日本乳癌学会関東地方会 教育セミナー 治療 2018・12・1 大宮ソニックシティ 自治医科大学 乳腺科 藤田 崇史
症例 1 69歳:女性 検診精査目的で、近医受診。左腋窩リンパ節腫脹あり、細胞診悪性の診断にて、当院紹介受診。 既往歴:特記すべきことなし 家族歴:乳癌、卵巣癌なし 閉経後
視触診 左腋窩に腫大したリンパ節を触知 両側乳房内に所見なし MMG 両側 C-1 US 左腋窩リンパ節腫脹 2個 乳房MRI 乳房内に所見なし
針生検(左腋窩リンパ節) Adenocarcinoma ER(0%)、PgR(0%)、HER2(3+)、Ki-67(20%) CK7+、CK20- TTF-
PET施行: 左腋窩リンパ節2個に集積を認めるのみ。 ① 治療(局所治療)は
潜在性乳がん Occult Breast Cancer 全乳癌の0.1-0.8% 原発不明腋窩リンパ節転移が、adenocarcinoma もしくは、poorly differentiated carcinoma で、免疫染色が乳癌に一致する場合 StageⅡ-Ⅲ乳癌として、治療方針を立てる
女性の原発巣不明の腋窩リンパ節転移 50%以上が乳癌による その他、 リンパ腫、melanoma、sarcoma、甲状腺癌、肺癌、皮膚癌 頻度は少ないが、卵巣癌、子宮癌、胃癌 Ann Surg 1973;178 21-27
乳癌の転移診断 乳癌 卵巣癌 肺癌 mesothelioma (serous) CK7、CK20 CK7- CK20+ CK7+ CK20- WT-1 TTF-1 S-apoA HBME-1 calrethinin GCDEP15 mammaglobin 卵巣癌 (serous) 乳癌 肺癌 mesothelioma 病理と臨床 2007 25 177-183 改変
潜在性乳癌では、MRIにて146/204例において何らかの病変が示唆される EJSO 36 (2010) 114 -119
FQ11 潜在性乳癌に対して、乳房非切除は勧められるか? 基本的な治療方針 ・・・・・・・ 乳房全切除+腋窩郭清 ステートメント 基本的な治療方針 ・・・・・・・ 乳房全切除+腋窩郭清 ステートメント 乳房内に原発巣がないことを乳房造影MRIで確認した潜在性乳癌に対しては 全乳房照射を前提に、乳房非切除+腋窩郭清を選択してもよい MMG、US、MRIで病変が認められない → 乳房非切除、腋窩郭清 + 全乳房照射も考慮
乳房非切除+全乳房照射の報告 n 局所制御率 Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(1):143- 9/12 75% Rev Invest Clin. 2002;54(3):204- 6/6 100% Oncology 2006;71:456– 8/8 23/26 88%
locoregional recurrcence-free survival EJSO 38 (2012) 1022-1028
PET施行: 左腋窩リンパ節2個に集積を認めるのみ。 ② 治療(薬物治療)は
BQ9 原発巣の明らかでない腋窩リンパ節転移(腺癌)に対して、乳癌に準じた薬物療法は認められるか? 腋窩リンパ節の病理組織学的検討を行い、局所療法に加えて、 腋窩リンパ節転移陽性乳癌に準じた薬物療法を行うことが標準的である。
FQ5 HER2陽性乳癌の周術期治療にペルツズマブを併用することは推奨されるか? ステートメント 再発リスクの高い症例でのペルツズマブ併用療法の有用性が示された。 ただしOSの延長効果については今のところ明らかでない
術後療法においてのペルツズマブ 手術可能なHER2陽性 乳癌患者 (n=4805) アンスラ → タキサン + T + P N Engl J Med 2017; 377:122-131
無病生存期間を改善 (特にリンパ節転移症例) N Engl J Med 2017; 377:122-131
症例 2 69歳:女性 近医受診、左腋窩リンパ節腫脹あり、細胞診悪性の診断にて、当院紹介受診 既往歴:特記すべきことなし 家族歴:乳癌、卵巣癌なし 閉経後
視触診 左腋窩に腫大したリンパ節を触知 両側乳房内に所見なし MMG 両側 C-1 US 左腋窩リンパ節腫脹 2個 乳房MRI 乳房内に所見なし
針生検(左腋窩リンパ節) Adenocarcinoma ER(0%)、PgR(0%)、HER2(3+)、Ki-67(20%) CK7+、CK20- TTF-
PET施行: 左腋窩リンパ節2個に集積、 肝S7に集積を認める ① 1次治療は
CQ22 HER2陽性転移・再発乳癌に対する1次治療で推奨される治療は何か? 強く推奨 トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの併用療法 トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの併用療法 弱く推奨 トラスツズマブ+化学療法の併用療法 トラスツズマブ・エムタンシンの投与
ペルツズマブ + トラスツズマブ ドセタキセル 6サイクル以上を推奨 HER2陽性 転移性乳癌患者 (n=808) ドセタキセル 6サイクル以上を推奨 n=402 プラセボ + トラスツズマブ ドセタキセル 6サイクル以上を推奨 *術後化学療法終了後再発まで、 12か月以上経過 n=406 N Engl J Med 2015;372:724-34
OS中央値 ペルツズマブ+H+D群 56.5か月 プラセボ+H+D群 40.8ヵ月 N Engl J Med 2015;372:724-34
PET施行: 左腋窩リンパ節2個に集積、 肝S7に集積を認める ② 2次治療は
CQ23 HER2陽性転移・再発乳癌に対する2次治療で推奨される治療は何か? 強く推奨 トラスツズマブ・エムタンシンの投与 トラスツズマブ・エムタンシンの投与 (トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行となった場合) 弱く推奨 トラスツズマブ+化学療法の併用療法 弱く推奨しない ラパチニブ+カペシタビン
カペシタビン + ラパチニブ トラスツズマブ エムタンシン トラスツズマブ及び (n=495) タキサン系薬剤既治療の HER2陽性進行・再発乳癌患者 991例 カペシタビン + ラパチニブ (n=496) *アンスラサイクリン既治療 60% → クロスオーバー トラスツズマブ エムタンシ 3.6mg/kgを3週間間隔で点滴静注 カペシタビン 1,000mg/m2を1日2回2週間投与、1週間休薬 ラパチニブ 1,250mgを1日1回経口投与 N Engl J Med 2012;367:1783-91.
