天体物理学 I : 授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 天体物理学 I : 授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、 A.水素原子 B.エネルギー準位 C.熱平衡 D.線吸収 E.連続吸収 F.光のインテンシティ G.黒体輻射 H.等級 I.色等級図 J.光の伝達式 I K.光の伝達式 II L.星のスペクトル という順で進めます。 最後まで行くと、星のスペクトルがどんな仕組みで決まっているかが判る、 というのが目標です。 AからEまでは光の吸収に関係する物理の話です。Fでは光の強さをきちん と定義します。GからIは光の強さを天文学でどう使うかを示します。JからLは 光がガス中を伝わる様子を式に表わし、その式を解いて星のスペクトルを導き ます。それでは、始めましょう。 A: 水素原子
N ダスト 今回の内容 (N.1) 小さな誘電体の球の吸収 微小誘電体粒子の光学的性質をまとめておきます。 (N.2) 星間減光 N ダスト 今回の内容 (N.1) 小さな誘電体の球の吸収 微小誘電体粒子の光学的性質をまとめておきます。 (N.2) 星間減光 星間減光曲線と特徴とその微粒子の光学的性質との関係をしらべます。 (N.3) 赤化 (Reddening) 波長により星間減光の強さが異なる現象を赤化と呼びます。その特徴を 調べます A: 水素原子
N.1.小さな誘電体の球の吸収 原子を電気双極子とみなした吸収(復習) z 電磁波 E=Eo exp[ 2πi(νt – ikx)] -q z q 電磁波 E=Eo exp[ 2πi(νt – ikx)] 双極子モーメントp=-qz z” +γz’ +ωo 2z=-(qEo/m) exp( iωt) α=感受率 (susceptibility) J: 星間減光
α=双極子原子の感受率 (susceptibility) この原子の吸収断面積は、αを用いて下のように表される。 J: 星間減光
小さな誘電体の球の吸収 半径a、誘電率εの球を考え、外から一様な電場Eをかける。 球の表面に誘導される電荷は、双極子 球の表面に誘導される電荷は、双極子 p=a3[(ε-1 )/(ε+2)] E と同じ電場を作る。 したがってこの球のα=a3[(ε-1 )/(ε+2)] E r=半径 ε=誘電率 J: 星間減光
誘電体球 (半径=a)を波長λ(>>a)の電磁波中に置いた場合、 半径スケールでは、時間的に変動する一様電磁場とみなせる。 の双極子と見なせる。したがって、 「C:線吸収」でやった双極子の吸収断面積の式が適用できるので、 この式で興味深いのは、微小球では構成原子一個あたりの吸収断面積は 一定となることである。n=固体原子の数密度、N=球内の固体原子数として 原子1個当たりの吸収断面積= この値は原子が気体として単独に存在している時のσATOMとは異なることに注意。 J: 星間減光
小さな誘電体球の散乱 繰り返すが球の内部では、一様な の分極密度を発生させるから、球全体は体積をかけて の双極子と見なせる。 E=Eo・exp(iωt)の電磁波に対しては、 の振動双極子となるので、電磁波を発生する。これが微小な誘電体球からの散乱光である。 散乱光は次に述べるように偏光している。 入射光と散乱光の作る平面を散乱面、角度θを散乱角と言いう。 入射光 θ 散乱光 J: 星間減光
散乱光も同じく散乱面に垂直に100%偏光する。 散乱光の強度は散乱角によらず一定である。 (1) 入射光が散乱面に垂直な100%の偏光。 散乱光も同じく散乱面に垂直に100%偏光する。 散乱光の強度は散乱角によらず一定である。 入射光 θ 散乱光 (2) 入射光が散乱面に平行な100%の偏光。 散乱光も散乱面に平行に100%偏光する。 散乱光の強度は散乱角θに対しcos2θの依存性を示す。 入射光 r 散乱光 J: 星間減光
前頁の2種の散乱強度を式で表すと、 入射光が無偏光の場合、 とおくと、 散乱光の総量は、 J: 星間減光
吸収効率 Q=σ/(πa2) x=2πa/λ<<1 すなわち、 a<<λでは とすると、 誘電率εが波長にあまり強く依存しない時、Qscaはx4=(2πa/λ)4に比例する。このようにλ-4に比例する散乱はレーリー散乱(Reyleigh scattering)と呼ばれる。 一方、吸収の式を見ると、Qabsはx=(2πa/λ)に比例する。 したがって、xが十分に小さいと吸収が散乱よりも効くようになる。 J: 星間減光
