多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野

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家計の保険需要分析 京都大学大学院 小林研究室 関川 裕己. 研究の背景 家計の地震保険加入率 (2005 年度末 ) 火災保険への付帯率(%) 出典 : 損害保険料率算出機構.
関西学院大学 村田ゼミ 立論 衣斐、岸田、鈴木、高田、長谷川、大森、藪本、村上. 立論① 非正規雇用を廃止し正規化 により、賃金収入が増加。
需要と供給. 需要と供給の概念 需要:ある財の価格の下で、消費者が買 いたい(消費したい)と思う量。 (注意:実際に買った量だとは限らない) 供給:ある財の価格の下で、企業が売り たいと思う量。 (注意:実際に売った量だとは限らない)
1 (第 14 週) 第5章 間接金融の仕組 み § 1 銀行の金融仲介機能 ( p.91 ~ 98 ) ① 仲介機能 ② 情報生産機能 ③ 資産転換(変換)機能 ④ 銀行貸付けにおける担保の役割 § 2 貸付債権の証券化とサブプライム問題 ( p.99 ~ 104 ) § 3 銀行以外の金融仲介機関.
QE 出口戦略 利上げ先行型. 前提 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 2 保有資産の売却は経済に悪影響を与える 主張 3 利上げは経済の安定に寄与する 以上三点により、 QE 出口戦略利上げ先行 型を主張します.
三菱リコール隠し 2002 . 6 . 29. 三菱自動車 30 年前から、リコール隠しをする 2000 年 7 月に三菱自工の本社などに運輸 省から立ち入り検査 → 告発 多量のリコールを届け出るのは、カッ コワルイ空気があった(と河添社長が 述べる) 年間販売台数以上のリコール車数.
6章 7章 インセンティブ. モラルハザード よくある誤解(誤訳):倫理の欠如 私の好きな意訳:倫理の落とし穴 よくある定義 情報の非対称性があり、代理人の 行動が観察できない がゆ えに、代理人が 依頼人の意に即した行動を取らず 、自ら の利得を最大化する問題。 例:保険、負債を背負った経営者.
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多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
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多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
多々納 裕一 京都大学防災研究所 社会システム研究分野
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多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
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国内損保の特徴① 環境 規模の理論 少子化→パイの減少 高齢化→事故増 規制→自由化 自然災害 自動車、火災保険(利益率低い)中心
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5章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
5. プライマリー・マーケットにおけるCBA
建設工事保険 (1)工事物の物的損害  工事着工から工事完成の引渡しまでの間に工事現場で発生した自然災害や不測かつ突発的な事故により保険の目的(工事の目的物、材料等)に生じた損害につき保険金をお支払いする保険です。 (2)第三者賠償責任 事故が発生した際、その付近の第三者に対し、人的損害、物的損害を引き起こし、法律上賠償責任が生じた場合、その支払いについてもこの保険をお使いになれます。
卒業テーマの発表 在庫量の効率管理    卒業テーマの発表        ------在庫量の効率管理      a6p21502 Huang Ping.
第4章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
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多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野 - ロス・コントロール - 多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野 リスクマネジメント

目次 ロス・コントロールのタイプ 損失予防と損失軽減 分散化と期待間接損失 費用便益分析による最適なロス・コントロール 行政による安全制度 リスクマネジメント 目次 ロス・コントロールのタイプ 損失予防と損失軽減 分散化と期待間接損失 費用便益分析による最適なロス・コントロール 行政による安全制度 生命損失の価値評価 安全規制の費用便益分析

リスクマネジメント ロス・コントロールとは 期待損失額を減少させるために, 時間、努力、及び資金を支出する  こと

ロス・コントロールのタイプ 損失予防・・・損失の頻度の減少 損失軽減・・・損失の強度の減少 期待損失=損失の頻度×損失の強度 損失回避 リスクマネジメント ロス・コントロールのタイプ  期待損失=損失の頻度×損失の強度 損失予防・・・損失の頻度の減少 損失回避 損失軽減・・・損失の強度の減少 損失発生前,発生後の活動

分散化と期待間接損失 エクスポージャ・ユニットの分離 期待損失額は同じ 地域A 地域B 地域C 地震発生 5000万円 5000万円 リスクマネジメント 分散化と期待間接損失 エクスポージャ・ユニットの分離 地域A 地域B 地域C 地震発生 5000万円 5000万円 5000万円 5000万円 地域A,B,Cそれぞれ0.05の確率で被害 期待損失額 0.05×(5000×2)   0.05×5000+ 0.05×5000   期待損失額は同じ

高い直接損失が間接損失を引き起こしうるならば,資産の分離は有効 リスクマネジメント 地域B 地域C 5000万円 5000万円 直接損失    確率  1億円     0.05×0.05=0.0025 5000万円   2×0.05×0.95=0.095  0億円     0.95×0.95=0.9025 損失の頻度の期待値   0.0975 (=0.0025+0.095) > 0.05 損失強度の期待値   5128万2000円 < 1億円               =5000万円×(0.095/0.0975)+1億円×(0.0025/0.0975) 損失を受ける頻度の増加 損失発生時に受ける強度の減少 資産の分散化 ⇒ 高い直接損失が間接損失を引き起こしうるならば,資産の分離は有効 ⇔ トレードオフ 労働生産性の低下,輸送コストの増大

