わかりやすい力学と 機械強度設計法 (独)海上技術安全研究所 平田 宏一
講義内容 わかりやすい力学と機械強度設計法 第1章 力学の基礎 第2章 材料強度の基礎 第3章 機械強度設計の実際 第4章 機械設計の高度化 ● 機械設計をこれから学ぼうとしている方を対象 ● 力学や材料強度の基礎から実務的な機械強度設計まで ● 技術者育成用テキストとして
第1章 力学の基礎 機械を作るための知識を習得するための学 問 機械工学 ★なぜ,力学を学ぶ必要があるのか? ★力学を理解すると,どのように役立つのか? 工業力学を学ぶ上で重要なポイント
1.1 力学の必要性 (1) 力学と機械設計 ● どの部品にどのような力がどの程度加わるのか? ● どのような力を与えると機械は動くのか? ● どのような力が与えられると機械は壊れるのか?
★機械設計のための力学 ● 「完璧な回答」は不要。 ● 必要以上に高精度な計算結果は役に立たない。 ● 有効数字・有効桁数を考え,迅速な力学計算が 重要となる。 ● 円周率は 3.14 ,あるいは ? ● 重力加速度は 9.8 ,あるいは 10 ?
(2) 力学の基礎知識 中学理科,高校物理で学んでいる。 力 学 ★力学を学ぶ上で重要な法則は? ★力学計算のためのモデル化とは? 力学の概要と重要なキーワード
(a) ニュートンの法則 ● 第 1 法則:慣性の法則 動いている物体は動き続けようとし,止まっ ている物体は止まっていようとする。 止まり続け る・・・ 動き続け る・・・
(a) ニュートンの法則 ● 第 2 法則:運動の法則 物体に力が加えられると,物体は運動を始め る。物体の加速度 a[m/s 2 ] は,力 F[N] を物体の質 量 m[kg] で除した値となる。 F = m×a 運動方程式
(a) ニュートンの法則 ● 第 3 法則:作用・反作用の法則 物体に力を与えると,逆方向に同じ大きさの 力を受ける。
(b) 静力学と動力学 ● 静力学:力のつり合いを扱う。 ● 動力学:力が作用することによって起こる物体 の運動を扱う。
(c) 質点と剛体と弾性体 ● 質点:質量を持った大きさがない物体(点)。 ● 剛体:力を加えても変形をしない物体。 ● 弾性体:力を加えると変形し,力を取り除くと 元の形に戻る物体。
1.2 質点の静力学 (1) 質点の考え方を扱える工学問題 例:おもりをロープでつり上げ る 船を引く,台車を引 く・・・ ● 物体の大きさを考えなくてよい工 学問題は多い。
(2) 力の合成と分解(図式解法) 点 O に 2 つの力が働 いている 平行四辺形を描く
(2) 力の合成と分解(幾何学的解法) ● 余弦定理,正弦定理よ り導かれる。
★力の分解の考え方 ● 直交座標系に平行な分力に分解する。 ● 三角関数を利用する。
(3) 質点における力のつりあい ● 力のつりあいとは,物体が動かないこと 例:床の上に置いた物体
★複数の力が働く質点 x 方向, y 方向の分力を考えて,式で表す と ベクトルの和が閉じる ● 直交座標系に平行な分力に分解して計算する。 ● 三角関数を利用する。
1.3 剛体の静力学 ● 剛体:力を加えても変形をしない物体。 ● 物体の運動には,並進運動と回転運動がある。 ● ただし,ここで扱うのは静力学(運動しない)。 並進運動 回転運動
(1) 剛体に働く力と作用線 作用線が違う力は,意味が違う! ● 剛体を扱う場合,力の作用線が重要になる。
★力の合成を考える場合 作用線を求めることが重 要! 作用線の向きと大きさが同 じ力は,同じ意味! 交点を求める
(2) モーメント ● 定義:モーメント=力 × アーム長さ ● 単位: N ・ m ボルトを締め付ける働きは同じ!
