日本ハム株式会社の理論株価推定 2009年9月7日 06F0821 黒川洵樹
目次 初めに 企業の基本情報 分析方法 将来の予測FCFの推定 WACCの算出 理論株価 バリュードライバーの評価 総評 終わりに 参考文献
初めに このテーマを選んだ理由 去年のミニプロでWACCの算出方法を発表したので、 WACCを利用した分析を実際の企業で行ってみたいと 思ったからです。 サブプライム・ローン問題などで混乱した市場の場合、 これらの指標はどれほど有効なのか知りたいからです。
企業の基本情報
分析方法 過去の財務諸表から平均成長率を割り出します。 平均成長率をもとに将来の予測財務諸表を作成し、予測FCFを 推定します。 WACCを算出します。 WACCを割引率として予測FCFを現在価値に置き換え、事業 価値を推定します。 現在の企業価値と足し合わせ、発行済株式数で割ることで理論 株価を導き出します。 また、理論株価を分解することでの財務諸表からみて改善すべき 点を見つけ出します。
1. 平均成長率の割り出し 将来のFCFを予測するにあたって、企業がどのように成 長していくのかを推測することは非常に重要になってき ます。 本来ならば業界や事業、市場全体など様々な内容を考 慮して企業の成長率を割り出します。 しかし、今回は細かい分析ができなかったので、過去の 財務諸表のみを利用して平均成長率を割り出していき ます。 今回は、売上高を基礎とした比率を使い、平均成長率を割り出します。
2. 予測財務諸表と予測FCFの推定 割り出した平均成長率をもとに、予測財務諸表を作成し ます。 そして、予測財務諸表から予測FCFを算出します。 FCF = NOPAT + 減価償却費 - 有形固定資産取得による支出 - 増加運転資本 FCFとは? FCFとは企業が自由に使うことができるお金のことです。 FCFは本業で得たキャッシュフローから、運転資本など現状維持に必要とされるキャッシュフローを差し引いたものであると定義されています。
NOPAT + 減価償却費 - 有形固定資産取得による支出 - 増加運転資本 FCF = NOPAT + 減価償却費 - 有形固定資産取得による支出 - 増加運転資本 NOPAT(税引後営業利益) = 営業利益×(1 - 実効税率) 実効税率とは、営業利益に対して実際に企業が支払った税金の割合を示し ます。 増加運転資本 = 期末運転資本 – 期首運転資本 運転資本とは、企業を運営するにあたって必要な資産のことを指します。 ここでは運転資本を求めることで、増加した運転資本分のキャッシュを差し引 きます。 実効税率 = 税金÷営業利益 運転資本 = 売上債権 + 棚卸資産 – 買入債務
負債コスト = 支払利息÷平均有利子負債×(1 – 法人税率) 3. WACC(加重平均資本コスト)の算出 WACCを求める際に必要な3項目 負債コスト 負債コストは企業が債権者に支払う利子率のことです。 ただし、利払いに対する税効果があるため、法人税率を差し引きます。 今回使用した数式 WACC = 資本コスト×自己資本比率 + 負債コスト×負債比率 1. 負債コスト WACC 2. 資本コスト 3. 負債と資本との構成比率 負債コスト = 支払利息÷平均有利子負債×(1 – 法人税率)
企業とTOPIXの月間成長率を最小二乗法 2. 資本コスト 資本コスト = リスクフリー・レート + 個別銘柄リスク・プレミアム 個別銘柄リスク・プレミアム = 企業のβ値×マーケットリスク・プレミアム = 企業のβ値×(TOPIX年間上昇率 – 年度内国債平均利回り) これは資本資産価格モデル(CAPM)と呼ばれる資本コストを導き出す 方程式です。 年度内国債平均利回り 今月終値÷1年前の月終値 - 1 企業とTOPIXの月間成長率を最小二乗法 資本コスト = 年度内国債平均利回り + 企業のβ値×(TOPIX年間上昇率 – 年度内国債平均利回り)
3. 負債と資本の構成比率 今回使用した数式 資本比率 = 自己資本比率 例題 負債比率 = 1 – 自己資本比率 3. 負債と資本の構成比率 今回使用した数式 例題 負債コスト 8%、法人税率 35%、リスクフリー・レート 5%、β値 1.2 マーケット・リスク・プレミアム 6%自己資本比率 60% この企業のWACCを求めよ。 解答 1. 税引後の負債コスト 8×(1-0.35)=5.2% 2. 株主資本コスト 5+(1.2×6)=12.2% 3.自己資本比率 60% 4.負債比率 40% 5. WACC 5.2×0.4+12.2×0.6=9.4% 資本比率 = 自己資本比率 負債比率 = 1 – 自己資本比率
債権者 株主 事業 資本100ドル、WACC9.4%の時 要求リターン=8.0% 要求リターン=12.2% 要求リターン=9.4% 資本=40ドル 1年あたりリターン =3.20ドル 1年あたりリターン =7.32ドル 資本=60ドル 1年あたりリターンの総額=10.52ドル 負債利子の税額控除による税効果/年 =1.12ドル 1年あたりリターン =9.40ドル 資本=100ドル 事業 要求リターン=9.4%
