日本における 外国人児童生徒の教育 大正友貴 安田百合恵
日本の外国人登録者数 都道府県別の全人口に占める外国人の割合(2009) 都道府県別の全人口に占める外国人の割合(2009) 東京、大坂、愛知、神奈川、埼玉、兵庫、千葉、静岡、京都、茨城の順に高い →これらで全体の7割を占める
ニューカマーの外国人の流入経緯 ニューカマー ・・・1970年代以降に日本に移住した外国人 1980年代後半に「外国人労働者問題」として認識 ・・・1970年代以降に日本に移住した外国人 1980年代後半に「外国人労働者問題」として認識 背景 1、1984~94年:円高とバブル景気、人手不足 2、1998~現在:日本経済の長期停滞とし少子高齢化への危機感 現在:全国的に外国人の移住は拡充すると同時に 一部の地域に集住→滞在長期化 「移民二世」の増 加
教育分野における ニューカマー受け入れの現状 公立学校に通う外国人 :平成20年5月1日現在75,043人(対前年度3.2%増 加) 就学させる義務はなく、行政当局の「許可」 入学を「許可」されると 「日本の子どもと同様に」扱うことが原則 →「授業料の不徴収「教科書の無償配布」「就学援助措置」 と同時に日本人と全く同様の教育 日本語が不十分な外国人の子どもに日本人と全く同様の 教育・・・実質的な意味を持たない 日本の学校システム、社会でも不自由しないための措置が必要
20年間の国の政策の特徴 1990年以降 実態調査、研究、日本語指導教材開発、 日本の教育についての情報提供、など・・・ 対症療法的 1990年以降 実態調査、研究、日本語指導教材開発、 日本の教育についての情報提供、など・・・ 対症療法的 これまでの行政の枠組み内 二重構造化 国と地域 自治体間の差 国際法の視点からの不十分さ →必要性重視 →一時滞在者「お客さん」としての外国人
都道府県における施策の実施状況 (小・中) 2006年「帰国・外国人児童生徒教育支援体制モデル」事業 2007年「帰国・外国人児童生徒受入促進」事業 1 担当教員(常勤)の配置 2 児童生徒の母語を話せる相談員の派遣 3 上記1,2以外の指導協力者の配置 4 担当教員の研修 5 受入れに際し特別な配慮を行っている学校 の有無(拠点校、センター校など) 6 研究協力校(地域)の指定 7 就学・教育相談窓口の設置 8 保護者用就学ガイドブックの作成・配布 9 就学案内の発給 10 その他
市区町村における施策の実施状況(小・中) 1 担当教員(常勤)の配置 2 児童生徒の母語を話せる相談員の派遣 3 上記1,2以外の指導協力者の配置 4 担当教員の研修 5 受入れに際し特別な配慮を行っている学校の有無(拠点校、センター校など) 6 研究協力校(地域)の指定 7 就学・教育相談窓口の設置 8 保護者用就学ガイドブックの作成・配布 9 就学案内の発給 10 その他
・外国人=「お客さん」 ↓ 「日本社会の構成員」 1、日本語教育の保障 2、不就学への対応 3、母語教育の充実 教育の保障が必要 ・外国人=「お客さん」 ↓ 「日本社会の構成員」 1、日本語教育の保障 2、不就学への対応 3、母語教育の充実
