マクロ経済学 I 第3章 久松佳彰.

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マクロ経済学 I 第 2 章 久松佳彰. GDP をどちらから見るか GDP は一国の総生産額(付加価値の合 計)でした。 – 生産(=供給)側から見る見方と – 需要側から見る見方がある。 二つの見方はともに大事。 三面等価の原則から言うと、「生産=付 加価値」の見方と、「支出=需要」の見 方。
1 マクロ経済を観察する I GDP 第1章第1章. イントロダクション  本章の目的 : マクロ経済を観察するためのデータ を学ぶ。  データ : 一国の経済全体のパフォーマンス ( 実績 ) を測った数値。  本章では国内総生産( GDP )と GDP デフレー ターを紹介。 2.
国民所得 エンゲル係数:生活費に占める食事の割 合 所得の増加と逆に動く指数 食費:所得が増加してもそれほど増えな い なぜなら 娯楽費:所得が増加すると増加する このエンゲル係数を国際比較すれば、各国の生活水準を比べることができ る しかし ある国の衣服費だけ上昇したとする 生活費は上昇する、が、食費は上昇しないエンゲル係数は低下する.
第 2 章 国民所得決定理論. 1. 有効需要の理論 Jhon Maynard Keynes: 有効需要の原理 「経済全体の活動水準は経済全体でど れだ けの需要があるかによって決まる」
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IS-LM 分析 マクロ経済分析 畑農鋭矢. 貨幣の範囲 通貨対象 M1M2M3 広義流動性 現金通貨(日銀券 +補助通貨) 預金通貨 (普通預金・当座 預金など) 主要銀行・信 用金庫など ゆうちょ銀 行・信用組合 など 準通貨 (定期預金など) 主要銀行・信 金など ゆうちょ銀 行・信用組合 など.
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第8講 声高に叫ばれるピントのずれた 処方箋たち 上町 悠哉
前回分(第1章 準備,1-1):キーワード ・ 生産,分配,消費 ・ 市場と組織 ・ 競争市場と均衡 ・ 市場の失敗と政府の介入
第7章 市場と均衡.
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7: 新古典派マクロ経済学 合理的期待学派とリアル・ビジネス・サイクル理論
マクロ経済学 II 第9章 久松佳彰.
America Policy アメリカ経済の「今」とは (将軍) 米谷小春 (総督) 庄子祐衣 (キャプテン) 櫻庭利騎
(景気が良くなり)ハンバーガーの需要が拡大すると
第4章 IS-LMモデル 労働市場との関係 IS・LMの交点(Y0, i0)は財市場と貨幣市場において,それぞれ需給均衡が達成しているが,労働市場において需給均衡を保証していない。 例えば,賃金の硬直性などの理由により,非自発的失業者が存在する可能性は十分にある。 完全雇用GDPがYFであるとすると,この経済にはY0YFに相当する所得不足が存在することになる。この不足は有効需要の不足によって発生したものである。
短期均衡モデル(3) AD-ASモデル ケインジアン・モデルにおける物価水準の決定 AD曲線 AS曲線 AD-ASモデル
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GDPに関連した概念.
第10章 失業と自然失業率 失業率はマクロ経済学においてGDP(5章)、インフレ率(6章)と並び重要な指標 各国の失業率(2012年、%)
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国際経済の基礎12 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2007年12月20日
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マクロ経済学体系のフローチャート 財 市 場 (IS曲線) IS・LM モデル 総需要 曲 線 所 得 と 物価水準 の 決 定 インフレと
日本の経常収支黒字  → 外国に失業輸出? 高齢化の進展 → 日本の国内貯蓄超過の減少         → 日本の経常収支黒字は減少へ.
7: 新古典派マクロ経済学 生産要素の完全雇用 ケインズ経済学の中心的な考え方(需要サイド,4章と5章のIS/LMモデル) ↑ ↓
第6章 IS-LMモデル.
マクロ経済学初級I タイプIIクラス 白井義昌
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第9回講義 マクロ経済学初級I タイプIIクラス.
第6回講義 マクロ経済学初級I  白井義昌.
経済学(第7週) 前回のおさらい 前回学習したこと(テキストp.16,19) ◆ マクロ経済学における短期と長期 ◆ 完全雇用とはなにか ◆ 短期のマクロ経済モデルの背後にある考え方 (不況の経済学/有効需要原理) ◆ 民間部門はどのように消費や投資を決定するか ◆ ケインズ型消費関数とはなにか ◆
均衡予算の乗数効果 専修大学 経済の世界 作間 逸雄.
マクロ経済学初級I 第12回 今学期のまとめ.
第5回講義 文、法 経済学 白井義昌.
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マクロ経済学 I 第3章 久松佳彰

