消費者物価指数の計測における統計学的視点 指数とは: 基準になる時点の値段を例えば100として、そ の時点と比べてどの程度上がったり下がったりしたかを数 字で表したもの
統計局が公表している「消費者物価指数」では、 いろいろな品目をまとめた総合の指数を計算し ている。簡単にいえば、まず、去年の1年間に、 代表的世帯が実際に買った商品を調べて、そ れをすべて大きな買物かごに入れる。例えば、 去年のある1か月間に、米8kg、牛肉600g、トマ ト970g、ビール28缶、ワイン8本、ブラウス1枚、 婦人靴1足、ビタミン剤1箱、バス代4回、新聞 代、月謝、家賃、電気代… というふうにお金を 使ったとする。これ全部に30 万円かかったとす る。
代表的世帯が実際に買った商品全部に30 万円かかったとする。 同じものを同じ量だけ今年も買うとすると、かごの中身は同じでも、ひ とつひとつのモノの値段は上がったり下がったりしているので、必要な 金額は去年とは異なってくる。それが仮に31万円だったとするとモノの 値段が変化したことで全体では去年より1万円多くかかったことになる。 消費者物価指数は、買物かごの中の全体の値段の動きを一つの数字 で表したものともいえる。去年の30万円が100とすると、今年の31万円 は103.3に相当する。これが去年を基準としたときの今年の消費者物 価指数。また、この場合の物価上昇率は3.3%。ひとつひとつの商品の 値段は上がったり下がったりしていても、総合的にみると物価は100か ら103.3に上がったといえる。
キーワード: 指数,無作為標本抽出, 有意抽出,加重平均 具体的作成に関わる統計学的手法について キーワード: 指数,無作為標本抽出, 有意抽出,加重平均 家計調査:全国の市町村の中から168 市町村を調査市町 村として選定し,調査市町村から調査地区を,調査地区か ら調査世帯(調査家計)を,それぞれ無作為に選定。このよ うに選定された約9,000 世帯に毎月家計簿の記入。 小売価格調査:全国から167市町村を選び、小売価格はそ の中で代表的な小売店やサービス事業所約30,000店舗、 家賃は約25,000世帯、宿泊料は約530事業者を対象とし て調査。価格は実際に販売している小売価格(特別セール 売り等は除外)。
指数:変動する数値の大小関係を比率の形にして表したもの 指数:変動する数値の大小関係を比率の形にして表したもの 価格指数:ある商品の価格(単価)の各時点(比較時点と呼ぶ; 時点は年である場合が基準;月とか四半期の場合も有り)の価格が 基準時点(0 時点;5年毎に更新;2000年,2005年,2010年,2015年)に 比べてどのように変化したかを表わす(増減したか)を表わす指標; 比較時点と基準時点との比で、さらに、通常100をかけてあらわす。 比較時点( tで表す;t = 0, 1, …,)は、通常基準時点(t = 0)以降の時点。 n種類の商品が考察対象であるとして、第t 期の第i(消費用)商品の価格 をpit i = 1, 2, …, n 第i商品の第t期の価格指数: (pit/pi0) × 100 i = 1, 2, …, n; t = 0, 1, 2, … 消費者物価指数はこれらn個の価格指数のある種の加重平均 となっている。
加重平均 平均したい各項(各値)の条件の違いを考慮して、各項に対応するウェイト(加 重値)を掛けて平均すること。 加重平均 平均したい各項(各値)の条件の違いを考慮して、各項に対応するウェイト(加 重値)を掛けて平均すること。 例えば、ある生徒の試験の結果で、数学80点、国語40点の算術平均(通常の 平均)は、 80 ・× (1/2) + 40・(1/2) = 60点 であるが、 「理系なんだから数学の点がすごく重要だ。数学の点は国語の点の9倍の価 値がある。だから、数学の点を国語の点の9倍として(9倍の重みをつけて)加 重平均を取ろう」と考えて、加重平均すると、 80・(9/10) + 40・(1/10) = 76点 算術平均を加重平均として計算した方が理にかなっている(楽!)こともある。 例えば、8人の生徒の英語の試験の結果が、 3人が80点、4人が50点、1人 が20点のとき、 80・(3/8) + 40・(4/8) + 20・(1/8) = 52.5点 重複する値は掛け算した方が楽! そして、それはある種の加重平均となる。
