視覚表現に特有の修辞法 視点の修辞法(距離、フォーカス、アングルなど) 空間表現の修辞法(遠近法、空間象徴など) 色彩の修辞法(色彩象徴など)
視点の修辞法 視点の修辞法は映画での基本的な表現手法である。 絵画やマンガでも用いられる。外在的視点と内在的視点の描き分けなどは文学との共通の表現方法である。 ここでは、マンガにおける内在的視点の表現方法とアングルの魔術師高野文子の表現を簡単に紹介する。
マンガにおける内在的視点の表現 古典例
マンガにおける内在的視点の表現
アングルの魔術師高野文子
フォーカス 「うしろあたま」(「絶対安全剃刀」) 子供の視点「ボビー&ハーシー」(「おともだち」)
不安定な見下ろすアングルと不安な心 「バスで四時に」 (「棒が一本」)
空間表現の修辞法 空間表現は視覚表現、特に絵画の特有の表現領域である。三次元空間はそのままでは二次元では描けない。種々の手法があるが、これらは世界をどうとらえるかも含意している。 場所あるはトポスの表現は、文学にも共通で世界観を直接に表しうる。 空間の位置と方向にはそれぞれ象徴的な意味が表現される。
線遠近法の世界観 絵画の技法の重要な部分に、空間をいかに平面のなかに表現するかがある。一つの回答が、ルネサンスの時期に完成された線遠近法である。線遠近法は、遠くの対象を小さく描く順遠近法の特殊な例で、不動の一点から空間をキャンバスの平面に投射して描くという手法によるものだった。線遠近法のもたらす立体感の効果は大きいが、視点を対象の外の一点に固定した人工的な手法で、大きさの恒常性をまったく無視し、網膜に映る像の大きさを描くことを必要とするため、自然な態度で描けるものではない。 デューラー「遠近法的に女性を描く画家」
ピエロ・デラ・フランチェスカ「笞打ち」
シュールリアリスト、キリコの不安な空間 キリコ「街の神秘と憂鬱」
松本大洋の魚眼的世界 松本大洋 「鉄コン筋クリート」
多視点画法の世界観 自然な空間認知は、観察者が空間に中に入り込み視点を移動しつつ時間的に展開される過程である。自然な空間認知に対応した空間表現は、過去の絵画や子供の絵に見られる多視点画法である。線遠近法は対象世界をスナップショット的に表象のキャンバスにとらえたもので、ここでは対象世界は、主観とは分離された、固有の意味を持たない等質的な空間として見なされると言う近代の世界観をあらわしたものになっている。一方、多視点画法では、対象世界は等質な空間としてではなく、移動する観察者との関わりでの固有の意味をもつものとしてとらえられている。
逆遠近法( Inverse Perspective) 逆遠近法は、遠くの対象を大きく描くという順遠近法とは逆の手法だが、洋の東西に関わらず宗教画など重要人物が奥に描かれる場合によく見られる。逆遠近法がなぜ描かれるのか、知覚説、情報量説、重要人物からの内側からの視点説、など、諸説ある。多視点画法の世界観からすれば、内側からの視点説は自然な考えである。 ルブリョフ「三位一体」15世紀初め 「竜猛像」東寺
Reverse Perspective パトリック・ヒューズ作(ロンドンのシュールレアリスト)
平面絵画でも視点の移動による微妙な変形は生じる 観察者の立つ位置によってカベの方向の見え方が観察者を追従するように変化する事をDeregowskiらは示した。 Vermeer”The Music Lesson”
平面絵画でも立体的方向感が特に強いと視点の移動に伴う追従感が生ずる 見る人を追うと言われる龍の壁画、幽霊や人の絵などは、いずれも立体的方向感が強い絵柄である。これを、視点を移動して見た時、見えが立体感から予期される変化をしないため、追従運動の印象が生ずる。 リート「新兵募集のポスター」1914
反転遠近法(Reverse Perspective)の世界観 前近代の多視点画法が世界の中に入った視点を象徴し、近代の線遠近法が世界をキャンバスと表象に閉じこめようとする世界観を象徴しているなら、反転遠近法は表象のキャンバスに世界を閉じこめようとした近代の破綻が明確になったなかで、表象と混在した世界のなかでめまいを起こしつつ戯れる世界観を象徴している?
トポスの達人水木しげる
水木しげる 「河童の三平」 庇護された場所、空虚
むき出しの場所 水木しげる 「河童の三平」
隠れ家 水木しげる 「河童の三平」
花に囲まれた 場所を見下ろす 水木しげる 「幸福の甘き香り」
空間象徴図式