第7章 どのように為替レートを安定化させるのか 八木 恵莉 第七章のテーマはどのように為替レートを安定化させるのかです。
本章の目的 日本の通貨当局による為替介入の効果の考察 マンデル=フレミング・モデルを利用した開 放マクロ経済における金融政策と財政政策の 効果の考察 通貨危機の伝染効果の説明 本章の目的は3つです。まず、本章では通貨当局という言葉が多用されていますがこれは財務省と日銀のことです。その通貨当局による為替介入の効果を考察すること、マンデルフレミングモデルを利用した開放マクロ経済における金融政策と財政政策の効果の考察、そして通貨危機の伝染効果を説明することが主な目的です。
1 為替介入 ではまず、為替介入についてみていきます。
日本の通貨当局による為替介入 為替介入… 通貨当局による外国為替市場における ドル買い円売り介入やドル売り円買い介入 通貨当局による外国為替市場における ドル買い円売り介入やドル売り円買い介入 まず為替介入とは、通貨当局が外国為替市場において民間金融機関を相手にドル買い円売りやドル売り円買い介入を行ったりして、為替レートの安定を図ることを言います。 図7の1をご覧ください。これは左の縦軸に円の対ドル為替介入額、右の縦軸に為替レート、横軸に年をとり、日本銀行による為替介入と円ドルレートを表しています。細かくはみませんが為替レートに何度か波がありその都度日銀が介入額を増額していることがわかります。
為替介入と外国為替管理 外国為替管理… 公定レート以外で外国為替取引を行うことを 為替介入… 法律で規制する方法 公定レート以外で外国為替取引を行うことを 法律で規制する方法 為替介入… 外国為替市場の市場メカニズムを活用する方法 次に為替介入と外国為替管理についてみていきます。日本とは異なりますが、固定為替レート制度を採用する場合、通貨当局が目標とする公定レートから市場レートが乖離(かいり)することがあります。その場合、通貨当局は市場レートを公定レートへと誘導しようとし、その方法が二つあるのでご紹介します。 まず一つ目が外国為替管理です。これは、公定レート以外で外国為替取引を行うことを法律で規制する方法です。二つ目は為替介入で、外国為替市場の市場メカニズムを活用する方法です。これは通貨当局自らが、需給におけるギャップを埋めるように外国為替取引を行うことで公定レートに市場レートを誘導するというものです。
為替介入と不胎化政策 外国通貨の売買 ⇩ 外貨準備高が変化 ⇩ ↓ 資産&通貨 他の資産項目の 発行残高を変化 国内信用残高を変化 ⇩ ↓ 資産&通貨 他の資産項目の 発行残高を変化 国内信用残高を変化 では通貨当局が為替介入を行うとどうなるのかもう少し詳しく見ていきます。 まず、通貨当局が外国通貨を売買すると、通貨当局が保有する外貨準備残高が変化します。その場合、タイ政府信用と対民間信用を合わせた国内信用残高を変化させなければ、その外貨準備残高の変化は通貨当局の資産そして夫妻に相当する廃パワードマネー残高を変化させます。これは図7の2を見てわかるように、バランスシートにおいて負債に当たるハイパワードマネーと資産に当たる国内信用残高と外貨準備残高の合計が等しいことからきています。 具体的には、例えば民間取引における外国通貨需要が供給を上回ったとします。このとき通貨当局はその外国通貨への超過需要を埋めるように外国通貨を売り、供給します。このとき、その他の資産項目が変化しないならば通貨発行残高も同時に減少します。逆に通貨当局が自国通貨を減価させる自国通貨売りを行うと通貨発行残高が増加します。
不胎化政策… 国内信用残高を調節して、為替介 入による通貨発行残高の変化を相 殺すること 国内信用残高を調節して、為替介 入による通貨発行残高の変化を相 殺すること また、通貨当局が為替介入を行うと同時に為替介入によるファイ化準備残高の変化を相殺するように国内信用残高を変化させて通貨発行残高を変化させない場合もあります。このように、国内信用残高を調節し、為替介入による通貨発行残高の変化を相殺することを不胎化政策と言います。相殺(そうさい)するというのは、債務者が債権者に対して同種の債権を有する場合にその債権と債務とを対等額だけ消滅させることです不胎化政策の例を挙げると、急激な円高になった場合、為替介入によって円売りを行い市場に円を増やすことで価値を下げます。しかしそれによって金融市場にはハイパワードマネーが増え通貨供給量が増えることで金利が下がります。ここで不胎化政策として売りオペを行うことで市場の余剰資金を吸収し、金利が下がらずに済む、その代わり為替介入の効果は薄れてしまうということです。