有効需要と乗数メカニズム 景気拡大過程では、「需要の増加→生産の拡大→所得の増大→需要の増加」という自己増殖的メカニズムが働く。景気後退では逆。 この自己拡大(縮小)的メカニズムを「乗数プロセス」と呼ぶ。 乗数プロセスを理解すると、現実の経済の景気の好調・不調を理解することができる。 需要不足の経済=ケインジアン的世界

需要不足がもたらす不況(56頁) 景気問題は重要(悪循環と好循環がある) 景気の問題は、需要サイド(消費や投資)が重要。 景気悪化⇒所得減少&設備過剰⇒消費や投資は落ち込む 景気拡大⇒需要拡大 景気の問題は、需要サイド(消費や投資)が重要。 景気と需要の動きの密接な関係を勉強する。

内閣府月例経済報告 平成15年11月

内閣府月例経済報告 平成16年11月

内閣府月例経済報告 平成17年10月

出所: 内閣府 経済社会総合研究所のデータを加工

景気の波及メカニズム(57頁) 簡単な事例 他の業界へも波及(厳密には産業連関表で分析できる) 悪循環: 「景気が悪くてモノが売れない」→「企業が生産を縮小し雇用を減らす」→「人々の所得が減少してますます景気が悪くなる」 好循環: 「景気が良くなってモノが売れる」→「企業が生産を拡大し雇用も増やす」→「人々の所得が増大してますます景気が良くなる」 他の業界へも波及(厳密には産業連関表で分析できる)

景気の波及メカニズム(57頁) 一次的な需要だけでなく、二次的・三次的な需要の波及を理解することが重要。 なぜ? 初期需要→生産増加→所得増加→二次需要を創出→・・・→三次需要→・・・・・・ 図3-1で確認。

初期需要増 第二次需要 第三次需要 クーラー需要 100億円増大 100億円の所得 からの派生需要 (80億円) 80億円の所得 からの派生需要 (64億円) ・・・ クーラー生産 100億円増大 派生需要に促さ れた生産増 (80億円) 生産増 (64億円) 所得 100億円増大 所得さらに 80億円増大 所得増 (64億円) 100億円の所得 からの貯蓄 (20億円) 80億円の所得 からの貯蓄 (16億円)

図3-1需要の波及と乗数プロセス 需要増大が生産増大と所得増大を生み出し、これがつぎつぎと派生需要を生み出し、その結果、経済全体の需要・生産・所得が雪だるま式に増えていくプロセスを乗数プロセスと呼びます。 乗数プロセスはプラスにもマイナスにも働く。

初期需要増 第二次需要 第三次需要 クーラー需要 100億円増大 100億円の所得 からの派生需要 (80億円) 80億円の所得 からの派生需要 (64億円) ・・・ 需要の波及効果 がどのくらい 大きくなるかを 決めるのは 限界消費性向 である。 例: 0.8の場合 80億円×0.8 =64億円 残りは貯蓄 80-64 =16 クーラー生産 100億円増大 派生需要に促さ れた生産増 (80億円) 生産増 (64億円) 所得 100億円増大 所得さらに 80億円増大 所得増 (64億円) 100億円の所得 からの貯蓄 (20億円) 80億円の所得 からの貯蓄 (16億円)

限界消費性向と乗数(59-60頁) 初期需要増(A)に対して、最終的な需要増加(D)はどのくらいになるか? 限界消費性向がcの場合には、 D=A+cA+c2A+c3A+c4A+c5A+・・・ =A(1+c+c2+c3+c4+・・・) =A/(1-c) 1/(1-c)を乗数(値)と呼ぶ。 限界消費性向が大きいと、乗数が大きくなり、最終需要が大きくなる。

乗数の考え方とマクロ経済 乗数メカニズムが存在しているために、経済のどこかで起きた需要の増大(減少)の動きが、乗数メカニズムを通じて経済全体に拡大して波及する。 乗数メカニズムを利用して、政府が経済に需要を起こしたり(抑えたり)することができる。その手法が政府の財政政策や金融政策である。

所得・需要・生産の相互メカニズム(61頁) 経済全体の需要の決定を考える。 仮定: 図3-2に注目。 簡単化のために、経済の需要は全て家計による消費とする つまり当面は、投資、政府支出、輸出は考えない(後で考える) 図3-2に注目。

総所得 総生産 総需要 ③消費関数に従って総所得が増加すれば、消費も増大する ②総生産額はいろいろな形(賃金・地代・利子)ですべて所得として分配される 総所得 総生産 総需要 ①総需要に等しいだけの生産が行われる(生産能力の範囲内で)

