The enigma : the case of wolf man

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33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
浜松医科大学附属病院・磐田市立総合病院 チャイルド・ライフ・スペシャリスト 山田 絵莉子
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The enigma : the case of wolf man IPAの論文【Wolfman のロールシャッハ】は「精神分析的心理臨床セミナー」のブログ:「ロールシャッハ学会資料」をご覧ください。この資料も含めて、掲載しています。但し2017年11月末までの公開です。アドレスはhttp://www.psychoanalyticpsychology.jp/

狼男 Sergej Konstantionovich Pankejev(1885-979)  フロイトのもっとも重要なしかも理論的に多くの問題を残した事例で、フロイトが描いた事例5(ケースは3つ)の一つ。彼自身がフロイトのクライアントとして一生を生きた。 フロイトの治療期間  1910年2月-14年7月

事例概要 主訴:深刻なうつ状態 経過:1905年のロシア第一革命が起きた混乱の中で、 姉のアンナが服毒自殺をした。17歳で淋病にかかった ことも含めて、彼は深刻なうつ状態に陥り、専門医を 辿って、結果としてミュンヘンのサナトリウムに入院 することになった。彼の父親コンスタンチンも深刻な うつ病で、パンコフが入院した数ヵ月後に、睡眠薬の 過剰摂取によって自殺している。彼はドイツでも、さ まざまな専門医を訪ねるが、どれもしっくり来なかっ たので、ウィーンのフロイトを訪ねる。

彼の前医であるクレペリンは、躁うつ 病と診断して、フロイトは彼を働く意 志のない患者と呼び「長いこと、おと なしく無関心な状態に閉じ籠ってしま い、手がつけられなかった。彼は言う ことをよく聞き、物わかりも良かった が、それ以上どんなものとも親しもう としなかった……彼を動かし、自主的 に治療の仕事に協力させるためには長 期間の教育が必要であった……むしろ あらゆる病気の苦痛に耐えたほうが良 いというほど、自立した生活に対する 不安が大きかった」と述べている。19 10年に精神分析を開始して、分析を して幼児期に体験された神経症を再構 成したことで終結した。

生育歴 狼男は、1886年のクリスマスイヴに生まれた。 まず第一に、姉の誘惑を受けるおとなしい性格であった。 生後三ヶ月 肺炎に罹って死にかける.のちにそれを大人たちから聞 き,死への不安から過食になった.(一番最初に現れた神経症的障 害) 幼児期 両親が家を売って都会に引っ越した.(狼男にとって大きな 変化) 二歳半の夏 両親が数週間旅行に出かけたが,姉とともに留守番.英 国人の女家庭教師が雇われた.狼男は優しく,おとなしい,静かな 子供であったが,両親が旅行から帰ってみると,不平がちになり, 敏感でいらいらし,暴れたり,泣き叫んだりする子に変わってしま った.母親は変化の原因を英国女のせいだと思い,彼女を解雇する が,短気な性格は少しも治らなかった.(クリスマスの日に誕生日 とクリスマスの二重の贈り物をもらえず,激怒)

3歳の頃から姉が性的な誘惑(お尻を見せ合ったり、おちんち んを掴んでいたずらをすること)がはじまった。「男として生 まれたほうがよかった」といわれた姉は知的にも優れており、 狼男は姉に支配されて育った。この姉に対して受動的で、空想 の中で姉に対して能動的空想(姉の衣服をはぎ取る等)を抱く。 自分の性器を触ってもらいたいという受動的な性目標をナーニ ャ(乳母)に向け、性器いじりを始めた。しかし、ナーニャは 「そんなことをする子はそこの所(性器)に<傷>を受けます よ」と言う(去勢の脅し)。そのため、彼の性心理傾向は、性 器以前の性的体制に退行しやすくなり、サディズム的な肛門愛 的傾向をもつ。こうして、怒りっぽくなり、不満を爆発させ、 昆虫や小さな動物に対しても残虐になった。また、サディズム はしばしばマゾヒズムにも転化し、父親へのマゾヒズム的な態 度ももたらした。

フロイトの事例は、ドラ(ヒステリー)、ハンス(不安ヒステリー=恐怖症)、鼠男(強迫神経症)で、彼の神経症を説明する。

  四歳誕生日前 狼の夢を見,狼に食べられるのではな いかという不安に襲われて泣いた.それ以降,狼恐怖が 続く.姉は,いつも彼をいじめ,怖がることをしては面 白がった.(狼の絵本を見るように仕向け,狼男が怖が るのを見て喜んでいた)狼男は,狼だけでなく,他の動 物や昆虫にも恐れや嫌悪を感じるようになった.同時に, それらに残酷な行為をするという矛盾した態度が起こっ た.   四歳半 母親は狼男を矯正させようと聖書の物語を読 んで聞かせた.これによって狼恐怖は消失したが,代わ って,就寝前に長いお祈りをし際限なく十字を切ったり, 夕方には部屋中の聖像に接吻して廻らねばならないとい う強迫観念に悩まされるようになった.

