事業リスクマネジメント学習支援教材 事業リスクマネジメント手法編 NO.4 リスクファイナンス手法 ティーチングノート
学習にあたって 学習のポイント リスクファイナンス技術の基礎理論と代表的な手法を理解する 学習にあたって 学習のポイント リスクファイナンス技術の基礎理論と代表的な手法を理解する リスクファイナンス技術を使ったリスク移転のスキルを身に付ける 学習するスキル内容 リスクの移転によって対応可能な状況の要素を説明できる デリバティブ、保険を用いたリスクヘッジ手法の種類および効果について説明できる その他の金融技術や資産流動化などによりリスク移転手法の種類および効果について 説明できる 第5章2節です。 基本テキストで対応しているのは:
目 次 1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 ・・・・・ 3 2.資産証券化によるリスク移転手法 ・・・・・ 6 目 次 1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 ・・・・・ 3 2.資産証券化によるリスク移転手法 ・・・・・ 6 3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 ・・・・・ 10 4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 ・・・・・ 15 5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 ・・・・・ 21 6.まとめ ・・・・・ 26 本ノートについて: 本ティーチングノートは、平成15年12月に開催された 「事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業」実証プログラムにおける みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社 宗國修治氏及び 斉藤正彦氏のご講義「リスクファイナンス手法」 の内容を学習支援用教材に再編集したものです。
1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (1)デリバティブの仕組み(その1) 1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (1)デリバティブの仕組み(その1) デリバティブとは デリバティブ(派生商品)は、文字通り、債券・株式・為替などの金融商品や、石油・農産物・貴金属などの商品取引から派生した取引。 予め取引条件を決めておき、将来の価格変動に左右されずに取引を行うというリスクヘッジが、本来の目的。 先物取引とは 金融商品や農産物・貴金属などの商品を、将来の一定時点において取引することを決めておく取引。 取引所で取引され、取引単位や決済期日が規格化されていることが特徴。 売り手と買い手が相対(あいたい)で条件を交渉する場合は、将来の受渡を前提とする場合でも、先物取引(フューチャー)とは呼ばず、先渡取引(フォワード)と呼んで区別する。為替予約がその典型であり、先物為替と呼ばれることもあるが、ここでいう先物取引には該当しない。 スワップ取引とは 将来の一定期間にわたり、予め定めた条件で相手方とキャッシュフローの交換を行う取引。 代表的なスワップ取引は以下の通りであるが、相対の取引につき、相手方と合意できれば、何を交換してもよい。 金利スワップ(同一通貨の変動金利と固定金利を交換) 通貨スワップ(異種通貨の元本と金利を交換) ベーシススワップ(異なる変動金利を交換)、など 《スワップ取引の利用例》 融資の変動金利の固定化のための金利スワップの利用 (金利上昇のリスクをヘッジ)。 借主 銀行 スワップの 相手方 変動金利 固定金利
1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (2)デリバティブの仕組み(その2) 1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (2)デリバティブの仕組み(その2) オプション取引とは 将来のある時点で所定の取引をする権利を買うことを、「オプションの購入」という。支払う対価を、オプション料(オプション・プレミアム)という。 オプションは義務ではなく権利であり、所定の時点で利益が生じる場合は取引を実行(権利行使)し、利益がない場合は放棄すればよい。 オプション取引を約定する際は、①取引の対象となる参照資産(株式、為替、金利、等)、②いくらで取引するか(行使価格=ストライクプライス)、③いつ(あるいはいつまでに)取引することができるか(行使期間)、および④取引する参照資産の量、を決める。 参照資産を「買う権利」を「コール・オプション」、「売る権利」を「プット・オプション」という。 オプションの売却サイドも含めると、コール・オプションの買い・売り、プット・オプションの買い・売りの4通りの取引がある。 《オプションの損益》 コール・オプションの 買い手の損益 売り手の損益 参照資産の 価格 (行使日時点) 行使 プット・オプションの リスクヘッジ リスクテイク グラフの水平部分が横軸より下にあるのは、オプション料を支払っているからである。 左の2つのグラフと比較すると、それぞれ横軸につき対称になっている。
