治療構造論.

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治療構造論

はじめに:治療構造論 日本で開発されたもっとも強力な力動学派の初期の業績のひとつ   はじめに:治療構造論 日本で開発されたもっとも強力な力動学派の初期の業績のひとつ 甘え、阿闍世、見るなの禁止などの概念装置は、内面の心理状態を記述するための道具 治療構造論は技法的な道具であり、しかも精神分析に固有の道具ではなく、その拡張をもくろむもの(日本特有の文脈)

 治療構造論の発見:歴史

 古澤平作(1897年7月16日 - 1968年10月5日) 1932年にフロイトのところを訪れ、フェダーンからSV,ステルバから個人分析を受けた。 帰国後1934年に田園調布でクリニックを開業して、1950年代からは日本精神分析学会を設立に貢献した。 アジャセコンプレックスなどの概念を小此木に託した。

小此木啓吾 1954年 - 慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。 1972年 - 慶應義塾大学医学部助教授 1988年 - 日本精神分析学会会長 1990年 - 慶應義塾大学環境情報学部教授(医学部兼任担当教授) 199X年 - 東京国際大学人間社会学部教授 2003年9月21日没

歴史:小此木の自由連想法体験 医局の中での生き方とそれとは別の自由連想法 自宅臨床場面=研究日 自由連想法の体験          自宅臨床場面=研究日 自由連想法の体験  古澤からの教育分析とスーパーヴィジョン    東京精神分析研究会(1953)      ルドルフ・エクシュタイン古澤訳         精神療法の構造的側面 → チェスのたとえ               ↓       第一次操作反応の研究                 九州と東京の二極化(別の道)

精神分析ではなかった日本の精神分析 2000年に国際精神分析協会に認定されるまで、日本の精神分析は訓練が十分に整備されておらず、それは心理療法に留まっていた。 おそらく訓練分析なしで精神分析家を作った珍しい事例が日本であった。そのため技能としての、芸としての療法家がたくさんいた。   →精神分析とは何かを問われていた。

小此木の精神分析体験 大学在学中古澤から分析を受けて、卒業後、そのもとで日本精神分析学会の成立のために働いた。  小此木の精神分析体験 大学在学中古澤から分析を受けて、卒業後、そのもとで日本精神分析学会の成立のために働いた。 フロイト初期の分析と同様に、非常に緊密な人間関係上、政治的なことがそこに含まれていたので、訓練としての分析は二次的に留まっていた(最近まで問題が先送りされていた) 大学医局では、研究日以外心理療法は難しかった。

小此木(1955~)の操作構造論 第一次操作反応 POR(第一回目の自由連想法において最初の説明以後の反応のすべて) (1)連想不能型 第一次操作反応 POR(第一回目の自由連想法において最初の説明以後の反応のすべて) (1)連想不能型 (2)拒否攻撃型 (3)積極型 (4)従順 (a)積極型   従順 (b)細心型   従順 (c)依存型 (5)(a)連想欠乏型   (b)沈黙型 (6)不安 (a)沈黙型   不安 (b)依存型 

逆転移の葛藤から自律するため、つまり自我と 自律性とを守る枠組みとしての操作構造(役割) という発想。 小此木(1957)らから第二次操作反応  第二次操作反応 SOR の研究 木村(馬場)礼子とのロールシャッハ研究 「『逆転移』の操作構造論的研究 –治療者の役割の葛藤性と自律性をめぐって-」(1962)   逆転移の葛藤から自律するため、つまり自我と 自律性とを守る枠組みとしての操作構造(役割) という発想。   →操作構造論の確立 児童治療における治療的退行(1971)   慶応グループの治療的操作構造論と退行による治療の理論化

治療における構造と退行 構造を提供すると、治療的な退行が起きる(児童治療における体験) ⇒治療的な退行は、心理療法の基本原理である  治療における構造と退行 構造を提供すると、治療的な退行が起きる(児童治療における体験)  ⇒治療的な退行は、心理療法の基本原理である 心理テスト、特にロールシャッハの反応は、図版やテスト状況(構造)に対する退行であり、反応である。

治療構造論の哲学的背景 認識の構造(カント) 経験を規定する存在としての構造(ハイデッカー) 心を受肉させる構造(ベルグソン) 場としての構造(レヴィン) 個を超えた無意識

治療構造的機能 定点観察 参与しながらの観察にとっての準拠枠 病理の彫塑 枠組み=基準=社会的合意事項   参与しながらの観察にとっての準拠枠 病理の彫塑   枠組み=基準=社会的合意事項 →力動は構造から読み取ることができるという認識論を確立した。

治療構造論の展望 1.治療者が意図的に設定するもの(治療設定) 2.治療者の意図を超えて与えられたもの 治療構造=準拠枠    治療構造=準拠枠 3.治療経過中に自然に形成されるもの    構造転移ほか    →自我の分裂や変容的解釈論、そして等距離性

治療構造論の転移・逆転移における機能 ①.治療状況におけるコミュニケーション媒体機能 ②.転移現象と投影の発生を規定する現実要因 ③.投影ないし転移の分析を支持する機能 ④.転移に対する受容器ないし抱える環境としての機能 ⑤.転移現象に対する境界機能 ⑥.転移を認識する先験的な準拠枠としての機能   →逆転移を浮き彫りにする

構造的な認識 自分は、どうしてこういう文脈で、仕事をするようになったのか  構造的な認識 自分は、どうしてこういう文脈で、仕事をするようになったのか 自分がどのような臨床場面にいるのか、そしてそれはどんな構造をしているのか 自分でその構造は、どの程度、設定として変化させられるのか、それとも変化させられないのか

病態による構造

変数と適応 →定数と変数(パラメーター) 精神病 境界例 児童分析 ①児童・思春期治療、並行父母面接 ②境界例・分裂病の家族面接  変数と適応 →定数と変数(パラメーター)   精神病   境界例   児童分析 ①児童・思春期治療、並行父母面接 ②境界例・分裂病の家族面接 ③入院治療、ATスプリット ④バリント療法 ⑤組織分析 

Widening scope 1954年 Leo Rangell「精神分析と力動的精神療法の類似点と相違点」  Leo Stone「精神分析の適応範囲を広げる」  Edith Jacobson「重症うつ病の精神分析」  Anna Freudのコメント   →精神療法の適応範囲を広げるための試み

自我の防衛抵抗の再建のために寝椅子、転移、抵抗分析を放棄する。(=H.S.Sullivan) 自由連想法の変化 P.Federnの精神病の精神分析(1943.47)   自我の防衛抵抗の再建のために寝椅子、転移、抵抗分析を放棄する。(=H.S.Sullivan) 高橋(1955)の整理   (1)寝椅子法(主として自由連想法)   (2)腰掛法( 同上)   (3)対面法   (4)90度法(主として精神病)

精神病患者にはどう対応するか 態度を支持的にするかどうか(前掲) チームで働くかどうか 分担治療をするかどうか  精神病患者にはどう対応するか 態度を支持的にするかどうか(前掲) チームで働くかどうか 分担治療をするかどうか    そうした構造のなかで、病態によって構造を変化させる必要があるかどうかということを考える。    ⇒治療の構造化について