消費関数と生産・所得・需要の決定(63頁) 明示的(explicit)な形で分析する 消費関数を導入する 消費関数とは、図3-3のように所得と消費の間の関係の表現(式でも表される) 消費関数はC=C(Y)という関数形で表すことができます。 この式の意味は、左辺の消費(C)というものは(=)、所得(Y)に影響されます消費(C)ですよ、という意味です。

消費(C) 消費関数 C=C(Y) 所得(Y)

消費関数を用いて所得を決定する まず、需要(YD) 、生産(YP)、所得(YI)とする。 需要(Demand) 、生産(Product) 、所得(Income) 三面等価の原則から、YD=YP=YI <①式>である。 需要(支出)は消費だけだと仮定しているのでYD=C<②式>である。 消費関数はC=C(YI)<③式>である。

厳密に考える YD=YP=YI <①式> YD=C<②式> C=C(YI)<③式> ②式と③式から、 YD=C=C(YI) ゆえに、 YD=C(YI)<④式> ①式から、 YD=YI<⑤式> ④式と⑤式から、 YI=C(YI) この式はYIの式だから、 YIが解ける!つまり、所得が求められる!

需要(YD)=消費(C)、 生産(YP) YD=YP=YI YD=C=C(YI) 均衡点 45度 Y* 所得(YI)

所得がY*ではなかったら? 均衡の所得水準Y*よりも低い所得では、需要が供給を超過している(超過需要)。経済に十分な供給能力があれば、生産が拡大し、所得も拡大するであろう。 均衡の所得水準Y*よりも高い所得では、供給が需要を超過している(超過供給)。生産が縮小して、所得も縮小する。 結局、所得水準がY*のときに、所得・生産・需要の一致が見られる。

Y1 Y* Y2 所得(YI) 需要(YD)=消費(C)、 生産(YP) YD=YP=YI 均衡点 YP2 YD2 YD=C=C(YI) 超過需要 超過供給 Y1 Y* Y2 所得(YI)

需要不足の経済(65頁) 図3-4のメッセージ=「経済全体の所得や生産の水準が需要の規模によって大きな影響を受ける」 需要が不足すると、所得が大きく減退し、失業や遊休設備が生じる ⇒図3-5

需要(YD)=消費(C)、 生産(YP) 45度 C1 需要の低下 E1 C2 E2 Y2 Y1 所得(YI)

需要不足の経済 需要減少→生産低下→所得減少というプロセスが続いて、所得がY2のところまできて、経済は新しい均衡にたどり着く。 新しい均衡は、元の均衡に比べてはるかに低い所得・生産・需要となっている。 これがケインズ経済学が明らかにしたこと=需要不足の均衡の存在(失業と遊休設備)

投資と政府支出(67頁) 海外部門を考えないと、 Y=C+I+G YはGDP、Iは投資、Gは政府支出 投資と政府支出が外生的に与えられていると仮定する(簡単化のため)。 投資と政府支出を導入すると図3-6を導くことができる。

Y* 所得(Y) 消費や政府支出の拡大 需要(YD)、生産(YP) 45度 C+I+G C(Y)消費関数 I+G 均衡点で Y=C(Y)+G+I というマクロ経済の均衡が成立する。 Y* 所得(Y)

投資と政府支出 消費水準と同じように、投資や政府支出の水準もマクロ経済全体の生産や所得水準の決定に影響している。 投資や政府支出の規模が増加すれば、その乗数倍だけ経済全体の生産と所得の水準は増加する。 企業の投資意欲→投資水準

景気循環の一つの説明 企業が将来を楽観的に考える⇒投資を増やす⇒生産や所得が上昇 企業が将来を悲観的に考える⇒投資を減らす⇒生産や所得が下降 景気が大きく振れながら動く=景気循環 政府支出は政策によって決定される 不況だと政府支出は大きくなり、好況だと政府支出は抑制気味になることが多い。

所得水準決定の数値例(69頁) ①経済全体の消費関数を、 C=50兆円+0.8Y とする(Cは消費、YはGDP)。 <限界消費性向は0.8> ②投資(I)と政府支出(G)はそれぞれ20兆円と仮定する。

所得水準決定の数値例 ③需要の内訳から Y=C+I+G であり、これに代入すると、 Y=50兆円+0.8Y+20兆円+20兆円

所得水準決定の数値例 ④投資が20兆円から30兆円に10兆円だけ増えたとすると、 Y=50兆円+0.8Y+30兆円+20兆円 ⑤限界消費性向は0.8であるから、乗数は 1÷(1-0.8)=5 10兆円の投資増加×5=50兆円。

補論:恒等式と方程式 恒等式(つねに成立している) 例えば、Y=C+I+G 恒等式は重要であり、よく理解することが重要。