1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (3)デリバティブ利用上のメリット・デメリット 1.デリバティブ技術によるリスクヘッジ手法 (3)デリバティブ利用上のメリット・デメリット <メリット> リスクヘッジ効果 これまで見た通り、借入金利息(金利)、輸出代金(為替)、燃料代金(原油価格)などの市場価格(相場)変動のリスクを、デリバティブ取引でヘッジすることができる。 参照資産の取引とは切り離し、任意のタイミングで任意の割合についてヘッジできるなどの柔軟性がある。 <(潜在的)デメリット> 流動性 単純なデリバティブ取引であれば、通常は流動性があり、解約が必要となった場合でも、ある程度の損失を覚悟すれば決済が可能である。 一方、個別ニーズに対応した複雑なデリバティブ取引になればなるほど流動性は乏しくなり、最悪の場合は、解約したくても解約や売却ができずに、契約終了まで拘束されることもあり得る。 信用リスク(カウンターパーティーリスク) 上場商品については、取引所を通じて決済を行うため、契約の相手方に関する信用リスクを心配する必要はない。 一方、相対で取引する店頭商品の場合は、取引開始後に契約の相手方の信用力が低下し、決められた決済を行うことができなくなる可能性がある。従って、契約前に相手方の信用力を考慮することが重要。 契約の相手方から見れば、逆に自社の信用力も問題にされる。金融機関が顧客とデリバティブ取引を実行する場合は、そこで発生する信用リスクも、融資などの与信とあわせて管理している。
2.資産証券化によるリスク移転手法 (1)証券化の仕組み(その1) 2.資産証券化によるリスク移転手法 (1)証券化の仕組み(その1) 証券化のスキーム ①資産の保有者(オリジネーター)は証券会社等(アレンジャー)が用意した証券発行のための器、典型的には特別目的会社(SPC=Special Purpose Company)に原資産(金融資産、不動産、など)を売却。 ②SPCは原資産とそれから生じるキャッシュフローを裏付とする証券(形態はABS、ABCP、信託受益権など様々)を発行し、アレンジャーを通じて投資家に売却。 ③SPCは証券売却で得た資金を原資産購入代金として、オリジネーターに支払う。 ④SPCは原資産を保有するとともに、業務をサービサー等に委託して資金を回収。 ⑤SPCは原資産から回収した資金により投資家に元利金を支払う。 ⑥アレンジャーは元利金の支払を確実にするために様々な信用補完・流動性補完の仕組みを構築する。 SPC 得意先 オリジネーター 投資家 格付機関 銀行 売掛債権流動化のスキーム例 (ABCP(=Asset Backed CP)方式) 売掛債権(売掛金) 売掛金回収 回収代金 元利払い 発行代り金 CP発行 譲渡代金 債権の売却 バックアップライン契約 格付け
2.資産証券化によるリスク移転手法 (2)証券化の仕組み(その2) 2.資産証券化によるリスク移転手法 (2)証券化の仕組み(その2) 証券化の意義 従来、企業は資産を「所有」して「使用」していたが、バブル崩壊後の資産価値暴落で「所有」することのリスクが認識された。そこで、「所有」と「使用」の概念を分離し、「使用」する資産を「所有」するメリット・デメリットを考えるようになった。 「所有」は維持コストを要し、消耗、陳腐化あるいは価格下落のリスクがあるが、「使用」者から使用料(インカムゲイン)を得ることができるし、価格上昇(キャピタルゲイン)の可能性もある。自ら使用する場合は、使用料を払わないで済む。 「所有」せずに使用料を払って「使用」する場合は、資産の価格変動に無縁であり、キャピタルゲインもない代わりに、「所有」に伴うリスクもない。 日本では、金融資産の証券化についてはこれとは別に、手形廃止(受取手形の減少)の流れの中で、手形割引に変わるファイナンス手段として、売掛債権等の流動化の仕組みが必要となったという要素もある。 こうした時代の流れを背景に、証券化は、①資産を使った新しい資金調達手段(アセットファイナンス)としての効果、②資産を圧縮しリスクを軽減するバランスシート・マネジメント(オフバランス化)の効果の2つの面から、企業の注目を浴びている。 証券化のポイント 真正譲渡:証券化の前提は、原資産がオリジネーターから譲受人(SPC)への譲渡が真正に行われること。真正と認められないと、売却ではなく担保付借入とみなされ、ノン・リコース、オフバランスといった目的を達成できない。会計上、オフバランスが認められる要件は、原資産が金融資産である場合と不動産である場合に分けて定めてある。 倒産隔離:証券化の仕組み作りにあたっては、SPCの業務を当初の目的に限定するなどして倒産に至らないようにすることで、投資家が不測のリスクを負わないようになっている。 信用補完:ABSなどの証券化商品の信用力向上のために、様々な信用補完の仕組みが利用される。代表的なものは、優先・劣後スキームと呼ばれ、弁済順序の異なる複数の証券に分解し、優先的に償還される証券の信用力を高める仕組み。劣後部分はオリジネーターが保有するのが一般的。劣後部分で吸収されるリスクは、オリジネーターから外部に移転していないことに留意する必要がある。この他、証券化商品の元利払いの全部または一部を金融機関や保証会社が保証する仕組みや、資金の流動性(資金繰り)のみをサポートするバックアップライン(流動性補完)と呼ばれる仕組みなどがある。