消費者物価指数の算出法: 第t 期の第i(消費用)商品の価格(単価)をpit ,代表的家計(消費 者)の第t 期の第i(消費用)商品の購入量(消費をt qitとしよう。ただし、 t = 0, 1, …, また、n種類の商品が考察対象であるとして、i = 1, 2, …, n。 0時点は基準時点。 第i商品の第t期の価格指数: (pit/pi0) × 100 i = 1, 2, …, n 消費者物価指数(ラスパイレス指数、あるいは、ラスパイレス式、と 呼ばれる算式が用いられている)は、基準時点での購入総額w0 = p10q10+ p20q20 + ...+ pn0qn0 に占める第i商品に対する支出額pi0qi0 の割合pi0qi0/w0を加重値とする加重平均として表される。 (p1t/p10) × 100 × (p10q10/w0) + (p2t/p20) × 100 × (p20q20/w0) + ...+ (pnt/pn0) × 100 × (pn0qn0/w0) が第t期の消費者物価指 数となる。
指数品目について 支出上重要(その品目への支出額が家計の総支出額のほぼ一万分 の1以上)であること 継続して調査が可能であること 指数品目について 支出上重要(その品目への支出額が家計の総支出額のほぼ一万分 の1以上)であること 継続して調査が可能であること 同じ種類の品目が多数ある場合には代表性のある品目を選ぶとい うこと(一品目・一銘柄の原則),また、価格変動の面で代表性があ ること、という観点から選んだ平常小売価格596品目及び、持ち家の 帰属家賃4品目の合計600品目を対象とする。 以上のように,家計調査における世帯の選択は無作為標本抽出の 色合いが濃いが, 調査品目の選出や小売価格調査における店舗の 選択は有意抽出。 各品目の価格指数の加重平均として測定(ラスパイレス算式)。 各品目に対する加重値:(平均的世帯の)支出額全体に占めるその 品目への支出割合
消費者物価指数の課題・問題点 消費者物価指数の基準改訂は5年毎となっているが、やや長すぎであり、 消費パターンの急速な変化に追いつけない。(ラスパイレス算式の欠点 として、数量面での消費構造の5年間の変化が捉えられない。) 調査の対象品目の見直しも5年に1度であり、新しい商品の取り込みが遅 れがち。 原則として1品目1銘柄しか調査されておらず、価格変動を十分に捉えき れていない。(たとえば、牛乳ならば、店頭売りと配達の2種類の商品の み。ウィスキーならば、「輸入ウィスキー」、「ウィスキーA(アルコール度 数43度以上)」、「ウィスキーB(アルコール度数40度以上43度未満)」、 「ウィスキーC(アルコール度数40度未満)」の4商品。大体、調査銘柄に 該当する商品・サービスの中から、各店舗で最も売れている製品等が選 ばれる。) 調査対象にディスカウント店やコンビニエンスストアなどはほとんど入っ ていない。(各調査地区内で、最も販売量の多い代表的店舗を1から3ほ ど選んで、価格調査をする。)
短期間の特売価格が調査対象から除外されており、消費者物価指数が 高めに出る傾向がある。 消費者物価指数は月次指数が基本となっている。しかしながら、基準時 としては年で定められている。そこで、基準時の各品目の価格と購入量 (あるいは購入額)は基準年の12ヶ月分のそれらの単純(算術)平均とし て算定されるが、それで問題はないのであろうか? 基準時点以前の時点に対しての、指数の値の算出方法について。基準 時点以前においては、対象商品の入れ替えがあるため(基準時点以降 に新たに登場した、即対象品目に追加された商品は、当然、基準時点以 前では存在すらしていない!)、ストレートには算出できない。しかしなが ら、過去(5年前、10年前、15年前、...)の基準時に基づく指数値を、機 械的に比例倍(過去の基準時に基づいての、基準時点の指数値で割っ て100を掛ける)して算出し、現基準時点での指数値として(次から次に過 去にさかのぼって)連結していく手法が用いられている。あまりにも機械 的過ぎるのではないか?
国際的な物価動向は、近年、3つのグループに分け られていた。①3%前後の高い物価上昇が続く英国、 中国(2010~11年頃に比べれば低い水準だが)、② 上昇率1~2%程度の中位的な動きの米国及びユー ロ圏、③デフレ傾向からなかなか脱却できない日本、 である。 日本が特異なのは、このようにインフレでない点で は物価の優等生、デフレである点では物価の劣等生 であることである。資本主義経済システムが共通で あるのに、このように日本だけ特異であるからには、 通貨当局の日本銀行のパフォーマンスの特異さに よっているとされるのも無理はない。
総合指数として、現在、通常の総合指数(CPI)のほかに以下の三つを公表している。 生鮮食料品を除く総合(コアCPI) 食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI) 持ち家の帰属家賃を除いたもの
生鮮食品を除いたもの(コアCPI) ・持ち家の帰属家賃を除いたもの グラフのデータソース: 総務省統計局「消費者物価指数」