第14章 人の移動とグローバリゼーション 構造化を促す舞台裏の推進力.

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第14章 人の移動とグローバリゼーション 構造化を促す舞台裏の推進力

14.1 再来した移民の時代 a 移民と国際労働力移動 ① 移民の増加 14.1 再来した移民の時代 a 移民と国際労働力移動 ① 移民の増加  1990年1.54億人→2000年1.75億人→2005年1.91億人 ② 移民の概念  定住を想定した移動が「移民」と呼ばれる  従来は,一定期間後に本国に帰国する「出稼ぎ型」あるいは「還流型」の移動と,   「移民」は区別される  しかし,定住予定だったが本国に帰国する「還流型」移民になるケース, 出稼ぎの予定だったのに定住してしまうケースなどのように,移民の概念には グレーゾーンが生じやすい  こうしたことを踏まえて,従来の「移民」に加えて,「還流型」移民や 「出稼ぎ型」移民も広義に「移民」あるいは「国際労働力移動」と呼ぶこともある 2

・ 移民は子どもの教育に大きな影響を与える a 移民と国際労働力移動(続き) ③ 移民の問題 ・ 移民は子どもの教育に大きな影響を与える ・ 「出稼ぎ」で外国に移住した場合は,母国での教育を想定していて受入れ国での教育にこだわらないことになる ・ しかし、「出稼ぎ」で来たにもかかわらず,定住に変更になった際に子どもが   受入れ国で就職する際に,受入れ国の教育の不足が不利になる可能性がある ④ 移民の送り出し国・受入れ国 ・ 最大の受入れ国がアメリカ,最大の送り出し国がメキシコ ・ 二国間回廊で見ると,最大がメキシコ→アメリカ間, これに次ぎロシア⇔ウクライナ双方向間, バングラデシュ→インド間, トルコ→ドイツ間がある 3

移民のこぶ・・・P.マーティンが呼んだ b 移民分析の枠組み 経済的要因 プッシュ=プル理論・・・移民を送出国からプッシュ(押出し)され,受入れ国からプル(引寄せ)される存在としてとらえ,経済的要因で説明 ①人口動態と労働市場における需給,②予想所得水準の2国間格差,③送出国,受入れ国の制度や国境措置,が移動の主要因として説明される 経済的要因 図14-1 移民のこぶ 移民のこぶ・・・P.マーティンが呼んだ 逆U字型曲線とその政策的インプリケーション 移住のためには初期費用が必要なので,所得があまりに低いと移動できない ITや運輸技術の発展によって移動のためのコストが低下し,曲線が右シフトすれば,移民が増加する可能性がある。 ②のケースとは逆に,入国要件の厳格化によって移動のためのコストを高めれば移民流入抑制につながるが、組織犯罪関与の可能性を高め各種偽装の増加も予想される (出所) Philip L. Martin , Trade and Migration: NAFTA and Agriculture, Institute for International Economics,1993. 4

・ 移民を説明するために、経済的要因以外の多様な要因を考慮するべきだ という研究も多く存在する b 移民分析の枠組み(続き) 従来の経済的要因に着目した分析の限界 ・ 移民を説明するために、経済的要因以外の多様な要因を考慮するべきだ   という研究も多く存在する ・ 経済的要因だけを想定した政策が初期の成果を得られないのは、   経済的要因以外の要因の多様性や複雑化を見逃していることに   原因があると思われる ・ プッシュ=プル理論は、単純労働や未熟練労働に従事する移民を 対象としているため、専門的・熟練労働者の移動を説明できない ・ 連鎖移民(chain migration)・・・移民流入の経路ができあがると その経路がますます強固になることから発生する。 ・ 労働力過不足だけでは説明しにくいケースがある。労働の種類によって セグメント(分断)化されて階層性のある労働市場の状況を反映するのが むずかしい 経済的以外の要因 5

14.2 移民の2大回廊に見る移民政策の逆説 a アメリカにおける移民政策 (アメリカへの移民の動向) 14.2 移民の2大回廊に見る移民政策の逆説 a アメリカにおける移民政策 (アメリカへの移民の動向) 第1ピーク・・・年平均90万人となった1901~10年。また,南欧・東欧出身の          新移民が過半を占めるようになった1890~1920年は1820万人 第2ピーク・・・1965年以降。1990年代には年100万人近い流入 2つのピークはそれぞれ19世紀型,20世紀型グローバリゼーションの時期に重なる (歴史) 1921,1924年 国別割当て(クォータ)制・・・移民流入は低調 1942~1964年 ブラセロ計画・・・戦中,戦後の労働力不足の緩和 1952,1965年 移民国籍法・・・中南米出身者の抑制,アジア系移民の増加 1986年 移民改革管理法・・・不法移民に関する法の整備 1990年代・・・専門技術者の増加(特にIT関連)、NAFTA論争 1996年移民法、2001年テロ事件後・・・国境警備強化 2002年国土安全保障法、2003年移民許可局改組…国土安全省が移民問題を扱うようになる 6

西ドイツは1955年のイタリアから始まり次々と外国人労働力(ガスト・アルバイター)受入れの2国間協定を締結した(トルコは1961年) b ドイツにおける移民政策 西ドイツは1955年のイタリアから始まり次々と外国人労働力(ガスト・アルバイター)受入れの2国間協定を締結した(トルコは1961年) (ローテーション・システム) 在留後に短期間で帰国し次々と入れ替わるシステム 当初は2年とされていた在留期間が3年に延長され,長期滞在者が増加した また,家族の呼び寄せなどによりローテーション・システムが崩れ,定住局面が到来した (歴史) 1973年・・・不況により外国人労働者の募集停止,しかし,不法就労の増加 1982年・・・不法就労の雇い主に対する罰則が新設 1983年 外国人帰国促進法・・・財政負担増(住宅取得援助etc.) 1991年 外国人法・・・定住化の不認可 1993年・・・入国者数の増加の停止 2005年 新移民法・・・「国民的統合プラン」展開 (血統主義) ドイツは国籍付与において長らく血統主義をとってきたが,1991年外国人法で出生による国籍付与(出生主義)が認められた 7