2.資産証券化によるリスク移転手法 (3)金融資産の証券化 2.資産証券化によるリスク移転手法 (3)金融資産の証券化 対象債権 売掛債権、手形債権、リース・クレジット債権など、企業が保有する債権のほか、貸付債権など、銀行が保有する債権も、証券化の対象となっている。 金融資産は、一般にキャッシュフローのスケジュールが安定しており、多数に分散していることも多いことから、証券化の対象となりやすい。 金融資産の証券化では、必ずしも個々の債権の満期日が一定でなく、証券化商品の満期日とずれるケースが少なくない。 SPCが受領した現金を、期日まで留保しておくことも可能であるが、資金効率が悪い。そのため、ある程度資金が蓄積されたら順次元本を償還(アモチゼーション方式)したり、その資金でオリジネーターから新たに原資産を購入する(リボルビング方式)などの仕組みが見られる。 サービサー SPCはペーパーカンパニーであり、債権から債権回収、管理するサービサーが必要。通常は、オリジネーターがサービサーとなり、引き続き資金回収を実施。 オリジネーターの信用力が低下した場合には、即座に第三者(バックアップサービサー)が代行してサービサーの業務を行う仕組みが用意されることもある。 対抗要件 権利関係を他人に主張するための要件を対抗要件という。金融資産の証券化では、当初、債権譲渡につき対抗要件を具備しない仕組みも見られたが、現在ではオフバランス化の要件として、対抗要件を具備する必要がある。 民法によれば、売掛債権のような「指名債権」の譲渡につき対抗要件を具備するには、債権譲渡について原債務者に確定日付のある通知をするか承諾を得る必要がある。 債務者が多数に及ぶ場合、上記の通知または承諾取得が困難。そこで、「債権譲渡特例法」が制定され、法務局にフロッピーディスクを提出して債権譲渡を登記することにより、対抗要件の具備ができるようになった。その後、インターネットによる債権譲渡登記もできるようになっている。 リース・クレジット債権などの証券化に適用される「特定債権法」には、別途、新聞紙上での「公告」による対抗要件具備の方法が定められている。
2.資産証券化によるリスク移転手法 (4)不動産の証券化 2.資産証券化によるリスク移転手法 (4)不動産の証券化 資金調達と資産のオフバランス化 間接金融の資金供給者としての銀行に、貸出余力がなくなる中、企業側には多様な資金調達手段が求められるようになっている。不動産の証券化を実行すると、不動産の資産価値や収益力を裏づけとした資金調達が可能となり、その意義は大きい。特に、財務体質の制約により、通常の資金調達が困難またはコスト高である一方、良質な不動産を保有する企業であれば、不動産証券化により、資金調達コスト低減の可能性がある。 また、資産価格の下落により保有資産の含み益がなくなったことに加え、時価会計への流れの中で、企業による、資産を活用したファイナンスへの取組みが進んでいるが、一般に不動産は、一件当りの価格が大きいため、オフバランス化に成功した場合の効果は大きい。 不動産を証券化した場合にオフバランス化が認められるかどうかの基準は、「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」に定められている。不動産の譲渡後において、譲渡人(オリジネーター)が当該不動産に継続的に関与している場合、実務指針に規定される詳細な検討が必要となる。1つのポイントとして、オリジネーターのリスク負担割合つまり、オリジネーターが引き続き保有する劣後部分の割合が、「おおむね5%の範囲内」であることが必要である。 不動産の証券化の例 信託銀行 オリジネーター 不動産の信託 信託受益権 代金 譲渡 エクイティ デット SPC 資産 投資家A AAA 投資家B AA : 金融機関 購入代金 社債 ノン・リコース・ ローン 元利金 支払 投資家 出資 ケイマンSPC等
3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (1)コミットメントライン(融資枠予約契約) 3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (1)コミットメントライン(融資枠予約契約) 必要時の迅速な資金調達 予め銀行と融資の条件と限度枠を決めておき、限度枠の範囲内で随時銀行に要求して融資を受ける契約。 手数料を払って融資枠を得ておけば、その後で危機的な状況に瀕しても融資を受けることができ、非常時の資金調達手段として活用することができる。 反面、融資枠の全部または一部を使わなかった場合は手数料の分だけコストが上乗せされたことになる。 手数料 手数料の計算方法として、大別すると2種類の方法がある。 ファシリティ・フィー:融資枠全体を基準として一定割合の手数料を徴求する方法 コミットメント・フィー:未使用枠を基準として一定割合の手数料を徴求する方法 銀行 融資枠 手数料支払 借入企業 融資の要請 元利金支払 融資の実行 予約契約