日本語教育1 日本語の指導が必要な外国人児童生徒 (2008) 人数:28575人 在籍校数:6212校 人数:28575人 在籍校数:6212校 母語別:ポルトガル語11,386人、中国語5,831人、 スペイン語3,634人、その他の母語7,724人 在籍人数別学校数:5人未満の学校が全体の8割 =外国人散在校(10年間で約800校増加) 社員寮にまとまって住んでいた外国人が、不況で職を失って様々な場所に転居していることが一因
日本語教育2 「日常会話は出来ても、授業などの学習に参加出来な い子どもが多い。日常会話の力と、学習で求められる 力は違う。」 →「生活言語能力」と「学習言語能力」 ★生活言語能力 1対1の場面での日常的で具体的な会話をする能力 ある程度は、普段の生活の中で自然に身に付く ★学習言語能力 教科等の学習場面で求められる情報を入手・処理し、 分析・考察した結果を伝える思考を支える言語力 生活の中で身に付くことは期待できない
日本語教育3 〈一般的な取り組みの事例〉 日本語教室「取り出し指導」:教員加配がある学校 在籍学級から別の教室に通う 在籍学級から別の教室に通う 週2〜3回、各1時間程度 センター校システム:地域指定の日本語教室のある センター校に通う 週に数回 地理的に通級不可能な場合も巡回指導 在籍学級での「入り込み指導」:初期指導終了後 在籍学級に日本語担当教員が入り 学習参加をサポート
日本語教育3 日本語指導の教育内容と方法 1、「サバイバル日本語」:生活において緊急性の高い表現 在 籍 学 級 で の 習 初期日本語指導 サバイバル日本語 文字、語彙、 基本文型の学習 JSE カリキュラム 中後期日本語指導 初期の継続 4技能習得 日本語指導の教育内容と方法 1、「サバイバル日本語」:生活において緊急性の高い表現 2、「日本語の基礎」:基本的な知識・技能(語彙、基本文型) 3、「技能別日本語」:聞く、話す、読む、書くの技能 4、「教科の補充」:在籍学級の授業を補う 5、「教科内容と日本語の統合型の学習」:教科を日本語で学習 JSLカリキュラム:「取り出し指導」から在籍教室(日本 語での 教科学習)への橋渡し 使う文脈や状況に応じた言語力 の重視
日本語教育4 問題点 公立学校での教師の異動→×継続性 学校間、地域間の取り組みの差 在籍人数別学校数:5人未満の学校が全体の8割 集住地域と散在地域 評価基準が曖昧(日常会話と学習言語の差) 子どもの多様性に応じた教育の困難さ(背景、日本語力、母語力、地域 特性) 教科指導と日本語指導の切り離し 人材の不足 実践事例の少なさ 日本語教室の「周辺化」
日本語教室設置校 =? 加配教員設置基準が 日本語指導が必要な外国人児童生徒の在籍が「10人以上」「5人以上」「全在籍者の20%以上」など 日本語教室設置校 =? 加配教員設置基準が 日本語指導が必要な外国人児童生徒の在籍が「10人以上」「5人以上」「全在籍者の20%以上」など ごく少数で 十分な指導体制がない 在籍人数別学校数:5人未満の学校が全体の8割 全く指導経験がなかったり、母語や日本語教育の学習歴のない教員が配置される場合もある
不就学 ×就学義務:教育の権利・義務は「国民固有」 外国籍児童生徒の就学状況(全国) 不就学生徒数? 区分 2006年 114,749 外国籍児童生徒の就学状況(全国) 区分 2006年 (a)学齢相当の外国籍の子ども(6-14歳) 114,749 (b)義務教育諸学校在籍者数 70,936 (c)各種学校として認可された外国人学校在籍者数 23834 (d)=(a)-(b)-(c) 19979 不就学生徒数?
