日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題―

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日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 2005年8月6日(土) 於:愛・地球博 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・実務・社会への還元 結 日本広報学会の功績と課題 関谷直也 東京大学大学院 情報学環 特任助手 naoya@iii.u-tokyo.ac.jp

日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・実務・社会への還元 結 日本広報学会の功績と課題

1 前史:広報学の求められた背景 1.1 1970年代‐要求された「企業の社会性」 1 前史:広報学の求められた背景 1.1 1970年代‐要求された「企業の社会性」 「高度経済成長」「列島改造ブーム」時代の裏の「企業批判」 1960年代後半~1970年代中頃  万国博覧会や国際収支黒字など「高度経済成長」時代、1972年からの「列島改造ブーム」という表の歴史の裏で、企業批判の時代が続いた。 ①環境破壊・公害問題             ②列島改造ブームと   巨大建設・公共事業批判 ③テレビの二重価格など消費者問題   ④1973年だけで14件に達した   石油コンビナートの爆発事故 ⑤1973年11月オイルショック以降の モノ不足問題(巨大企業の利益独占)

1 前史:広報学の求められた背景 1.1 1970年代‐要求された「企業の社会性」 1 前史:広報学の求められた背景 1.1 1970年代‐要求された「企業の社会性」 「高度経済成長」「列島改造ブーム」時代                   の裏の「企業批判」 企業と社会とのかかわり、「企業の社会的責任」が問題となってきた。 1974年 経団連は、総合対策委員会の中に、「企業の社会性」部会設置 「石油危機に伴う企業批判の実態調査」 「一般市民とのコミュニケーションを行う体制を強化する必要」(報告書「企業と社会の新しい関係の確立を求めて」) 財団法人経済広報センターの設立 1976年5月  「企業・経済団体の広報活動のあり方」-「経済団体において           広報のための組織を整備・拡充し、情報収集力を強化し、           対社会広報キャンペーンを実施すべきである」と提言された。 1977年5月  経団連定時総会「広報委員会」設置。 1978年11月 「財団法人経済広報センター」設立           (経済界全体を代表する広報活動を実行に移す機関) 1970年前後、「企業の社会的責任」、「広報」の重要性が高まり、各企業で「広報   部」「広報担当」の領域の拡大化・充実化が進む。

1 前史:広報学の求められた背景 1.2 1980年代―社会貢献、「企業の社会性」 1 前史:広報学の求められた背景 1.2 1980年代―社会貢献、「企業の社会性」 メセナ・フィランソロピー・CI・企業市民 1 「バブル景気」につながる好況 企業に「余裕」がでてきた。 1980年代中頃から、企業の文化活動、広報イベント、企業博物館設置が活発化。1980年代末には「メセナ」「フィランソロピー」活動と呼ばれる。 2 企業の海外進出・国際化   国際的な日本バッシングや進出地域で文化摩擦が問題となる。 繊維業、鉄鋼業中心であった日本の産業 1980年代初頭、電気製品、自動車分野を中心に日本企業の海外進出と各分野の輸出が増加。 その中で、米国に戦後根付いていた「企業市民」の概念が輸入された。   経団連の動き 1987年 「国際広報委員会」を設置し、アメリカにおける企業の地域貢献活動の調査研究を行った   (『コミュニティ・リレーションズ―米国地域社会の“よき企業市民” として』、1988年)。 1988年 「国際文化交流委員会」を設置し、アメリカのフィランソロピー活動を調査 1990年 「企業の社会貢献活動推進委員会」 1991年 「消費者」「生活者」委員会が設置された。   この延長線として、1990年「1%クラブ」(経常利益の1%を社会貢献に)、企業メセ     ナ協議会が設置。大企業を中心に、社会貢献関連の部署も設置される。 3 アイデンティティの再構築 企業経営の多角化、拡大化に伴うCI活動の活発化、宣伝活動の延長線上としてのCIブーム、企業広告。

1 前史:広報学の求められた背景 1.3 1990年代前半―再び「企業の社会的責任」 1 前史:広報学の求められた背景 1.3 1990年代前半―再び「企業の社会的責任」 1990年、バブル崩壊。 1980年代末から、企業批判 ふたたび高まってきていた。 リクルート事件 証券・金融不祥事  一般投資家を犠牲にした大口顧客への優遇が発覚 ゼネコン汚職 大企業幹部と裏社会との癒着 「対話」、広報・広聴、企業の社会性 「対話」 の重視 1991年4月、1992年9月            「フリートーク・フォーラム」(経団連、経済広報センター主催) 経団連 1991年「企業行動憲章」発表、企業の広報・広聴の重要性、環境         保全、フィランソロピー活動による社会貢献、情報公開に対する         ルールなどが明示化 地球環境問題 経団連 「地球環境憲章」を制定。地球環境問題の隆盛を背景に、環境対        策という側面からも、企業の社会的貢献が求められはじめる。

