佐賀大学医学部漢方研究会 中岡賢治朗 井樋有紗 吉田紀子 西洋医学と中医学の違い (特に診察面) 佐賀大学医学部漢方研究会 中岡賢治朗 井樋有紗 吉田紀子
本日の流れ 診察開始から診断までの違い 診察の違いの具体例 舌診 脈診 腹診 診察例(症例課題を基に)
診察開始から診断・治療までの違い
そもそも・・・ 私たちが普段元気で居られる理由が、 西洋医学と中医学では違う!
西洋医学 中医学 細胞⇒組織⇒臓器⇒人体 人体の各臓腑・組織間および 人体と外的環境は、互いに対立しながら、同時に統一されている 普段元気でいられる理由 西洋医学 細胞⇒組織⇒臓器⇒人体 中医学 人体の各臓腑・組織間および 人体と外的環境は、互いに対立しながら、同時に統一されている
病気になる理由 西洋医学 すべての疾病の基本は 人体の最小単位である細胞の障害による 中医学 バランスが何らかの原因により崩れ、 病気になる
診察情報から異常所見を見分ける(Facts) 治療までの流れ~西洋医学編~ 診察情報から異常所見を見分ける(Facts) ⇒所見を解剖学的に分類し、 病 態生理に基づき、所見を解釈し、 仮 説をたてる(Hypothesis) ⇒鑑別診断に必要な情報を集める (Need to know) ⇒得られた情報を評価し、診断する ⇒患者が同意できる診療計画を立案し、 治療する
治療までの流れ~西洋医学~ 病歴 問題(診断) アセスメント プロセス 診療計画 身体所見 検査結果 問題に対する 患者の反応
治療までの流れ~中医学~ 望診・聞診・問診・切診 四診合参 弁証論治
治療法の違い 西洋医学 同病同治 異病異治 治療ガイドラインを順守 中医学 同病異治 異病同治
薬 治法を正確に実現できるよう薬物使用量を吟味 最終的な投与方法決定 中医学的な治療 理 弁証⇒疾病発生メカニズムの識別・分析 法 弁証⇒相応する治法確立 方 治法⇒方剤選択 薬 治法を正確に実現できるよう薬物使用量を吟味 最終的な投与方法決定
各論 診察の違いの具体例 舌診 脈診 腹診
各論 診察の違いの具体例 舌診 脈診 腹診
舌診 中医学において ・舌質と舌苔の両方から情報を得る ・舌を分画して臓腑と関連させる 西洋医学において ・1918年にFaberにより「舌は胃の鏡」という記述 ・診察を始める時には体内の病気を知る手掛かりとしてまず舌 を観察 ・舌苔は口腔内の局所病変そのものを示す所見であるという認 識に留まる ・現在、口腔粘膜や舌の疾患は内科領域と外科領域の境界に 位置し、医学教育のカリキュラムで軽視される傾向にある
舌に関する異常(1) ・舌苔の剥落 中医:剥苔→脾気陰両虚 西洋:良性の状態 ・舌の浮腫 中医:歯痕舌 →脾の水湿の運化の障害 西洋:所見なし
舌に関する異常(2) ・萎縮のない舌の偏位 中医:歪斜舌 中風、中風の前兆 西洋:舌下神経麻痺
舌に関する異常(3) ・いちご状舌 中医:熱証 西洋:川崎病、猩紅熱、溶連菌感染症
各論 診察の違いの具体例 舌診 脈診 腹診
中医:脈の深さ、脈の速さ、脈幅の大きさ、 血流の特徴、脈の強さ、寸関尺 西洋:動脈拍動、心拍数と心拍リズム、 脈波の振幅や輪郭 脈診 触診する場所は中医学でも西洋医学でも 主に橈骨動脈 ・観察のポイント 中医:脈の深さ、脈の速さ、脈幅の大きさ、 血流の特徴、脈の強さ、寸関尺 西洋:動脈拍動、心拍数と心拍リズム、 脈波の振幅や輪郭 西洋医学では橈骨動脈が触れにくい場合は 総頸動脈や上腕、大腿、膝窩、足背、後脛骨の 各動脈でみる
・遅い脈 中医:60回/分未満 中医:90回/分以上 遅脈→寒証 数脈→熱証 西洋:50回/分未満 西洋:100回/分以上 徐脈 頻脈 脈に関する異常 ・遅い脈 中医:60回/分未満 遅脈→寒証 西洋:50回/分未満 徐脈 ・速い脈 中医:90回/分以上 数脈→熱証 西洋:100回/分以上 頻脈
各論 診察の違いの具体例 舌診 脈診 腹診
腹診 担当:中岡賢治朗