→現在からみれば、ずいぶんと重い精神病的なも のを抱え、しかも潜伏期が明確でない病態である。  十歳 ドイツ人男性の家庭教師が雇われ,狼男 に大きな影響を与えた.この人物は宗教に価値を 認めていなかったため,狼男の信仰心は薄れそれ まで続いていた強迫症状は消失した.その代わり, 路上に大便が三つ転がっているのを見ると三位一 体を連想するという強迫が新たに現れた.しかし 思春期が近づくにつれ,ドイツ人男性の影響下で, 狼男の症状は減じほぼ正常な状態を維持できるよ うになった. →現在からみれば、ずいぶんと重い精神病的なも のを抱え、しかも潜伏期が明確でない病態である。

    狼の夢(四歳半)  「私はこんな夢を見なした。『夜私はベッドに寝てしまし た。(私のベッドは足の方が窓を向いており、その窓の向こ うには古いくるみの木がずらりと並んでいました。その夢 は冬のこと、確かに冬の夜のことだったと思います)。急 に窓がひとりでに開きました。窓の向こうの大きなくるみ の木に幾匹かの白い狼が座っているのを見て、私はびっく りしました。狼は六匹か七匹いました。彼らは真白で、ど ちらかといえば狐かシェパードのように見えました。とい うのは、それが狐みたいにおおきなしっぽをもち、その耳 は何かを狙う犬みたいにピンと立っていたからです。この 狼たちに食べられるのではないかという非常な不安に襲わ れて、私は大声をあげ、泣き出し』、目が醒めました。 →夢を1歳半の体験での原光景との対比で論じる。

おとなしい時期(2歳半)-性格変化の時期(3歳)-動物恐怖の時期 (4から4歳半)-強迫神経症の時期(4歳から10歳) 狼男の記憶のなかには、黄色い縞の入った大きな蝶に不安を感じた、 というものがある。この記憶の背後には子守娘(グルーシャという、 黄色い縞のある梨と同じ名前)の姿が隠蔽されている。子守娘が床 を掃除している間に、彼は小便を漏らしてしまったのである。その 排尿行為は性的な誘惑を意味している。姉からの性的な誘惑、そし て子守娘の姿勢(蝶の羽のように、脚がV字になっていた?)に刺 激された失禁は、子守娘にしかられたのであろう(去勢の脅し)。 姉からの誘惑、そして子守娘グルーシャとの光景の分析によって、 患者の抵抗はなくなり、後はただ連想を集めて構成するようになっ た。そして姉との関係の複雑な綾を夢を通して解読していけるよう になった。→姉の自殺を契機に、うつ状態になったことを含めて、 うつの発症の背景にある精神発達をフロイトは再構成した。

狼男に関わった人々 1918年に発表した『幼児神経症の病歴から』 1919年4ヶ月の間、フロイトの提案で、無料の精神分析が行わ れた。 フロイトが指導していたルース・ブルンスビックの分析を受ける ことになる(1926-1938)。 ブルンスビックの待合室で、ムリエル・ガーディナーと出会い、 ロシア語の家庭教師になる→  The Wolf-Man by Wolf-Man(1971)「狼男による狼男」の編集が 行われる。 1955年Frederick Weilがロールシャッハをとる(強迫神経症と診 断する) Kurt Eisslerが15年間一ヶ月ごとに録音インタビュー Karin Obholzerが亡くなるまでの間インタビュー     →『W氏との対話』(1982)の出版

フロイト以後の人たちの査定 フロイトの再分析の後、14年後の 狼男は、鼻の皮膚に治療を受けて いて、その患部が深い穴になって いて、もう治らない、こんなこと ではもう生きてゆけない、という、 セネストパチと抑うつとの結合し た状態に陥って、ブルンスヴィッ ク女史の分析を受けることになっ た。彼女はパラノイアとして彼の 治療を5か月間、行った。これはお そらく転移性の精神病(ブラム) であろう。

フロイト以後の論点 Harold Blum 「狼男の児童期における障害は, 重篤な 境界性の障害であり,それは青年期境界例と成人の境界 人格のもとになった」 (1974). The borderline childhood of the Wolf Man. Journal of the AmericanPsychoanalytic Association 22: 721-742 Greenacre,P. 「幼児期の境界例だった患者が、無理 な終結によって妄想反応が生じた」(1959). Certain technical problems in transference relations. journal of the American Psychoanalytic Association 7: 484-502. 小此木の「境界例」の理論を含めて、多くの論者がこれ までにボーダーラインとして診断してきた。転移の中で、 妄想的な退行を起した。

その後の狼男 1917年のロシア第二、三革命、市民戦争のために財産を失 ってしまった。 自分がフロイトの患者であったことが自分が父親から愛さ れることになった。 保険会社に勤めて、1950年(65歳)に退職するまでカフ カのように過ごす。 1938年ヒトラーの入都とともに妻が自殺する→ガーディナ ーらが亡命させる ブルンスヴィックの毎日分析をパリ、ロンドンでも受けて いる 1953年まで母親と暮らしていた。 狼男として最後まで生きる