1 前史:広報学の求められた背景 1.4 「日本広報学会」の設立 1 前史:広報学の求められた背景 1.4 「日本広報学会」の設立 「広報」活動の枠組み拡大、経営主体として重要なテーマに 先に「実践」があった。 1970年までの段階で、企業は社会とのコミュニケーションの必要性を痛感し、1980年代の好景気や背景にした企業の成熟化や国際化に伴って、実践としてのメセナ・フィランソロピー活動、地域貢献活動が実践され、CI活動を経て企業文化が成熟してきた。 この時期、経済広報センターに対し、壱岐晃才氏、田中靖正氏から、企業と社会の問題、広報の問題について考える学会組織の設立の提案があった。 「広報」関連団体・・・広報に関する交流・啓発活動  経団連、経済広報センター、日本パブリック・リレーションズ協会 日経連社内報センター(社内広報)、日本経営協会NOMAプレスセンター (社内広報) 、日本広報協会(行政広報)  問題点・・・・・団体の会員構成と研究者の参画の少なさ 企業の広報担当者、PR業、行政の広報担当者など分野別:「広報」活動全体を俯瞰した交流・研究が行われる場がなかった。 研究者の参画が少なく、研究活動との連動が図られていない

1 前史:広報学の求められた背景 1.4 「日本広報学会」の設立 1 前史:広報学の求められた背景 1.4 「日本広報学会」の設立 具体化の動き 日本経済新聞社から「企業広報講座(5冊組)」刊行  1993年に経済広報センター事務局を中心とし、企業広報の学問的体系化に向けた動きが胎動を始める。企業と社会のかかわりや「広報」の研究をする人々、広報に問題点を感じる人々の交流が積極的に行われはじめた。 「日本広報学会」設立準備委員会  上述の団体に協力申し入れを行い、1994年7月20日、経済広報センターを中心に、関係各位によって会合が持たれ、設立準備委員会が発足。 1995年3月24日、「日本広報学会」設立

日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・実務・社会への還元 結 日本広報学会の功績と課題

①人数 図1 広報学会の会員数 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.1 交流機能 個人会員数 ・・増加 口数 ・・一時期増加、 その後、漸減。 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.1 交流機能 個人会員数 ・・増加 口数 ・・一時期増加、   その後、漸減。 ※ 1998年 2.7口 2004年 2.0口 法人会員数 ・・漸増 総じて、広報に関心を持つ人・企業が多くなったことを示している ①人数 図1 広報学会の会員数

・実務家中心として、30人から50人程度を集め開催。 ・異業種の広報関係者の実務的・学問的関心に基づく交流 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.1 交流機能 ②会員向けセミナー・交流会 「広報塾」(隔月開催) 広報に関するテーマを取り上げ、講演とディスカッションを行う相互研鑚の場 2004年4月末まで、東京で通算30回、関西地区で4回、中部地区で16回 「コミュニケーションサロン」(年2~3回の開催) ゲストによるスピーキングと立食形式の情報交換・懇親を行う場 2001年9月までに通算14回実施(※2002年から広報塾に吸収) ・実務家中心として、30人から50人程度を集め開催。 ・異業種の広報関係者の実務的・学問的関心に基づく交流   の機会を提供するものとして機能してきたといえる。

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (1)「広報学」に求められていたもの 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (1)「広報学」に求められていたもの 研究領域、研究の蓄積、学問的体系化の未発達 体系的な研究、理論構築 初期に関係者が「広報学」に求めていたものは以下の二つである  ①広報学の確立・・・実践的な価値を追及する応用科学、実証科学  ②関連領域の研究領域の総整理    ・・・「広報」学の体系化    ・・・「PR」「コーポレート・コミュニケーション」など概念・用語の整理       ・・・広報史・広報学史の整理 経済広報 1995年 5月号  津金澤聡廣「多義性からの出発」、加固三郎「理念と技法の統合」、  亀井昭弘「科学としての広報学」

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (2)「広報学」に求められていた研究領域 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (2)「広報学」に求められていた研究領域  学会設立当初の「研究会」案

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 研究会報告書36冊広報研究」論文52本学会発表報告159本 の研究領域の分類(本数及び%)

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 新たに拡大してきた研究領域・・・ 戦中・戦後のプロパガンダ研究、会計と広報の関係、環境経営の研究 広報学・広報史の体系化の試み 広報学の理念・体系化についての研究が初期の段階で止まっている。大きな問題。 戦後50年という契機を経て、戦中・戦後期のプロパガンダ研究が盛んになってきてい ることを受け、広報学としても、この領域の研究が活発に行われている。 研究書も含めて、1960年代から1980年代前後までを含めた広報史の実証的な研究が空白域となっている。 「広報学」研究の研究史、理論的サーベイが極めて少ない(更に、この分類に含めた広報教育・広報教育の実践に関するものが約半数を占める)。 広報マネジメント 報告書、学会発表が多いにも関わらず、論文数は少ない(個人では研究が難しい?)。 広報とメディア インターネットという新しいメディアに偏っている。実務家からの要求は高いにもかかわらず、マスメディアを通じたパブリシティに焦点をあてた研究は、不祥事に関するもの以外はほとんどない。

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 研究会報告書36冊広報研究」論文52本学会発表報告159本 の研究領域の分類(本数及び%)