3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (2)コンティンジェント・サープラス・ノート等 コミットメントラインでは解消しない問題 緊急時の資金調達手段としては前出のコミットメントラインがあるが、コミットメントラインにも以下のような問題点がある。 借入人としては、緊急時に銀行に融資する能力があるかどうかという「信用リスク」を負っている。 巨額の保険金支払が発生した保険会社がコミットメントラインを利用する場合、負債性の調達(デット)であるため、保険会社において顕在化したリスクを貸し手である銀行に移転できるわけではない。一方、銀行から見た場合、巨大なリスクが顕在化した保険会社に融資をすることになり、リスク・リターンがアンバランス。 このような問題点をクリアするために米国の保険会社により考えられたのが、コンティンジェント・キャピタルと総称される仕組み。劣後債による資金調達形態を取るものがコンティンジェント・サープラス・ノート(相互会社によって利用されている)、優先株による資金調達形態を取るものがコンティンジェント・エクイティ・プット(再保険会社によって利用されている)と呼ばれる。 コンティンジェント・サープラス・ノートとコンティンジェント・エクイティ・プットの仕組み 保険会社が信託口座を設定して投資を募る。集められた資金は、国債等の流動性・信用度の高い投資対象で運用される。 予め決められたトリガー(巨額の保険金支払等)が発生した場合は、保険会社は信託内資産を劣後債(コンティンジェント・サープラス・ノートの場合)または優先株(コンティンジェント・エクイティ・プットの場合)に変換できるオプションを有している。 その権利を維持するために保険会社が支払うオプション料が、運用資産に付加されて投資家に還元される。 信託口座 国債等 投資家 保険会社 資金注入 運用 投資証券発行 発行代り金 劣後債または 優先株 トリガー発生により実現
3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (3)信用補完 3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (3)信用補完 信用補完とは 契約の相手方が契約内容を履行できるかどうかにつきリスク(信用リスク)が残る場合に、信用力のある第三者による信用補完を得ることで、リスクを軽減(移転)できる。以下に示すように、様々な仕組みがある。 保証 信用補完の代表的な形態。保証契約とは主たる債務者が債務を弁済しない場合、他の者(保証人)が主たる債務者に代わって債権者に対して弁済することを約する契約。 保証類似契約 親会社が子会社の資金調達を支援する目的で保証類似の契約を結ぶことがある。親会社と子会社の間の「キープウエル契約」、親会社が金融機関に差し入れる「経営指導念書」など、その形態、内容は、ケース・バイ・ケースである。 保証保険 公共工事等で、予め付保を求められる場合がある保険として、以下のものがある。 入札保証保険:保険契約者たる売買契約または請負契約の入札に参加した者が落札者となったにもかかわらず、契約を締結しないことによって被保険者である発注者が被る損害を填補する。 履行保証保険:保険契約者たる売買契約の売主または請負契約の請負人が当該契約の債務を履行しないことによって被保険者たる買主または注文者の被る損害を填補する。 取引信用保険 契約者の全取引先または一定条件の取引先に対し、取引先(債務者)ごとに保険会社が決める保険限度額が設定され、貸倒が発生した場合、限度額の範囲内で債権額の一定割合(80%程度)の保険金が支払われる仕組み。以下のような問題点もあり、利用は限定的。 保証対象とできる債務者群が包括的であり、心配な先だけを選択して対象とすることができない。 個別債務者ごとの保険限度額が低額。 保険料が貸倒実績に比べて割高。 貸倒発生の際には調査がなされ、保険金の支払までに時間がかかる。
3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (4)リース・ファイナンス 3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (4)リース・ファイナンス リース・ファイナンス(リース取引)とは 企業が必要とする機械設備を企業に代わってリース会社が購入し、比較的長期間にわたって一定のリース料を受け取ることを条件にその設備を賃貸すること。 リースのメリット(借り手企業として) 資産として所有しないことによるバランスシートのスリム化 減価償却のかわりに一定の賃貸料を支払うことによるキャッシュフロー及び利益の安定化 使用期間のみ使用料を支払うことによる技術・市場変化への迅速な対応と設備陳腐化リスクの回避、など リースの会計 日本の会計基準では、リース取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類される。 