マイクロレンズ現象 でみる連星系 米原 厚憲 (京都産業大学 理学部).

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マイクロレンズ現象 でみる連星系 米原 厚憲 (京都産業大学 理学部)

アウトライン マイクロレンズ現象 マイクロレンズ現象の観測 連星のマイクロレンズ現象 レンズ天体の情報 光源天体の情報

1.マイクロレンズ現象

光は直進しない 一般相対論の教え Einstein (1911) など 天体が存在すれば、その重力で空間が歪む。 光の筋道は曲がって見える。 光は直進しない 一般相対論の教え Einstein (1911) など  天体が存在すれば、その重力で空間が歪む。  光の筋道は曲がって見える。  その“地点”で直進でも、  遠方から見て直進ではない。  (見る人による見え方の違い)  ⇒ 観測波長に依存しない現象

重力レンズ現象が起きる状況 私たちから何か物体を見た時、  方向が近く、奥にある物体が影響を受ける θ β

時間の遅れと重力レンズ方程式 主に以下の3式から、「重力レンズ現象がどのように観測されるか」が決まる “時間の遅れ” “レンズ方程式” (一階微分) “増光(像の変形)” (二階微分)

期待される現象 光の到達時間が遅れる 光の経路が歪められる 光の経路が直線からずれる ⇒ 幾何学的な時間の遅れ 光の経路が直線からずれる   ⇒ 幾何学的な時間の遅れ 光が深い重力ポテンシャル中を通過 ⇒ 一般相対論的な時間の遅れ 光の経路が歪められる 光の曲がり角は位置に依存する ⇒ 像の変形・増光(拡大) ‘あらぬ方向’からも光が届きうる ⇒ 多重像の形成

Eddingtonらの観測 恒星の位置が本来の位置からずれている ↓ 太陽の重力で光の筋道が曲がったことを検証 (2秒角弱 ~   ↓ 太陽の重力で光の筋道が曲がったことを検証 (2秒角弱 ~  太陽直径の約1/2000) Dyson, Eddington, Davidson (1920), Philosophical Transactions A, 220, 291-

Einstein (1936), Science より (中略)

恒星が恒星の前を横切るとき

典型的なスケール 2つの像の離角 ~ 1[mas] ⇒ 空間分解困難 (“アインシュタインリング半径”) 現象のタイムスケール ~ 1 [month] ⇒ 時間分解可能 現象の増光には典型的なスケールが無い ↓ 時間とともに、明るさが変化する現象として観測

Paczynski (1986) 銀河ハロー中のダークマター(MACHO)探し

2.マイクロレンズ現象の観測

実際の観測例 1ヵ月程度での明るさの変化 約6年で、13~17個検出! Alcock et al. (2000), ApJ, 542, 281 1ヵ月程度での明るさの変化  約6年で、13~17個検出!

観測から何が得られるか? 光度曲線を理論モデルでフィット ⇒ tE、m0、( fbl )、umin、T0 光源・レンズ天体の距離の推定 光源・レンズ天体の速度の推定  (銀河ハロー等の無矛盾な力学モデル)   ⇒ レンズ天体の質量の推定 Alcock et al. (2000) Alcock et al. (1995)

銀河ハローから銀河バルジへ 銀河ハローのMACHO: τ~10-7 (100%MACHOは、ほぼ棄却) 銀河の構造・系外惑星探査に有効 銀河バルジ(明るい、近い):  τ~10-6 (e.g., Sumi et al., 1997) MOA-Ⅱ @ NZ: 日本など OGLE-Ⅳ @ Chile: ポーランドなど  現在、~103 [event / yr] + 多くの副産物  (前シーズン:MOA-Ⅱ 485、OGLE-Ⅳ 1562)

神山天文台での現象の観測例1 荒木望遠鏡/ADLER で観測した天の川中心の 3色合成図(CCD: 2k x 2k、FOV: 12’ x 12’)

神山天文台での現象の観測例2 MOAのフォローアップ マイクロレンズ現象: MOA-BLG-2011-325 実際に取得したデータ ① ② ③ MOAのフォローアップ マイクロレンズ現象:  MOA-BLG-2011-325 実際に取得したデータ  ① ② ③