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 新たに拡大してきた研究領域・・・ 戦中・戦後のプロパガンダ研究、会計と広報の関係、環境経営の研究 各論 メセナ・フィランソロピー活動に関しては、理念的研究は多いが、「実践」に関する研究に焦点を絞ると、「スポーツ」に偏っており、音楽・文化的貢献などの分野の研究は非常に少ない。 「広報と国際化」「グローバル化」に関しては、近年ほとんどない。広報学会内部においては、国際化が1998年で止まっている? 他項目と比較して、学会誌論文が少ない。 危機管理・社会的責任 環境経営に関する学会誌論文が多い。 企業組織以外の広報活動 初期の段階では行われたものの、行政に関する研究が小休止の状態にある。 近年は企業とNPOとの関係についての研究は盛んである。 企業以外の組織体の広報は比較して少ない。これは実態にあっていない。

2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 (3)日本広報学会の研究の蓄積 研究方法 ケーススタディが少なく、理論・理念的研究が多い。 企業の広報の実例が「暗黙知」になってしまっているか、「実証」が不十分か、二つ原因がある。いずれにしろ問題である。 特に、これは、学会報告で顕著である。 図 学会大会発表報告の研究手法の分類  図「広報研究」論文の研究手法の分類 

研究活動においても「交流」機能は確立、成功した。 2 歴史:日本広報学会の歩み 2.2 研究機能 総じて、「広報」研究は増大した。 10年間を通じて、広報学会大会および、「広報研究」誌上に掲載された論文は膨大なものである。 「学会」「媒体」の設定が、様々な分野に属する各会員の「広報研究」へ求心力をもたらした。そのこと自体が「広報研究」にとって意味があった。 研究活動においても「交流」機能は確立、成功した。 交流の場として「研究会」「学会大会」を通じて、共同研究活動が学会単位で活発に行われ、研究活動を促進した。 日本広報学会の設立によって、「広報」に携わる実務家と研究者が緩やかにネットワーク化されてきた。 しかし、、、、、、

初期に関係者が「広報学」に求めていたものは以下の二つ ①広報学の確立・・・実践的な価値を追及する応用科学、実証科学 2 歴史:日本広報学会の歩み まとめ 交流機能は達成されている。 体系的な研究、理論構築はどうか? 初期に関係者が「広報学」に求めていたものは以下の二つ  ①広報学の確立・・・実践的な価値を追及する応用科学、実証科学  ②関連領域の研究領域の総整理  ・・・「広報」学の体系化  ・・・「PR」「コーポレート・コミュニケーション」など概念・用語の整理     ・・・広報史・広報学史の整理 果たして、「広報学」の体系化はなされたのか?       「広報学」に関する用語の整理はなされたか?       広報史・広報学史の整理はなされたか?

日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・実務・社会への還元 結 日本広報学会の功績と課題

3 名実:「広報」学とは何か 3.1 「広報学」「日本広報学会」の理想 3 名実:「広報」学とは何か 3.1 「広報学」「日本広報学会」の理想 名(「広報」という言葉)と実(「広報の指し示すもの」)のずれ そもそも「広報」をどのように捉えるか 「企業広報学会」にするという案もあった。 設立の中心は経済広報センターや広報関係者であったために、「日本広報学会」とすることに基本的に異論はなかったという。 「経営」ではなく「企業」に関する研究をすることを目的とするという議論があった。(企業に限定する必要はないことから「企業」は外した)  *佐藤氏による 設立趣旨  (1)経営体の広報およびコミュニケーション活動全般について、学術的および実践   的な研究を行い、研究成果を発表しつつ、理論として体系化を目指す。  (2)これからの経営体のコミュニケーション活動のあり方、さらに社会に開かれた   経営体のあるべき姿を 洞察し、必要とされる施策の内容を検討すると共に、展   開の方法および技法の開発につとめる。  (3)国際社会に通用する広報マインドの醸成に貢献する。 「設立の趣旨」[online]日本広報学会ホームページhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/jsccs/

3 名実:「広報」学とは何か 3.1 「広報学」「日本広報学会」の理想 3 名実:「広報」学とは何か 3.1 「広報学」「日本広報学会」の理想 「日本広報学会」“Japan Society of Corporate Communication Studies”  「広報研究」は、“Corporate Communication Studies” このCorporateは、「企業のみならず、行政や各種団体を含み、広く「組織体」を  指す、というのがその趣旨」(上野征洋p.149)。 設立時にオーソライズされた見解としては、「広報研究」とは「様々な組織体(経営体)」の「コミュニケーション活動」と「そのあり方」に関する研究であった。 しかしながら、実態としては、「広報」の研究対象は、個々人によって認識は様々 ①企業の広報活動の範囲の拡大・縮小にあわせつつも、基本的には「広報部」の活動領域として社内広報・対外広報を中心に捉える ②マーケティング・コミュニケーション活動の一領域 ③IR(Investor Relation)、CR(Customer Relation)、GR(Government Relation、CR(Community Relations)、Press Releaseなどの総体としてのPR ④企業全体を俯瞰した「経営体のコミュニケーション活動」、「経営体のあるべき姿」 研究対象 研究対象としての「広報」の主体を、企業を中心に捉えるか、企業、行政、学校など様々な組織における共通の課題としての捉えるか 広報関係者や学会員以外には「Corporate」「経営体」と聞いて、行政や非営利組織を含む様々な組織を想定することは困難であることを認識する必要がある。