→「病名」というよりは、「診察時点での症候」 病気を生体の微妙な状態変化に応じて 変動していくものだと考える。 東洋医学における診察 東洋医学の診断結果:証 →「病名」というよりは、「診察時点での症候」 病気を生体の微妙な状態変化に応じて 変動していくものだと考える。 「陰陽説」など独自の理論の存在。 病気を「正常時からの偏位」と捉える。 →病気と健康を1か0かでは捉えない。
西洋医学における診察 西洋医学の診断結果:病名 同病同治 体の「どの部分が」「どのようにおかしいのか」を探る。 背景に解剖学や生理学の存在。 病気に特徴的な所見を得るために、 実際に体の臓器や組織を調べるといった作業をする。 (聴診、画像診断、血液検査、細胞診、生検)
西洋医学における腹診 西洋医学の病気に対する考え方を踏まえ・・・ 病気の原因がどこに存在するのかを特定するため、 腹腔内臓器の性状(位置関係や大きさ、圧痛、腫瘤 の有無など)を調べる。 解剖学に基づく系統的な診察。
西洋医学的 腹部診察
視診 聴診 打診 触診 腹部が良く観察でき 十分な診察範囲を確保できるよう努める。 腹部診察の手順 視診 聴診 打診 触診 腹部が良く観察でき 十分な診察範囲を確保できるよう努める。 腹痛のある患者にはあらかじめその部位を 聞き、後から診察するようにする。 腸蠕動の聴診は、蠕動が人為的に 刺激される打診や触診の前に行う。 触診は腹筋群の緊張がとれた状態で 行うのが望ましい。
視診 平坦、膨隆、陥凹、および腫瘤などの有無を調べる。 皮疹、着色斑、手術瘢痕、静脈怒張、皮膚線条等 の有無を調べる。 両膝を伸展した状態で腹壁の形態と皮膚の状態を見る。 輪郭・形状の視診 平坦、膨隆、陥凹、および腫瘤などの有無を調べる。 皮膚の視診 皮疹、着色斑、手術瘢痕、静脈怒張、皮膚線条等 の有無を調べる。
聴診 頻度(亢進、減弱、消失)や音の性状(金属製など の異常音の有無)について調べる。 腸蠕動音と腹部動脈の血管音を聴取する。 腸蠕動音の聴診 頻度(亢進、減弱、消失)や音の性状(金属製など の異常音の有無)について調べる。 腹部の血管音の聴診 腎動脈(両側)、腹部大動脈、総腸骨動脈(両側)で 血管雑音の有無を調べる。 振水音の聴診 腸管内のガスと水の貯留を調べる。
打診 打診音の異常と痛みの有無を調べる。 肝のおおよその大きさを調べる。 腫大の有無を調べる。 視診や触診による所見を補い、診断を確かなものにする。 腹部全体の打診 打診音の異常と痛みの有無を調べる。 肝臓の打診 肝のおおよその大きさを調べる。 脾臓の打診 腫大の有無を調べる。
叩打診 叩打痛の有無を調べる。 叩打痛の有無を調べる。両側行う。 炎症や結石などがあると、叩けば疼痛を生じることがある。 肝臓の叩打診 叩打痛の有無を調べる。 脾臓の叩打診 腎臓の叩打診 叩打痛の有無を調べる。両側行う。
触診 圧痛や腫瘤などの有無を調べる。 腫大などの有無を調べる。 腹部の診察で最も重要。系統的にまんべんなく行う。 浅い触診・深い触診 圧痛や腫瘤などの有無を調べる。 肝・脾の触診 腫大などの有無を調べる。 腎の触診
その他の診察 筋性防御や反跳痛の有無を確認し、腹腔内の炎症 症状を調べる。(踵落とし衝撃試験もその1つ) 腹水の有無を調べる。 腹水や腹膜刺激徴候など、いくつかの特異的所見に対する重点的な診察を行う。 腹膜刺激徴候の診察 筋性防御や反跳痛の有無を確認し、腹腔内の炎症 症状を調べる。(踵落とし衝撃試験もその1つ) 腹水の有無の診察 腹水の有無を調べる。 直腸診 肛門や直腸内の異常の有無を調べる。
◎東洋医学的腹部診察 身体全体の病変がどのように腹部に現れて いるかということを、腹壁の緊張度や性状及 び圧痛などの所見から総合的に判断。 東洋医学vs西洋医学 ◎東洋医学的腹部診察 身体全体の病変がどのように腹部に現れて いるかということを、腹壁の緊張度や性状及 び圧痛などの所見から総合的に判断。 腹腔内臓器の性状そのものを調べるというも のではない。(そもそも「臓器」の概念が無い。 五臓六腑はあくまで「機能的構成要素」)
東洋医学vs西洋医学 東洋医学ではあまり行われない 打診や聴診を行う。 ◎西洋医学的腹部診察 東洋医学ではあまり行われない 打診や聴診を行う。 解剖学に従い、系統的に臓器の位置や 大きさ、性状、腫瘤の有無などを調べる。 疾患に特徴的な腹部所見 (皮疹・静脈怒張・腹膜刺激徴候など)があり、 それらが見られないか探索する。
