注意欠陥多動性障害(ADHD) と 広汎性発達障害(PDD)
発達障害の頻度 -軽度も含むと発達障害はこんなに多い- (注意欠陥-)多動性障害 (ADHD) 3% 多くは精神遅滞をともなわない 精神遅滞 1~2% (境界知能 約10%) 広汎性発達障害 0.5~1% 半数は精神遅滞を伴わない (0.2~0.7%) 典型的な例が自閉症 その他にアスペルガー障害、非定型自閉症 学習障害(読み書き,算数の障害) コミュニケーション障害 運動機能障害 見逃されて怠学と見なされることが多い 赤字・・ ・・いわゆる軽度発達障害 約10%
ADHD 注意欠陥多動性障害
注意欠陥/多動性障害 ADHD A 以下のいずれか/両方が6ヶ月以上 B 7才未満で発現 (1)不注意9項目中6項目以上 不注意の間違い,注意の持続の困難, 問いかけの無視, 指示に従えない,順序立てた活動の困難,精神的努力の持続をさける, 無くしもの, 注意の転導, 毎日のことを忘れる (2)多動性6項目,衝動性3項目中6項目以上 (多動性)そわそわもじもじする, 離席, 行動過多, 静かな時間を過ごせない,じっとしていない,喋りすぎ (衝動性)質問をよく聞かないで答える, 順番を待てない, 会話やゲームを妨害する B 7才未満で発現
ADHDは生来性の発達障害 本人のわがままや親の育て方ではない ADHDに奏効する薬物メチルフェニデートはこの神経を活性化する 中脳にはドパミンなど覚醒や注意を制御する伝達物質をつくる神経の細胞体があり大脳の神経細胞の活動を調整している ADHDに奏効する薬物メチルフェニデートはこの神経を活性化する
ADHDの経過と指導 自然経過で軽減するが,成長してもその傾向は残存 2次性の心理的問題を予防する 薬物療法が補助として有効 学習上の困難への配慮 周囲(できれば本人も)がADHDについて理解する 注意の持続の困難に配慮して,無理な目標をつくらない 向いている仕事と向かない仕事 2次性の心理的問題を予防する 過剰な禁止は反抗的な対人関係を誘発する 過剰なストレスが心身症を誘発する 薬物療法が補助として有効
2次障害 ADHDのこどもはストレスがいっぱい ★無理ながまんをさせられる ★周囲のからわがままといわれる ★他のこどもと同じにできない ★障害受容 2次障害
2次障害 1.過剰ながまんと不適応行動 2.おそらくストレスによる合併症 3.自己評価の低下 4.学習のおくれ チック障害 不安性障害 気分障害 3.自己評価の低下 4.学習のおくれ
がまんのさせ過ぎと不適応行動 本人の限界を超えたがまん イライラ 不適応行動 叱られる がまんすることがもっといやになる 衝動性を助長 自己評価の低下
必要なこと(1) 1.評価 どんな課題がどれだけの時間できるか 2.目標の設定 目標の時間・課題内容 3. フィードバックの方法 忘れ物をしないことができるか(通常援助なしには無理) 2.目標の設定 目標の時間・課題内容 周囲の援助 3. フィードバックの方法 その子に有効なフィードバック,トークン,成功率 通常80%近い成功が必要(でないと強化されない) → そのためには適切な課題の設定を!!
