『世界市民』 by 矢根 真二 ( ) 資料 URL 本日の 課題 水道管の老朽化と料金値上げ 研究入門1: How to Read & Write? 水道管の老朽化と料金値上げ 研究の始め方1: How to Read & Write 1 情報・視点: 「ゆるやかな震災」 1 2 データ: 上水事業における水道管 2 3 分析・予測: 老朽化と料金値上げ3 >> BackBack 14
1 情報・視点: 「ゆるやかな震災」 自分が主張したい「結論・意見」は明確? If Yes, 「 Answers begging Questions 」: 問題設定 But 「自分の視点(考え方・結論)」が不明確なら ? 1. ニュース・講義・本を「自分の頭で疑い深く考える」習 慣 2. ディベートゲームや少人数演習の討論機会を活用 情報発信には,収集する「視点と問題」の限定が必要 1. 情報収集: 体験・歴史,ネット・新聞・雑誌・本・資料,概念・モデル・ 仮説 2. 情報加工: 論点整理,事例・アンケート,データ・仮説検定・予測,新モ デル
情報収集の「視点」の具体例 視点: 「ゆるやかな震災」の進行 根本 (11, 音 p.170) 1. 東日本大震災 人災(規制・政治) + 莫大な費用 2. 社会インフラ700兆円の急速な老朽化 野村総研 (11, pp.30- 7) 2050年までの更新投資総額は 500 兆円 集中復興より高額・ 長期 更新時期のピークは,前半に上下水道,後半に道路 3. 今後 50 年間の上下水道管の更新投資総額は 57 兆・ 42 兆円 年平均額は 1.1 兆・ 0.8 兆円 but 資金は ? 根本 (11), 石原 (11) 管路は上下水道資産 30 兆・ 70 兆円の7割を占める 玉真 (11, p.9) 4. ∴ ゆるやかだが大人災で,しかも中央も地方も財政的余裕な し
問題にする範囲限定の具体例 限定: 上水道の水道管(導送配水管の合計) 1. 社会インフラは多様:公共建築物175兆円・道路 29 兆 円・ … 2. 上下水道は生活必需で,その更新は「待ったなし」 3. 上水道なら,「配水管」以外も考慮可能 導水管・送水 管 4. 上水道なら,「各事業者レベル」のデータが利用可能 限定した問題における先行研究: 根本 (11) のみ ? 年平均更新投資額 1.1 兆円 = 資産額 57 兆円 ÷ 耐用年数 50 年 資産額 = 配水管総延長距離 57 万 km × km 単価 1 億円 ∴ 「産業レベル」の「配水管距離」のみの単純な計算
「視点と問題」の限定によるメリット 「情報加工」における独自(ユニーク)性 ↑ 1. 配水管だけでなく,導送配水管の総延長距離をベース 2. 産業レベルだけでなく,各事業者レベルの更新投資額も算 定 「情報発信」における明解度 ↑ 1. 上水道の老朽化の深刻さを示す更新投資必要額の算定 2.But 資金不足なら,「水道料金は上昇する」という予測の提 示 ∴「情報収集 情報加工 情報発信」で重要なのは, 1. 最初に「発信したい情報」を考え, 2. 収集する情報の「視点と問題」を限定する
2 データ: 上水事業の構図 水道事業の主なデータソース 1. 『地方公営企業年鑑』 総務省の HP にすべて掲載 総務省の HP 2. 『水道統計』 日本水道協会の HP に一部のみ掲載 日本水道協会の HP 使用データ: 2007 年度の上水道事業者数 ( 1410,1566 ) 1. 小売: 簡易水道を含む末端給水事業者( 1343, 1482 ) 2. 卸売: 用水供給事業者( 67, 84 ) データの特徴: 散度が高い: 雇用数中央・平均 11 ・ 37 人 「産業レベル」の平均値等だけでは把握し難い
上水道事業のネットワーク構造 一部のボトルネック(隘路)がネットワークをダウンさ せる 1. 水源 - 導水管 - 浄水場 - 送水管 - 配水池 - 配水管 - 家庭 配水本管・支管が 100% 問題なくても,水道網はダウン 2. 末端給水の取水量の3割は,用水供給からの浄水受給 用水供給の取水量の8割を占めるダムの保全が不可欠 3. 末端給水事業者の自水水源の 55% は地下水 「産業全体」では,地下水・ダム・非ダムで三等分 ∴ 水道管維持は,ネットワーク維持の必要条件
年平均更新投資額は1割増加,料金は2倍近くに 1. 導送配水管総延長距離は 62 万 km で 根本 (11) より 1割長い ∴年平均更新投資額も 1.1 兆円から 1.25 兆円に増加 全事業者数 1410 で割ると,1事業者当たり 8.9 億円 2. さらに 1 末端給水事業者当たりなら 9.2 億円に増加 末端給水事業者は,平均規模は小さいが,管路は長い 平均値でみると,毎年の利益の5倍,総費用の半分に相当 3. ∴ 水道料金の値上げのみで賄うなら,料金は2倍近く に But 事業者によって,ほぼ不変から 10 倍まで大差
3 分析・予測: 老朽化と料金値上げ 「喫緊」に必要な更新投資 2 「平均」的な必要額 1. 法定耐用年数 40 年を超えた経年管の延長距離をベース 2. = 3.7 万 km (総延長距離 60 万 km の 6.2% ) 表 5-A 3. ∴ 喫緊の更新投資必要額 3.7 兆円 > 年平均必要額 1.25 兆円 4. 事業者当たりの平均額 24 億円(末端: 25 億円,用水: 4 億 円) 93% を占める配水管の経年管比率は低い方 1. 導水管 14%, 送水管 7%, 配水本管 7% ,配水支管 6% 2. ∴配水管の 83% を占める配水支管に傾注, But ボトルネッ ク ?