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 実際の企業の「広報」はどのように変化しているか。 (1)業務的拡大 企業によって、どこまでを「広報」の範疇に含めるかという定義は多様である。だが、現実的課題であるCorporate Communicationとして、多くの企業が「広報」に関連し共通して直面する課題の領域は拡大している。IR(Investor Relation)、CSR(Corporate Social Responsibility)、CG(Corporate Governance)、法令順守(Compliance)などである 例:アサヒビールの広報部の機能の変遷 平成7年 平成10年9月 平成11年5月 平成11年11月 平成14年 平成15年 平成16年 企画課 広報課 社史資料室 社外広報 (課制を廃止、社内広報機能をゼネラルサポート部へ) 社外広報、IR室(IR室設置) 社外広報 社内広報 IR室 (社内広報機能をゼネラルサポート部から移管) 社外広報 社内広報 IR室、工場見学、HP、CSR、株主総会改革プロジェクト 社外広報 社内広報 IR室、工場見学、HP、CSR、個人株主拡大プロジェクト ANNEX活性化企画室(本社ビル隣接レストラン改革:情報発信型レストラン)

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 (2)組織的変遷 組織対応策、組織変更の様態は個々の企業によってさまざまである 企業経営の求心的位置づけ(アサヒビールなど)。 1990年代、社会貢献関連部署や、環境関連部署などCC関連分野の組織が設置・拡大。 「広報」に直接関連する部門について考えれば、業務拡大に対して三つの方向性 集約化:様々な組織に分散していた広報機能を集約化する対応 2000年前後にカンパニー制導入に伴い、日立、三洋電気、キャノン、富士ゼロックスなど、「コーポレート・コミュニケーション」という冠を組織名に付す企業がある 名称としては、1986年にマツダが「コーポレート・コミュニケーション統括室」、1992年にオムロンが「コーポレート・コミュニケーション本部」を設置しているが、普及はしなかった 大幅な変化なし(TOYOTA) 組織的変更はあまり行わないままでの対応 分散化(NEC) CSR推進本部などを設置し、名称(形態)としては、組織を分散させる対応 共通点と相違点 組織全体として「コミュニケーション」に関連する業務範囲は拡大している点は共通。 だが、部署名称としての「広報」は、各企業によって、縮小したり、拡大している。 「広報」「コミュニケーション」という同じ言葉でも、指し示す範囲は、企業によって多様。

1995年9月~1997年1月 1999年9月~ 2000年3月~ 2003年9月~ 広報部 物流システム本部 会長 社長 経営企画部 財務部 監査部 広報部 企業文化部 人事部 総務部 秘書部 法務部 システム企画部 品質保証部 物流部 資材部 包装開発部 営業本部 生産本部 研究開発本部 国際部 不動産事業部 事業開発部 経営支援部門 事業推進・支援部門 1995年9月~1997年1月 経営戦略会議 経営戦略部 人事戦略部 物流システム本部 全社マネジメント本部 国際事業本部 総合品質本部 グループ本社 1999年9月~ 2000年3月~ グループ経営戦略本部 事業計画推進部 生産事業本部 商品技術開発本部 R&D本部 SCM本部 総合支援本部 2003年9月~ 酒類事業本部 経営会議 戦略企画本部 管理本部 IT部

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 (2)組織的変遷 組織対応策、組織変更の様態は個々の企業によってさまざまである 企業経営の求心的位置づけ(アサヒビールなど)。 1990年代、社会貢献関連部署や、環境関連部署などCC関連分野の組織が設置・拡大。 「広報」に直接関連する部門について考えれば、業務拡大に対して三つの方向性 集約化:様々な組織に分散していた広報機能を集約化する対応 2000年前後にカンパニー制導入に伴い、日立、三洋電気、キャノン、富士ゼロックスなど、「コーポレート・コミュニケーション」という冠を組織名に付す企業がある 名称としては、1986年にマツダが「コーポレート・コミュニケーション統括室」、1992年にオムロンが「コーポレート・コミュニケーション本部」を設置しているが、普及はしなかった 大幅な変化なし(TOYOTA) 組織的変更はあまり行わないままでの対応 分散化(NEC) CSR推進本部などを設置し、名称(形態)としては、組織を分散させる対応 共通点と相違点 組織全体として「コミュニケーション」に関連する業務範囲は拡大している点は共通。 だが、部署名称としての「広報」は、各企業によって、縮小したり、拡大している。 「広報」「コミュニケーション」という同じ言葉でも、指し示す範囲は、企業によって多様。

