専門特殊講義 2010/11/4 担当:内藤
I、レジーム論とは何か 1、レジーム論 (1)経済システムのあり方 経済のあり方、仕組み、システムといったものは、いつでも、どこでも同じか? 経済理論では、普通、一つの経済システムがどこでも、いつでも通用するように想定 現実には、時間と場所により、経済のあり方はそれぞれ異なっている
レジーム論 (i)時間軸上の違い(段階論): 歴史上、例えば、江戸時代の日本経済と現在の日本経済は異なる 発展段階説: 歴史上、例えば、江戸時代の日本経済と現在の日本経済は異なる 発展段階説: 古代、中世、近代と経済が発展する 中世 古代 近代 奴隷制 封建制 資本主義
レジーム論 (ii)類型論: 現在においても、例えば、日本とアメリカの経済システムは異なるし、さらに、中国とも異なる。また、先進国と発展途上国の間の違いはかなり大きい。地理上の違いの違いのみでなく、異なった種類のものとして分析、位置付ける。 →資本主義の多様性論: アメリカ型vsヨーロッパ型 or 日本型
(2)収斂説と多様性論 (i)収斂説: 経済システムはやがて、同じシステムへ収斂していく。あるいは、発展途上国もやがて先進国になる。 経済システムはやがて、同じシステムへ収斂していく。あるいは、発展途上国もやがて先進国になる。 (ii)多様性論、分岐説: 経済システムは、必ずしも収斂することなく、多様であり、変化しつつも多様であり続ける。
収斂説と多様性論 収斂説 分岐説
(3)発展段階説的発想の欠点 (i)収斂説的傾向: 各国の相違は発展段階の相違 →途上国もやがて先進国に追い付く 各国の相違は発展段階の相違 →途上国もやがて先進国に追い付く (ii)「典型国」アプローチ、「先進国」アプローチ: 同時代の中で最も進んだ国を取り上げて、その時代のレジームの典型として位置付け分析する
発展段階説的発想の欠点 (iii)段階の当てはめ論的傾向: どの段階に当てはまるかを検討: 例:日本資本主義論争: 明治以降の日本は、どの段階に当てはまるのか? 封建的システム or 資本主義システム? 類型論、多様性論へ: 経済システムは様々な種類がありうる、必ずしも、一つのシステムに収斂するとは限らない
II、レギュラシオン理論 1、レギュラシオン理論の概要 (1)レギュラシオン理論 1970年代後半にフランスで誕生した学派: 「調整(レギュラシオン)」を軸にマクロ経済システムを分析: 制度に注目、当初は特に賃労働関係を重視
(2)レギュラシオンの基礎概念 発展様式 マクロ経済的成果 制度諸形態 経済成長率 生産性上昇率 インフレ率 利潤率 失業率 国際収支・・・ 賃労働関係 貨幣形態 競争形態 国家形態 国際体制 とそれへの 編入体制 蓄積体制 調整様式 循環性危機 構造的危機 危機
レギュラシオンの基礎概念 (i)制度諸形態: 様々な制度が経済や社会に大きな影響を与えている (ii)蓄積体制(成長体制): 様々な制度が経済や社会に大きな影響を与えている (ii)蓄積体制(成長体制): 安定したマクロ的な連関、関係 (iii)調整様式: 制度諸形態によって規定される一定の規範やルール 蓄積体制と調整様式が整合的であるならば、経済の安定や成長がもたらされる 特定の蓄積体制において、それに対応したマクロ経済的な成果が生み出される
レギュラシオンの基礎概念 危機: 経済の不調や不安定な状態 (i)循環的危機: 経済の不調や不安定な状態 (i)循環的危機: いわゆる景気循環に相当、矛盾や不均衡がその調整様式の内部で解消される (ii)構造的危機: 従来の蓄積体制や調整様式によって経済の安定や発展が保証できないような場合: →制度変革が必要
2、フォーディズム (1)フォーディズム 1950,60年代の高度成長期 日本だけでなく、先進国に共通 名前の由来: 1910年代のフォード社の経営方式: (i)大量生産(ベルトコンベヤーによる組み立て) (ii)大量消費(高賃金政策の試み): 当時としては先駆的、戦後、普及
(2)フォーディズムの発展様式 フォーディズムの発展様式 マクロ的結果 成長率4.9% 生産性上昇率4.5% 利潤率15~20% インフレ率3,4% 労働増加率0.3% 失業率2.6% ・・・ 制度諸形態 団体交渉 最低賃金 社会保障 管理通貨 消費者信用 寡占的競争 ケインズ的国家 IMF/GATT体制 蓄積体制 生産性→賃金→消費 投資 需要=生産 生産性 インデックス 賃金 テーラー主義 の受容 調整様式 団体交渉
フォーディズムの発展様式 生産性の上昇により実質賃金が増大し、消費が増大する。消費に対応して、投資が拡大するが、投資は生産性の上昇をもたらす。 大量生産-大量消費型 (i)生産性→実質賃金: 生産性インデックス賃金←団体交渉制度(日本では春闘など) (ii)消費→投資: 消費や需要が投資を決定:加速度原理型の投資関数 (iii)需要→生産性: 収穫逓増、規模の経済性
フォーディズム 蓄積体制を支えた制度 テーラー主義の受容: 生産性インデックス賃金と引き替えに、労働者はテーラー主義を受容: 生産性インデックス賃金と引き替えに、労働者はテーラー主義を受容: フォーディズム的妥協 テーラー主義: 労働における構想と実行の分離、製造業においては単純労働が主流となる