保険がロス・コントロールに与える影響 保険料が保険金支払額の期待値に与えるロス・コントロールの効果を正確に反映 リスクマネジメント 保険がロス・コントロールに与える影響 保険料が保険金支払額の期待値に与えるロス・コントロールの効果を正確に反映 ⇒ロス・コントロールへのインセンティブを阻害しない リスクコントロールとリスクファイナンスの代替可能性 ロス・コントロールを行うことで保険料は低下する

最適なロス・コントロール リスクコストの最小化(限界便益と限界費用の一致する水準のロス・コントロールが望ましい) リスクマネジメント 最適なロス・コントロール リスクコストの最小化(限界便益と限界費用の一致する水準のロス・コントロールが望ましい) 純キャッシュフローの現在価値  費用や便益を1期だけでなく,継続的に考慮する必要がある場合には,純キャッシュフローの現在価値で判断    0期  1期  2期  3期  4期 便益 0 6 6 6 6 費用 -15 -1 -1 -1 -1 資本コストが0.05のとき,企業はこのロス・コントロールを実行すべき?

最適なロス・コントロール(事例) スプリンクラーの設置 財産に対する直接損害に関する火災保険料の軽減 リスクマネジメント 最適なロス・コントロール(事例) スプリンクラーの設置 財産に対する直接損害に関する火災保険料の軽減 火災保険の免責額以下の部分の期待損失額の低下及び保険担保範囲外において生じる事業中断損失の期待値の低下 スプリンクラー自体にかかる費用,設置に要する費用 維持管理を行うための費用

最適なロスコントロール(実例) 安全装置の設置 労働者災害補償保険の保険料の割引 リスクマネジメント 最適なロスコントロール(実例) 安全装置の設置 労働者災害補償保険の保険料の割引 企業負担の労働者災害補償コストの節約(保険の免責額に満たない部分の費用) 労働者事故による一時的な生産の中断  そうしたときに一時的,恒久的に雇う従業員に要する費用の低下 より大きな安全性に対する賃金への影響 安全性は労働者の職業選択に影響 賃金と労災リスクのトレードオフ 設置に要する費用,維持管理に要する費用

最適なロス・コントロール(実例) 子供が簡単に開封できない市販薬のパッケージの導入 包装工程の再編 1単位当たりの材料費の上昇 リスクマネジメント 最適なロス・コントロール(実例) 子供が簡単に開封できない市販薬のパッケージの導入 包装工程の再編 1単位当たりの材料費の上昇 製造物責任保険の保険料の低下 保険担保外の賠償責任費用,訴訟費用の低下 評判の下落に伴うリスクの低下 パッケージの変更は製品の価格,需要にも影響 消費者がこの問題に関心があれば,高く売ることが可能 関心がなければ,他の安価なメーカーに需要を奪われる可能性もある

行政による安全制度 行政の必要性 しかし・・・ 行政の規制にもコストがかかる リスクマネジメント 行政による安全制度 行政の必要性 社会的に最適な水準のロス・コントロールを行うインセンティブを企業が持たないため(たとえば外部性) 十分な安全決定を行うための必要な情報を各個人,企業がもっているよりも行政に集約させた方が効率的(重複コストの回避) しかし・・・  行政の規制にもコストがかかる 行政の公表する安全規制に対してそれを強制することに対する最適なインセンティブを持っているとは限らない 集約された情報による安全決定が必ずしもすべての企業にとって最適な規制とは限らない

生命損失の価値評価と 安全規制のコスト便益分析 リスクマネジメント 生命損失の価値評価と 安全規制のコスト便益分析 生命の価値の評価 人間は暗黙のうちに生命の価値と死亡確率のトレードオフを考慮した行動をとっている 例えば,大型自動車か小型自動車かの購入の選択は低い死亡確率と安い価格を暗黙のうちに天秤にかけている

工場Bを選択した人は生命の価値は10億円より安い? リスクマネジメント 生命評価方法 一例に過ぎないので注意 工場A 死亡リスク 0 賃金 500万 工場B 死亡リスク 0.001 賃金 600万 どっちを選ぶ? 100万円=0.001×生命の価値 工場Bを選択した人は生命の価値は10億円より安い?

安全規制の費用便益分析 安全規制の観点からも費用便益分析が必要 リスクマネジメント 安全規制の費用便益分析 安全規制の観点からも費用便益分析が必要 規制担当者は費用のかかる規制に対して,その便益,すなわち死亡確率の減少に伴う価値を評価しなければならない 規制の有効性も様々 排気口のない暖房設備において生命価値(一人の命を救うために投入された費用)は10万ドル 砒素の規制に伴う生命価値は7億6400万ドル

要約 ロス・コントロールは期待損失額を減少させるために,時間・努力・資金を投入すること 損失予防は頻度を減少させるロス・コントロール リスクマネジメント 要約 ロス・コントロールは期待損失額を減少させるために,時間・努力・資金を投入すること 損失予防は頻度を減少させるロス・コントロール 損失軽減は強度を減少させるロス・コントロール 資産の隔離はリスク分散のための1つの手段,期待直接損失は変化させなくても期待間接損失を変化させる可能性有り 人間の生命の価値の評価が必要な場合も場合をある.その評価方法の一例として,個人の死亡リスクの選択に基づくものがある