必要なこと(2) 4. SOS,限界のサイン 限界への対応の保証,しかししばしば限界までさせないこと しばしば限界に挑戦させることは有害 → ストレス増大 かえってこどものペースに引きずられる 5.再評価 学習進度 イライラはたまってないか ほめているか 6.こどもと親へのインフォームドコンセント
Pervasive Developmental Disorder (自閉症スペクトラム) 広汎性発達障害 Pervasive Developmental Disorder (自閉症スペクトラム) http://www.mirai.com/ http://www2k.biglobe.ne.jp/~motoi/ 森林資源の保護のため,紙の資料は配布しません.資料が必要な場合は上記URLへ
PDD診断のtriad 対人関係の障害 こだわり (DSM-IV/ICD-10) イマジネーションの障害 (Wing) コミュニケーションの障害 こだわり (DSM-IV/ICD-10) イマジネーションの障害 (Wing) 生来性の発達障害 おそらくは胎生期早期の障害 数個の遺伝子の関与が示唆されている
強 自閉症の症状 弱 自閉性障害 PDD-NOS アスペルガー障害 普通人 低い 知的機能 高い 自閉症スペクトラム
歴 史 1943 Kanner 早期乳幼児自閉症 1944 Asperger 小児期の自閉的精神病質 歴 史 1943 Kanner 早期乳幼児自閉症 1944 Asperger 小児期の自閉的精神病質 1972 Schopler TEACCHプログラムの成立 1981 Wing アスペルガ-の再評価 (自閉症スペクトラム) 1996 Honda 操作診断による発生率 PDDではないかと言われている著名人 アインシュタイン,サティ,ビル・ゲイツ… ひょっとしてあなたの周りにも… PDDのお陰で世界は豊かになっている?
教育上の重要性 1. 以前考えられていたよりもPDDはずっと多い 2. 特に知的障害を伴わない高機能群はとても多い 2. 特に知的障害を伴わない高機能群はとても多い ~最近は0.5%以上と推計されている 3. 正しく診断されないと,性格の問題と間違われる ~問題がこじれるもととなる 4. 精神障害と誤診されやすい ~統合失調症と誤診されることもある 5. 不安性障害や気分障害を合併しやすい ~合併症を主訴として受診する場合も多い 6. 周囲の理解なしの支援は困難
障害別新患割合 (精神医療センター2001年度) 新患の1/3が広汎性発達障害 PDD:広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder) ADHD:注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)MR:精神遅滞(Mental Retardation) 障害別新患割合 (精神医療センター2001年度)
半数が高機能群 PDDNOS: 他に分類されない広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder Not Otherwise Specified) PDDの知的機能の分布
広汎性発達障害の診断(DSM-Ⅳ,ICD-10改変) (1)対人的相互性の障害 a.非言語的調節機能の障害(視線・表情・身振り) b.仲間関係形成の失敗 c.興味の共有の障害 d.情緒的相互性の欠如 (2)コミュニケーションの障害 a.話し言葉の遅れ b.会話を開始・継続する能力の障害 c.常同的などの特有の言語 d.社会性をもった遊びの欠如 (3)こだわり a.限定した興味 b.機能的でない習慣へのこだわり c.常同運動 d.物の細部へのこだわり 3歳以前に発現し、(1)2項目(2)1項目(3)1項目、合計6項目以上→自閉症 (1)2項目(3)1項目以上で粗大なことばの遅れがない→アスペルガー障害 (1)項目,合計3項目(試案)→非定型自閉症/PDD-NOS
広汎性発達障害の分類