X0でEfficincy Factor Q0 は吸収の効率が落ちることを意味しない。 X0の時、Q(∝X)0となる。一見すると、粒子が小さくなると吸収の効率が悪くなるようである。しかしこれは誤り。 原子1個当たりの吸収効率を調べてみよう。 (1) X<<1 原子1個当たりの吸収断面積= X0でEfficincy Factor Q0 は吸収の効率が落ちることを意味しない。 (2) X>>1 Q=1として、原子1個当たりの吸収断面積= 逆にX>>1でQ=2の領域が原子一個あたりの効率は悪くなることに注意。 2 1 0 1 2 3 0 Q σ/N x J: 星間減光
微小ダストの共鳴吸収 を見ると、 ε=-2付近でQ>>1となることが分かる。そこで、 ε=ε1+iε2 とおいてこの共鳴吸収の様子を調べてみる。 ε=ε1+iε2 面上でA=一定の線、つまり吸収強度一定の線を引くと 下の式のようになる。 ε面上で、(ε1,ε2)=(-2、0)は特異点で、(-2、 ε2+0)でA∞ となる。 したがって、物質の複素誘電率が(-2、0)付近を通る時には共鳴吸収が起きて、ダストは非常に強い吸収を引き起こす。 J: 星間減光
共鳴吸収領域 弱い吸収領域 A=Im [(ε-1 )/(ε+2)]=一定の軌跡 ε2 ε1 6 A=1/2 4 3/4 2 3/2 3 4 6 ε2 A=1/2 3/4 3/2 弱い吸収領域 3 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 ε1 J: 星間減光
N.2. 星間減光 D F=L / (4πD2) m=M+5log(D/10pc) D F=L exp(-τ)/ (4πD2) N.2. 星間減光 D F=L / (4πD2) m=M+5log(D/10pc) D τ F=L exp(-τ)/ (4πD2) m=M+5log(D/10pc)+A A=2.5(loge)τ=1.086τ A=星間減光(Interstellar Extinction)と呼ばれ、星間空間中の微小な 固体微粒子が原因と考えられている。 J: 星間減光
星間減光の波長による変化 λ A(λ)/A(V) 250 0.00042 0.0012 60 0.002 35 0.0037 λ A(λ)/A(V) 250 0.00042 0.0012 60 0.002 35 0.0037 25 0.014 20 0.021 18 0.023 15 0.015 12 0.028 10 0.054 9.7 0.059 9.0 0.042 λ A(λ)/A(V) 7 0.020 5 0.027 3.4 0.051 2.2 0.108 1.65 0.176 1.25 0.282 0.9 0.479 0.7 0.749 0.55 1.00 0.44 1.31 0.365 1.56 0.33 1.65 λ A(λ)/A(V) 0.28 1.94 0.26 2.15 0.24 2.54 0.218 3.18 0.20 2.84 0.18 2.52 0.15 2.66 0.13 3.12 0.12 3.58 J: 星間減光
星間吸収曲線 -1 0 1 log(λ) 2 Log(Aλ/Av) 星間減光曲線 -1 -2 -3 J: 星間減光
ωp ω 星間減光曲線の特徴(2) ε1 グラファイト(やメタル)では固体内自由電子によって、 1 -1 -2 -3 ωp 表面プラズモン ε1 ω グラファイト(やメタル)では固体内自由電子によって、 ε=1- (ωp/ω)2となり。 ε=-2で吸収のピークが生まれる。 J: 星間減光
3: R=Av/(AB-Av) (the total to selective absorption ) R=3.1 場所より 2.7~5 星間減光曲線の特徴(3) 3: R=Av/(AB-Av) (the total to selective absorption ) R=3.1 場所より 2.7~5 4: 可視域では Av ~ 1/λ 5: 9.7μ、18μ吸収帯 9.7μ: Si-O のStretching Mode 18μ : Si-O-Si のBending Mode 吸収帯には細かい構造が欠けている。 鉱物種を特定できない。 6: 星間ダスト成分 以上から炭素系とシリケイト系のダストが存在する ことが分かる。 J: 星間減光