残存価値 = 計算した最終年度のFCF÷(WACC - 永続成長率) 4. 事業価値 事業価値 = 残存価値 + 予測した将来キャッシュフロー合計 事業価値とは、現在行っている事業にどれほどの価値があるかを表したもの で、残存価値と予測したFCFの合計からなります。 残存価値とは、予測した期間以降のFCFを現在価値に置き換えたもので、 式は、 となります。 今回は、永続成長率に予測財務諸表の基本なる平均売上成長率を使用し ました。 残存価値 = 計算した最終年度のFCF÷(WACC - 永続成長率)
5. 理論株価 株主価値 = 事業価値 + 金融資産 - 有利子負債 - 少数株主持分 理論株価 = 株主価値÷発行済株式数 株主価値とは、文字通り株主に帰属する企業の価値を表したもので、事業価 値に金融資産を加え、第三者に帰属する有利子負債や少数株主持分を 差し引いた値になります。 金融資産は、[現金及び現金同等物、定期預金、有価証券、棚卸資産、投資 及び長期債権、有形固定資産]の合計となります。 そして株主価値を発行済株式数で割った値が理論株価となります。 理論株価 = 株主価値÷発行済株式数
日本ハム株式会社の理論株価推定
将来の予測FCFの推定 使用する過去データと比率
比率の平均値を使い、算出した将来の予測データ FCF = NOPAT + 減価償却費 - 有形固定資産取得による支出 - 増加運転資本
WACCの算出 TOPIX年間上昇率とβ値の算出 TOPIX終値の成長率 個別銘柄 調整後終値の成長率
WACC = 資本コスト×自己資本比率 + 負債コスト×負債比率 2008年8月~ 2008年10月~ 計算不可
理論株価 理論株価 = 株主価値 – 発行済株式数 残存価値 = 予測した最終年度FCF÷(割引率 – 永続成長率) 株主価値 = 事業価値 + 金融資産 – 有利子負債 – 少数株主持分 理論株価 = 株主価値 – 発行済株式数
混乱した市場においては、さらに市場や、業界の分析 が必要不可欠である。 理論株価 = 2,367円 実際の株価 = 1,072円(9月4日終値) 現在は割安な株である!! しかし、過去のデータのみを参照にした場合、β値を測定した時 の結果からわかるように、市場の影響があまりにも大きいため、 予測に使う過去データの期間などにより大きく数値が変わっ てしまう。 混乱した市場においては、さらに市場や、業界の分析 が必要不可欠である。
バリュードライバーの評価 FCFの分解 FCF + - - NOPAT 減価償却費 有形固定資産取得による支出 増加運転資本 × 営業利益 実効税率 + - 税金 売上債権 棚卸資産 買入債務 - - 売上高 売上原価 販売費および一般管理費
過去データと成長率
営業利益が伸び悩む原因 ・売上高の8割強を売上原価が占める。 ・海外営業利益 売上高がある程度順調に成長している反面、売上原価が売上成長率以上に増加 BSEや鳥インフルエンザによる政府の輸入禁止措置による原料肉の高騰 原油高によるエネルギーコストの高騰 為替
・中国など需要の高まりがある海外売上比率の増加 予想される改善策 ・棚卸資産の適正化 ・・・原料費の高騰が続いているため、無駄な仕入れの削減 ・中国など需要の高まりがある海外売上比率の増加 ・・・日本は価格競争激化 ・海外拠点の増加 ・・・為替、税金対策
WACCの分解 WACC × + × 自己資本比率 資本コスト 負債コスト 負債比率 ÷ 資本 総資産 負債 ÷ ×(1- ) 支払利息 有利子負債 法人税率 + 国債利回り 個別銘柄リスク・プレミアム × β値 市場リスク・プレミアム TOPIX年間上昇率
過去データと成長率
問題点と予想される改善点 ・資産の減少 ・有利子負債の増加 ・・・固定資産現存損失によるものが多い ⇒選択と集中 ・資産の減少 ・・・固定資産現存損失によるものが多い ⇒選択と集中 ・有利子負債の増加 ・・・必要資金の大部分が借入金によるもの ⇒有利子負債の適正化 簡易的に運転資本 = 必要資金とした場合、 77,094百万円分の有利子負債が過剰である。 168,950(有利子負債) + 41,323(現金及び現金同等物) – 133,179(運転資本) = 77,094百万円
総評 分解してみて、特に営業利益が低いことが気になりました。 売上原価が8割強を占めているので、市場の影響が強く 出てしまうのはある程度仕方がないことだと思います。 しかし、棚卸資産や有利子負債の適正化や成長分野(特 に海外)への投資などにより、収益の増加、費用の減少 はまだまだ可能であるとも思います。
終わりに 今回初めて実際の企業の理論株価の推定をしましたが、 過去のデータでの分析だけでは限界があるように感じま した。 特に市場全体や業界の状況は予測に大きく影響し、現在 のような混乱した市場では過去のデータのみからでは 予測するのが困難であると思いました。 しかしながら、今までやってきた指標とは違い、財務諸表 からリスクやリターンなど様々な数値を導き出し、自身で 理論株価など数値がはっきりと出せる面白い分析だと 思いました。
参考文献 ・経営戦略のためのファイナンス入門 M.P.ナラヤナン/ビクラム・K.ナンダ ・日本ハム株式会社ホームページ (http://www.nipponham.co.jp/index.html) ・株式投資帝國 (http://sun-investor.com/) Etc…