自閉症児の特徴(CARSから) 7-9.知覚障害 視覚・聴覚・近受容器 1.対人関係 10.不安反応 2.模倣 視覚・聴覚・近受容器 10.不安反応 11.言語的コミュニケーション 12.非言語コミュニケーション 13.多動・寡動 14.知的機能のばらつき 15.全体的印象 1.対人関係 2.模倣 3.感情 4.身体の使い方 5.物の扱い方 6.変化への適応 それぞれの項目を 1点(正常),2点(軽度異常),3点(中度異常),4点(重度異常) と評価し、総点で判定 30<総点<37点 → 軽度/中度自閉症 総点≧37点 → 重度自閉症 発達年齢18ヶ月以下では若干の過剰診断の傾向 しかし、低年齢でも評価可能
発達障害の状態像診断と病因診断 病因診断が確定しないケースが大多数⇒遺伝子・発生学的要因の未解決 病因診断と状態像診断は1対1対応しない 状態像診断→教育的アプローチの指針 病因診断→医学的管理の指針 病因診断が確定しないケースが大多数⇒遺伝子・発生学的要因の未解決
やってはいけないこと ×視線を合わせる練習 ×反応するまで大声で話しかける ×相手の気持ちを考えてごらんと 10歳未満の自閉症児に説教する 10歳未満の自閉症児に説教する ×偏食指導で泣かせる ×嫌いな音に慣れさせる ×運動会や意味不明な校長先生の お話しで集団行動を練習させる ×一人遊びやビデオを禁止する
やらなければならないこと ○早期からの意思表示の習慣づけ ○特定の場所で短時間でも座って課題に 取り組める ○対人関係でよい体験を増やす ○特定の場所で短時間でも座って課題に 取り組める ○対人関係でよい体験を増やす ○興味や関心のあることを探す ○得意なことを伸ばす ○静かではっきりとしたことばがけ (多すぎてはいけない)
機能のばらつき PDD LD MR 機能 a b c d ・ ・ ・ x y z
行動のレパートリー 適切な行動をさせるには 新たな行動獲得が必要 自閉症の子供 不適切な行動 禁止 自閉症でない子供
病因論 (心因論から認知行動障害へ) 脳の器質的な障害 ↓ 適応行動,コミュニケーションの障害 対人関係の困難 不快な体験のくり返し ↓ もともとの 障害によるもの ↓ 不快な体験のくり返し ↓ 自閉,パニック 環境によって 起きてくるもの ∥ 予防できるもの
治療教育の原則と自閉症の理解 1. 親は共同治療者 2. 行動変容と特殊教育 3. 個別プログラム 4. 発達領域ごとの評価 1. 親は共同治療者 2. 行動変容と特殊教育 3. 個別プログラム 4. 発達領域ごとの評価 5. ジェネラリスト・モデル 6. 相互作用の概念 ショプラー:東京講演,1983から引用
自閉症児者の治療教育はなぜ困難か? 適切な状況判断 順序だった行動 環境の明確化 行動の習慣化・課題分析 どんな時に ・・ ・・ どう行動するか ⇒ 学習 適切な状況判断 順序だった行動 環境の明確化 行動の習慣化・課題分析 得意な視覚を活用する・みんな同じやりかたで
構造化とは? 視覚支援とは? コミュニケーションの障害(言語的・非言語的) 注意が散乱しやすい 視覚認知は比較的良好 ↓ 構造化とは? 視覚支援とは? コミュニケーションの障害(言語的・非言語的) 注意が散乱しやすい 視覚認知は比較的良好 ↓ 目で見てわかるように伝える やるべきことの手順を明確にして習慣化 small step!! 刺激を整理して、注意が散乱しないようにする 見通しを持たせる(いやなことがいつ終るかなど) TEACCH=Treatment and Education for Autism and related Communication handicapped CHildren
構造化 物理的構造化… 明確なエリア ルーチン… 課題の手順を一定にする, L→R, U→D, スケジュールのチェック 物理的構造化… 明確なエリア ルーチン… 課題の手順を一定にする, L→R, U→D, スケジュールのチェック スケジュール… 視覚的, next ~ part day ~ daily, 実物~写真~線画~文字 ワークシステム… ワークの量, 視覚的な内容の提示, 終わりの明確化 視覚的構造化… 視覚的明確化,視覚的組織化, 視覚的指示
構造化された教室
棚やビニールシートなどを活用すると意外と安上がりに実現できる 構造化された教室の例 棚やビニールシートなどを活用すると意外と安上がりに実現できる
スケジュール表の例 実物の提示 カード 文字による提示 子供の理解にあわせて ・・ ・♪♪♪
スケジュールを用いて一連の課題を自律的にこなす この方法が確立すればこどもが自律的に活動できる 個別プログラムとは1対1対応のことではない!!!