狼男の問題 1.病態の問題:自己愛の理論を作っている途中の事例である 残遺強迫神経症?精神病的症状?:その後の経過をお論じた とき:小此木の境界例論 フロイトの原光景論?    夢と幻覚、そして認識か空想? 2.フロイトは、その後、なくなる前に二つの技法論文を書き かげる。「構成という仕事」「終わりなき分析」である 終わりある分析と終わりなき分析    精神療法技法論文の最後の修正 構成の現実性とは何か:事後性    精神分析にとって構成とは、現実とは何か

想起、反復、徹底操作 :思い出すこと、繰り返すこと、やり遂げること(1914) 強い抵抗=忘却 抑圧抵抗の克服 分離を隠蔽記憶他の連想素材に関連付けて行く 反復強迫:思い出すのではなく行為にあらわす 転移の操作:治療中のさまざまな障害,悪化のなかで、起源を転移神経症にする 解釈を投与して、抵抗を克服するために徹底的にやり遂げる ⇒この必要条件テーゼとは何か?

ナルシシズムの導入(1914) 自我リビドーと対象リビドー 対象関係という発想の導入 自我理想と取り入れという概念の導入      →検閲者と自我理想           (大衆心理の論文では区別されていない)     他者(親)の命令→良心  自己愛

自己愛と精神病理 発症 病前性格 メランコリー(躁うつ病) 自己愛的対象選択 自己愛的同一化  自己愛と精神病理 病前性格 発症 メランコリー(躁うつ病) 自己愛的対象選択 自己愛的同一化 対象喪失=自我喪失→見捨てた対象への怒り→自己批判→躁状態(対象との一体)とうつ(自我への自責)の繰り返し 統合失調症 (パラフレニー) 自己愛への退行素因 リビドーの外界からの関心の離反(陰性症状)→自我に向かう(誇大妄想)、→修復による幻覚妄想(陽性症状) 心気症 自己の身体への関心 特定の器官にリビドーの関心を向けることで、エネルギーの調整を行う

私のフォーミュレーション 1905年にロシア第一 革命 フロイトは精神神経症と転移の理論を構築しつつあった。 1905年-1908年 姉の服毒自殺⇒重症のうつ 病 おそらくパーソナリティあるいは自己愛 の問題を抱えている。 1910年-1914年 狼男の治療 ⇒構成としての幼児期の強迫神経症の残蓑 フロイトは精神神経症と転移の理論を構築しつつあった。 1905年にロシア第一 革命 ⇒土地の売却=放浪 =姉の死 うつ病の父親の死 (カブラの冬) 第一次世界大戦の勃 発の数日後 敗戦 ⇒国家の父親の喪失 フロイトは想起と反復の治療論を完成して、自己愛の秒理論を完成する。

夢を聞くことが治療的な転機になる。⇒仕 事と結婚 オデッサに帰り、テレーゼと結婚。学校に 入って仕事につくことを考えるようになる。 3年後、1917年ロシア革命第二、第三革命 の結果としての財産のほとんどを失う。 1919年11月ー20年2月 フロイトの提案で、 数回の精神分析セッションを無料で行う。 1926年10月-27年2月まで、症状が悪化 して、ブルンスビックの分析を受ける⇒論 文「転移の残り」=パラノイア⇒分析の残 りを分析して終わる 1917年ロシア第 二、第三革命で共 産主義国家の誕生。 1920年代にドイ ツはハイパーイン フレーションを経 験する⇒ナチスの 台頭。 1923年フロイト ガン フロイトは自我とエスの理論を構築した。

何が彼を生かしていたか 1938年 ナチスの政 権奪取 第二次世界大戦へ向 かう 1946年 敗戦 1938年 保険会社で働いていたが、妻テレー ズが自殺⇒反復を生き残る。 1939年フロイト死去 ガーディナーからの支持的な面接を受ける。 1955年にウエイル博士からロールシャッハを 受ける。 その後アイスラーらの定期的インタビュー ⇒退職まで働き、精神分析サークルから年金 のようにお金をもらいなあら、生き残った。 フロイトは1914年以後、最後の技法論論文を書く。「構成」と「終わりなき分析」 1938年 ナチスの政 権奪取 第二次世界大戦へ向 かう 1946年 敗戦

狼男の査定と治癒要因 度重なる喪失のなかで、うつ病を主たる症状としていた。但しパーソ ナリティが自己愛的、あるいは混乱気味で、今日の査定では、一時的 に精神病的な退行をもつような、パーソナリティ障害だろう。 幼児期の体験は、性的虐待と見る意見(マッソン)もあるが、パーソ ナリティの問題と不可分だし、フロイトの治療は、再構成が主たるも のだったので、その構成されたものが逆に使われた可能性は無視でき ない。 治療的な転機は、長い間怖がっていた夢を性の秘密として聞くことで 起きた。 フロイトの共同研究者のような立場になっていくことで、フロイトと の同一化が起きて、それが彼の中核になった。 精神分析サークルは、長年にわたって、「狼男」に関心を持ち、経済 的にも社会的にも「オンディマンド」にサポートし続けた。生活する 患者を抱える環境として機能し続けた。