N Engl J Med 2012;367:1783-91.
経過 ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル 8コース → リンパ節転移 肝転移消失 ペルツズマブ+トラスツズマブ 11コース ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル 8コース → リンパ節転移 肝転移消失 ペルツズマブ+トラスツズマブ 11コース → 局所皮膚転移 トラスツズマブ・エムタンシン 7コース → 局所皮膚転移消失
高齢者のがん対策 我が国では、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行し、平成37(2025)年には65歳以上の高齢者数は3,657万人(全人口の30.3%)になると推計。 高齢者では自律機能の低下や他疾患の併存、加齢による個体差の拡大など、身体的な問題が増加するため、高齢者のがん患者に適した治療法を確立することが重要。 今後のがん対策の方向性について ~これまで取り組まれていない対策に焦点を当てて~(抜粋) がん対策推進基本計画
高齢者に対するless toxic な治療を開発が目的 高齢者のおいても使用可能な治療法の開発 JCOG1607試験 高齢者に対するless toxic な治療を開発が目的
症例 3 49歳:女性 左乳房腫瘤を自覚し、近医受診。 乳腺エコー施行し、左乳癌疑いにて精査加療 目的で当科紹介受診 既往歴:なし 乳腺エコー施行し、左乳癌疑いにて精査加療 目的で当科紹介受診 既往歴:なし 家族歴:なし 閉経前
視触診 左乳房 D領域に3x2.5㎝ 弾性硬、境界不明瞭な腫瘤を触知 左腋窩に腫大したリンパ節を1個触知
MMG 左 C-4 US 左4時方向に、T=2.9x2.5cmの境界不明瞭な腫瘤 腋窩リンパ節腫脹 (1個)
針生検 Invasive ductal carcinoma of non special type ER(70%)、PgR(0%)、HER2(1+)、Ki-67(40%) 細胞診(左腋窩リンパ節) 悪性 T2N1M0 Stage Ⅱb 遠隔転移なし
術前化学療法 cPR (腋窩リンパ節は消失) 手術 乳房切除+腋窩郭清 AC(60/600mg/m2) 4クール
術後病理診断 組織学的治療効果判定 Grade3 腋窩リンパ節 n=0/18
① 乳房全切除術後放射線療法(PMRT)を勧めるか?
CQ7 術前化学療法が奏功しても術後放射線治療の適応は化学療法前の病期に従って行うことを弱く推奨する 術前化学療法が奏功した場合でも乳房全切除後放射線療法(PMRT)は勧められるか? CQ7 術前化学療法が奏功しても術後放射線治療の適応は化学療法前の病期に従って行うことを弱く推奨する → 術前化学療法後の放射線療法についての前向きランダム化比較試験がない
Lancet 2014; 383: 2127–35
・M.D Anderson Cancer Center (1974-2000) ・retrospective analysis ・Doxorubicin-based neoaduvant chemotherapy This report is the first large series investigating the efficacy of PMRT for patients treated with neoadjuvant chemotherapy. J Clin Oncol 22:4691-4699.
J Clin Oncol 22:4691-4699.
術前化学療法後局所領域再発を規定する因子の検討 乳房切除後、非照射の群も検討されている J Clin Oncol 30:3960-3966.
臨床病期StageⅠ-Ⅱの患者では、PMRTの有無にかかわらず、10年局所領域再発率0% Int J Radiat Oncol • Biology • Physics, Vol. 88, Issue 1, p65–72 ypN0となった臨床病期StageⅡ-Ⅲの患者では、PMRTの有無は、 局所・領域非再発率、無再発生存率、全生存率に有意な相関なし Int J of Radiat Oncol • Biology • Physics, Vol. 68, Issue 4, p1004–1009
術前化学療法の治療効果による予後 (サブタイプ別) luminal A–like tumors luminal B PMRT → cT3, cT4, cN2, or cN3 の場合に施行 J Clin Oncol 30:1796-1804.
② 照射範囲は
BQ6 BQ7 胸壁・同側鎖骨上リンパ節領域を照射野に含めることが標準治療である。 乳房全切除後放射線療法(PMRT)では胸壁を照射野に含めるべきか? BQ6 乳房全切除後放射線療法(PMRT)では鎖骨上リンパ節領域を照射野に含めるべきか? BQ7 胸壁・同側鎖骨上リンパ節領域を照射野に含めることが標準治療である。
CQ6 C1 内胸リンパ節領域を含めることを弱く推奨する 乳房手術後に腋窩リンパ節転移陽性の患者で、領域リンパ節照射あるいは乳房全切除後放射線療法(PMRT)を行う患者に対して、内胸リンパ節領域を含めることがすすめられるか? 内胸リンパ節領域を含めることを弱く推奨する 臨床的・病理学的に胸骨傍リンパ節転移を認めない場合には、 胸骨傍リンパ節を必ずしも照射野に含める必要はないが、含めることを考慮してもよい。 C1 2015年度版