・ 言葉 → げん・・ 道路 → みち・・ 一般 → いちふね
失読・失書 右 MRI DWMRI T2W
右 造影 CT MRI T2W 失読・失書
右 硬膜動静脈瘻 MRA
視覚性失語 左側頭葉後部病変、命名語の視覚的喚起能力障害
観念失行・観念運動失 行 観念失行 複数物品の系列的使用 単一物品使用 パントマイムの障害 観念失行 観念運動失行
失行検査 肢節運動失行 連続的行為の障害: fist-ring テスト 観念失行 道具使用の障害:櫛で髪をとく 系列的動作の障害:封書の作成 観念運動失行 自動的動作と意図的動作の解離 ジェスチャー、パントマイム 構成失行 模写、自発描写、図形・積み木の組立 着衣失行 普通にわたす、裏返す、袖口をしばる
着衣失行
着衣失行・左半側空間無 視 右
半側空間無視 病巣と反対側空間にある対象物に気づかな い 右側と左側から声をかけて、視線をみる 直線の二等分 病側に偏位(長さ 10 cm 以上のものを使 用) 探索抹消課題 線分抹消試験 (左)半分消し残す 模写課題 (左)半分欠落 病巣 (右)下頭頂小葉
半側空間無視 模写自発画
半側身体失認 片麻痺の否認 麻痺側の手足を動かすように指示する 身体半側の忘却・不使用 半身が存在しないかのようにふるまう 万歳 → 健側しかあげない 患側から物を差し出す → 健側で取る 麻痺を否認しない 身体半側の喪失感 「手がなくなった」自発的に訴える 深部感覚障害を伴う
Gerstmann 症候 群 手指失認 患者自身・検者の指の弁別障害 左右障害 左右を区別できない 右手で左耳を触れさせる(交叉性二重命 令) 失書 自発書字、書取、写字 失算 数字音読、数唱、加減乗除(筆算・ 暗算) 病巣 角回上部、縁上回、上頭頂小葉 純粋なものは稀 しばしば失語を伴う
計算障害 右
視覚運動失調 左 右 角回 運動野 視覚野 左病変:右視野右 手 右病変:左視野両 手 脳梁病変: 右視野左手 左視野右手
Balint 症候群 精神性注視麻痺 自発的に注視できない、眼球運動正常 五十音表が読めない 空間性注意障害 注視した一つの対象物にしか注意が向かな い 二つ以上の対象物を同時に認知できない 視覚性失調 注視している対象物に到達できない 手の運動を視覚的に誘導できない 病巣 両側頭頂・後頭葉
地誌的失認 道順障害 風景認知正常、方向感覚障害 頭頂後頭葉内側ー海馬系障害 街並失認 風景認知障害、道順陳述正常 側頭後頭葉内側ー海馬系障害 地誌的記憶障害 地図上に場所を示せない
MRI DWI 地誌的記憶障害 右
視覚失認 定義 視力、視野が保たれている 視覚的に提示された物品が判らない 言語や他の感覚モダリティで判る 連合型 形態知覚は良好(模写可) 類似した視覚刺激の異同判断可能 統覚型 模写不能 類似した視覚刺激の異同判断不能 病巣 両側後頭葉と脳梁膨大部
相貌失認 定義 視力、視野が保たれている 自分の顔、知人の顔が視覚的に同定できな い 言語や他の感覚モダリティで同定できる 病巣 両側または右側頭後頭葉下面 特に紡錘状回、舌状回
一過性全健忘症候群 (Transient Global Amnesia, TGA) 原因 一過性脳虚血発 作・脳梗塞、片頭痛、て んかん、頭部外傷、脳出 血、脳腫瘍、薬物中毒な ど 臨床症候 突発、状況理 解困難(同じ質問・行動 を反復)、逆行性健忘 (数日~数ヶ月)、発作 中・発作前数時間の記憶 なし 検査所見 両側側頭葉~ 後頭葉の血流低下 発作中 発作 3 日 後 SPECT
一過性全健忘 右 MRI DWI
失語のリハビリテーショ ン 内容 言語機能の各側面への治療的働きかけ 実用コミュニケーション改善 環境の整備(家庭・職場への働きかけ) 開始条件 意識清明、 1 時間以上の座位保持可能 個人訓練 聴覚的言語把持力強化 呼称訓練(単語 → 文章)、文脈的・音韻的手掛か り 復唱訓練、文字と絵の対応訓練、書字訓練 グループ訓練 社会的側面を高める 実用コミュニケーション促進法 治療者と患者の役割交代 自習 日記、新聞コラムの要約
失語症患者へのアプロー チ 文字盤(五十音表)は無効(有 害) 特定の発語を教え込むことは無効 行動や情動の特徴を観察する 抑うつ、混乱状態を避ける 小休止 失語症患者は疲労しやす い コミュニケーションのとり方 身近な言葉、短い言葉、具体的な 言葉、短い文章、ゆっくり話す
失行・失認のリハビリテー ション 評価 障害側面、残存機能 失行・失認・失語、知能の検査 開始条件 全身状態安定、 ADL 上問題あり 感覚統合的アプローチ 障害のない他種知覚刺激 を与えて統合能力を高め、障害機能の利用再教育 直接的働きかけ ADL と結びついた学習 例:着衣動作練習 ポイント 患者自身に障害の存在を気づかせる 適切な刺激を体系的に与える 自動反応となるまで繰り返す
飯塚病院脳卒中セン ター 救急部 リハビリ テーション 科 ふれあい センター 神経内科 24 時間 365 日 脳神経外科 画像診療科
血栓溶解療法 右 治療前治療後 MRI DWI MRA
出血性梗塞 MRI DWI 右 MRACT
再灌流と出血性梗塞 (Molina et al, 2001)
外減圧術 右
後頭蓋窩出血性梗塞 右 5/85/14