とする。この式を波数k=1/λ=2πc/ωで書き直し。 星間減光の簡単なモデル 前ページで述べたように、星間ダストはメタル系のダストと誘電体的なダストが混在しているらしい。そこで、メタル物質の誘電率をεG、誘電体物質の誘電率をεSとし、 とする。この式を波数k=1/λ=2πc/ωで書き直し。 モデルに以下の数値を入れて計算を進めた。 J: 星間減光
J: 星間減光
J: 星間減光
N.3. 赤化 (Reddening) 二色図 色等級図 カラーエクセス E(B-V)=AB-Av=0.31Av カラーエクセス E(B-V)=AB-Av=0.31Av E(U-B)=AU-AB=0.25Av =0.81E(B-V) V 0 1 2 0 0.5 1 (B-V) Av=0 0.5 1.0 1.5 (U-V) 0 1 2 (B-V) 4.0 2.0 二色図 色等級図 J: 星間減光
赤化 (reddening) = E(X-Y) = AX-AY E(B-V)=AB - Av は最もよく使われる。 減光と赤化により、色等級図は平行移動を受ける。 (B-V,V)図での移動の方向は、AB/Av=1.31より、 Av/E(B-V) =1/0.31=3.2 で決まる。 V 5 10 Av=2 の減光を受けたHR図の変化 15 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 B-V J: 星間減光
Landolt測光標準星表(1992)の星の二色図。 青線=主系列星、紫線=巨星 (Av=1の赤化ベクトル) 二色図上の赤化の傾きは、 E(U-B)/E(B-V) =(1.56-1.31)/(1.31-1) =0.25/0.31=0.81です J: 星間減光
例:銀河系中心方向の吸収I) 銀河中心(Sgr A*)の座標 銀経=l=-0.054° 銀緯=b=-0.046° 銀経=l=-0.054° 銀緯=b=-0.046° (l,b)=(0,0) :赤経=α=17時45分37.2秒 赤緯=δ=-28°56′10″.2 (分点2000)は、銀河中心ではない。 l=90° Sagittarius arm l=180° l=0° 太陽 銀河中心 星間雲 J: 星間減光
アンタレス GC方向 J: 星間減光
銀河系中心方向の吸収(II) 銀河中心3°四方Bバンド 銀河中心30′四方Bバンド 銀河中心30′四方 Hバンド 銀河中心30′四方 Hバンド 銀河中心30′四方 Jバンド 銀河系中心方向の吸収(II) J: 星間減光
銀河中心 H J: 星間減光
吸収の少ないバーデウィンドウで決めた赤色巨星枝 AK/(AH-AK)=0.108/(0.176-0.108)=1.64 6 Av=14 銀河中心方向領域17の星間減光 K 8 10 12 吸収の少ないバーデウィンドウで決めた赤色巨星枝 J: 星間減光
Reddening Free Index 星間減光を受けると天体のカラーは赤化を受ける。二つのカラーの赤化量は共に減光の強度kに比例するので、二つのカラーに適当な重みを付けて差し引いたインデックスQを作ると、赤化分が相殺されて減光の影響を受けない。 ここでは、以下のようにQを定め、それが減光によらないことを示す。 J: 星間減光
Q4-Q5図が面白いのは、低温度側で主系列星と赤色巨星が分離していることである。AGBの先端でQ値が大きく変動しているがこれは検討を要する。 前に使ったLandoltの標準星表をもう一度使って、Qの性質を実際に調べてみよう。表にはU,B,V,Rc,Icの5バンドの等級が載っている。独立なQの数は3であるが、表現の便宜上ここでは下の4つを定義した。 Q4-Q5図が面白いのは、低温度側で主系列星と赤色巨星が分離していることである。AGBの先端でQ値が大きく変動しているがこれは検討を要する。 Q1-Q2図にはバルマージャンプの影響が強く出ている。モデル線から離れた点が系列をなしているが、採用したIcの有効波長が合っていなかったためかもしれない。 J: 星間減光
J: 星間減光
参考のために、モデル計算による等時線の色等級図を示す。 J: 星間減光
J: 星間減光
J: 星間減光