通貨当局が為替介入による外貨準備残高の変化を 通貨発行残高に影響させる為替介入 不胎化政策を伴う為替介入… 不胎化政策を伴わない為替介入… 通貨当局が為替介入による外貨準備残高の変化を 通貨発行残高に影響させる為替介入 不胎化政策を伴う為替介入… 国内信用残高の調節によって通貨発行残高に影響 させない為替介入 また、不胎化を伴わない介入とは、通貨当局が為替介入による外貨準備残高の変化を通貨発行残高に影響させる為替介入で、 不胎化政策を伴う為替介入とは、通貨当局が為替介入による外貨準備残高の変化を国内信用残高の調節によって通貨発行残高に影響させない為替介入のことを言います。
為替介入の効果 ①不胎化政策を伴わない為替介入の場合 →民間取引による外国通貨に対する超過需要を 減少させて、通貨当局による通貨介入と相 →民間取引による外国通貨に対する超過需要を 減少させて、通貨当局による通貨介入と相 まって需要供給を等しくさせるよう作用する では、この為替介入にはどのような効果があるのか実際に見ていきます。 まず不胎化政策を伴わない為替介入の場合、外国通貨に対する重要が供給を上回り、自国通貨を減価し、外国通貨を増価させる圧力があるとします。通貨当局は自国通貨を買い外国通貨を売ることで公定レートを維持しようとします。ここで不胎化政策を伴わない場合、通貨発行残高が減少し国内金利が上昇、この上昇は消費や投資を縮小し、それに伴い国内生産物の物価上昇までも抑制します。同時に国内金利の上昇によって資本が流入し、国内生産物の国際競争力は高まり、輸出が増加する一方輸入は減少し、民間における外国通貨売り自国通貨買いの外国為替取引を増大させます。 つまり、不胎化政策を伴わない為替介入は民間取引における外国通貨への超過需要を減少させ、通貨当局による為替介入と相まって需要供給を等しくするよう作用します。
為替介入の効果 ②不胎化政策を伴う為替介入の場合 (→国内利子率や国内物価への影響はない) →☆シグナリング効果 →☆リスク・プレミアムを通じた効果 次に付帯政策を伴う場合、通貨発行残高が変化しないため国内利子率や国内物価が変化しません。しかし、不胎化政策を伴わない為替介入は国内利子率や国内物価以外の経路を通じて為替レートに影響を及ぼす場合があり、それがシグナリング効果とリスクプレミアムを通じた効果の二つです。
シグナリング効果 市場において情報の非対称性を伴った場合、 私的情報を保有している者が情報を持たない 側に情報開示をするような行動をとる まずシグナリング効果とは、市場において情報の非対称性を伴った場合、私的情報を保有しているものが保有していないものに情報開示をするような行動をとることです。これをもう少しわかりやすく言うと(本文読む) つまり、ここでいうシグナリング効果とは意図的に誰かが将来の情報を開示しているわけではないが、将来の予想がついてしまい現在から変化が起きてしまうことを言う。
リスク・プレミアムを通じた効果 →リスクの高い資産の期待収益率からリスクの低い 資産の期待収益率を差し引いた超過収益率のこと →自国通貨の価値を高める方向に為替レートを変化 させる 次にリスクプレミアムを通じた効果についてみていきます。まずリスクプレミアムとはとは、リスクの高い資産の期待収益率からリスクの低い資産の期待収益率を差し引いた超過収益率のことです。 (本文)
マクロ経済政策 では次にマクロ経済政策についてみていきます。
マンデル=フレミング・モデル 開放マクロ経済モデル 実物部門(生産物市場の均衡)と金融部門 (貨幣市場均衡)との相互作用によってマク ロ経済変数(GDP/金利/為替レート)が決定さ れる 今回重要なのがマンデルフレミングモデルです。これは開放マクロ経済モデルで、実物部門と金融部門との相互作用によってマクロ経済変数が決まる、つまり生産物市場と貨幣市場均衡の相互作用によってGDPや金利などが決定されるということです。