(3)フォーディズムの危機 (i)テーラー主義による生産性上昇の限界: ストライキの増大 需要の多様化に対応できない (ii)生産性インデックス賃金の限界: 都市への労働者の集中により間接賃金(社会保障手当)の必要性増大 完全雇用状態による直接賃金上昇圧力 →賃金爆発、利潤圧縮、インフレーション →生産性インデックス賃金から市場賃金への移行 (iii)石油ショック、ニクソンショックなどの外的要因
(4)フォーディズムの世界への影響 (i)南北問題: 南からの安価な原材料、エネルギー資源の輸入: 南北格差が前提 南からの安価な原材料、エネルギー資源の輸入: 南北格差が前提 一部のNIES諸国の発展→国際競争の激化 (ii)社会主義体制の崩壊 ←フォーディズムの成功 (iii)資源と環境の危機: 大量消費-大量生産による様々な環境問題
3、ポスト・フォーディズム:国民的軌道の分岐 フォーディズム崩壊後は、国による違いが明らかに (1970,80年代の特徴) (1)アメリカ型: 労働組合が弱体化して、賃金は個別に決定、雇用は短期的調節が主、労働市場における決定 長所: 雇用と賃金の変動が大きいため、景気後退に対して迅速に対応可能 短所: 短期的経営、従業員の技能教育は低水準
国民的軌道論 (2)ミクロ・コーポラティズム型(日本): 大企業内部での賃金と雇用の調節 長所: 大企業内部での賃金と雇用の調節 長所: 賞与による短期的調節、生産性とプロダクト・イノベーション 短所: 長時間労働、労働市場の分断
国民的軌道論 (3)社会民主主義型(スウェーデン、オーストリアなど): 全国的な労使交渉 長所: 平等的賃金、完全雇用体制維持 短所: 全国的な労使交渉 長所: 平等的賃金、完全雇用体制維持 短所: 公共財政への圧力、平坦な賃金構造の労働インセンティブへの逆効果
国民的軌道論 (4)ハイブリッド型(フランス、イタリア): 他のタイプの混合的な特徴 長所: 福祉国家の維持、生産性への刺激 短所: 他のタイプの混合的な特徴 長所: 福祉国家の維持、生産性への刺激 短所: 若年層の失業
4、レギュラシオン理論の弱点 (i)発展段階説では19世紀イギリスの資本主義が典型と見なされていたが、レギュラシオン理論では20世紀のフォーディズムが標準モデル: どこかの時代を標準化する危険性は存在 (ii)何を規準に分析を行うか: 伝統的には競争形態、競争か独占かが規準、レギュラシオン理論では賃労働関係に注目 →国際的な面よりも国内の経済を重視 (iii)段階論: 発展段階説とは異なり、最終的な到達点などは存在しない 歴史的大局的傾向は不明
レギュラシオン理論の弱点 新たな展開: (iv)段階論から資本主義の多様性論へ (v)制度階層性とその逆転: どの制度形態が支配的か フォーディズム期は賃労働関係、その後は、国際関係や金融 ←グローバリゼーションの進展 (vi)社会的イノベーション・生産システム: 制度の補完性を重視: 様々な制度の組み合わせとして分析
5、グローバリゼーション下の新たなレジームとは (1)新たな傾向 (i)フレキシブル大量生産:多品種大量生産によって変動する需要に対応: トヨタ生産方式 (ii)サービス経済化: サービス消費の増大(モノ離れ)、企業向けサービスの発展、特に企業向けの金融、会計、マーケティング、コンサルタント等の知的サービスの増大 (iii)情報経済化: IT技術の発展
新たなレジームへ (iv)知識経済化: 知識の創造、管理、利用によって高付加価値の財・サービスが生産されるようなシステム: 知識主導型成長モデル→イノベーションの重要性 (v)金融化: 金融主導型成長体制(90年代以降のアメリカ): 金融市場が企業に大きな影響を与えるだけでなく、金融部門が拡大
(2)フォーディズムから金融主導型成長体制へ 国民的軌道の変容: (i)アメリカ型: ネオフォーディズム:テーラー主義は維持、競争的賃金決定 →賃金シェアの低下により利潤を回復、雇用は創出、所得は不平等化 (ii)社会民主主義型: 社会福祉や労働時間短縮により生産性の分配は維持、税や社会保障負担により資本の国外逃避 →困難
近年の展開 (iii)ミクロ・コーポラティズム型: トヨタ生産方式によるフレキシブルな大量生産、輸出主導型成長 (iv)ハイブリッド型: テーラー主義はある程度維持、社会福祉も維持、高失業 →EUによる経済統合へ
(3)即応型資本主義 成長体制の評価基準: (i)動態的効率性: 経済的成果が中長期的にどのくらいか (ii)社会的公正: 経済的成果が中長期的にどのくらいか (ii)社会的公正: 所得分配や社会福祉など (iii)短期的柔軟性あるいは即応性: 外的な不確実性にどれだけ短期的に柔軟に対応しうるか フォーディズム期は、動態的効率性と社会的公正が重要、70年代以降、国際競争が激化、不確実性も増大したため、短期的即応性が重要となる
即応型資本主義論 短期的即応性、フレキシビリティ: 国際経済や景気の動向に敏感に反応して、資本と労働といった生産要素を調節し、流動化させうる能力 (i)資本の流動化: 資本の自由移動: 金融自由化、証券化など←金融市場の発達 (ii)労働力の流動化: 労働者の自由な解雇、賃金の市場主義的決定など:日本では派遣、請負の増大など
即応型資本主義 即応型資本主義: アメリカ経済:情報や金融中心のニュー・エコノミー 即応型資本主義の世界への普及: アメリカ経済:情報や金融中心のニュー・エコノミー 即応型資本主義の世界への普及: グローバリゼーション、新自由主義的改革