ヘリウム-3輸送用, 月-地球周回軌道の計算

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ヘリウム-3輸送用, 月-地球周回軌道の計算 Calculation of a periodical orbit  between the earth and the moon for 3He transportation 九州東海大学大学院 工学研究科 生産工学 御手洗研究室  増田 孝弘

1.まえがき 使用しないクリーンな発電方式であるD-3He核融合発電は人 類にとって究極のエネルギーである.    中性子も発生せず,放射性物質であるトリチウム(T)も 使用しないクリーンな発電方式であるD-3He核融合発電は人 類にとって究極のエネルギーである.  この発電炉の燃料である重水素(D)は海水中に無尽蔵に あるが,ヘリウム-3(3He)は地球上にほとんど無い.しか し,月から持ち帰られたレゴリスと呼ばれる小さな砕石の中 に太陽の核融合で作られ,太陽風によって運ばれた3Heが多量に蓄積されている.  本研究ではこの3Heを月から地球へ効率的かつ低コストで輸送する方法を考案するためのもので,少ない燃料で月ー地球間を往復できるような輸送機の周回軌道を数値計算によって見い出し,その軌道特性を明らかにした.

2.運動方程式と正則化 2.1.輸送機(ペイロード)の運動方程式 地球・月重心系回転座標  地球・月周回軌道を見出すために,地球と月の重心を中心として月の 公転周期Ωで回転する座標系を考える.(いわゆる円制限3体問題) (X,Y) ペイロードの地球と月重心からの座標 (Xe,Ye ) 地球の地球と 月重心からの座標 (Xm,Ym) 月の地球と 月重心からの座標 地球・月重心系回転座標

地球・月重心系回転座標系におけるペイロードの運動方程式 (1) (2) ただし,  Gは万有引力定数,m,Me,Mmはペイロード,地球,月の質量. (1),(2)式を4次のルンゲ・クッタ・ギル法で解く.

2.2.レビ・チビタ変換による正則化 レビ・チビタ変換 二つの天体が大接近すると重力が大きくなり特異点に近くなるため,一般に数値解はその誤差が急に大きくなりその後の軌道を正確に計算することが困難になる.よって,ペイロードが地球や月に接近した時には計算に誤差が生じないようにレビ・チビタの変換を利用し,この特異点を取り除くいわゆる正則化を行わなければならない. [1] レビ・チビタ変換とは  このレビ・チビタ変換は数学的には2つの複素平面において,Z平面から W平面に等角写像することに等しい. より、 レビ・チビタ変換

[2]正則化方程式の求め方 ペイロード,地球,月の位置と速度 ペイロードと地球,月の距離 (3) (4) ペイロードが地球に近づく場合 (X,Y)空間から(U,V)空間へのレビ・チビタ変換 (5) (8) (9) (6)  (10) (7)

(11) (12) (13) 以上から (14) (15) ペイロードの全エネルギー (16) これらから特異点のない(いわゆる正則化された)運動方程式が得られる.

( U,V)空間の正則化した運動方程式 (18)

ペイロードと地球の距離がある距離に近づいた場合,それまで計算した,   ,   の最後の値を初期値として,(u,v),(u’,v’)に変換し,正則化運動方程式を解く. 図の表示のために(X,Y)空間に逐次変換する. (20) (19) ペイロードと地球の距離がある距離以上に離れた場合   逆に,(u,v),(u’,v’)の最後の値を   ,   に変換し初期値とし,(X,Y)空間における運動方程式を用いて軌道を計算する.

3.正則化計算プログラムのチェック (A)正則化なし 計算が不安定になる 3.1.簡単化のため月の回転速度Ωを0とした場合  3.正則化計算プログラムのチェック   3.1.簡単化のため月の回転速度Ωを0とした場合         ペイロードの軌道が急激に変化する場合       (A)正則化なし   計算が不安定になる    初期条件:座標X = ‐386,238 km,Y = 0 km,初速度2.3034 km/s (A) 正則化なし * この初期条件ではペイロードが地球に近づいた時に計算が不安定  になり,右上方に急速に飛び去ってしまう. * これは2つの物体が大接近して起こる特異点のためである.

(B)正則化あり   計算が安定になる. (B) 正則化あり 同じ初期条件でペイロードと天体の距離が30,000 km 以下で正則化を行った結果,月まで戻ってくる軌道を計算することができる.全運動エネルギーが一定で,軌道が正しく計算されていることがわかる.

3.2.月が公転している実際の場合 *正則化をしていない場合 図4.月-地球周回軌道 (月の公転速度Ω=2.649×10-6 km/s)  地球上の地点:X =‐17,122 km,Y =‐21,316 kmで,初速度:VX = 4.7245 km/s,VY =‐2.7597 km/sで月をめがけてペイロードを打ち上げる. * 3.43日後に月を1周し,   地球に戻ってくる. * さらに26.9日後に2回目   の月会合となる. * さらに同じく26.9日経過   すると3回目の月会合   となる.  しかし,3回目の会合に入る前から軌道がずれ始め, その後月と会合はしない. 図4.月-地球周回軌道

*正則化しない場合との比較 (A)地球側だけ正則化:(正則化の距離は50,000kmと0 km) (B)両側正則化した場合:(正則化の距離は50,000kmと0 km )  正則化をした場合もしない場合もともに同じ結果!!

4.ペイロードの月・地球半永久的周回軌道(正則化なしでの計算)  ペイロードを月・地球軌道で半永久的に周回させるには必ず軌道修正を行わねばならない.   そのためには,3回目の月会合のY = 0.0 kmの時に * 最初の初期条件である座標( X = 383467.9 km,Y = 0.0 km)と * 速度(Vx = 0.0 km/s,Vy = ‐1.8231047 km/s)  に再設定(リセット)すればよい.  このように最初の初期条件にリセットすることで軌道が元に戻り,周回を続ける事がわかる.

回転座標系,無限周回軌道 回転座標系上で3回目の月会合までの軌道と同じならば,無限周回軌道となる. 回転座標系での月・地球周回軌道 回転座標系上で3回目の月会合までの軌道と同じならば,無限周回軌道となる.  それを実現するためには,奇数回目の月会合時のY = 0での座標と速度を,1回目のものと同じに再設定すればよい.

軌道リセットによる半永久的周回軌道 月-地球周回軌道(軌道リセットあり)

軌道リセット時の軌道変化 * 34kmずれるので,わずかな軌道修正ですむ. 全く軌道修正をしなくてもよい初期条件が存在するかどうかをさらに追求したい.

5.まとめと課題 今後の課題 (1)運動方程式の正則化を行うことで月-地球周回軌道の正確な計 算が出来るようになった. (1)運動方程式の正則化を行うことで月-地球周回軌道の正確な計   算が出来るようになった. (2)軌道が急激に変わるような場合に,正則化は有効であるが,本   研究で目指している緩やかな軌道では正則化の必要はないこと   が明らかとなった. (3)これらの正則化可能な信頼性の高い計算プログラムを用いるこ   とによって,月-地球周回軌道の存在が明らかとなった.なお   奇数回目の月会合時にわずかな軌道修正を行えば無限に月と地   球を周回できる可能性がある. 今後の課題 全く軌道修正をしなくてもよい初期条件が存在するかどうかの追求 6次のフェーンベルク法の採用 太陽の重力,輻射圧の影響 月の円軌道からのずれの影響 軌道修正の制御法および燃料噴射量 月面上あるいは地球上から輸送船へ物資の送受方法 等の検討がさらに必要である.