参考文献 診察と手技がみえるvol.1 第2版 簡明 漢方医学/三重大学東洋医学研究会 医学生のための漢方医学(基礎編)/ 安井廣迪著 /東洋学術出版社/2008 中医学の基礎 /平馬直樹他監修/1995年/ 東洋学術出版社 ベイツ診察法/リンS.ビックリー他/2008/ メディカル・サイエンス・インターナショナル 内科学/杉本恒明他/2007/朝倉書店
ではでは、 実例を見てみましょう。 ~症例課題を基に~
まずは西洋医学版
鼻出血 血管吻合: Kiesselbach部位 血管 血小板 作る量が少ない 再生不良性貧血・急性白血病 血管 外傷・炎症 血小板 作る量が少ない 再生不良性貧血・急性白血病 壊されている 特発性血小板紫斑病 Idiopathic Thrombocytopenic Purpura (ITP) 血小板に対する自己抗体・脾臓で破壊 凝固系 内頸動脈 外頸動脈
基準は10~40万/μL !2万以下で要注意! 数値 症状 10万以下 血小板機能異常がなければ 出血傾向なし 5~10万 突発的な出血なし 血小板量と症状 基準は10~40万/μL !2万以下で要注意! 数値 症状 10万以下 血小板機能異常がなければ 出血傾向なし 5~10万 突発的な出血なし 2~5万 ときに出血傾向を認める 1~2万 致命的な出血がまれにある 1万以下 しばしば致命的な出血
SLE systemic lupus erythematosus 20~40歳若年女性に好発 男:女=1:10 汎血球減少がみられる 重篤な内臓病変が なければ軽症
最初は血小板数が6万程度と低く、 PSLを15㎎程度処方していた時期もあった。 紹介状に書いてあった内容 最初は血小板数が6万程度と低く、 PSLを15㎎程度処方していた時期もあった。 ここ半年は、補中益気湯煎じ薬とPSL5mg/day で 10万程度になってきている。 10万を上まわり、鼻出血が止まればステロイド 治療をやめることが出来る。
ステロイドPSL:prednisoloneの副作用 易感染性 耐糖能低下 消化性潰瘍 骨粗鬆症 精神症状 副腎皮質機能低下 骨に対して成長抑制に働くので、 成長期の患者さんには出しづらい面も。
ツムラの41番 補中益気湯 組成・剤形・容量 オウギ4.0 トウキ3.0 サイコ2.0 ニンジン4.0 ソウジュツ4.0 タイソウ2.0 チンピ2.0 カンゾウ1.5 ショウマ1.0 ショウキョウ0.5 一日用量 7.5g 備考 随証 陰、虚 適応 夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、 感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症 消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の諸症 以下、相互作用・副作用と続く
検査項目 血液検査 尿検査 赤血球数、白血球数、血小板数 :血球減少の有無 赤沈、補体、抗dSDNA、抗Sm抗体 :SLE 赤血球数、白血球数、血小板数 :血球減少の有無 赤沈、補体、抗dSDNA、抗Sm抗体 :SLE アルブミン タンパクの一種、尿から出ていないか 尿検査 蛋白と検鏡 :腎機能の評価
続いて、中医学版
治療までの流れ~中医学~ 望診・聞診・問診・切診 四診合参 弁証論治
望診 舌診 白色苔あり、胖大、やや暗 舌下静脈怒張なし
問診中… 望診・聞診・問診・切診 四診合参 弁証論治
全体に細・沈 右関脈 滑・沈無力 左関脈 弦脈 左寸脈 細、弱 切診 脈診
切診 腹診 心下痞、右軽度胸脇苦満、左臍傍圧痛あり
四診合参 望診・聞診・問診・切診 四診合参 弁証論治
薬 治法を正確に実現できるよう薬物使用量を吟味 最終的な投与方法決定 中医学的な治療 ・・・症例検討で! 理 弁証⇒疾病発生メカニズムの識別・分析 法 弁証⇒相応する治法確立 方 治法⇒方剤選択 薬 治法を正確に実現できるよう薬物使用量を吟味 最終的な投与方法決定