『マクロ金融特論』 ( 2 ) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論 2016 1.

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マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチ. マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチの 特徴 内外資産が不完全代替( ← 為替リス ク) 分散投資(ポートフォリオ)によって リスクを軽減可能。 経常収支黒字累積 → 外国資産流入 → 国 際ポートフォリオ → 為替相場.
マンデル・フレミング モデ ル で見る日本経済 篠崎ゼミ 2 年1 G 菊池悠矢 長田真波 東海林佑斗 井上和正.
国民所得 エンゲル係数:生活費に占める食事の割 合 所得の増加と逆に動く指数 食費:所得が増加してもそれほど増えな い なぜなら 娯楽費:所得が増加すると増加する このエンゲル係数を国際比較すれば、各国の生活水準を比べることができ る しかし ある国の衣服費だけ上昇したとする 生活費は上昇する、が、食費は上昇しないエンゲル係数は低下する.
経常収支とは?  一国の国際収支を評価する基準の一つ。  この 4 つのうち、 1 つが赤字であっても他で賄え ていれば経常収支は黒字となる。 貿易収支 モノの輸出入の 差 所得収支 海外投資の収益 サービス収支 サービス取引額 経常移転収支 対価を伴わない 他国への援助額 これらを合わせたものが経常収支.
1 IV 長期における貨幣と価格. 第11章 貨幣システム 物々交換 欲望の二重の一致 1.貨幣の意味 貨幣の機能 – 交換手段 – 計算単位 – 価値貯蔵手段 富 流動性 貨幣の種類 – 商品貨幣 金本位制 – 不換紙幣.
短期均衡 (2) IS-LM モデル 財市場 IS 曲線 – 財市場の均衡 – 政府支出の増加,減税 貨幣市場 LM 曲線 – 貨幣需要,貨幣市場の均衡 – マネーサプライの増加 IS-LM モデル – 財政政策の効果,金融政策の効果 – 流動性の罠 – 実質利子率と名目利子率の区別 貨幣供給.
貨幣について. 講義概要 貨幣の概念 名目と実質貨幣ストック 貨幣に対する需要 政府による金融政策.
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マクロ金融論 ニュースの理論. マクロ金融論 為替相場はニュースに反応 為替相場は、ニュース(新しい情報) に対して反応する。市場参加者がこれ までに知らなかった情報が流れると、 為替相場は変化する。 逆に、新しくない情報には、為替相場 は反応しない(「市場の織込済み」
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金融経済論(小川英治) 1 貨幣の機能と貨幣需要. 金融経済論(小川英治) 2 貨幣の機能 計算単位(価値尺度) 交換される商品の価値をある貨幣の数量で 一元的に表示する機能 交換手段 貨幣がすべての商品と交換され、すべての 商品の交換の媒介となる機能 価値貯蔵手段 貨幣が一定の価値を少なくとも一時的に蓄.
第5章 どのように 国際的に 資金が 流れるのか 加藤 栞.
Ooshiro・Sanada・Nishimura・ Miyamoto・Wakabayashi
2 国際収支と国際貸借 2-1 国際収支と国際収支表 2-2 国際収支と国民経済 2-3 国際収支と国際貸借.
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第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
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(出所)小峰隆夫(2003)『最新日本経済入門[第2版]』、日本評論社、p.186。
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最近の中国と通貨に関する動向 08ba231c 松江沙織.
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© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
元高の原因を追求    九州産業大学 金崎ゼミ 張 雷 徐 雲飛 .
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経済学(第7週) 前回のおさらい 前回学習したこと(テキストp.16,19) ◆ マクロ経済学における短期と長期 ◆ 完全雇用とはなにか ◆ 短期のマクロ経済モデルの背後にある考え方 (不況の経済学/有効需要原理) ◆ 民間部門はどのように消費や投資を決定するか ◆ ケインズ型消費関数とはなにか ◆
2009年7月 為替相場講演会資料 株式会社三菱東京UFJ銀行/東アジア金融市場部
第3回講義 文、法 経済学.
マクロ経済学初級I 第12回 今学期のまとめ.
IV 長期における貨幣と価格.
Presentation transcript:

『マクロ金融特論』 ( 2 ) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論

2 伸縮価格マネタリー・アプローチ

3 伸縮価格マネタリー・アプローチと購買力 平価 伸縮価格マネタリー・アプローチは、購買力 平価の発展形。 購買力平価は、自国と外国の物価水準の相対 比として為替相場が決まる。 それでは、物価水準はどのように決まるの か? ↓ この問いに答えるのが、伸縮価格マネタ リー・アプローチである。

マクロ金融特論 伸縮価格マネタリー・モデルの 特徴 購買力平価が常に成立する。 物価が伸縮的である。 物価の決定は、貨幣の需給による。 為替相場決定は、貨幣の需給による。

マクロ金融特論 購買力平価とマネタリー・アプ ローチ 絶対的購買力平価 貨幣市場均衡式

マクロ金融特論 伸縮価格マネタリー・モデルにおける為替 相場決定式 為替相場は、相対的貨幣供給量と相対 的貨幣需要量によって決定される。 (1) ・ (2) ・ (3) 式より、