不就学2 不就学の理由 (2006)
不就学3 「不就学」の課題 日本の学校、教育についての情報提供 非正規滞在者の問題の解決 教育委員会による入学不許可 子どもの日本語能力、学力向上 自治体による就学への働きかけ 義務教育の適用
母語教育 母語教育の必要性 ・国家移動に伴い学習面、生活面のデメリットの最小化 (帰国後の学習や家族とのコミュニケーション) (帰国後の学習や家族とのコミュニケーション) 外国人の子どもの言語使用パターン 1、家では母語、外では日本語 2、家、外共に母語 3、家、外共に日本語 ・アイデンティティの問題
母語教育2 〈一般的な取り組みの事例〉 母語教室、高校での正規科目、センター校、巡回指導、 問題点 教育内容、方法ともに異なる対応が必要 母語教室、高校での正規科目、センター校、巡回指導、 支援活動団体・・・ →いずれもごく少数 問題点 教育内容、方法ともに異なる対応が必要 教室、指導者の不足 子どもへの動機付け カリキュラム、教材がない 世代間での認識の違い
外国人学校に通う子どもの現状 約25000人が在学 各種学校として許可された外国人学校(121校のみ)と 非認定校→特に南米系学校は大半が非認可 目的:帰国後も現地の教育システムに困難なく適応できるよ うにすること 日本語、日本文化の授業は一般的に週1時間程度 平均して月4-5万円の授業料(途中大学も多い) 実際には15歳になっても帰国しない例が多い(親の仕事や 経済状況のため) ←日本語の習得ができないまま非熟練労働者に
1.外国籍児童の教育義務化 外国人児童生徒の就学の法的根拠 ■憲法第26条第2項 外国人児童生徒の就学の法的根拠 ■憲法第26条第2項 「すべて国民は、…普通教育を受けさせる義務を負ふ。」とされて いるが、(国民ではない)外国人には適用されない。 ■国際人権A規約第13条(経済的、社会的及び文化的権利に関 する国際規約)により、就学を希望する外国人は、日本人と同 様な教育を受けることができる。 ※国際人権A規約に基づき、就学を希望する児童生徒の小中学 校における「教育を受ける権利」を保障している。 これといった移民政策がなく、外国人に排他的な姿勢ととってき た日本 在日外国人児童数は増加 外国籍児童への教育を義務化する必要がある
2.多文化教育推進校の設置 現在の公立学校の多くが外国人籍児童の学びの場として不十分 結果:日本語運用能力の低下 高校進学率の低下 親子間の言語断絶(継承後教育の不足による) 不就学 子供たちの自尊感情の喪失etc… 「多文化教育推進校を各都道府県に最低1つ設置する」 多文化教育推進校 ・日本語教育に重点をおいた言語教育を行う。(日本語教室を設置) ・国籍・民族にかかわらず一人一人が等しく尊重されるべきことや 外国人籍・民族的マイノリティについて学ぶ「人権教育」を多く 取り入れる。
3.公立学校の外国人学校との連携強化 公立学校での母語や文化教育を行えればベスト! BUT… ・学区に与える財政上の負担大 ・教師の獲得困難(変化する子供の在籍者数に応じてライセン スを持つ多様な言語の教師の供給がない) ・子供の母語は多岐にわたり、散在している子どもには公立学 校では対応できない →公立学校が外国人学校と提携し、週末の1日を外国人学校 で過ごし母語の維持を目指す。
4.外国人学校でのイマージョン教育の実施 イマージョン教育 単に語学のクラスで目標となる言語を習うだけでなく、他のいろい ろな教科を第2言語で教えるプログラム。 現在の外国人学校では日本語を外国語として教えているところが 多い(母国に帰国することを考慮しカリキュラムが組まれているた め外国語の授業としての日本語の時間は不十分) →イマージョン教育を導入するべき CF)アメリカ合衆国の公立学校における移住者子女のための母語支 援教育 ヒスパニック系の移民者の多い学区における英語・スペイン語の イマージョンプログラム(バイリンガル教育)
論点 以上の提言への批評 現在の日本の外国人児童生徒の教育にお ける問題はどのように改善していくべきか?
参考文献 斎藤ひろみ・佐藤郡衛 編「文化間移動をする子どもたちの学び 教育コ ミュニの想像に向けて」ひつじ書房 2009 斎藤ひろみ・佐藤郡衛 編「文化間移動をする子どもたちの学び 教育コ ミュニの想像に向けて」ひつじ書房 2009 宮島喬・大田晴雄 編「外国人の子どもと日本の教育 不就学問題と多 文化共生の課題 東京大学出版会 2005 児島明「ニューカマーの子どもの学校文化 日系ブラジル人生徒の教育 エスノグラフィー」 書房 2006 江原裕美「国際移動と教育 東アジアと欧米諸国の国際移民をめぐる現 状と課題」明石書店 2011 石附実「比較・国際教育学」東信堂 1996 http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kyouiku/index.html http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1180.html http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/7350.html http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003.htm