ファイナンス・リースは実質的に設備を寿命まで使用するものであり、原則として借り手のバランスシートに計上することが必要。(日本企業は「所有権移転外ファイナンス・リース」ルールの適用を受けてオフバランス処理することが多い。) ファイナンス・リース取引 以下の2つの両方を満たす取引 (1)解約不能:リース期間の途中で契約を解除できないか、それに準ずるリース取引 (2)フルペイアウト:借り手が物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担するリース取引 所有権移転 ファイナンス・リース 所有権移転外 オペレーティング・リース取引 ファイナンス・リース取引以外のリース取引 借り手が オンバランス 処理 オフバランス 取引 強制 原則 容認
3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (5)プロジェクト・ファイナンス、ノン・リコース・ローン等 3.その他金融技術によるリスクヘッジ手法 (5)プロジェクト・ファイナンス、ノン・リコース・ローン等 プロジェクト・ファイナンス 発電所や化学プラント等の特定の事業を企業本体から切り離して融資を実行し、元利金の回収は、事業のキャッシュフローのみを引き当てとするもの。企業は原則として、出資分のリスクしか負わない。 もともとは海外のインフラ関連の案件で発展した金融手法。日本でも、近年、PFI(Private Finance Initiative=公共施設の建設・維持管理・運営などを民間の資金や経営能力、技術能力を活用して行うもの)案件を中心に、プロジェクト・ファイナンスの実行が見られるようになってきた。仕組み例につき、次ページご参照。 不動産ファイナンス(不動産ノン・リコース・ローン)も、不動産のキャッシュフローのみを引き当てに融資が実行される点で、広義のプロジェクト・ファイナンスの一種と見ることができる。 ノン・リコース・ファイナンスとは 企業に対する通常の融資は「リコース・ファイナンス」と呼ばれ、仮に特定の事業のための借入であっても、事業の成否にかかわらず最終的にその企業が借入金を返済する義務を負う。 これに対して、上記のプロジェクト・ファイナンスや不動産ファイナンスは「ノン・リコース・ファイナンス」と呼ばれ、プロジェクトや不動産からのキャッシュフローのみが返済原資となっており、企業への遡求はできない。 プロジェクト・ファイナンス利用のメリット リスクの限定:最悪の場合でも、損失が自社の出資分に限定される。 オフバランス効果:資産(負債)計上額が限定され、バランスシートが膨らまない。 共同事業化の効果:通常は複数のスポンサーや契約企業の共同で事業が進められ、スケールメリットやシナジー効果が期待できる。 リスクの明確化:厳しい義務や条件を明記した契約書が作成されるため、関係者およびプロジェクト自体のリスクとそれへの対応が当初から明らかとなる。
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (1)保険の仕組み(その1) 保険の原理 大数の法則 ある事柄を何回も繰り返すと特定の事象の発生する割合(事故率)は一定の値(期待値)に近づく 繰り返す回数が増えるほど数値は安定 給付反対給付の原則 (公平の原理) 被保険者が支払う純保険料は損害発生時に受け取る保険金の期待値に等しい 収支均等の原則 (必要十分の原理) 被保険者が支払う純保険料の総額は、損害を被った被保険者が受け取る保険金の総額と等しい 企業向けの保険分野では必ずしもこれらの条件が成立するとは限らない
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (2)保険の仕組み(その2) 再保険の重要性 保険母集団の形成 グローバルなリスク分散 再保険マーケット状況による契約条件・保険料の変動 保険の限界 引受能力(キャパシティ)の限界 → 限られた再保険市場 リスク分散不可能なリスク → リスクテイカーの不在 ART(Alternative Risk Transfer)の誕生 リスクファイナンスの一手法として保険は 独特のメリットを有しており、その重要性が 低下するものではない
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (3)代替リスク移転(ART)の概念 ART(alternative risk transfer)の特徴
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (4)自家保険型商品(その1) キャプティブ保険会社 通常保険が購入できないようなリスクについても処理可能 自家保険と異なり支払った保険料が経費処理できるメリットあり キャプティブに保有されたリスクはグループ外へは移転されない 企業所在国における海外直接付保規制*を回避する目的で、出再を前提に保険を引き受ける企業所在国の保険会社 自 国 一般企業 フロンティング保険会社 元受保険 設立 保険事業以外の業種に属する親会社の抱えるリスクを専門に引き受ける目的で設立された保険業を営む子会社 再保険 オフショア キャプティブ保険会社 第三国 再保険会社 再々保険 再々保険 再保険会社 *海外直接付保規制: 域内に所在する物件について、監督当局の免許を受けていない外国保険業者が直接に保険契約を締結することを禁ずる規制
