脳卒中急性期の装具療法について 葛西循環器脳神経外科病院 リハビリテーション室 三岡相至 桐田泰蔵 坂牧やよい 同脳神経外科 葛西循環器脳神経外科病院 リハビリテーション室 三岡相至 桐田泰蔵 坂牧やよい 同脳神経外科 阿波根朝光 柴田憲男 原靖 新田一美 中澤和智 林盛人 吉田康成 早川義肢製作所 松岡利光
はじめに 当院では脳卒中超急性期から理学療法を行っているため、早期離床・早期歩行の獲得をできているが、このとき装具療法が大きな役割を果たす。早期の装具処方があだになり、採型時装具変更を余儀なくされた症例と、装具完成までの期間を短縮することで、早期歩行獲得・退院となった症例より、急性期の装具療法について考察する。
症例-1 性別 女性 年齢 60歳 診断名 脳出血 (皮質下出血 くも膜下出血) 家族構成 夫・娘2人 キーパーソン 娘
発症直後のCT 右 左
DSA 側面像 前後像
経過 平成13年10月10日発症 10月11日手術 (開頭血腫除去術) 10月13日理学療法開始 10月17日歩行訓練開始 10月11日手術 (開頭血腫除去術) 10月13日理学療法開始 10月17日歩行訓練開始 10月20日装具採型(SHB処方) 10月27日装具仮合わせ(Semi SHBに変更) 10月31日装具完成・院内歩行自立
慢性期のCT 右 左
運動機能評価 発症時下肢運動機能 Brunnstrom stage Ⅱ 発症後2週目下肢運動機能 Brunnstrom stage Ⅳ
症例-2 性別 女性 年齢 60歳 診断名 脳梗塞(放線冠) 家族構成 夫・息子と同居(3人暮らし) キーパーソン 夫
入院直後のMRI 右 左 拡散強調画像 T2強調画像 T2強調画像
経過 平成13年12月17日発症 12月21日症状増悪し入院 12月25日理学療法開始 12月28日SHB使用 監視下歩行可能 12月21日症状増悪し入院 12月25日理学療法開始 12月28日SHB使用 監視下歩行可能 平成14年 1月 4日装具採型(Semi SHB) 1月 8日装具完成 退院
慢性期のMRI(FLAIR,T2) 左 右 FLAIR T2強調画像
運動機能評価 発症時の下肢運動機能 Brunnstrom Stage Ⅲ 発症後2週目下肢運動機能 Brunnstrom stage Ⅳ
装具完成までの流れ 1日目 採型・陰性モデル作製 陽性モデル作製 2日目 モデル修正・フォーミング 1日目 採型・陰性モデル作製 陽性モデル作製 2日目 モデル修正・フォーミング 3日目 トリミング・ベルクロバンド取り付け 4日目 完成
装具完成が早まることの利点・欠点 <利点> 効率がよい(仮合わせ等の手間不要) 患者に適した装具が早期に使用可能 早期退院可能 <欠点> 装具の完成が雑になる可能性がある(完成度が不十分になりうる)
考察① 当院では超早期から理学療法を行っているため,患者の身体機能の変化が著しく,発症後早期、特に発症後2週間以内の早すぎる装具処方は,その後に変更を要する可能性も考えなければならない。また発症後2週間以内は予後予測がつけにくく、再発の危険性もあるため,装具の処方は好ましくないのではないかと考える。症例1では採型時の身体機能ではSHBでの歩行の自立と予想したが,身体機能の向上が著しく仮合わせの時点ではsemi SHBが適応と考えられた。発症後2週間以内の装具処方は注意を要するものと考える。
考察② しかし2週目以降も麻痺が残存すると予想される患者では,装具使用は,異常歩行の抑制や,早期の歩行獲得,早期退院につながる。また,患者本人や家族の意欲の向上をもたらすことも可能であり,処方の時期は発症後2週目以降が適切ではないかと考える。症例2では装具採型後4日で装具完成となり,歩行の自立・早期退院が可能となった。装具の処方の時期のみならず,完成までの期間も早期の装具療法では考慮に入れなければならないと考える。
結語 脳卒中急性期は早期からの装具療法がよいとされているが,超急性期からの装具作製は,余分な経済的負担を患者に強いる可能性もあり,作製する場合には十分な検討が必要であると考える。また現在一般的には装具採型から完成までの期間は2週から3週を要すると考えられているが,発症後2週目の時点で麻痺がある患者に対しては,装具の完成を早めることで早期歩行の獲得・早期退院が可能になると考える 。