コーポレート・コミュニケーション本部 広報 広報グループ IRグループ 宣伝 リスク対策 会長・社長 コーポレートスタッフ 輸出管理本部 知的所有権本部 研究開発本部 新事業推進本部 電力・電機グループ 産業機器グループ 昇降機グループ 情報・通信グループ デジタルメディアグループ 家電グループ ディスプレイグループ 半導体グループ 自動車機器グループ 計測器グループ ビジネススタッフ 社長室 企画室 関連会社室 監査室 事業開発質 投資計画部 財務部 人事勤労部 コーポレート・コミュニケーション本部 広報 広報グループ IRグループ 宣伝 リスク対策

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 (2)組織的変遷 組織対応策、組織変更の様態は個々の企業によってさまざまである 企業経営の求心的位置づけ(アサヒビールなど)。 1990年代、社会貢献関連部署や、環境関連部署などCC関連分野の組織が設置・拡大。 「広報」に直接関連する部門について考えれば、業務拡大に対して三つの方向性 集約化:様々な組織に分散していた広報機能を集約化する対応 2000年前後にカンパニー制導入に伴い、日立、三洋電気、キャノン、富士ゼロックスなど、「コーポレート・コミュニケーション」という冠を組織名に付す企業がある 名称としては、1986年にマツダが「コーポレート・コミュニケーション統括室」、1992年にオムロンが「コーポレート・コミュニケーション本部」を設置しているが、普及はしなかった 大幅な変化なし(TOYOTA) 組織的変更はあまり行わないままでの対応 分散化(NEC) CSR推進本部などを設置し、名称(形態)としては、組織を分散させる対応 共通点と相違点 組織全体として「コミュニケーション」に関連する業務範囲は拡大している点は共通。 だが、部署名称としての「広報」は、各企業によって、縮小したり、拡大している。 「広報」「コミュニケーション」という同じ言葉でも、指し示す範囲は、企業によって多様。

部長 総括・企画グループ 交通・環境グループ 社会文化ループ 第1企業広報グループ 第2企業広報グループ 第3企業広報グループ 第1商品・技術広報グループ 第2商品・技術広報グループ 第3商品・技術広報グループ 第1海外広報グループ 第2海外広報グループ 第3海外広報グループ 東京IRグループ メディアグループ 企画グループ 社会文化広報室 企業広報室 商品・技術広報室 海外広報室 1999年4月1日現在のグループ 2005年4月1日現在のグループ 2グループから4グループへと拡大 1999年4月1日現在と、2005年4月1日現在で、変更なし。

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 (2)組織的変遷 組織対応策、組織変更の様態は個々の企業によってさまざまである 企業経営の求心的位置づけ(アサヒビールなど)。 1990年代、社会貢献関連部署や、環境関連部署などCC関連分野の組織が設置・拡大。 「広報」に直接関連する部門について考えれば、業務拡大に対して三つの方向性 集約化:様々な組織に分散していた広報機能を集約化する対応 2000年前後にカンパニー制導入に伴い、日立、三洋電気、キャノン、富士ゼロックスなど、「コーポレート・コミュニケーション」という冠を組織名に付す企業がある 名称としては、1986年にマツダが「コーポレート・コミュニケーション統括室」、1992年にオムロンが「コーポレート・コミュニケーション本部」を設置しているが、普及はしなかった 大幅な変化なし(TOYOTA) 組織的変更はあまり行わないままでの対応 分散化(NEC) CSR推進本部などを設置し、名称(形態)としては、組織を分散させる対応 共通点と相違点 組織全体として「コミュニケーション」に関連する業務範囲は拡大している点は共通。 だが、部署名称としての「広報」は、各企業によって、縮小したり、拡大している。 「広報」「コミュニケーション」という同じ言葉でも、指し示す範囲は、企業によって多様。

広報部 CSR推進本部 国内営業ビジネスユニット 海外ユニット マーケティングユニット 知的資産R&Dユニット スタフ 取締役会 監査役 パーソナルソリューションBU モバイルBU ネットワークプラットフォームBU コンピュータプラットフォームBU NEソフトウェア開発グループBU ソフトウェアビジネスBU MCシステムビジネスBU 社会インフラソリューションBU ブロードバンドソリューションBU NESソリューションBU 業種ソリューションBU 海外ユニット マーケティングユニット 知的資産R&Dユニット スタフ 取締役会 監査役 ◆NEC全社組織図(2005年4月1日現在) ※ 図中の「BU」は、「ビジネスユニット」の略。 (経営企画機能) (経理・財務機能) (人事機能) (法務機能) 広報部 CSR推進本部 (プロセス改革機能) (資材・購買機能) (ソフトウェア事業推進機能) (NTT事業推進機能) CSR推進機能が広報部から分離し、CSR推進本部として独立している点が特徴的。

