LC/MSを用いた水道水源における 解離性有機リン系農薬とその分解物の一斉分析法の開発 国立保健医療科学院水道工学部 ○鎌田 素之, 島崎 大 横浜市水道局 相澤 貴子 東ソー(株) 伊藤 誠治 横河アナリティカルシステムズ(株) 内田 秀明
研究の背景 現在,使用されている有機農薬のうち解離性,イオン性の農薬は他の有機農薬と比べ測定が困難であり,これまで十分な研究な実態調査が行われていない これらの農薬は水溶性が高いため,田畑等に散布された際, 水系への流出が懸念され,水道原水に於ける評価を行う必要がある 水道水源における監視農薬プライオリティーリストによる評価 →この中で4級アンモニウム系農薬(パラコート,ジクワット)及び 解離性有機リン系農薬(グリホシネート,グリホサート,ホセチル) は監視プライオリティーが最も高い農薬群であった 水道原水,浄水を対象としたこれらの農薬群の適切な分析法は 十分に確立されているとは言い難い 水道水質基準の改正に伴い, LC/MSによる分析法検討と迅速かつ簡便な分析法に確立の必要性
解離性有機リン系農薬 Bialaphos Glyphosate AMPA Glufosinate MPPA 2-Methylphinicoacetic acid
解離性有機リン系農薬の特性 グルホシネート (GLUF) グリホサート (GLYP) ホセチル (FOSE) 構造式 分子式(分子量) C5H12NO4P=181 C3H8NO5P=169 C6H18AlO9P3=354 水溶解度(mg/L) 1.0×106* 1.20×105 Log Kow -3.92 -3.96 -4.47 ADI(mg/kg/day) 0.021 0.75 0.88 生産量(t) 152.94 333.95 113.67
解離性有機リン系農薬の特性 種別 除草剤 除草剤 殺菌剤 農薬製剤 用途 畑,水田, 果樹園, 非農耕地帯 畑,水田, 果樹園, 非農耕地帯 グルホシネート液剤 イマザピル,DCMU, フラザスルフオン, フルサフルオキサジン グリホサートアンモニウム塩液剤 グリホサートイソプロピルアミン塩液剤 グリホサートトリメシウム塩液剤 グリホサートナトリウム塩液剤 MCPAイソプロピルアミン, MDBAイソプロピルアミン, トリクロピル,ビアラホス ホセチル水和剤 ポリカーバメート, マンゼプ,有機銅 用途 畑,水田, 果樹園, 非農耕地帯 畑,水田, 果樹園, 非農耕地帯 畑,果樹園 毒性 魚毒性=A類 発ガン性:EPA;C ラット:内分泌系への影響 人体中毒症:けいれん, 意識障害,呼吸麻痺 魚毒性=A類 発ガン性:EPA;C 人体中毒症:眼刺激性, 皮膚刺激性,吐き気 薬剤としての非イオン系 界面活性剤の毒性 魚毒性=A類 発ガン性:EPA;C 人体中毒症:意識障害, 神経障害,精神障害
+ 既往の研究(分析法) HPLCによる研究 GC/MSによる研究 FMOC-Cl等の蛍光誘導体化試薬を用い、固相抽出後、 Glyphosate FMOC-Cl GLYP-FMOC GC/MSによる研究 MTBSTFA,TFAA-TFE等の誘導体化試薬を用いた分析がメイン Journal of Chromatography A, 907 (2001)
既往の研究(前処理法) 水道における日常的なモニタリングにはPS2,C18といった逆相系のカートリッジを利用した固相抽出が主流! Prepare Sample: pH 6-8 水道における日常的なモニタリングにはPS2,C18といった逆相系のカートリッジを利用した固相抽出が主流! Condition: 2mL methanol 4mL 0.5M NaOH, 2mL H2O Rinse: 4mL 0.5M NaOH Rinse: 2mL H2O Load :25mL sample GLYP,GLUF,FOSEを濃縮するに は別途濃縮操作が必要! Wash:2mL H2O Paraquat, Diquatについても同様 Elute: 4mL 0.5M HCl in acetonitrile Evaporate and Reconstitute: adjust to pH 3 for LC analysis Waters OASIS Environmental & Agrochemical Applications Notebook
