第12章 財務諸表の作成と公開
第1節 財務諸表の体系 財務諸表の種類 会社法の計算書類 金融商品取引法の財務諸表
1.財務諸表の種類 株式会社は資本か借入資本を活用して利益を獲得するとともに、配当後の留保利益を再投資して株主の資本を増殖させる活動を継続して営む組織である。 したがって結果を利害関係者に伝達することを任務とする財務会計では、 企業は利益決定に対する書類(損益計算書)と株主資本に関する書類(貸借対照表)の2種類を作成しなければならない。
2.会社法の計算書類 会社法で全ての株式会社に義務付けているのは以下の6種類の報告である。 ①貸借対照表 ②損益計算書 ③株主資本等変動計算書 ④注記表 ⑤事業報告 ⑥付属明細書
3.金融商品取引法の財務諸表 有価証券報告書は ①企業の概況 ②事業の概況 ③設備の状況 ④株式・配当・役員等の状況 ⑤経理の状況 ⑥株式事務の概要 などから構成されている。
第2節 損益計算書
注記とは 財務諸表本体の内容に関連する重要事項を財務諸表本体とは別の箇所に言葉や数値を用いて記載したものである。 これにより財務諸表本体が簡潔になり、重要な情報が詳細に伝達されるため、注記は 会計情報の明瞭表示に役立っている。
3つの注記事項の種類 継続企業の前提や重要な会計方針(accounting policy)など、財務諸表作成の 基本となる事項。 貸借対照表など個々の財務諸表の記載項目の内容・内訳その他の関連情報。 重要な後発事象(subsequent event)。
財務諸表別記載方式 一括記載方式 3つ全ての財務諸表を記載した後、一括して注記事項を記載する方法 各財務諸表別にその本体に続けて注記事項を記載する方式 一括記載方式 3つ全ての財務諸表を記載した後、一括して注記事項を記載する方法
継続企業の前提(Going Concern)の注記 おいて存在する場合(財務諸表の悪化や債務の不履行等)、関連する情報を財務諸表に注記することが求められている。 そのような場合、次の事項を注記しなければならない。 (1)そのような事象や状況が存在する旨とその内容。 (2)継続企業の前提に関する重要な疑義の存在の有無。 (3)そのような事象や状況を解消したり大幅に改善するための経営者の対応および経営計画。 (4)その重要な疑義の影響(例えば倒産に起因して回収 不能となる売上債権の金額など)が計算書類に反映されているか否か。
ゴーイングコンサーンに関する注記のある銘柄一覧 2009年06月08日の時点で約185社(引用元:帝国データバンク) (例)イエローハット、フルキャストホールディングス、ラオックス、ユニチカ、USEN等。 IT系企業にはGC注記が多い。 その理由として・・・ (1)ビジネスモデルが陳腐化しやすく、継続的に 収益を上げられない。 (2)資産が小さく、担保価値が小さいため、 借り入れが難しい 。
会計方針 採用される会計処理方法が相違すれば・・・ 利益額等の測定結果が異なってくる。 そのため、利害関係者は財務諸表を適切に解釈するため企業が採用した会計方針を知ることが不可欠。
次のような領域を例示して、企業が採用した会計方針を重要なものとして注記する (a)有価証券の評価基準および評価方法 (b)棚卸資産の評価基準 (c)固定資産の減価償却方法 (d)繰延資産の処理方法 (e)外貨建資産・負債の本邦通貨への換算基準 (f)引当金の形状基準 (g)収益・費用の計上基準 (h)ヘッジ会計の方法 (i)キャッシュフロー計算書における資金の範囲
個々の財務諸表に関連する注記 会計方針など、他の注記事項と共に一括して記載するのが一般的。
1株当たり利益(Earnings Per Share) 1株当たり当期純利益の金額は、[普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数]として算定する。 利益から分配された優先配当額は、普通株主には帰属しないので、当期純利益から控除される。 期中に株数が変化した場合は、日割計算で期中 平均株式数を算定する。自己株式は控除される。
EPS 株式分割の例 前期EPS 165 円 = 当期純利益 165 万円 / 発行済株式数 10,000株 一株を二株に分割 今期EPS 100 円 = 当期純利益 200 万円 / 発行済株式数 20,000株
重要な後発事象の注記 当期の決済日後に次期以降の経営成績や 財政状況に重要な影響を及ぼす事象の発生を後発事象と呼ぶ。 決済日後に発生した事象でも次期以降に重要な 影響を及ぼすため、最新情報として注記の形で 伝達しなければいけない。 (例)火災等による損害、会社の合併、主要な取引先の倒産など