3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.2 企業の「広報」の変遷 (2)組織的変遷 組織対応策、組織変更の様態は個々の企業によってさまざまである 企業経営の求心的位置づけ(アサヒビールなど)。 1990年代、社会貢献関連部署や、環境関連部署などCC関連分野の組織が設置・拡大。 「広報」に直接関連する部門について考えれば、業務拡大に対して三つの方向性 集約化:様々な組織に分散していた広報機能を集約化する対応 2000年前後にカンパニー制導入に伴い、「コーポレート・コミュニケーション」という冠を組織名に付す企業がある 名称としては、1986年にマツダが「コーポレート・コミュニケーション統括室」、1992年にオムロンが「コーポレート・コミュニケーション本部」を設置しているが、普及はしなかった 大幅な変化なし(TOYOTA) 組織的変更はあまり行わないままでの対応 分散化(NEC) CSR推進本部などを設置し、名称(形態)としては、組織を分散させる対応 共通点と相違点 組織全体として「コミュニケーション」に関連する業務範囲は拡大している点は共通。 だが、部署名称としての「広報」は、各企業によって、縮小したり、拡大している。 「広報」「コミュニケーション」という同じ言葉でも、指し示す範囲は、企業によって多様。

3 名実:「広報」学とは何か 3.3 様々な組織体の「広報」の変遷 3 名実:「広報」学とは何か 3.3 様々な組織体の「広報」の変遷 自治体 地方分権化が進んでいる。情報公開制度や住民参加など行政が「地域」における「コミュニケーション」「Relation」はますます重要になってきている。 政府各省庁 PI(Public Involvement)手法の導入など、広報・広聴活動が重視されてきている。 大学 国立大学法人化、少子化により、UI(University Identity)、地域貢献などに積極的に。 NPO、医療機関、福祉機関 NPO法人の増加に伴い、NPOの広報業務も必要とされてきている。 非営利組織の広報業務への関心もたかまってきている。 そもそも、現代社会で、各組織のコミュニケーション、Public Relationが重要であることを疑う人はいない。 だが、それを「広報」の問題と捉える人はどれくらいいるだろうか。

社会的変化に対応した経営体・組織体「あるべき姿」とは 3 名実:「広報」学とは何か 3.4 社会の変化 IT化、情報化と広報 この10年で、IT化、情報化は進んだ。それに囚われ、マス・メディアを含めたメディア環境全体の変化と捉える視点が希薄になっていないであろうか。 環境と広報 ISO14000が浸透し、環境報告書(環境・社会報告書、CSRレポート)などは多くの企業で発行されるようになった。だが、その表層のみを環境の広報と捉えてはいないであろうか。 グローバル化・経済の自由化・情報公開 国際広報やIRの重要性も増してきた。本来は、それらを通して「経営のあり方」を問うてこなければならなかった。 社会的変化に対応した経営体・組織体「あるべき姿」とは 「広報」は、それらの社会的変化の中で、コミュニケーション活動を通して、「経営体のあるべき姿」を問い直していかねばならない試みであったはずである。ややもすると、コミュニケーション活動だけに焦点が向いていたのではないだろうか。

3 名実:「広報」学とは何か まとめ 名と実のずれ/理想と現実のずれ 1 3 名実:「広報」学とは何か まとめ 名と実のずれ/理想と現実のずれ 1 設置趣旨 経営体のコミュニケーション活動、さらに経営体のあるべき姿を明確にする 英文名 「日本広報学会」“Japan Society of Corporate Communication Studies” 「広報研究」は、“Corporate Communication Studies” これは浸透していないのではないか? 1 (内向きのベクトル)名称レベルにおいて「広報学の研究領域はCorporate Communication」という認識が一般社会の認識に合致していない  ・日本広報学会が「広報」という言葉に込めた思いが社会に適応してない。  ・そのことについて日本広報学会側が認識が薄いこと 2 (外向きのベクトル)日本広報学会の「広報」はうまくいっていないこと  ・日本広報学会が「広報」という言葉に込めた思いが社会に浸透していない

3 名実:「広報」学とは何か まとめ 名と実のずれ/理想と現実のずれ 2 3 名実:「広報」学とは何か まとめ 名と実のずれ/理想と現実のずれ 2 Public Relations Relationship Marketing Corporate Communication Marketing Communication ピーアール 「広報」 企業の社会性 企業の社会的責任

日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・実務・社会                 への還元 結 日本広報学会の功績と課題

4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 設立当初の目的「経営体のコミュニケーション活動、さらに経営体のあるべき姿を明確にする」ことが達成されていない点で、不十分であると思われる。 1 定義、研究領域 1999年、2000年において、「広報学」を確立するため研究会が試みられているが、実務者側と研究者側の思想の違いを示し、個々人の「広報学」に対する見解が報告され終わっている。この理由は以下の理由から、統一的理論化が困難であると判断したためであるという。 企業側・実務者側に研究会で発表を聞いて学ぶという姿勢が強かったこと マスコミ対応など実践に即応する技法を求めていたこと 研究者側に自らの研究・思想体系を壊したくないという意思があったこと しかしながら、広報における「実務」と「科学」の橋渡しこそ「日本広報学会」に求められるものである。 (組織的には)10年間で取り組みが進んでいないのは大きな問題。

