中根 秀之 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座 精神神経科学

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中根 秀之 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座 精神神経科学 市民公開講座「がんの痛みに苦しまないで」2008.05.24 告知のとき ‐「がん」と「こころ」‐ 中根 秀之 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 展開医療科学講座 精神神経科学

がん告知について Q1 あなたの大事な人(両親、配偶 者、恋人、子供など)を思い浮かべて ください。その人ががんになりました。 大事な人に告知してほしいと思います か? Q2 あなた自身ががんになりました。 自分に告知してほしいと思いますか。

がん医療における悪い知らせ 悪い知らせ:患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまうもの Buckman: BMJ, 1984 検査 52万人/年 男性:二人に一人 女性:三人に一人 がんの診断 ・病名を告知する。 サバイバー 闘病者300万人 ・再発を告知する。 ・治療が効かないことを説明する。 ・非可逆的あるいは重篤な副作用出現を説明する。 ・遠隔転移診断を説明する。 再発・進行 32万人/年 抗がん治療中止 ・有効な治療がないことを説明する。 ・終末期医療への移行を説明する。

コミュニケーションとは? 言葉 7% 表情、姿勢 身振りなど 声の調子 55% 38% 語源:communicare(ラテン語) 意味:共有する 言葉 7% コミュニケーションとはラテン語のcommunicare(共有する)を語源としています。がん医 療における患者-医師間のコミュニケーションとは、患者と医師の間で言語的、非言語的なメッ セージを交換し、共有することを意味します。 また、望ましいコミュニケーションの成立には、言葉だけでなく、表情や姿勢、身振り、語気、 語調といった非言語的なメッセージが大きな役割を果たしています。伝えたい内容を言語的に 発したとしても、それを受け取った患者と共有しなければ、伝わったとは言えませんし、また、 単に不適切な言葉を用いなければ良いということもありません。 表情、姿勢 身振りなど 55% 声の調子 38% Mehrabian 1971

患者・医師間の認識の不一致 ~話を聴いているつもり~ 言語的情報 と 非言語的情報 「話をしにくい」 「聴いてもらえない」 「話を聴いている」

医師が話を聴けない理由 コミュニケーション・スキル・トレーニングの不足 患者の苦悩に対する責任 感情表出することへの恐れ 患者の感情表出への恐れ 誤解への恐れ 非難されることへの恐れ わからないことを表明することへの恐れ 死に関する恐れ 時間 場所

適切な「告知」とは? ニーズにこたえられること 誰に、いつ、どこで はっきりと明確に 理解できるように 気持ちへの配慮 がん告知に象徴される悪い知らせをどう伝え るか、どのような配慮がなされるべきか、そ れらが重要な医療技術の一つであることが認 識されてきています。 ニーズにこたえられること 誰に、いつ、どこで はっきりと明確に 理解できるように 気持ちへの配慮 今後のことや社会生活への影響

SPIKESとは? S Setting:面談のための環境設定をすること P understand patients’ Perception:患者さんがど のように自分の病気を理解しているかを把握す ること I obtain patients’ Invitation:患者さんに聞く耳を 持ってもらうこと K provide Knowledge:知識を提供すること E have and show Empathy:共感を示すこと S suggest Strategy:どういうふうにがんと戦っ ていくかを提示すること

SHAREプロトコールとは? S Supportive environment:場の設定 落ち着いた環境を整える 信頼関係の形成 H How to deliver the bad news:悪い知らせの伝え方 誠実な接し方 納得が得られるように(例えば、単なる情報提供にとどまらず、気持ちを整理できるよう に促し、患者の意向を踏まえて受け入れられる状態にあるかどうかを確認しながら)説明 をする A Additional information:付加的情報 今後の治療方針に加えて個人の日常生活への病気の影響など患者が望む話題を取り上げる 相談や関心事を打ち明けることができる雰囲気を作る RE Reassurance and Emotional support:情緒的サポート 気持ちを理解する 共感(優しさ、思いやり)を示す 家族への配慮

