◎熱力学の最も単純な化学への応用 純物質の相転移 ◎本章で学ぶこと # 相図が物質の各相が最も安定に存在する圧力と温度の領域を示す 地図であること (1) 代表的な物質について実験でつくった相図の解釈を説明 (2) いろいろな領域の間の境界の位置と形を決定している因子を考察 ・ここで導く式 物質の蒸気圧が温度によってどう変化するか 融点が圧力でどう変化するか を示す → 実用上重要 # いろいろな熱力学関数が転移が起こるときどう変化するかに注目して 分類できること # 化学ポテンシャルの概念を導入 ・相変化や化学反応を論じるときに中心的な役割を果たす概念
相変化の例 (すべて化学組成の変化はなし) 蒸発 融解 グラファイトからダイヤモンドヘの転換 ・本章ではこのような過程を熱力学的に説明 ・そのときの指導原理 一定の温度と圧力の下では,系はギブズエネルギーを 最小にしようとするということ
4・1 相の安定性 物質の相: ものの形の一種 全体にわたって化学組成と物理的状態がー様なもの (例) 固相,液相,気相 黄リン-黒リンの同素体 など 相転移: ある相からべつの相へ自発的に転換するもの 圧力が与えられると固有の温度で起こる (例) 水 (0°Cよりも上) ⇔ 氷 (0°Cよりも下) 変化の方向はギブスエネルギーが減少する方向 転移温度 (Ttrs): 転移が自発的に起こる温度 2相が平衡にあり,その圧力でギブスエネルギーが極小
準安定相: 転移が速度論的に起こりにくいために存在しつづける 熱力学的に不安定な相 熱力学的に転移可能 ⇔ 転移が実際に起こる速さ 無関係 (例) グラファイト ⇔ ダイヤモンド 通常の温度、圧力下のモルギブズエネルギー グラファイト < ダイヤモンド しかし、固体では高温を除いてその速度は測定できないほど遅い 通常の温度圧力でのダイヤモンドは準安定層
4・2 相 境 界 ・物質の相図 いろいろな相が熱力学的に安定な,圧力と温度の 領域を示すもの ・相境界 領域を分ける線 2相が平衡に共存するpとTの値を示す 閉じた容器に入った純物質の液体または固体 ・蒸気圧 液体と平衡にある蒸気の圧力 ・液体-蒸気の相境界 液体の蒸気圧が温度とともにどう変化するかを示す曲線 ・固体-蒸気の相境界 昇華蒸気圧(固体の蒸気圧)の温度変化 高温では分子がまわりの分子から逃げ出すのに十分な エネルギーをもつ分子が多いので,物質の蒸気圧は 温度とともに増加する。
液体の中からも全体にわたって蒸発温度一定 (a) 臨界点と沸点 沸 騰 沸騰温度(沸点) 通常沸点 (Tb): 外圧が1 atmのときの沸点 水 100 ℃ 標準沸点 : 外圧が1 bar(=0.987 atm)のときの沸点 99.6℃ 液体 (開放容器) 加熱 表面から蒸発 (蒸気圧上昇) 温度上昇 蒸気圧 = 外圧 液体の中からも全体にわたって蒸発温度一定
閉じた頑丈な容器 ・液体を加熱しても沸騰は起こらない ・蒸気圧、蒸気密度が上昇 ・液体の密度は,少し膨張するためにわずかに減少 蒸気密度 = 残っている液体の密度 ↓ 2相の間の界面が消滅 臨界点 (物質固有) 臨界温度 (Tc): 界面が消滅する温度 臨界圧力 (pc): 臨界温度における蒸気圧 超臨界流体: 臨界温度以上での均一相
(b) 融点と三重点 融解温度 (融点): ある指定した圧力の下で,液体と固体が平衡で共存する温度 凝固点と同一 通常融点(凝固点) (Tm (Tf)): 外圧が1 atmのときの融点 水 0℃ 標準融点(凝固点) : 外圧が1 bar(=0.987 atm)のときの融点 無視できる程度の差 三重点: 三つの異なる相が全部同時に平衡で共存可能な温度、圧力条件 ・固相,液相,蒸気相が典型的 ・三つの相境界がその点で一致 ・三重点の温度: T3 ・純物質の三重点 物質に固有、制御不可能 (例)水の3相(氷,水,水蒸気)が平衡で共存 273.16 K, 611 Pa (6.11 mbar, 4.58Torr) ↓ 熱力学温度目盛の定義
三重点: ・ある物質が液相として存在できる最低圧力 ・液相が存在できる最低温度 - 通常の物質 (固相/液相の相境界の勾配が正) 例外: 水、ビスマス 臨界温度: ・液相の上限温度
4・3 相図の典型例3種 (a) 二酸化炭素 ・固-液境界線の勾配が正 圧力 ↑ ⇒ 固体二酸化炭素の融点 ↑ 4・3 相図の典型例3種 (a) 二酸化炭素 ・固-液境界線の勾配が正 圧力 ↑ ⇒ 固体二酸化炭素の融点 ↑ ・三重点が1 atm よりも上 大気圧では,どの温度でも液体は存在不可 固体を大気中に放置すると昇華 ( “ドライアイス”) 液体 5.11 atm 以上の圧力 ・二酸化炭素ボンベ(通常緑色) 液体か圧縮した気体 25°Cで平衡蒸気圧: 67atm 弁を通して噴出 ⇒ ジュールートムソン効果で冷却 l atm 下 凝縮、雪のような細かな固体 -74.5℃
(b) 水 ・液相-気相境界線 液体の水の蒸気圧が温度で変わる様子 沸点が圧力で変わる様子 ・固相-液相境界線 融点の圧力依存性 勾配が非常に急 ⇒認知可能な変化には極めて大きな圧力 2 kbar まで負の勾配 ⇒圧力が増加すると融点が下がる ほとんど他では見られない特異な挙動 (理由) 融解に際して体積が減少するため H2O分子間の水素結合の部分的崩壊 ⇒液相の密度上昇
・液相 一つしかない ・固相 ほかにもいろいろな固相 氷Ⅰ ふつうの氷 氷Ⅵ 100°Cで融解 25 kbar 以上でしか存在不可 ・三重点 蒸気,液体の水,氷Iほかさらに五つ ・氷の固相 それぞれ水分子の配列が異なる 非常な高圧では水素結合が曲がる ⇒水分子の配列が変化 氷の多形 (異なる固相が存在すること) ⇒氷河の流れの原因であるかも
(c) ヘリウム 低温で異常な挙動 ・固相-気相 共存不可 ヘリウム原子が非常に軽い 極低温でも大振幅の振動をする ⇒固体が自分で揺さぶって,ばらばらになる ・固体ヘリウム 圧力をかけて原子を押さえつけたときのみ ・超流体 液相He-Ⅱ 粘性なしに流動 ・液-液境界線(λ線)をもつ唯一の液体 (液晶を除く 6・6節) ・ 3Heの相図 4Heの相図とは異なる これにも超流体相が存在 液体のエントロピーが固体よりも低い ⇒融解が発熱過程だという点で異常