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (5)自家保険型商品(その2) ファイナイト・リスク (ファイナイト保険) ファイナンス機能と保険機能が融合した商品 完全オーダーメイド商品 大数の法則によらないリスク処理 通常の保険では処理困難なリスクにも対応可 リスクの移転が限定的 ファイナイトと呼ばれる理由 ファイナンス機能分の保険料に関する税務上の取り扱いが不明確 空間的なリスク分散 リスクの完全な外部移転 時間的なリスク分散 タイミングリスクのみ移転
4.保険及び代替リスク移転技術によるリスク移転手法 (6)保険リスクの証券化 基本的な枠組みは資産の証券化と同じ 保険契約から発生するキャッシュフロー(保険料)を裏付けとしている点に特徴がある リスクは完全に外部(資本市場)に移転される 書類およびモデル作成、格付け取得などのための事務作業量およびコストは膨大 ある程度リモートなリスク(発生確率が低い)しか証券化不能 再保険料の支払 (保険リスクの移転) カタストロフィー・ボンドの発行 (保険リスクの移転) 保険会社 特別目的会社 (SPC) 機関投資家DD 保険金請求 資 金 再保険金の支払 利息+再保険料の支払 元本償還 債券を没収した資金 資金 債券没収の請求 信託口座 資金(債券元本)の預託、 管理、運用
5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (1)手法選択の手続き 5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (1)手法選択の手続き リスクの 抽出と 認識 リスクの (定量)評価 ファイナンス 手法の選択 保有 保険 デリバティブ 証券化 融資 ART 合理的なプログラム 財務状況 リスク許容度 (額)の決定 キャッシュフロー 税金 財務諸表への影響
5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (2)リスク許容度(額) 5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (2)リスク許容度(額) 合理的なプログラム構築のためにはリスク許容度、すなわちリスクの自己保有水準を決定することが必要 自己資本のうちどの程度をリスク資本として認識するか 格付け(信用力)への影響 当期利益の確保、配当原資の確保、・・・ 目標とする経営指標との関係 自己保有額の各リスクへの割り振り
5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (3)キャッシュフローの確保 5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (3)キャッシュフローの確保 損失を穴埋めするために必要なキャッシュをどこから調達するか 自己金融 フリーキャッシュが潤沢な企業であれば選択可 金融機関(融資) いつでも融資を受けられる状態か 融資条件は悪化しないか → コミットメントラインの設定 保険・デリバティブ 返済義務なし 資本市場 増資 資産の証券化 → コンティンジェント・エクイティプット タイムラグが大きい
5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (4)財務諸表への影響 5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (4)財務諸表への影響 自己保有 資本(剰余金)の減少、当期利益の減少 引当金を設定している場合、P/Lへの影響は免れる 融資 自己資本の減少と他人資本(負債)の増加、当期利益の減少 保険・デリバティブ B/Sへの影響なし オフバランス・キャピタルと呼ばれる理由 P/Lへの影響なし 当期利益をプロテクト ART 純粋にリスクが移転されるもの(証券化等) 保険と同じ タイミングリスクのみ移転されるもの 融資と同じ
5.合理的なリスクファイナンス手法の選択 (5)合理的なプログラム(イメージ) キャプティブ 外部移転 予想される損失の規模 保険 デリバティブ タイミングリスクの移転 保有 ファイナンス ART ファイナンス A B C D A:発生頻度は高いが損失の規模は小さい C:頻度は極めて小さいがが損失の規模は巨大 D:損失の規模はリスク許容額を超えるが保険・デリバティブでは購入できない
6.まとめ リスクファイナンスはリスクの確率分布を変更する手段 機能面から大別すると、リスクを外部移転するものと、タイミングリスクのみを移転するものに分かれる 内包するリスクの特性とリスク許容度に応じ、種々のファイナンス(広義)手法を組み合わせることにより、合理的なプログラムを構築することが可能 用いる手段により税務・財務面への影響が異なるので、注意が必要 合理的なプログラムを構築するためには、種々のリスクを一元的に管理する体制をつくることが第一歩