Reddening Free Index (赤外) QJHK=(J-H)/ 0.108 -(H-K)/0.068QHKL=(H-K)/0.068-(K-L)/0.057 -1 1 3 -0.8 -0.4 0 0.4 4 QJHK QHKL 2 G0 O9 A0 K0 M0 M6 Sp(V) J-H H-K K-L QJHK QHKL O9 -0.14 -0.04 -0.06 -0.71 0.46 B5 -0.06 -0.01 -0.04 -0.41 0.55 A0 0.00 0.00 0.00 0.0 0.0 F0 0.13 0.03 0.03 0.76 -0.09 G0 0.31 0.05 0.05 2.14 -0.14 G4 0.33 0.06 0.05 2.17 0.01 K0 0.45 0.08 0.06 2.99 0.29 K7 0.66 0.15 0.11 3.91 0.28 M0 0.67 0.17 0.14 3.70 0.04 M1 0.66 0.18 0.15 3.46 0.02 M3 0.64 0.23 0.20 2.54 -0.13 M6 0.66 0.38 0.36 0.52 -0.73 J: 星間減光
I I-dI dI=I・N・dx・σA dx B B-dI -dI=-B・N・dx・σA +dI +dI=ε・dx dx 吸収断面積σAと放射断面積σE (A)粒子からの放射を考えない時。 I I-dI dI=I・N・dx・σA dx (B)粒子が温度Tの黒体輻射に浸されている時。 B B-dI -dI=-B・N・dx・σA +dI +dI=ε・dx dx (-dI)と(+dI)は相殺されるはずである。よって、ε=B・N・σA G: 黒体輻射
粒子1個からのエネルギー発生率を考える第1ステップとして、 a>>λの黒体球(温度T)を考えよう。 球表面の単位面積からのフラックス=F=π・B(T) 球全体からは4πa2・F=4π2a2・B(T) が放射される。 したがって、 粒子密度=Nの時、単位体積当たりエネルギー発生率 =4πε = 4π2a2・B(T)・N (黒体でかつa>>λの場合) 放射断面積σE 4πε = 4πN・B・σE 一般の場合の放射断面積σE の定義 a>>λの黒体球(温度T) の場合、 σE= πa2 である。 前ページで導いた4πε=4πB・N・σAと比べると σE= σA が分かる 粒子一個当たりエネルギー放出率=4π・B(T)・σA G: 黒体輻射
星間ダストの温度 星間空間には宇宙背景輻射、遠方銀河からの輻射、銀河系内の恒星からの輻射などが重なり合って、星間空間輻射場を構成している。この星間空間の輻射強度Iをある温度Tの黒体輻射が薄められたものとモデル化する。 星間ダストを、半径a, 温度=TDの黒体と考える。すると、ダスト表面の単位面積当たり放射フラックスは、 一方、ダスト表面の単位面積当たり吸収フラックスは、黒体を仮定しているから ダスト温度は総放射と総吸収が平衡する∫F(ν)dν= ∫A(ν)dν から定まる。 G: 黒体輻射
前回のオルバースのパラドックスの議論に習い、厚み3pcのシェル毎にωだけ被覆されるとし、銀河系の星の広がりとして、1kpc程度をとる。 結局、 DとTを推定してみよう。星間空間輻射に効くのは銀河系のA型星かF型星あたりであろう。最も近いA型星シリウスまでの距離は3pc、半径はR=2R☉である。 1pc 地球 1″ 太陽 上の描像から、シリウスの角半径は、 Θ=2×(15×3×10-4)× (5×10-6/3)=1.5×10-8 立体角はω=πΘ2=7×10-16程度である。 30′ 前回のオルバースのパラドックスの議論に習い、厚み3pcのシェル毎にωだけ被覆されるとし、銀河系の星の広がりとして、1kpc程度をとる。 すると、シェルは300層になるから、A型星の被覆度はD=300ω=2×10-13 T=104と合わせると、 G: 黒体輻射
注意しておくべきは、ダストの放射と吸収に関して次の仮定をしたことである。 少し低めだが、推定値としては悪くない。 注意しておくべきは、ダストの放射と吸収に関して次の仮定をしたことである。 (1) ダストの吸収と放射が幾何学的な半径aの球の表面で行われている。 つまり、前回の定義σ=Q・(πa2)で言えば、Q=1 これは、a>>λとみなしていることになり、星間ダストとしては不適切。 (2) ダストを黒体としている。 こちらは、前回のQの表式で考えると、 の を無視していることに相当する G: 黒体輻射