LC/MSを用いたParaquat, Diquatの分析法 特別な前処理,固相抽出を必要とせず,陽イオン交換カラムを用いた 直接注入による高感度分析(0.1μg/Lレベルでの定量が可能に!) 第12回環境化学討論会(2003)
本研究の目的 今後、水道水源等の監視においても幅広い利用が見込まれるLC/MSを用い, 蛍光誘導体化試薬等を用いず簡便な方法で分離を行うために →陰イオン交換カラムを用いる 煩雑な前処理を必要としない分析法を確立するために →固相抽出等の操作を行わない、直接大量注入による分析法を開発する GLUF,GLYP,FOSE及びその分解物の簡便かつ迅速な分析法を開発 本法を適用し,環境中に於けるこれらの農薬の検出実態を明らかにする
イオン化条件の検討 AMPA (m/z=110) GLUF (m/z=180) FOSE (m/z=109) GLYP (m/z=168) 100000 200000 m/z 100 150 50 110 (M-H)- AMPA (m/z=110) 200000 400000 600000 m/z 100 150 50 180 (M-H)- GLUF (m/z=180) 1000000 2000000 m/z 100 150 50 109 (C2H6O3P)- FOSE (m/z=109) 100000 200000 GLYP (m/z=168) m/z 100 150 50 168 (M-H)- min 10 20 30 200000 400000 MPPA (m/z=151) m/z 100 150 50 151 (M-H)- Scanモード,10mg/L,100μL注入時
イオン化条件の検討 AMPA GLUF FOSE GLYP MPPA SIMモード,100μg/L,100μL注入時 200 400 600 200 400 600 800 1000 10 GLUF 10 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 20000 40000 60000 80000 100000 120000 20 FOSE 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 20 GLYP min 30 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 MPPA SIMモード,100μg/L,100μL注入時
分析条件
検量線 ~1, 10, 100μg/L×100L注入時~ Correlation: 1.0000 GLUF 150000 y = 1315.8x + 188.17 30000 60000 90000 120000 50 100 Amount (μg/L) Area Correlation: 1.0000 GLUF y = 860.72x - 1484.7 20000 40000 60000 80000 100000 50 100 Amount(μg/L) Correlation: 0.9994 Area FOSE Correlation: 1.0000 Area y = 3820.6x + 966.97 100000 200000 300000 400000 50 100 Amount(μg/L) GLYP 良好な再現性と検量線が得られ,先端濃縮による 大量注入により定量下限値1 g/Lの分析が可能となった
環境試料への適用 GLYP GLUF FOSE GLYP 回収率(%) min 20 30 100 200 300 濾過のみ 濾過+PS2 GLYP 20 40 60 80 100 120 GLUF FOSE GLYP AC-2 PS-2 C18 回収率(%) 添加濃度:1g/L 環境試料への適用に際しては,0.45mメンブレンフィルターによる濾過と 各固相カートリッジによるクリーンナップ効果を検討
環境試料の測定結果(全国7浄水場における測定結果) 定量下限値:1g/L,検出下限値:0.1g/L
まとめ 解離性有機リン系農薬の測定に関して ESI法によりLC/MSによる分析が可能となった (AMPAについて十分感度が得られなかった) 陰イオン交換カラムを用いることで,良好な分離と特別な前処理を必要としないカラム先端濃縮による大量注入の分析が可能となった 環境試料について 本法を適用し,浄水場原水,浄水について測定した結果GLYP,FOSEがいくつかの試料で検出された。 今後,これらの農薬の処理性も含め更に検討を行う必要がある。