★モーメントの合成 ある一点まわりの二つの力のモーメントの和は, その点に関する合力のモーメントに等しい。
★モーメントの分解 力 F による O 点まわり のモーメント
★モーメントの計算例 ● モーメントの合成・分解を考え ることで,様々な工学問題を解く ことができる。
(3) 剛体における力のつりあい ● 力とモーメントの両方がつりあっていること! ● 複数の力がつりあうには,大きさが等しく向きが反 対。 ● かつ,作用線が一致している。 F 1 , F 2 , R でつり あっている。
つりあ う つりあわない つりあわせるための力を求め る
1.4 物体の運動 力のつり合い (物体は止まっ ている) 物体に力が与え られて、物体が 運動する 静力学動力学
基本的な物体の運動 ①等速度運動 外力が加わらな ければ、一定速 度の運動をする。 一定の外力が加 えられれば、一 定加速度の運動 をする。 ②等加速度運動 例:摩擦のない自動車 例:自由落下
より複雑な物体の運動 ①周期的な運動 外力が周期的に 変化する。 一定の外力が加 えられれば、一 定加速度の運動 をする。 ②周期的な往復・回転運 動 例:摩擦のないばね系 例:エンジンのピストン これらの運動を解析する!
(1) 直線運動における運動方程式 ● ニュートンの第 2 法則:運動の法則 物体に力が加えられると,物体は運動を始め る。物体の加速度 a[m/s 2 ] は,力 F[N] を物体の質 量 m[kg] で除した値となる。 F = m×a 運動方程式
(2) 回転運動における運動方程式 剛体の回転
★剛体の回転と慣性モーメント ● 微小要素の円周方向の加速度 ● 運動方程式 ● モーメント
★剛体の回転と慣性モーメント ● モーメントの総和 トルク慣性モーメント 回転運動におけ る運動方程式
★様々な物体の慣性モーメント
(3) 剛体の平面運動 ● 物体の運動には,並進運動と回転運動がある。 並進運動 回転運動 2 つの運動方程式を解くことによって,物体 の運動を解析することができる。
1.5 機械設計と力学 機械屋独特の考え方が重要 機械工学における力学 ★機械のセンスとは? ★物理現象をモデル化する技術?
(1) 物体の変形 力学の仮定に基づく計算と実際の物理現象の違いは? 質点:大きさがないと仮 定! 剛体:変形がないと仮定! 実際の物理現象は? 力が加わると変形する! 力がなくなると元に戻る(弾性 体) 変形して元に戻らない!(塑性変 形)
弾性体とは? 力が加わると変形する! 力がなくなると元に戻る(弾 性体) 力を加える 力を取り除く 塑性変形とは? 変形して元に戻らない! (塑性変形) 力を加える 力を取り除いて も・・・
(2) 機械のセンス ● この機構は壊れますか? ● どこが壊れそうですか?
(2) 機械のセンス ● どのように動くかわかりますか? ● どの程度のモータが必要ですか?
(3) 物理現象のモデル化 ● 理想的な仮定で得られる解答 ● 複雑な外乱が作用する実際の現象 外乱が小さい場 合 その影響を無視できる。 外乱が大きい場 合 その影響を無視できな い! 外乱が大きいのか,小さいのかを見極めることが重 要!
★機械設計へとつながる力学の考え方 ● 力の大きさとつりあいを考えることが機械強度設 計の最も基本となる。 ● 並進運動と回転運動の運動方程式を使いこなすこ とが重要である。 ● 物理現象をモデル化できる技術が重要である。 ● そのためには,機械全体の構造を把握しておく必 要がある。 ● 問題を解く能力だけでなく,問題を作る(考え る)能力が必要である。
★問題を作る(考える)能力とは・・・ (a) 右図のように, 機械を台に載せる。 台が,どの程度傾 くと倒れるか,解 き方(考え方)を 機械設計の観点か ら説明しなさい。 (b) 台を倒れにくくする方法を考えなさい。
【回答例】どのように解けばよいか? ①各部品の重心を求め る。 ②全体の重心Gを求め る。 ③台座の支点位置Oと重心 Gがバランスする位置を求 める。
【回答例】どのように解けばよいか? ④安全性に余裕があるかを判断する。 重心位置 が違うか も? 機械が動 くかも?
【回答例】倒れにくくする方法は? ①重心を低くす る。 ②台座を大きくす る。 ③台座を固定する。 ④台座と地面の摩擦を大きくす る。