対人状況における心臓血管反応
NO! 社会的要因の影響を考えたきっかけ 鏡映描写時の血圧上昇を調べると・・・ 実験A:課題時に血圧が 5 mmHg 上昇 同じ課題を使っているのに・・・ なぜ!? 単独で実験に参加 実験A:課題時に血圧が 5 mmHg 上昇 実験B:課題時に血圧が 15 mmHg 上昇 大勢の被験者が 順次実験に参加 社会的要因は無視できる程度の影響しかないと 割り切ってしまってよいのだろうか? NO! 社会的要因の影響の大きさを 真剣に見積もるべきではないだろうか!
Total Peripheral Resistance 今回の発表で扱う心臓血管系反応 Cardiac Output (一分間に拍出される血液の量) Total Peripheral Resistance (血管抵抗の総和) Mean Blood Pressure (平均血圧) トノメトリ血圧計 MBP = CO × TPR SV × HR Stroke Volume (一回心拍出量) Heart Rate (心拍数) インピーダンスカーディオグラフィー 心電図
MBP = × CO TPR ストレスと血行力学的反応 パタン1 パタン2 ストレス下の心臓血管系の反応は大きく二つのパタンにわけられる 暗算時 (COの増大に起因する血圧上昇) MBP (mmHg) CO (%) TPR 鏡映描写時 (TPRの増大に起因する血圧上昇) MBP (mmHg) CO (%) TPR パタン1 パタン2 様々な環境刺激の内のどのような要素が 1.顕著に血圧を上昇させるのか? 2.上記のようなパタン変化を生じるのか? を明らかにすることが重要である!
1.評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響 今回の発表で紹介する研究 1.評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響 ・人に見られて作業をすると一人の時より血圧が上がる ・どんな課題でも心臓側の活動亢進により血圧があがる 2.サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響 ・友人が側にいてくれると一人の時より血圧上昇が少なくなる ・血圧上昇を緩和するのは主として血管抵抗の減少である
評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響-1 Smith et al. (1997) Wright et al. (1998) 評価がある場合のみ,課題難易度は血圧反応に反映された 報酬あり ― 報酬なし = 6.5 mmHg 評価あり ― 評価なし = 7.1 mmHg
評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響-2 目的 特性の異なる課題(暗算・鏡映描写)を用い,評価的観察が結構力学的反応に与える影響を検討する. 方法 被験者:女子大学生20名 手続き: 暗算 評価あり 鏡映描写 評価あり 安静 (4分) 課題 (4分) 暗算 評価なし 鏡映描写 評価なし ・被験者はすべての課題を行った ・各課題の直前に4分間の安静期間を設けた ・課題種類,評価の有無は,被験者間でカウンターバランスされた
評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響-3 方法 ・被験者は5名グループで実験に参加した. ・評価条件では,一人が課題を行い,残りの4名は被験者の背後に立ち,被験者の課題遂行を観察し,評価を行った. ・評価は,「早い-遅い」「賢い-愚かな」「慎重な-不注意な」等の,個人の資質の評価を想定させる形容詞対を用いて行われた. PC 被験者 評価者
評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響-4 結果 20 暗算評価あり 鏡映描写評価あり 暗算評価なし 鏡映描写評価なし 15 10 5 HR (bpm) CO (%) TPR (%) SBP (mmHg) DBP (mmHg) -5 各指標の安静期から課題期への変化量
評価的観察が心臓血管反応にあたえる影響-5 ・暗算は鏡映描写に比べ,主として心臓側の反応亢進により血圧を上昇させる傾向がある. ・評価的観察は,課題の種類にかかわらず,血圧反応を増大させる. ・評価的観察は,課題の種類にかかわらず,血行力学的反応を心臓側主体の反応へとシフトさせる. ・評価的観察が心臓血管反応に与える影響は,競争事態による影響に類似している.