4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 2 教科書、用語集 広報研究を総括するような教科書、用語集がない。 広報学の定義、研究領域を示すようなものはない。 報告者は学会としての「統一見解」を求めているのではない。個々の研究者はそれぞれ意見・説論があってしかるべきであり、これは個々の研究者が教科書、研究論文、研究書として多くの異なる意見を提出していくべきである。 だが、「学」「論」として体系化し、潜在的な「広報」実務家や「広報」研究者、隣接領域の研究者、初学者ためには、「総括」や「見取り図」となるベーシック・テキストが必要なのである。 研究者により違いがあるものの、広報学会の「言語」としての基本的な用語は、ある程度の共通認識があると思われる。 だが、それらをまとめたもの、ないしは整理したものはない。

4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 4 体系:教育・実務・社会への還元 4.1 広報学の体系化 3 研究書 少しずつ、会員諸氏による広報 の各論に関する著書・共著も増 えてきている。しかし「広報」とい う言葉を本題に使う人は少ない。 『企業の発展と広報戦略』(1988)日経BP企画 『入門 パブリックリレーションズ―双方向コミュニケーションを可能にする新広報戦略』(2001) PHPビジネス選書・PHP研究所 『コーポレート・コミュニケーション戦略―経営変革に向けて』(2002) 同友館 『サステナブル時代のコミュニケーション戦略』(2004) 同友館

4 体系:教育・実務・社会への還元 4.2 日本広報学会の「広報」 4 体系:教育・実務・社会への還元 4.2 日本広報学会の「広報」 「日本広報学会」のステークスホルダー 広報学会会員ではない人(広報に興味を持った人、学生、広報に関する基礎知識のない人)が「広報」について、研究しよう、勉強しようと試みるならば、公刊された「一般書」になる。 研究者・実務家・専門家が、研究しようと試みるならば、学会誌としての「広報研究」「専門書」になる。 日本広報学会の「広報」 「Public Relation」「Corporate Communication」 この10年間で、「日本広報学会」は一つの組織体として、どれだけの「広報」 「Public Relation」「Corporate Communication」を行ってきたであろうか。 ステークスホルダーとしての広報の実務家、研究者としての会員、潜在的な会員の意図を汲み取ってきただろうか。 アカデミーとして、社会において「広報」が問題となっている事例に対処してきたであろうか。 まだ「道半ば」である。

日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 日本広報学会第11回 研究発表大会 基調報告 「広報学」は「広報」しているのか ―日本広報学会10年の現状と課題― 1 前史:「広報学」の求められた背景 2 歴史:日本広報学会の歩み 3 名実:「広報学」とは何か 4 体系:「広報学」の教育・      実務・社会への還元 結 日本広報学会の功績と課題 結1 功績 結2 課題 結3 「日本広報学会」は   「広報」しているか 結4 提案

結1 功績―― 「広報学会」の功績と課題 (1)「広報」研究の増大 (2)有機的に現業と学問の現場が結びついている 結1 功績―― 「広報学会」の功績と課題 (1)「広報」研究の増大 10年間を通じて、広報学会大会および、「広報研究」誌上に掲載された論文は膨大なものである(研究会報告書36冊広報研究」論文52本学会発表報告159本)。 「学会」「媒体」の設定が、様々な分野に属する各会員の「広報研究」へ求心力をもたらしたことは、そのこと自体が「広報研究」にとって意味があった。 (2)有機的に現業と学問の現場が結びついている 「交流」機能は確立、成功している。広報学会の設立によって、「広報」に携わる人と研究者の交流の場は主に「研究会」「学会大会」を通じて緩やかにネットワーク化されてきた。 (3)共同研究活動が活発に行われてきている 共同研究活動は、学会としては活発に行われ、研究活動を促進し、アカデミーとしての機能を果たしてきた。

結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (1)広報研究の全体像の不明確性、研究レベルでの連携の不足 結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (1)広報研究の全体像の不明確性、研究レベルでの連携の不足 「研究」の体系化が不十分である。 「定義」「研究領域」の全体像が不明確。 多くの研究が個別に行われ、広報研究全体の中での位置づけが不明確。 このことは潜在的な「広報」研究者(「広報」「広報学」の領域に関連する研究を 行っている研究者)、「広報」に関心を持っている人)が学会に関わりを持ちにく い、「広報学」とかかわりを持ちにくいということを意味する。 (2)地方公共団体、非営利団体など「広報」が求められる組織の    多様化とそれらの研究の不足 行政・政治組織体の広報の研究が不足している。(会員の構成) (3)喫緊の現実の「広報」の課題への貢献の不足 広報対応(Media RelationというよりPublic Relations)の  不手際が問題を更に複雑にしてしまった事例は多い。  ・狂牛病に関する行政広報の問題 ・NHK受信料不払い問題  ・マスメディアの再編にからむ問題 ・警察の不祥事の問題  ・三菱自動車などの不祥事の問題 ・JR西日本尼崎事故など 現実的課題に対して日本広報学会は対応してきただろうか。不十分では?

