心理学概論Ⅱ 第6講 2011年11月1日(火) 担当:岡田佳子
3.権威への服従
罪のない他者を傷つける行為など、本来なら行わないようなことをするように権威ある他者から要求されたとき、人は自分の信念を貫いてその要求をはねつけるだろうか?
服従実験 S.ミルグラム(Milgram,1974) ○「学習に及ぼす罰の効果」という表向きの理由で被験者を募集(アメリカの一般市民の男性) ○被験者はもう1人の別の被験者(本当はサクラ)と組になり、あらかじめ仕組まれた「くじ」によって被験者が教師役、サクラが生徒役になった(図4) ○教師役は生徒役に記憶再生の問題を出し、間違えると電気ショックを、間違えるたびに1段階(15ボルト)ずつ強くして送るように実験者から指示される(図5)
つづき ○生徒役のサクラは、打ち合わせどおり間違える。 ○教師が送電盤から電気ショックを送ると、75ボルトまでは不平をつぶやき、135ボルトでは苦しいうめき声、150ボルトから悲鳴をあげ実験の中止を求め、330ボルトからは何の反応もしなくなった(実際にはもちろん電気ショックは送られない。演技をしている) ○もし被験者が中止を申し出たら「お続け下さい」⇒ (それでも嫌がる場合) 「続けることが絶対に必要です」⇒ (それでも嫌がる場合) 「迷うことはありません続けるべきです」 ○2度続けて中止を申し出た時点で実験終了
結果の予想 図5を参考に、多くの被験者は何ボルトぐらいの電気ショックまで実行したか予想してみてください。自分だったらどうでしょうか?420ボルトを超えると、非常に危険を超えて×××とされていますが、それ以上のショックを流した人はいたでしょうか?
結果を予想してみて下さい 私はこの実験を始めて聞いたとき、「私なら絶対に途中でやめる」と思いました。 実際に、心理学者、精神医学者も実験前はせいぜい135ボルトで拒否するだろうと予測。また、自分なら絶対に最後まで出来ないと考えた(図6) みなさんは、どう思いましたか?
結果 40人の被験者の約6割が、強い心理的葛藤の徴候(冷汗、ふるえ、ヒステリックな笑い、極度の緊張など)を示しながらも、最後の450ボルトまで送電しつづけた。 (図6) ⇒どんな人でも権威のもとに置かれると、残酷で非人間的な命令に対しても容易に服従する
なぜ? 代理状態(agentic state) 他者の要求を実行する代理人であると自分をみなしている状態 他者の要求を実行する代理人であると自分をみなしている状態 ⇒この場合、最終責任は実験者で自分は指示されて行っているにすぎないと考えてしまう。 ⇒命令だけ敏感になり、傷つけている相手には注意を向けなくなる 「この実験は科学の発展のために必要だ」という勝手な解釈 「自分は命令を果たしただけだ」という弁解
結果の補足 この実験は「発声条件」だが、他の条件でも行われた⇒図7 別室でショックに対する反応が分からない(遠隔条件) 別室で生徒の声だけ聞こえる(発声条件) 同室で生徒の反応が分かる(接近条件) ショックが与えられる金属板に生徒の腕を押さえつけながら行う(接触条件)
結果は・・・図7より 遠隔であるほど服従の程度が強い ⇒現代の戦争は、遠隔条件と同じような状況。服従が起こりやすい・・・・と思いませんか?
追記 倫理的な問題 実験終了後には、生徒役はサクラで、実際は苦痛を受けていなかったことを含め、この実験の目的を入念に説明した 追記 倫理的な問題 実験終了後には、生徒役はサクラで、実際は苦痛を受けていなかったことを含め、この実験の目的を入念に説明した しかし、被験者に偽りの情報を与えて、身体症状を伴う極度の緊張を含む精神的苦痛を経験させることが実験だからといって許されるのか?という問題。 ⇒間違いなく、現在は許されない実験です
今日のプリントに入ります
授業で取り上げる主な内容(予定) 1.社会的認知/態度と態度変化 (個人・対人レベル)1回 (個人・対人レベル)1回 ⇒人をどのように理解・判断するか?態度が変化するのはどのようなとき? 2.社会的影響(集団ベル)2回 ⇒集団や社会、多人数者の意見からどのような影響をうけるか? 3.対人魅力と対人関係/援助(対人レベル)1回 ⇒なぜ人に魅せられるのか?人を助ける心理とは? 4.集団と個人(集団レベル)1回 ⇒集団で行ったほうが、個人で行った場合より生産性があがるか?リーダになるひととは?集団は個人にどのような圧力を加えるか?
こんなことありませんでしたか・・・? あれ、この先生の数学の授業はいつもわかりやすいのに、今日の授業なんか難しくてよくわからないなぁ。やばい。ついていけてないのかな・・・ 先生:「なにか質問ありますか?手をあげて」 手をあげたら理解できていないのバレるから下を向いて黙っている 周囲の人は誰も手をあげない 「みんなは理解できたんだぁ。わからないのは私ひとり・・・やばいよぉ」
周囲のみんなも自分と同じ行動をしている(手をあげずに黙っている)のに・・・ 自分の「恥をかきたくない」という気持ち →気づく 他者の「恥をかきたくない」という気持ち →読み取れない→「授業が理解できた」と考える 誰もが自分ひとりだけ違っていると思い、同時に同調 誰も手をあげない
1.大勢の人々に同時に生起する同調 1-1.集合的無知 (pluralistic ignorance) 実際には類似しているにも関わらず、自分ひとりが他の人と違っていると思い込み、誰もが同時に同調する状況。
集合的無知の影響 人々から実際には支持されていない社会規範を永続化させる 個人の行動や態度を変える(手をあげない例) 例)サークルで、女子は部長になれないという伝統 それについて誰もなにも言わない ←大多数がよしとしているのだから・・・とお互いに想定することによって、全体がそれを支持する方向へ導かれる 個人の行動や態度を変える(手をあげない例) 例)裸の王様 はじめは王様を裸だと思った人々もやがて「立派な服」と褒め称えるようになり、ますます誰も「裸だ」と言えなくなった ←あっさり「裸じゃん」(まだ社会規範を共有していない子ども)
1-2.世論と同調 だいぶ前の話ですが・・・ イラクにボランティアで行っていた日本人3名が人質になった事件を覚えていますか? 当時、マスコミはこぞって「自己責任論」を展開し、世論はいっせいに「こんなときに行くのが悪い、迷惑だ」。救出を懇願する家族にまでひどいバッシングの嵐だった。 でも本当に日本中の人が、同じことを考えていたのでしょうか?
なぜでしょう? はじめはそれほどでもなかったバッシングがなぜ途中からあんなにも過熱したのでしょう。 なぜあのとき、世論とは異なる意見が全くないように見えたのでしょう。
沈黙の螺旋理論 ノエル=ノイマン(Noelle-Neumann,1989) 世論は調査から明らかにされた結果であるだけでなく、それ自体が社会的圧力になる 詳細はプリント