マンデル=フレミング・モデル 自国の金融政策と財政政策が外国経済に影響しない ほど時刻は小国開放経済である 失業が存在するため、賃金と物価が変化しない 国際資本移動が容易 将来の為替レートは静学的予想 常に時刻と外国の金利が等しい まず、このモデルを見るうえで条件を確認します。 まず自国の金融政策と財政政策が外国経済に影響しないほど時刻は小国開放経済であるということ、 失業が存在するため賃金及び物価が変化しないということ、 また国際資本移動に対して規制がないため資本移動が容易であるということ、 為替レートの予想形成についてはっ現在の為替レートが将来も続くと予想する静学的予想であり、この予想の過程では予想為替レート変化率がゼロのため金利閉架式より常に時刻と外国の金利が等しいという、以上の条件を頭に入れておいてください。 ではまず図7の3をご覧ください。横軸に」GDP縦軸に金利をとります。生産物市場均衡をIS戦として表します (本文) このふたつが交わるI=Iスターの部分で国際収支は均衡します。 このグラフから読み取れることは、政府支出が増大したり、自国通貨の価値が低下したとき、生産物市場が均衡するためにはGDPを増価させるか金利が上昇する必要があるためIS線は右にシフトします。 また、LM線はというと、超過供給が発生した場合、貨幣市場を均衡するためには」GDPが増加するか金利が低下する必要があるためLM線も右にシフトします。
財政政策の効果(変動為替レート制度) では次に財政政策の効果についてこのモデルを用いてみてみます。まず変動為替レート制度の場合です。政府支出が増加する、つまりIS線が右にシフトすると、国内金利への上昇圧力がかかります。これによって資本が外国から流入し、しノン流入は自国通貨買い外国通貨売りの外国為替取引であるので自国通貨の価値を上昇させます。自国通貨が増加すると輸出が減少し輸入が増加するためIS線は左にシフトします。結局、変動為替レート制度の場合、拡張的財政政策はGDPを増価させることはできないということがこのグラフからわかります。
財政政策の効果 クラウディング・アウト …政府を支出が増加しても自国通貨増価によっ て純輸出が減少して、GDPがかわらないことか ら、政府支出が外需(輸出)を締め出すという 現象 また、政府支出が増加しても自国通貨の価値が上昇することで純輸出が減少してGDPが変わらないことから、政府支出が輸出を締め出したと言えます。この現象をクラウディングアウトと言います。
財政政策の効果(固定為替レート制度) 次に固定為替レート制度の場合の財政政策の効果を見ていきます。先程と同じく政府支出が増加し国内金利への上昇圧力によって資本流入すると、固定為替レートを維持するために自国通貨売り外国通貨買いの為替介入が起き、不胎化政策が伴わなければ、通貨当局の外貨準備残高が増加するので通貨発行残高も増加しLM線が右へシフト、つまりGDPが増加することになります。 つまり、財政政策は固定為替レート制度においては有効であると言えます。
金融政策の効果(変動為替レート制度) では次に金融政策の効果をこのモデルを用いてみていきます。 まず変動為替レート制度の場合です。 通貨発行残高が増加する、つまりLM線が右にシフトすると国内金利に対して低下圧力がかかり』資本が国外流出します。これによって自国通貨の価値が下がるため輸出が増加し輸入が減少します。つまりIS線が右にシフトします。したがって金融政策は変動為替レート制度においてGDPを増価させ有効である。
金融政策の効果(変動為替レート制度) 近隣窮乏化政策… 外国のGDPを減少させる副作用を伴いな がら自国のGDPを増加させる金融政策 つまりじこくのGDPが増加する場合は外国のGDPを減少さえ得るという副作用を伴いながら自国のGDPを増価させており、このような金融政策を近隣窮乏化政策と言います。
金融政策の効果(固定為替レート制度) 次に固定為替レートの場合、LM線が右へシフトすると、国内金利低下圧力によって国外への資本流出が起き、自国通貨の価値を下げます。そこで為替レートを固定化するために自国通貨買い外国通貨売りの為替介入が起き外貨準備残高が減少します。ここで不胎化政策を行わないならば通貨発行残高が減少しLM線は左へ戻ります。したがって固定為替レート制度の場合金融緩和政策はGDPを増価する音はできないと言えます。 以上のように変動為替レート制度と固定為替レート制度においてマクロ経済への効果が非対称的であることがわかる。