告知に対する精神的反応と対応 (1) 第1相;初期反応期/1週間以内 (2) 第2相;苦悩・不安の時期/1~2週間  がんを告知された後に患者が示す通常の反応として、Holland JCら(1990)は、次のような段階 モデルを報告しています。 (1) 第1相;初期反応期/1週間以内 まず、告知された内容を信じようとしないか、一時的に否認することで特徴づけられます。 患者は後になってその時のことを、「頭が真っ白になって、まるで自分自身におこっている ことではないかのようだった」と述べることがあります。また、ある人達は「やはりそう だったか」という絶望感を経験します。 周囲の対応:本人のそばにいて、そっと暖かく見守りましょう。重大な決断はなるべく先延 ばせるよう配慮した方が良いでしょう。 (2) 第2相;苦悩・不安の時期/1~2週間 苦悩、不安、抑うつ、不眠、食欲低下、集中力の低下などの症状が交互に何度もやってきま す。不安が強く集中力が低下しているために、同じことを繰り返し尋ねてくる時期でもあり ます。 周囲の対応:怒りや悲しみを無理に止めようとしないようにしましょう。むしろ一人で思う 存分泣ける時間をつくってあげ、時にはそばに居て悲しみを共有しましょう。 (3) 第3相;適応の時期/2週間以後1ヶ月~時には3ヶ月 現実の問題に直面し、新しい事態に順応するようになります。またそう努めます。 周囲の対応:本人の努力を評価してあげましょう。また時には休養も大事です。

} がんに対する心の反応 がん 日常生活への適応 時間 検査 日常生活に支障なし 現時的対応 情報収集 孤立感 疎外感 楽観的見通し 「自分のがんは 治るのでは?」 衝撃 集中力低下 否認 食欲低下・不眠 絶望 不安 怒り 悲嘆・落胆・うつ 2週 3 ヶ月 時間

} がん告知後の落ち込みと不安 がん 日常生活への適応 時間 検査 日常生活に支障なし 衝撃 軽い落ち込み:適応障害(約10%) 否認 絶望 重い落ち込み:うつ病(約5%) 怒り 2週 3 ヶ月 時間

うつ病の診断基準とがんによる症状 こころの症状 からだの症状 *9つのうち5つが2週間以上続けば、重い落ち込み(うつ状態)と言える 1.抑うつ気分 2.興味・喜びの低下 3.精神運動抑制 4.無価値感、罪業感 5.希死念慮 6.食欲低下、体重減少 7.睡眠障害 8.倦怠感 9.思考、集中、決断力の低下 *9つのうち5つが2週間以上続けば、重い落ち込み(うつ状態)と言える

不安と抑うつへの対処  告知後1ヶ月以上を経過しても、不安や抑うつ症状(不安感、将来 への絶望感、イライラ感、恐怖感、不眠、食欲低下など)がみられる 場合には、「がんになってしまったんだから仕方がない。当然の反応 だろう」「気持ちが弱くなっている」などと考えずに、その精神状態を深 く配慮し支えていかなければいけません。 「こころの状態」と「免疫機能」は、密接に関係しており、不安や憂う つな気持でいると免疫機能が低下しますし、逆に「笑い」は、一時的 に免疫機能を強めることが知られています。   がんを抱えて重い落ち込みを呈した方では、脳の血流が落ちた状態、 糖代謝が落ちた状態にあることも明らかになってきました。 これらは、治療によって改善しますから、必要な場合には、薬物を使 用することも良いでしょう。最近では副作用の少ない抗うつ薬(SSRI、 SNRI)といった薬物も使用されています。

前向き態度、絶望態度、うつ状態と 生存期間 (578名) △ △ 前向き態度、絶望態度、うつ状態と 生存期間 (578名) Watson et al, Lancet, 1999 Watson et al, EJC 2005. Overall Survival Disease-free Survival 絶望<12点(194/486) 絶望>=12点(49/91) 結論:一致した証拠はない。無理に「前向きに」などと特定の取り組み方や態度を身につけなければならないと感じる必要はない。 ただし、絶望、うつ状態、今後の課題.

ホスピスケアと遺族の生存期間: a retrospective cohort study 米国一般老人夫婦:195.553夫婦 ホスピスケアを受けた /受けない30.838夫婦 死別後18ヶ月死亡 妻:4.9% v.s. 5.4% 夫:13.2% v.s. 13.7% Christakis NA & Iwashyna TJ, SS&M, 2003 女性OR: 0.92 (0.84-0.99) 結論:良いケアは、遺族にも良い効果をもたらす可能性がある. 男性OR: 0.95 (0.84-1.06)

自分らしく生きるために ■ 身近な人に気持ちを打ち明ける. ■ 誇りにしている過去の業績や思い出 を大事な人と振り返る. ■ 身近な人に気持ちを打ち明ける. ■ 誇りにしている過去の業績や思い出 を大事な人と振り返る. ■ 目標や希望について話し合う.

告知のとき

がん患者の呈する精神的問題 (Derogatis, JAMA 249:1983)

がん患者におけるうつ病性障害の有病率