結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (4)共同研究の偏向 結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (4)共同研究の偏向 共同研究会の研究領域が、環境経営、NPO、IT、スポーツ、経営リスク、CSRなどの応用領域に偏ってきている。 前半5年間は、学会設立の趣旨、研究会設置の趣旨(前掲表)に基づいて、研究領域にも一定の幅があった 基礎的な領域の研究が少なくなってきている。

結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (5)研究誌レベルでの企業「広報」、およびその事例研究の蓄積の不足 結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (5)研究誌レベルでの企業「広報」、およびその事例研究の蓄積の不足 現実の企業や行政の「広報」実態についての事例研究が少ない。 研究実態をみても「ケーススタディ」よりも、理論・理念的研究が圧倒的多数。  「実践」「現場」を持つ研究領域としては、いびつ。 ケース蓄積が少ないからこそ、研究が進展してない。  例1:個別的対応:医学の関連学会は臨床例を報告する  例2:組織的対応:災害に関連する学会(日本地震学会、日本地質学会、土   木学会、日本災害情報学会)は、災害が起こると「調査団」を結成しその   調査を行い、ケースを蓄積する。 Good CaseとBad Case Good Case は、1984年から経済広報センターが「企業広報賞」を設立し、  記録・蓄積がなされているが、学問的整理・体系化はなされていない。 Bad Caseは、企業側は公表したくないという意図もある。「社外秘」の問題  もある。(研究会でも「記録を残さないように」「外部には出さないように」と要  請されることもしばしばある)

結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (5)研究誌レベルでの企業「広報」、およびその事例研究の蓄積の不足 学会の利点を活かして! 結2 課題―― 「広報学会」の功績と課題 (5)研究誌レベルでの企業「広報」、およびその事例研究の蓄積の不足 学会の利点を活かして! 日本広報学会は、現業の人々が多く加入している。 経営上、公開できない部分は個々にあるにしろ、公開できる部分はあるはずだ。  社会にとって有益にならば、できるだけノウハウ・経験・歴史を蓄積していくべき  である。 個々の企業の(相互)利益や交流という視点を超えた「学会」だからこそできるも  のがある。 「ケースの暗黙知化」の打破 現在までは、広報活動の「ケース」は、各研究者、各実務者個々人が「暗黙知」  として持っている。 実践としての広報スキルをアップ、勉強会としてはこれでいいのかもしれない。 だが、学会会員諸氏・社会で共有できる「文章」にならなければ「学問」とはな  らないし、研究の発展・蓄積も望めない。

結3 広報学会は「広報」しているか? 設立趣旨:「経営体のコミュニケーション活動、さらに経営体のあるべき姿を明確にする」 結3 広報学会は「広報」しているか? 設立趣旨:「経営体のコミュニケーション活動、さらに経営体のあるべき姿を明確にする」 (1)内部の対話、関係性構築 用語、定義、研究領域の整理がなされていない。学問的体系化が進んでいない。日本広報学会の内部でコンセンサスがとれていない。 ここでいうコンセンサスとは、用語や定義の「統一」という意味ではない。多様な考え方、多様な議論があってしかるべきである。問題は、それらの整理がなされていないこと。 (2)社会との対話、関係性構築 「日本広報学会」の捉える研究領域に関心のある学会員以外の実務家・研究者が、  「日本広報学会」の研究領域が想定できていないのではないだろうか。 日本広報学会自体は「経営体としてのあるべき姿を明確にする」できているのだろうか。  10年間で、Cooperate Communication、Public Relationは行ってこなかったのでは? 用語:広報学会成立の背景から考えれば、この問題は軽視できない。 正確に答えられる人がどのくらいいるだろうか。 Corporateは企業体ではなくあらゆる組織体であること 「広報」は「Press Release」ではなく「Public Relations」「Corporate Communication」 「広報研究」の研究領域が、上記の研究領域であること 「広報」と「広告」「宣伝」「PR」の違い 研究領域:翻って「広報学」の研究領域は何か。 文化経済学会、NPO学会、日本マスコミュニケーション学会、日本広告学会、日本経営学会、日本商業学会、組織学会、日本リスク・マネジメント学会

結4 提案―― 「日本広報学会」の功績と課題 広報研究を促すために、日本広報学会において次のことを行うことを提案する。 1 ミッション 結4 提案―― 「日本広報学会」の功績と課題 広報研究を促すために、日本広報学会において次のことを行うことを提案する。 1 ミッション 日本広報学会のミッションの明確化(企業・学会内のニーズ・シーズ調査など) 日本広報学会としての「広報の定義」「広報研究」の範疇の  再検証と研究会機能の強化 2 体系化・用語の整理 「広報研究・実務」用語集(ハンドブック)の作成 「Basic Text」の作成と「会員諸氏による種々の教科書」の作成 3 事例研究の蓄積 会員企業による「広報」「コミュニケーション」の事例研究の蓄積 事例研究の蓄積を促す仕組みづくり

謝辞 本報告を行うにあたって、以下の方々に多大なご協力を 頂きました。 ご清聴ありがとうございました。 日本広報学会の関係諸氏  頂きました。 日本広報学会の関係諸氏   上野征洋理事長   猪狩誠也副会長     井之上喬理事 清水正道常任理事   剣持隆理事     山田達雄事務局長   佐藤修氏(元日本広報学会理事) 日本広報学会 会員各社に、資料を提供して頂きました。   アサヒビール株式会社 トヨタ自動車株式会社  日本電気株式会社 ご清聴ありがとうございました。