喫緊の給水事業者の料金は3倍に 喫緊の投資を料金で賄うと,事業者平均は,(注 :長期分 散 ) 1. 現行の料金: 給水 185 円,用水 109 円 2. 必要な料金: 給水 537 円,用水 115 円 3. 上昇率: 202%, 13% 平均事業年齢 45 年, 25 年 事業者間の格差・多様性 1. 全事業者料金: 最小 22 円,平均 181 円,最大 2013 円 2. 最小 50 円,平均 514 円,最大 円 3. ∴ 最大格差は 92 倍から 212 倍まで拡大
図 1 水道事業の事業者年齢
老舗の用水事業の料金は 2.5 倍に 事業年数 45 年以上の老舗 799 事業者の経年管更新費用 半数にすぎない事業者が総水道管の 72% ,経年管の 81% 給水事業者 37 億円 料金は 3.3 倍 2.7 用水供給事業者 48 億円 料金は 2.6 倍 8% にすぎない事業者が経年管の 93% を所有 ∴ 用水供給も計画的に更新されているわけではない 平均年齢が若いため,問題がまだ露呈していないだけ
経年管を抱える事業者の問題 すでに経年管を抱える 833 事業者の経年管更新費用 導送配水管の更新総額は 3.7 兆円,事業者当たり 45 億円 経年管比率は,用水供給事業者の方が高い: 13% > 8% 給水事業者 45 億円 料金は 4.6 倍 2.11 用水供給事業者 33 億円 料金は 2 倍 卸売価格の上昇は,小売価格の上昇をもたらす 給水事業者の格差・地域格差の例 付表 過半の 27 県で4倍を超え,そのいずれの県にも 10 倍以上の事 業
結論: 要約と課題 結論 = 「結局,伝えたいメッセージは ? 」 「ゆるやかな水道震災はピークを迎えつつある」 1. 増える経年管の問題を先送りしてきたので,手遅れ状態が 続く 2. なぜ ? 「マネジメント 規制 政治」の枠組自体の老朽 化 3. どうなる ? 事故 ? 財政補助,経営改善,値上げ 4.But 根本的には,事業再編成+規制改革 新レジーム 残された課題 他の研究課題の発見 1. 他の社会インフラ(下水・病院,道路・橋梁等)の老朽化 は? 2. 事例研究,浄水場や耐震化は ? 老朽化は進展 ? 料金格差は ?
本日の要点 & 次回の準備 「自分の視点」を磨けば,読み書きは飛躍的に効率化 1. 出発点は,興味ある「視点」の発見 2. その問題の範囲を限定して,「自分の視点」を明確にする 3. その自分の結論・主張に直結するよう,問題を設定し作業 次回: 日本の水道事業の効率性の比較 研究の始め方2: 分析作業に「簡単な道具」を使ってみる 1. + 最初に「自分の結論・主張」を明確にできずとも,結果は出 せる 2. ー ただし,「道具」の習得に手間がかかる 3. + しかし,習得した道具は他の問題・分野に利用できる財産に なる
参照文献 1. 根本祐二 (2011) 『朽ちるインフラ』日本経済新聞社 2. 野村総合研究所 (2011) 『社会インフラ:次なる転 換』東洋経済新報社 3. 玉真俊彦 (2011) 『管があぶない』ぎょうせい 4. 石原俊彦・菊池明敏 (2011) 『地方公営企業経営論』 関西学院大学出版会 5. 矢根真二 (2012) 「朽ちる水道インフラ: 老朽管の 更新投資必要額」 『総合研究所紀要』(桃山学院大 学)第 37 巻第 3 号, 朽ちる水道インフラ: 老朽管の 更新投資必要額