附属明細書と附属明細表 附属明細票は、貸借対象表や損益計算書の記載内容を補足するために、重要項目の 期中増減や内訳明細などを表示した書類である。
有形固定資産および無形固定資産の明細 引用元:SBIホールディングス
四半期財務諸表の公表制度 金融商品取引法により、上場会社などに対して四半期報告書を作成し、その中に四半期財務諸表を含めて開示することを要求している。 連結ベースの情報のみ必要で、子会社の 個別ベースでの財務報告は必要ない。 株主資本等変動計算書は含める必要なし。 損益計算書は両方必要。 キャッシュフロー計算書は累計期間のみの 情報
四半期財務諸表の構成と対象期間 財務諸表の構成 作成対象となる時点/期間 対比情報 前年度の対応する時点・期間の情報 四半期 連結 四半期 連結 貸借対照表 その四半期末 損益計算書 その四半期年度の期首からの累計期間 キャッシュフロー計算書 年度の期首からの累計期間
実績主義 予測主義 3ヶ月間を年度と並ぶ独立の会計期間とみなし、正規の年度決算と同じ会計処理を行うやり方。 3ヶ月間を1事業年度の構成部分と見なし、 1事業年度の経営成績や年度末の財政状況の予測を可能にする情報を表示するよう努めるやり方。
日本で採用されているのは実績主義 その理由として (a)季節変動の影響をあらかじめ会計上で調節するよりも、情報利用者がみずから季節変動の存在を念頭において実績情報を解釈するようにしたほうが、利用者にとって有益であること。 (b)営業費用の繰延処理や繰上計上には懇意的 操作の介入の余地が大きいため、実績主義により客観性を確保する必要があること。
年次報告書と四半期報告書の違い 年次の有価証券報告書が決算日から3ヶ月以内に届出を求められるのに対して、四半期報告書は四半期末から45日以内に届けださねばならない。そのため、年度の決算に比べて簡便な会計処理によることが許容されている。
四半期特有の会計処理 第1は、原価差異の繰延処理である。標準原価計算等を採用している企業で、操業度の季節変動等に起因して四半期末現在で原価差異が発生しているが、原価計算の期間末までに差異がほぼ解消すると見込まれる場合は、継続適用を条件として、その原価差異を流動資産または流動負債として繰り延べることが出来る。 原価差異とは標準原価や予定原価などあらかじめ指標として定められた原価と、実際の製造において要した実際原価との差額のことを言う。
第2に、後入先出法における売上原価の修正が必要となるケースがある。例えば単価が単調に上昇している棚卸資産に対して後入出法が適用され、 四半期末の数量が期首の数量より少なくなると、その食込み部分の単価が他の部分より非常に低いため、その四半期の売上原価の金額は小さく算出される。しかし年度の末日までに食込み分を補充することが合理的に込まれるのであれば、安い単価の期首数量は在庫として繰り越されるから、年次の 売上原価は小さくならない。従ってこのような場合には、継続適用を条件として、期首在庫の単価とその再調達価額との差額分だけ売上原価を修正し、その金額を流動資産または流動負債として繰り延べることが出来る。
第3に、税金費用の計算についても、(a)年度決済と同様の方法のほか、(b)年間の見積実効税率を用いた四半期特有の会計処理が存在する。また(c)重要性が乏しい連結会社については、税引き前四半期純利益に、前年度の損益計算書による税金負担率[=(法人課税など±法人税等調整額)÷税引き前当期純利益]を乗じて計算することが出来る。
会社の臨時計算書類 株式会社による剰余金の配当は、年次配当と中間配当だけに限らず、年度の途中においていつでも何度でも実地することが出来る。しかもその配当に際しては、年度の期首からその時点までに獲得した純利益を分配可能額に含めても良い。 剰余金とは創業以来の利益の累積額(その他利益剰余金)と資本・準備金の減少等により株主に払い戻しをすることが可能になった額の累積額
臨時計算書類は、臨時決算日における会社の財産の状況を把握するための計算書類であり、(a)臨時決算日における貸借対照表と、(b)事業年度の期首から臨時決算日までの 期間の損益計算書から構成される。 臨時計算書類を作成しても、剰余金の額は影響を受けず、分配可能額の計算に期首からの純利益が反映されるだけである。したがって期首からの純利益を加算しなくても、分配可能額が十分に存在するのであれば、臨時計算書類を作成する必要は無い。