ジグを用いた視覚的な手順の提示
弱い 視覚的な課題の組織化 強い
軽度の発達障害によくみられる問題 学習のおくれ 集中力がない/落ち着きがない 対人関係の問題 場面に合わない言動 ルールが理解できない こだわりの問題 予定や習慣のこだわる 関心・興味が偏っている 境界知能・学習障害 ADHD 高機能 広汎性 発達障害
軽度発達障害をめぐる諸問題 学習上の問題 ・能力のアンバランスへの評価と対応 ・特殊学級の枠には入らない通常級での個別対応 対人関係の障害 ・一見マイペースでわがままにみえる ・対人関係の問題にも個別の配慮の対象 二次障害の防止 ・わがままと捉えられることによる問題 ・こどもの成長にはほめられることが必要 障害受容の問題(思春期より前に!!) 周りのこどもがどうとらえるか 軽度であるがゆえの問題
軽度の広汎性発達障害にみられる問題 対人関係やコミュニケーションの問題 ルールが理解できない 常識を理解できない ルールが理解できない 常識を理解できない 他人の感情を理解できない 感情を適切に表現できない こだわりや特有の興味の問題 同年代のこどもとかけ離れた興味 予定の変更に対して不安になる おまじない的な行動が多く,まわりに合わせられない 知覚の異常に基づく問題 特定の音や騒音に対する過敏性 学習上の問題 イマジネーションの障害に基づくものなど 作文・かさのイメージ・創造的な課題での困難
SPELLの原則 Structure 構造化 Positive ほめる Empathy 共感 Low arousal 低刺激 Links 地域とのつながり イギリスの自閉症協会の教育の原則
適切にプログラムを作成・実行するために 1. 自閉症かどうかの診断・評価 自閉症なら能力のアンバランスに配慮した評価と 1. 自閉症かどうかの診断・評価 自閉症なら能力のアンバランスに配慮した評価と 構造化・ていねいな課題分析が不可欠 2. 個別評価(PEP-Rなど) 適切な課題設定のためにスキルの多面的な評価・ emerging skillの評価が必要 3. 個別の課題設定 集中力・課題の好き嫌い・中期~短期ゴールの 適切な設定・動機づけのための工夫 4. 将来を見越したゴール設定 認知課題に偏らない・余暇のスキル・意思表示 5. 本人の自立的な活動の援助 そのための構造化 個別とはマンツーマンではない!!
危険な関わりかた 1. 刺激が多すぎる環境 混乱・パニック・学習困難 2. 不適切な課題 その子の将来に役立たない・嫌悪感 1. 刺激が多すぎる環境 混乱・パニック・学習困難 2. 不適切な課題 その子の将来に役立たない・嫌悪感 不眠やイライラなどの問題発生 3. 不適切なゴール設定 偏食指導によって作られたより重篤な偏食 乱暴な統合による混乱・問題行動 4. 禁止や強制が多すぎる指導 替わる行動を身につけていないのに禁止される ことで、さらなる不適応行動が発生 5. 個別評価なしのプログラム設定 全ての問題発生の温床!!
参考になるインターネット上のページ 日本自閉症協会東京都支部 http://www.autism.jp/ 新潟市自閉症親の会 http://www.hopstepclub.jp/ アスペ・エルデの会 http://www.as-japan.jp/j/ 高機能自閉症である作家・森口奈緒美さんのホームページ http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Cassiopeia/8331/
問題が改善しないときのチェックポイント 無理な目標を設定していないか? PDDへの偏食指導,ADHDの忘れ物 2. アプローチが悪循環を惹き起こしていないか? 指導→いらいら→更なる指導→悪循環 3. 問題に付ける優先順位は間違っていないか? 全てはうまくいかない 将来役立ってかつ現在アプローチ可能な 目標を優先
発達障害の治療教育の考え方 目標は,障害を“治す”ことではない それはできないこと 特に薬物療法に過剰に期待するのは危険 中枢神経の障害による認知行動障害を考慮して, そのような障害をもったこどもをどう援助したら 学習や対人関係がよりよく成長するか