マクロ金融特論 貨幣の需要供給が為替相場を決める 自国貨幣供給量の増加⇒自国物価上昇⇒ 自国通貨減価 外国貨幣供給量の増加⇒外国物価上昇⇒ 自国通貨増価 自国貨幣需要量の増加⇒自国物価低下⇒ 自国通貨増価 外国貨幣需要量の増加⇒外国物価低下⇒ 自国通貨減価

マクロ金融特論 対数表示化したモデル (仮定)貨幣需要関数: 但し、 :貨幣需要の所得弾力性、 :貨幣需要の 利子半弾力性( semi-elasticity) (1) ・ (2) ・ (3) 式の対数表示

マクロ金融特論 対数表示化したモデルにおける為替相場決 定式 為替相場決定式(対数表示) ①自国貨幣供給成長率⇒同率の自国通貨減価 ②外国貨幣供給成長率⇒同率の自国通貨増価 ③自国所得成長率⇒  倍の自国通貨増価 ④外国所得成長率⇒  倍の自国通貨減価 ⑤自国利子率変化量⇒ 倍の自国通貨減価 ⑥外国利子率変化量⇒ 倍の自国通貨増価

マクロ金融特論

マクロ金融特論 硬直価格マネタリー・アプローチ

マクロ金融特論 硬直価格マネタリー・モデルの特 徴 財市場の調整に時間が要する。短期的 には価格が硬直的。 購買力平価が長期的には成立するが、 短期的には成立しない。

マクロ金融特論 硬直価格マネタリー・モデル 長期的購買力平価 貨幣需給均衡式 金利平価式 予想為替相場 財市場の動学

マクロ金融特論 長期的購買力平価 購買力平価が長期的には成立するが、 短期的には成立しない。 但し、バーの付いた変数:長期均衡水準

マクロ金融特論 貨幣需給均衡式 貨幣需給均衡式

マクロ金融特論 金利平価式+予想為替相場変化率 金利平価式 予想為替相場変化率(回帰的予想)

マクロ金融特論 回帰的予想

マクロ金融特論 財市場 物価変化率 総需要=消費+投資+政府支出+純輸出 消費 ← 所得 投資 ← 利子率 純輸出 ← 自国財に対する外国財の相 対 価格(= )

マクロ金融特論 伸縮価格の下での為替相場、物価、金利 の動向

マクロ金融特論 硬直価格の下での為替相場、物価、金利 の動向

オーバーシューティングの発生メカニ ズム 長期(伸縮価格) 短期(硬直価格) マクロ金融特論

マクロ金融特論 硬直価格の下での為替相場決定 自国貨幣供給が増加すると、価格が硬直的であ るために、即時的には実質貨幣供給量が増加す る。貨幣市場の超過供給により、利子率が低下 する。このため資本流出によって即時的に為替 相場は、自国通貨減価のオーバーシューティン グを引き起こす。 時間の経過とともに物価が上昇するにつれて、 実質貨幣供給量が減少し、そのために利子率が 上昇し続けることによって、自国通貨増価に向 けて為替相場が徐々に変化する。 物価が完全に反応する長期において、自国貨幣 供給成長率と等しいだけの自国通貨の減価とな る。

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチ

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチの 特徴 内外資産が不完全代替( ← 為替リス ク) 分散投資(ポートフォリオ)によって リスクを軽減可能。 経常収支黒字累積 → 外国資産流入 → 国 際ポートフォリオ → 為替相場

マクロ金融特論 内外資産のポートフォリオ・バラ ンス(供給面) ポートフォリオ・バランス供給

マクロ金融特論 内外資産のポートフォリオ・バ ランス(需要面) ポートフォリオ・バランス需要 ← ①予想内外収益率格差 ②為替リスク

マクロ金融特論 内外資産のポートフォリオ・バ ランス(需要面) ポートフォリオ・バランス需要式の特 定化

マクロ金融特論 ポートフォリオ・バランス需給 均衡式 需給均衡式

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチに おける金利決定式 (1) 金利決定式 (参照)カバーなし金利平価式

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチに おける金利決定式 (2) 国内資産に対するリスク・プレミアム 外国資産に対するリスク・プレミアム

マクロ金融特論 内外資産のリスク・プレミアム 為替リスク 内外資産供給残高 ↑ ポートフォリオ・バランス需要とポー トフォリオ・バランス供給の相違

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチに おける為替相場決定式 為替相場決定式 (参照)カバーなし金利平価

マクロ金融特論 ポートフォリオ・アプローチに おける為替相場決定要因 内外金利差 将来の予想為替相場 為替リスク 内外資産供給残高 ↑ ポートフォリオ・バランス需要とポー トフォリオ・バランス供給の相違

マクロ金融特論 長期的な財政赤字の効果 1980 年代の米国の財政赤字の結果、 80 年代前半にドル高、 80 年代後半にドル 安。 財政赤字の短期的効果⇒金利上昇⇒ドル 高 長期的な財政赤字の効果⇒ドル建て債 の累積⇒ドル資産のリスク・プレミア ム上昇⇒ドル安