通訳翻訳論 第三回 http://www.geocities.jp/nagatasae/ 通訳翻訳論 第三回 http://www.geocities.jp/nagatasae/ 翻訳のノルム(規範)について.

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通訳翻訳論 第三回 http://www.geocities.jp/nagatasae/ 通訳翻訳論 第三回 http://www.geocities.jp/nagatasae/ 翻訳のノルム(規範)について

言語について 「一般言語学講義 」(ソシュール) ・ランガージュ(langage):言語活動。人間のことばを使う能力と、ことばを使って行なう具体的な活動。 ・ラング(langue):言語。言語活動の歴史的・社会的所産として同じ共同体の成員が共有する記号体系。システムとしての個別言語。 ・パロール(parole):ラングの規則にしたがって個人が意思を表現・伝達する一回ごとの発話行為。 ○ 翻訳通訳の対象となるのは「パロール」であって、「ラング」ではない。

翻訳について 「翻訳の言語学的側面について」 ヤコブソン 「翻訳論における誤った設問と正しい設問」 コセリウ 「翻訳の言語学的側面について」 ヤコブソン 「翻訳論における誤った設問と正しい設問」 コセリウ 魯迅の翻訳論 ー 社会変革と翻訳 ー 林語堂 ー 翻訳はアートである ー

「翻訳の言語学的側面について」 ロマーン・ヤコブソン 「翻訳の言語学的側面について」 ロマーン・ヤコブソン 言語内翻訳 rewording 同じ個別言語内で解釈する→言い換え 言語間翻訳 translation 異なる個別言語によって解釈→いわゆる翻訳 記号法間翻訳intersemiotic translation 異なる記号体系の記号によって解釈する →移し換え

言語内翻訳 あの人は一体何を言っているの?  ちょっと通訳して。                                       

言語間翻訳                                                                                                       すみません、ここには何と書いてあるでしょうか。 日本語に訳してみてくれませんか。 フランス語は全くわからなくて。

記号法間翻訳 小説の映画化、楽譜の演奏

二つの異なったコードによる二つの等価なメッセージ Source Target 発信者:伝達したいメッセージをコード化する(M1) 翻訳者:コードを手がかりにメッセージを解釈する      解釈して得たメッセージをもとにコード化する 受信者:コードを手がかりにメッセージを解釈する(M2) 翻訳の要件: 翻訳はコードの解釈を伴う行為であること。 M1とM2が等価であること。

語彙の翻訳可能性と不可能性 バートランド・ラッセル 「チーズについて、言語による以外の知見を持たないならば何人もCheeseという語を理解することはできないであろう」 「ある語を理解する」とはどういうことなのだろう? 自分の目で見られる、さわれる物しか我々は理解できないのであろうか? あなたは「神」や「幽霊」や「人魚」を理解できますか?

ある語彙が訳出言語にない場合 既存の語彙で説明する 新しい語彙を作る 類似したものを利用する そのまま借用する ねじ→回転する釘、チョーク→字を書くせっけん 新しい語彙を作る 万年筆、個人、持続的発展 類似したものを利用する 中華そば、活動写真、電気馬車、陸蒸気 そのまま借用する コンピュータ、チーズ、プライバシー、アイデンティティ

文法範疇の問題 ロシア語の双数の概念 (1)伝達することは可能か? (2)全て伝達する必要があるのか? 1、2、3以上に区別する 英語は単数(1)と複数(2以上)の区別のみ。 では“She has brothers”はロシア語に訳せるか? (1)伝達することは可能か? (2)全て伝達する必要があるのか? 彼女には二人かあるいは三人以上の兄弟がいる。 個々のテクストの全体的な意味に影響を与えるかどうかによって伝達の必要性が決まってくる。

「翻訳論における誤った設問と正しい設問」 コセリウ 「翻訳論における誤った設問と正しい設問」 コセリウ 誤った設問 翻訳および翻訳行為の問題性を個別言語(ラング)に関わる問題性として扱う 翻訳言語には原点で表現しようと意図されていることを全て再現する手段がないため、翻訳はその本質上すでに「不完全な」ものであるとする 個別言語に関わる技術としての翻訳(言い換え)を翻訳者の行為と同一視する 翻訳には、抽象的なレベルでの最適の普遍性があると仮定する

翻訳は個別言語の問題か 個別原語間にはもともと一対一、一対多で対応する語はない。だが単語や文構造は翻訳されないのである。翻訳されるのは個々のテクストであって、テクストは個別言語を超えたものである。 翻訳によって保持されるべきもの 素材関連:テクスト中で指示されている事物 意味:テクストで述べられている事それ自体 意義:テクストで述べられた事によって伝達または表現しようとしている意図

