政策型思考とは何か? 市民の視点から有意義に政策を議論し、 提言するために

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政策型思考とは何か? 市民の視点から有意義に政策を議論し、 提言するために 安岡 正晴

目次 なぜ政策型思考が必要か? 非政策型思考の問題点 政策過程における目的・手段と政策過程の構造 政策分析におけるシステム思考の重要性 ではどう政策分析するか?

なぜ政策型思考が必要か? 知識を後追いで仕入れるだけでなく、どうすべきかという自分の意見を持てるようにする必要があるから 理想と現実を架橋する、実現可能な工程を考える習慣をつけることが社会生活をしていく上で重要だから 刻々と変化していく社会的諸条件や環境に対応できる思考のトレーニングを学生時代にしておく必要があるから 単に外国の成功例を紹介したり、学ぶだけでは自らの地域や社会に即した政策を考えることができないから

非政策型思考の問題点①: 理想と現実の二元論思考 現実 ・核保有を目指す国はむしろ増える一方だ。 政策提案 ・全廃は無理だが、米ロが主導して核軍縮を進めるべきだ!それに中国も巻き込むべきだ! 理想 ・核兵器のない世界をつくるべきだ! 政策提案 ・核をなくそうという意識改革が大切だ! 何が軍縮を進ませない障害となっているのか?どういうスケジュールで軍縮を進めるのか?を考察しないと意味がない。

非政策型思考の問題点②: 線型的な因果思考 政策過程の一般モデルは 問題の認識→政策の立案→政策の実施→政策の評価→新たな問題の認識 というループ(循環構造)なのだが、 矢印の方向に物事が進むと考えられがちだが、実際には後の段階の反応や結果を先取りして、現在の選択がなされることが多い ・環境問題が生じたから環境政策が作られるとは限られず、環境政策を作るために環境問題が「発見」されることもある。 ・政策過程の双方向性を認識する必要がある。

政治思考の構造モデル

政策の循環構造

政策における目的と手段

目的と手段の関係 目的は手段に対して規範的、集団は目的に対して制約的 下位目的は上位目的の手段、上位手段は下位手段の目的となる 特定目的には複数の手段が成り立ち、特定手段は複数の目的に利用できる。 目的の構想には予測に向けての構想力の絶えざる開発が必要 手段の構成には政策資源、政策手法の絶えざる開発が必要

なぜ目的と手段を考える必要があるか? 選択されている手段そのものが「目的」となっていないかを見直す そもそも何が「目的」なのかを絶えず考える 「目的」に「手段」が適合しているのかを評価する(ex. 事業仕訳) 政策手段が何を「目的」としているのかを評価する

政策過程のモデル

「予測と調整」としての政策 政策は解決というよりも、状況の変化を加速・減速しうるものにとどまる 状況の流れの方向を「予測」し、流れの加速・原則の条件を「調整」することが大切 予測と調整には、市民レベル(文化水準・政治習熟)、運動レベル(市民活動・団体・企業、政党の政策水準)、行政機構レベル(政策水準)、政府レベル(政治責任)がそれぞれ影響を与える。 政策型思考とは予測と調整の技術であり、政治家の責任とはこの予測と調整についての市民タイにする責任をいう。

政治の3領域 利益interest アイデンティティidentity 理念idea

政治分析における力点の変化 政策とは、行政サイドから見れば、予算の付いた法案のことである。 従来は特定の法案成立過程に注目し、どういうアクターのどういう利益が反映されているのかを分析するのが中心 その際に「鉄の三角連合(議員―行政―利益・業界団体)」モデルなどが析出された。 しかし近年の研究ではむしろ「アイディア」に注目し、ある政策「アイディア」がどのように出されて、どういうアクターの支持を受けて、実現したのかと考えられるようになっている。 つまり政治や政治過程が政策を作るのではなく、政策の類型に応じた政治過程が存在すると考えられるようになったのである。

システム思考の重要性 政策そのものの性質がアクターを集結させ、アクターの行動パターンを規定する →アクターだけに注目していても政策の是非や政策改善のための方法を見出すことができない →政策の性質とそれが生み出す、それに関わるアクターの行動パターンの類型を注目する必要がある →逆に考えれば好循環のパターンを作り出せたら、政策を改善することができるとも言える。

目標再検討のためのループ思考 やりがいと生活の葛藤 生活目標の見直し

菅政権の負のループ 支持率低い→選挙に勝てそうもない→党内基盤が弱い→思い切った政策転換ができない→支持率がさらに下がる 官僚を信用できない→官僚以外のアクターを重用し、自分たちで決めようとする→必要な情報が入ってこない→適切な政策選択ができない→ますます官僚になめられて使いにくくなる 複数の会議を立ち上げる→それぞれの会議が違う提言をする→会議間の調整が難しくなる→政治的リーダーシップがますます発揮しにくくなる→助言を得るため、さらに会議を立ち上げる。

仕事や人生で役立つシステム思考 7カ条(枝廣・小田 2007) 仕事や人生で役立つシステム思考 7カ条(枝廣・小田 2007) 人や状況を責めない、自分を責めない(負の自己分析をしない)、人より問題に集中する 出来事ではなく、パターンを見る このままパターン(現状維持)と望むパターンのギャップを見る パターンを引き起こしているループ(構造)を見る 目の前だけでなく、全体像とのつながりを見る 働きかけるポイント(レヴァレッジ・ポイントをいくつも考える) システムの力を利用する

ではどうやって政策分析&提言を するのか? 他の政策領域と比べてその政策領域特有の性格があるのかどうかを見極める その政策領域に関わっているアクターの固有のパターンはどういうものなのかを見極める 負のループが作り出されていないか?それを望ましいループに変えるにはどうしたらいいかを考える 目的と手段を再検討する 「正統化」のプロセスも重視する 外国などの成功例、先端事例を参考にする場合も単に結果だけを見るのではなく、それを生み出したパターンやその政策を機能させている構造に着目する

参考文献 松下圭一『政策型思考と政治』東大出版会、1991 松下圭一『政治・行政の考え方』岩波新書、1998 バリー・R・ルービン『アメリカに学ぶ市民が政治が動かす方法』日本評論社、2002 枝廣淳子・小田理一郎『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』東洋経済新報社、2007 新藤宗幸『概説 日本の公共政策』東大出版会、2004