3.連星のマイクロレンズ現象

レンズ天体が“連星”の場合

連星レンズの性質 間隔がアインシュタインリング半径程度の時、特に大きな影響が表れる レンズ天体の質量分布が軸対称ではない  ⇒ 新たなパラメター: 質量比、軌道半径  ⇒ 複雑な増光パターンを(数値)計算 軌道周期 ~ tE となると、直線運動では不十分

観測例: MOA2011-BLG-396

“連星レンズ”の公転が見える場合

増光パターンのカテゴリー 質量比 ( q ) と軌道半径 ( d ) で決まる。

増光パターンの変遷(間隔の変化)

連星レンズの検出 マイクロレンズ現象の確率 τ ~ 10-6 恒星の中の連星系の割合 ~ 1/2 しかし、 実際の検出:通常の現象の ~ 1/10 レンズが連星系であっても、 連星系らしい特徴を必ず示すわけではない レンズ・光源天体の経路 連星の質量比・軌道半径 (後ほど、もう少し詳しく触れる)

ちなみに、見かけの連星の場合

見かけの連星レンズの検出 マイクロレンズ現象の確率 τ ~ 10-6 別の恒星が、アインシュタインリング半径程度近くに存在している(奥行きは違う)確率   ~ マイクロレンズ現象の確率そのもの ということは、 光度曲線の中に、連星系レンズと思われる特徴を持つものは、ほぼ全て本当の連星系 (力学的に束縛されているかは簡単にはわからない)

4.レンズ天体の情報

光度曲線のモデリング 例えば、増光マップを数値計算し、光度曲線のモデリング、観測とのフィッティングを行う 質量比 軌道半径 (軌道周期)

現実の連星系で期待されるパターン 連星レンズとしては かなり近い 質量比にほぼよらず close のパターン

近年の連星レンズの観測 あらゆる連星の観測に向いているわけではない しかし近年、 系外惑星探査を目的とした観測ストラテジー ⇒ 従来よりも多くの連星が観測可能に! (系外惑星の裏付け → 連星レンズの否定) 実際に、数多くの連星レンズ現象が検出 ⇒ モデリングを通して、パラメターを決定 (パラメターの縮退が解けない場合がある)

Shin et al., (arXiv:1109.3295) MOAが発見した連星レンズ現象のまとめ

つづき MOAが発見した連星レンズ現象のまとめ

つづき MOAが発見した連星レンズ現象のまとめ

連星の回転が顕著に表れる場合

連星の公転周期 Penny et al., (2011) こんなものが見えるか?

Albrow et al., (2000)

つづき

5.光源天体の情報

レンズ マッピング 強く増光する領域(狭い!) ↓ 光源の一部の領域を選択的に増光 光源の輝度分布を推定可能 Light curve caustic Strongly magnified region 強く増光する領域(狭い!)    ↓ 光源の一部の領域を選択的に増光 光源の輝度分布を推定可能 Light curve 2 1 モデルフィッティング 逆問題を解く 1 2

光源の輝度分布依存性 causticsを横切る時の  光度曲線の例: 周辺減光のモデル 光源のサイズ

周辺減光込みのフィッティング例 高増光時の詳細な観測 ⇒ 光源の情報 Zub et al., (2011) Kubas et al., (2005) 高増光時の詳細な観測 ⇒ 光源の情報

おしまい

非常に強く増光される領域 「レンズ面    ⇒ 光源面」 の変換による、カスプの形成

非常に強く増光される領域付近 光源天体の場所によって、不連続に像の数が変化する。

降着円盤 マッピング (クェーサー) Simulated light curve for fold caustics crossing event Reconstructed emissivity profile

Disk Model Diagnosis Emissivity Distribution Expected Light Curve Caustic crossing The wavelength dependence will tell us physical condition of quasar accretion disks

Size of an accretion disk Via light curve fitting: (single band observation) finite size source magnification near caustics Size upper limit < 2000 (AU)