翻訳は本質的に不完全なものか ある語を聞いたときに起こる何らかの感情 言語表現と結びつけられる連想(表現のしかた) 感情は語によって起こるのではなく実体によって起こる 言語表現と結びつけられる連想(表現のしかた) 適合させる 解釈の二様性を持つ言葉遊び(かけことば、地口) 素材関連と意義の両方を保持することはできない 個別言語におけるメタ言語的使用 翻訳の中にそのまま持ち込む 翻訳の対象となるのは言語化されたことのみ 翻訳には本来、合理的な限界がある 言語外的実体は翻訳できない

技術としての翻訳と芸術としての翻訳 言い換え:個別言語に関する技術としての翻訳 翻訳行為:翻訳者が行う芸術としての翻訳 素材関連の点で等価値のものを確認する行為 翻訳行為:翻訳者が行う芸術としての翻訳 言い換える、または言い換えない 新しい概念を表す表現法を創造する 適合させる 模倣する 説明する 注や解釈をつける 理論的な意味での「不可能な翻訳」:言い換え 実際に存在する翻訳:翻訳行為 翻訳行為には理論的な限界はない。個別言語に関する経験的な限界があるのみである。

抽象的レベルでの最適の翻訳? 翻訳行為:目的を持ち、歴史的制約を受ける 翻訳の理想 参照「聖書翻訳の歴史」 読者、種類、時代背景、翻訳の目的等に応じて、最適な翻訳はそのつど異なる 翻訳の理想 参照「聖書翻訳の歴史」 ルター(1522年旧訳聖書をドイツ語に翻訳) 聞く相手に応じて(人々の「口ぶりを見て」)翻訳する必要性 『表現の原理』 ファン・ルイス・ヴィヴェス 1533年 重視されるのは何か(意義、表現法、意義と表現法)で差異 言葉どおりに訳すか、自由に訳すか(直訳か意訳か) テクストの性質、テクストの部分部分の性質に応じて適用する 普遍妥当の翻訳の理想などない

社会変革と翻訳    魯迅 訳者の能力不足と、中国語本来の欠陥から、訳し終えて読んでみると文章が晦渋で難解のところすらまことに多い、複合句をばらばらにすればそれでは原文の語気が失われる。私としては、やっぱりこのような硬訳をするしかしかたがない、でなかったら翻訳をあきらめるほかない。残されただひとつの希望は、読者がただ我慢して読んでいってくれることだけである。 『文芸と批評』1930年 「私の訳書は、もともと読者の「爽快」を得ようとするものではなく、それどころかしばしば不愉快を与え、甚だしきに至っては人を悩ませ、憎悪させ、憤らせるものである。……いろいろな句法は新しく作る--悪く言えば無理に作る必要がある。中国文が新しく造られることを期待するが故に、いままでの中国文には欠陥があると言うのである。「『硬訳』と『文学の階級性』」 『二心集』1931年 永遠にこのボヤけた言葉を使い続ければ、文章を読んで大変すらすらと読めたような気がしても、結局残るのはボヤけた影であります。この病気を直すために私はひたすら苦くて異様な句法を詰め込んでいく。

翻訳はアートである 林語堂 翻訳は個人の自由な裁量に依存する芸術だ。 翻訳には絶対的正解はない 翻訳はアートである    林語堂 翻訳の芸術が頼るのは、第一に翻訳者の原文の字句と内容に対する徹底的な理解、第二に翻訳者の非常に高度な母語の運用力、つまり達意の中国文を書く能力、第三に翻訳の訓練を積むこと、翻訳者は翻訳の基準と処理の方法について正確な見解があること、である。この三者を除いて翻訳にはいかなる規範も存在しない。 忠実の四基準 逐語訳:読者の理解を配慮しない 翻案(超訳):原作者の意図を歪曲する                          以上は「翻訳」とは呼べない 「直訳」、「意訳」という用語はやめよう  語句から語句へ訳すのではなく、文章から文章へ訳すこと 翻訳は個人の自由な裁量に依存する芸術だ。 翻訳には絶対的正解はない

今日のまとめ 翻訳は可能か、不可能か 翻訳の規範はどこにあるのか 理想的な翻訳、模範的な翻訳 可能とも言えるし、不可能とも言える 何を言っているのかを伝達する翻訳であれば可能 どう言っているのかを完全に再現するのは不可能 翻訳の規範はどこにあるのか 翻訳は個々のテクストについて行うべきである 個々のテクストの読者、時代、目的等によって様々に異なる翻訳が求められる 理想的な翻訳、模範的な翻訳 絶対的な理想の翻訳はない