通貨危機の原因 では最後に通貨危機の原因についてみていきます。
通貨危機とは 自国通貨の減価を止めるために通貨当局が外国通貨 売り・自国通貨買いの為替介入を続けて外貨準備残 高を失うこと 1992年欧州通貨危機 1994年メキシコ通貨危機 1997年アジア通貨危機 2008年世界金融危機 アイスランド&東欧で通貨危機 まず通貨危機とは、自国通貨の減価を止めるために通貨当局が外国通貨売り自国通貨買いの為替介入を続けて外貨準備残高を失うことです。この通貨危機は金融のグローバル化に伴い新子億かし、他通貨への伝染が問題となっています。 1990年代には、(スライド読む)
通貨危機とは ファンダメンタルズに基づく通貨危機 自己実現的な通貨危機 金融危機を伴う通貨危機 通貨危機には(スライド)の3つの危機があります。
ファンダメンタルズに基づく通貨危機 ファンダメンタルズによって決定される 為替レートとの間に矛盾がある場合に投 資家による投機攻撃を受けて発生する通 貨危機 まずファンダメンタルズに基づく通貨危機とは、ファンダメンタルズによって決定される為替レートとの間に矛盾がある場合に投資家による投機攻撃を受けて発生する通貨危機のことです。例えば税制が未整備な発展途上国では、政府が政府支出を賄うために通貨を発行して通貨発行利益によって税収を補う傾向があります。通貨需要を越えて通貨が大量に供給されると効率のインフレが起きてしまいます。財政赤字とインフレに直面している国は自国通貨を減価させる圧力が働きますが、それにもかかわらず為替レートが固定されると通貨危機が発生しやすくなるということです。
自己実現的通貨危機 ファンダメンタルズが悪化していなくと も、通貨価値が下落するという主観的な 予想に基づいて投機攻撃を行う投資家が 多数存在するときに実際に発生する通貨 価値下落の危機 次に自己実現的通貨危機です。これは、ファンダメンタルズが悪化していなくとも、通貨価値が下落するという主観的な予想に基づいて投機攻撃を行う投資家が多数存在するときに実際に発生する通貨価値下落の危機のことです。わかりやすくいうと、将来自国通貨が減価すると予想される場合に、実際に減価しないうちから自国通貨売り外国通貨買いが始まり将来時点では予想為替レートに基づいて外国通貨を売り自国通貨を買うという投棄が行われます。このような投機を多くの投資家が行うとSの時点で自国通貨が減価してしまいます。このように将来の出来事の予想が現在において実現することから自己実現的通貨危機と言います。
通貨危機と金融危機 最後に通貨危機と金融危機です。 通貨危機によって自国通貨が減価したとします。それによって外国通貨建て債務の自己通貨建ての価値が増大します。一方自国通貨建て債券は増大しないため多くの国内金融機関が外貨建て債務をおおく背負っている場合に国内金融機関が共通して債務超過に陥り金融危機が発生します。このように通貨危機と金融危機は大きく関係しています。
通貨危機の伝染効果 次に通貨危機の伝染効果についてです。この伝染目毛にズムは、通貨危機が発生した国の通貨が減価するとその国の輸出材の国際価格競争力が高まります。同時に通貨危機が発生した国と貿易において競争関係にあるほかの国では相対的にその国の通貨が増加し過大評価されます。つまりその国の輸出材の国際競争力が下がるということです。これによって貿易収支赤字が増加し中央銀行の外貨準備が減少しこの国の通貨に対しても投機攻撃を受けるということです。
世界金融危機 次に世界の金融危機についてみていきます。 個々ではそこまで重要ではないので詳しい説明は省きますが、 (本文へ)
ギリシャ財政危機とユーロ暴落 2009年10月 政権交代 財政統計処理の不備→財政赤字の上方修正 ギリシャ財政への信認失墜→財政危機へ 2009年10月 政権交代 財政統計処理の不備→財政赤字の上方修正 ギリシャ財政への信認失墜→財政危機へ ユーロ圏諸国への財政危機の波及の懸念 ユーロ暴落 2010年5月 ギリシャへの金融支援プログラム 欧州安定化メカニズム 最後にギリシャ財政危機とユーロ暴落についてです。 (本文へ)