教育心理学 言語能力の発達 伊藤 崇 北海道大学大学院教育学研究院.

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教育心理学 言語能力の発達 伊藤 崇 北海道大学大学院教育学研究院

今日の講義の要点 ●“音”を“言葉”として受け止めてくれる人がいて はじめて言語発達が起こる。 ●言葉の最初の機能は,他者への働きかけ。しかし 後に,自分自身に働きかけるためにも使われる。 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい

言葉が発達する過程 胎児期 泣き,クーイング, 喃語(バブリング),初語 乳児期 幼児期 語彙の増加,ひとりごと,話し言葉の完成 児童期 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい 児童期 読み書き 文脈に依存しない言葉の使用 場面に応じた言葉の使い分け 青年期 成人期 老年期

音を言葉にする重要な他者の存在 日本のFとGの事例(藤永,2001)  日本のFとGの事例(藤永,2001) F:6歳女児 G:5歳男児の姉弟 身長80㎝,体重8㎏(1歳未満に相当),歩行困難 発語:姉は3語程度,弟はゼロ 藤永保 (2001). ことばはどこで育つか 大修館書店

藤永保 (2001). ことばはどこで育つか 大修館書店 p.294

藤永保 (2001). ことばはどこで育つか 大修館書店 p.294

音を言葉にする重要な他者の存在 世界の育児放棄事例 ケース 救出時 年齢 救出前状況 救出前愛着 救出時 分離 不安 養育者との 愛着形成 言語回復 経過 I(女) 6歳 6ヶ月 私生児 発語なし、歩行困難 母親とともに、部屋に 閉じこめられる。母は聾 あり きわめて 良好、1年半で回復 A(女) 6歳 0ヶ月 私生児 孤児院などをたらい回し 栄養失調、発語なし なし 言語は喃語(1歳程度)まで。10歳で死亡。 G(女) 13歳 7ヶ月 2歳頃より納戸に 閉じこめられ、イスに しばられる 身体発育6~7歳、IQ1歳程度。発語2~3語 母親にあり 発音と文法に欠陥あり 社会復帰 果たす

音を言葉にする重要な他者の存在 愛着(アタッチメント) ボウルビー ハーロウ エインズワース 特定の人に対する,特別な感情的結びつき 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい ボウルビー John Bowlby (1907-1990) ハーロウ Harry Harlow (1905-1981) エインズワース Mary Ainsworth (1913-1999)

音を言葉にする重要な他者の存在 ホスピタリズム ボウルビー 20世紀初頭の施設入所児の 死亡率が高かった現象 →栄養・衛生面を改善しても 発達の遅れが目立った 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい 乳幼児期に,特定の人との親密で 持続的な人間関係を形成することが その後の精神衛生にとって重要 母性剥奪(マターナル・デプリベーション)がホスピタリズムの原因! ボウルビー

音を言葉にする重要な他者の存在 ハーロウは,アカゲザルを使った 実験により,子どもは「安心」を 与える対象と愛着を形成することを 明らかにした。 布の母親から哺乳 布の母親への接触 針金の母親への接触 針金の母親から哺乳 代理母親に接していた 時間(時間/日) 5    25          85   105  125   145   165  24 18 12 6 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい 日齢 Harlow, H. F. 1959 Love in infant monkeys. Reading of Scientific American, 92-98.

音を言葉にする重要な他者の存在 ストレンジ・シチュエーション法 エインズワース 愛着行動が出現するかどうか確認する実験方法  愛着行動が出現するかどうか確認する実験方法 信号: 声を出す,泣く,ほほえむ 接近: 近づく,触れる,後追いする 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい エインズワース

自分に働きかける道具としての言葉 幼児期にみられる「ひとりごと」 ねこバイバイって 言ってくるか 誰か他の人に向けられた言葉ではない 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい 誰か他の人に向けられた言葉ではない どのようなものと考えたらよいのか?

自分に働きかける道具としての言葉 自己中心性 脱中心化 ピアジェ 自分の見えに しばられた理解 ねこバイバイ って 言ってくるか 脱中心化 ピアジェ Jean Piaget (1896-1980) 自分の見えから 自由な理解

ピアジェの知能発達理論 形式的操作期 具体的操作期 前操作期 感覚 運動期 ピアジェによる知能の発達段階論 誕生 2歳 6-7歳 11-12歳 ピアジェによる知能の発達段階論 ※あくまでも知能の発達を説明するモデルであり,  他の精神機能(例えば,情動や社会性)を説明する  ものではないことに注意

ピアジェの知能発達理論 自己中心性 脱中心化 各段階で獲得される主な知的能力 感覚運動期 自分の見えに しばられた理解 前操作期 物の永続性・ 遅滞模倣 自分の見えに しばられた理解 前操作期 象徴遊び・ 直感的思考 (保存概念は未成立) 脱中心化 具体的操作期 保存課題の達成・ 理由のある分類 自分の見えから 自由な理解 形式的操作期 仮説演繹的推論・ 組合わせによる推論 ヴォークレール,J. (2012). 乳幼児の発達 新曜社

自分に働きかける道具としての言葉 外言 ひとりごと 内言 ヴィゴツキー 他人に向けられた 言葉 自分に向けられた 言葉 ねこバイバイ って 言ってくるか ひとりごと ヴィゴツキー Lev Vygotsky (1896-1934) 自分に向けられた 言葉 内言

今日の講義のまとめ ●“音”を“言葉”として受け止めてくれる人がいて はじめて言語発達が起こる。 特定の養育者との緊密で安定した関係性(愛着)が必要 そもそも、言葉は、他者と社会的関係を作るためのもの ●言葉の最初の機能は,他者への働きかけ。しかし 後に,自分自身に働きかけるためにも使われる。 ピアジェは、ひとりごとを、自己中心性のあらわれとした ヴィゴツキーは、外言が内言になる途中の段階だとした 他の言葉で言い換えると? 自分が何かを理解したとどうやってわかる? 他人が何かを理解したとどうやってわかる? 理解はどのようにして起こる? 「理解」を理解することは,あんがい難しい