健康と対人コミュニケーション 評価 競争 挑発 → 健康に悪影響をあたえ,心臓血管系疾患 に結びつきうる対人コミュニケーション → 健康に悪影響をあたえ,心臓血管系疾患 に結びつきうる対人コミュニケーション しかし,我々はストレス軽減にも 対人コミュニケーションを積極的に用いている! → ソーシャルサポート 健康 相関研究なので因果関係を証明するのが難しい 健康を増進させる媒介過程が明らかでない → サポート効果に関する実験的検討が必要
サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響-1 Kamarck et al.(1990) 被験者: 女子大学生39名(平均年齢18.8歳) 手続き: 友人群の被験者は,同性の友人を伴ない実験に参加.単独群の被験者は単独で実験に参加.安静期の後,暗算課題,概念構成課題を行った. 友人群の,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数上昇は,単独群のそれよりも有意にすくなかった.
サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響-2 目的 サポート的他者の存在が,暗算課題中の血行力学的反応にあたえる影響を検討する.また,サポートが心臓血管反応を軽減する際の媒介過程として,血行力学的反応,ポジティブ感情の変化に着目する. 方法 男子大学生28名が,サポート群,非サポート群に半数ずつわりあてられた.すべての被験者は,4分間の安静期の後,4分間の連続引き算課題を行った. 安静 (4分) 課題 (4分) サポート群 安静 (4分) 課題 (4分) 非サポート群
サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響-3 方法 サポート群は,友人を同伴し実験に参加した.友人はサポート的他者として実験に参加する事を告げられ,安静期,課題期ともに実験室に同室した. その際,被験者の課題遂行を観察できないよう被験者と90度の向きで着席し,さらにヘッドフォンを装着し,クロスワードパズルを遂行し,被験者の課題遂行に注意を向けないよう教示された. 友人 被験者 実験者
サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響-4 結果および考察(生理指標) Changes from baseline -20 -10 10 20 30 HR (bpm) SV (ml) CO (%) TPR SBP (mmHg) DBP non-support support ・サポート的他者の存在は,ストレス負荷時の血圧上昇を抑制する働きがあることが確かめられた. ・血圧上昇の抑制は,主として血管抵抗の低下により生じる可能性が示唆された.
サポート的他者の存在が心臓血管反応にあたえる影響-5 結果および考察(心理指標) 15 non-support 10 support 5 Changes from baseline -5 -10 -15 GA DS HA GD GACL score changes from baseline. GA,DS,HA,GD means general activation, deactivation-sleep, high activation, general deactivation respectively. ・サポート的他者の存在は,「いらいらした」「びくびくした」「緊迫した」などの不快感情には影響を与えず,「活動的な」「積極的な」「活発な」などの活動性に関連した快感情の増大を介しストレス反応を軽減させる可能性が示唆された.
相手との関係次第で益にも害にもなる・・・ まとめー1 対人コミュニケーションは両刃の剣 相手との関係次第で益にも害にもなる・・・ サポート役の評価的側面を最小化できないと,サポート役は血圧をむしろ上げてしまう・・・ Sheffield & Carroll(1996) Allen et al.(1991) Kors et al.(1997) 評価脅威! Dickerson & Kemeny(2004) 急性心理ストレスとコルチゾールの関係を208例の研究からレビュー コルチゾール反応を増大させ なおかつ回復を遅延させるのは... コントロール不能 社会評価脅威
まとめー2 ストレス オキシトシン分泌 HPA系・交感神経系を抑制する 対人コミュニケーション 親和行動(身体接触等) ストレス制御システム の消耗を抑え・・・ 疾病に対する脆弱性に歯止め 回復の可能性を促進する ・MacCabe et al. 社会環境に対するオキシトシンの反応と,それがアテローム性動脈硬化に及ぼす影響をウサギを使って検討 ・De Vries et al. 社会的行動とオキシトシンが脳血管障害および外傷の回復におよぼす影響をマウスを用い検討 ・Ditzen et al. 女性被験者を用い,ストレス負荷に先立ち,ロマンティックパートナーから1.ソーシャルサポートを受けた場合,2.首と肩にマッサージを受けた場合,3.何もしない場合で比較
認知的評価過程 まとめー3 社会評価脅威 その状況における対人関係を どのように評価するか サポート どのように評価するか 刺激の性質に注目して反応を理解しようとするのには限界がある・・・ 認知的評価過程