アメリカ,ドイツともに労働者不足を補うために受け入れたが,不況時に帰国の促進と新規受入れの停止をすると労働者たちの定住化が進んだ 逆説 c 移民政策の逆説 アメリカ,ドイツともに労働者不足を補うために受け入れたが,不況時に帰国の促進と新規受入れの停止をすると労働者たちの定住化が進んだ 理由1 1度出国すると再入国しにくくなったこと 理由2 家族とのつながりの中での意思決定(個人でなく,社会的ネットワークの中で) 理由3 労働市場のセグメント化 理由4 連鎖移民,多国籍企業の展開と情報伝達→移民志向の高まり 逆説 移民受入れ費用や不法移民の対策費用(国境沿いのフェンスetc.)が国内向けの補助金より大きい(ex.アメリカの砂糖、EUの酪農品やビートの保護) →先進国の農業政策が、不法移民を生み出し,その対策費用を増加させている 農業政策における逆説 8

14.3 移民送金とオフショアリング a 急増する移民送金 (移民送金の増加) 14.3 移民送金とオフショアリング a 急増する移民送金 (移民送金の増加) 1990年312億ドル→95年578億ドル→2000年856億ドル→07年3180億ドル (受取り国BEST5) インド,中国,メキシコ,フィリピン,フランス (送金国BEST5) アメリカ,サウジアラビア,スイス,ドイツ,ロシア 急成長の背景 移民の増加 マネーロンダリングやテロ資金の移動の防止をめざしたオフショア金融規制の進展によって,非公式の送金ルートから公式の送金ルートのへの転換が進み,捕捉率が上昇し,統計データとして出てくる部分が大きくなった 9

・ 援助資金は間接経費がかかるのに対し、移民送金は資金効率が良い ・ 移民送金は、直接家計に入るため、貧困削減率が高い 移民送金のメリット b 「頭脳流出」と「頭脳還流」 ・ 外国からの投資資金は経済危機の際に逃避して危機のさらなる悪化を招く可能性があるのに対し、移民送金は危機の時に流入が増加し危機対策の資金源になる ・ 援助資金は間接経費がかかるのに対し、移民送金は資金効率が良い ・ 移民送金は、直接家計に入るため、貧困削減率が高い 移民送金のメリット ・ 移民できるのは最貧層でないから,貧困削減の寄与に疑問符がつく。 ・ 送金を獲得するために移民を送り出すことは、頭脳流出(brain drain)になり,発展の基礎としての制度的な変化を期待しにくくなる ・ 移民送金にいったん依存するようになると、次々と移民を送り出さなければならなくなる ・ 「資源の呪い」に似た現象の発生 移民送金のデメリット 「頭脳還流」 技能や資本,人脈を利用して,帰国後にベンチャー企業を設立する[頭脳還流(brain circulation,brain gain)]。インドではデータ入力,会計処理などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の受託で急成長する企業が輩出した。このように企業が通信網を介して業務委託するケースをオフショアリングと呼ぶ 10

女性労働力が増えている。ジェンダーの面で見れば,表に出ない存在だった女性労働が表にでるようになってきた ② 労働力の女性化 c ジェンダーとケア・ドレイン ① 移民の女性化  女性労働力が増えている。ジェンダーの面で見れば,表に出ない存在だった女性労働が表にでるようになってきた ② 労働力の女性化  多国籍企業のオフショア生産によって、途上国では若年労働力の雇用が増加し,先進国では既婚女性の非正規就労が進展 ③ 女性労働力の国際化(グローバル化)  エンターテイナー,メイド,セックス・ワーカーに加え,看護士や介護士など資格を要するケア・ワーカーとして女性労働力が台頭 ジェンダー 先進国の高齢化に伴いケア労働の需要が増加し,看護師ばかりか医者までが看護師資格で先進国に渡って医療危機を招いた。これが「ケア・ドレイン」である ケア・ドレイン(care drain) フィリピン アメリカ キューバ 南アフリカ カナダ アメリカ :ケア労働者の移動 11

14.4 人の移動から見る グローバリゼーション a グローバリゼーションと時期の問題 14.4 人の移動から見る グローバリゼーション a グローバリゼーションと時期の問題 Q. グローバリゼーションは新しい現象か,いつの現象か 経済のグローバリゼーションという限定をつけて大航海時代ないし「長期の16世紀」を前史とし,19世紀型グローバリゼーションと20世紀型を取りだすのが妥当 19世紀型グローバリゼーションにおいては,新定住地域と呼ばれる地域が現れた b グローバリゼーションと不可避性,非可逆性の問題 Q. グローバリゼーションは不可避で逆転しないプロセスなのか A. グローバリゼーションは不可避でもなく,非可逆な過程でもない 19世紀型グローバリゼーションは第1次世界大戦,大不況によって途絶えた( cf. ポランニー『大転換』)。このことは,歴史が一度グローバリゼーションの終わり方を目撃しており、グローバリゼーションが不可避でもなく、逆転できない(非可逆的な)過程でもないことを示している 12