複合結晶[Ca2CoO3+δ]pCoO2の磁性と結晶構造 横浜国大院工 難波 匡玄,中津川 博
目的 ・δを減少させることにより、陽イオン置換と同様に electronドープが可能であるか確認する。 [Ca2CoO3+δ]pCoO2 (p=b1/b2) RS層(Ca2CoO3+δ) b2 O Ca b1 Co CoO2層 Fig.Crystal structure ・δを減少させることにより、陽イオン置換と同様に electronドープが可能であるか確認する。 ・δを減少させたことにより、結晶構造及び磁性の変化を確認する。 ・Coイオンの価数及び磁性の変化より、RS層及び、CoO2層中における Coイオンのスピン状態を推定する。 [Ca2CoO3+δ]pCoO2はRS層中のCaサイトを置換することで、Co原子価を変化させることが出来ることが知られています。 本研究では ・RS層中のδを減少させ、electronドープが可能であるか、 ・δを減少させたことによる物性の変化、 について確認し、Co原子価、及びスピン状態に関して、一つの可能性を推定しました。
試料作成と実験方法 作成手順 [Ca2CoO3+δ]pCoO2(p=0.601、0.605、0.606、0.630)の4種類の試料を合成した。 ・原料粉末CaCO3、Co3O4をp=0.57、0.61、0.62、0.63とし秤量 ・湿式混合 ・空気中で900℃24時間仮焼 ・ペレット状にプレス ・920℃24時間燒結、それぞれ約2g作成 ・それぞれ約0.5g、N2雰囲気で800℃12時間アニーリング 実験方法 1.組成分析 ICP発光分光分析(焼結後の試料) 酸化還元滴定(焼結後、アニーリング後の試料) 2.X線粉末回折及び構造解析 X線粉末回折を行い、PREMOSを用い格子定数を求めた。 3.物性 SQUIDでMT:Field Cooling (FC)、 Zero Field Cooling (ZFC)、MHを測定 100K~300Kにて抵抗率を測定 297Kにて熱起電力を測定 試料作成は CaCO3、Co3O4を原料粉末とし、秤量、湿式混合後、900℃24時間仮焼、 粉砕した後、ペレット状にプレスし、920℃24時間焼結し、約2gずつ作成しました。 その後、約0.5g窒素雰囲気で800℃12時間アニーリングを行いました。 実験方法は 組成分析として、 ICP発光分光分析を焼結後の試料に行い、 酸化還元滴定を焼結後の試料、N2アニーリング後の試料にそれぞれ行いました。 結晶構造の確認は X線粉末回折ピークから、構造解析ソフトPREMOSを用い、格子定数まで求めました。 その他、物性については、 SQUIDでMT、MH、磁化を測定 100K~300Kで抵抗率を測定 297Kで熱起電力を測定 しました。
試料(p’=) 組成式(p=b1/b2) 0.601[Air] 0.601[N2] 0.605[Air] 0.605[N2] 組成分析及び、格子定数 Table. 構造と組成 試料(p’=) [Ca2CoO3]p’CoO2 組成式(p=b1/b2) [Ca2+xCoO3+δ]pCoO2 0.601[Air] [Ca1.95CoO2.95]0.617CoO2 0.601[N2] [Ca1.96CoO2.58]0.621CoO2 0.605[Air] [Ca1.96CoO2.97]0.618CoO2 0.605[N2] [Ca1.97CoO2.60]0.621CoO2 0.606[Air] [Ca1.97CoO2.97]0.618CoO2 0.606[N2] [Ca1.97CoO2.61]0.619CoO2 0.630[Air] [Ca2.04CoO3.07]0.618CoO2 0.630[N2] [Ca2.02CoO2.81]0.621CoO2 ※pはRietvelt解析(PREMOS) x及びp’はICP発光分光分析 δは酸化還元滴定により決定 表、構造と組成中の左側の列にある数字はICP発光分光分析結果の陽イオンの比から、 [Ca2CoO3]p’CoO2としてp’の値を表記しています。 このような組成である試料に対し、焼結後、N2アニ-リング後について、 構造解析と酸化還元滴定を行いました。 構造解析の結果より、N2アニーリングをすることにより、b2の値が減少、 これにより、b1/b2で示されるpが増加しました。 この構造解析の結果からpを、酸化還元滴定の結果からδを求め、 [Ca2+xCoO3+δ]pCoO2として表記しますと、表中、右側の列のようになります。 Fig. b軸長さ
弱強磁性の減少 焼結後の試料、N2アニーリングをした試料についての磁性です。 また、 左側の図に示した通り、温度磁化測定におけるZFCとFCの低温における差異がほぼ消えていることが確認できました。 このことより、フェリ磁性が減少したと考えられます。
有効磁気モーメント μeff[μB] Savg 0.601 (Air) 1.092 0.2356 (N2) 1.117 0.2541 Table. 有効磁気モーメントとスピン μeff[μB] Savg 0.601 (Air) 1.092 0.2356 (N2) 1.117 0.2541 0.605 1.286 0.3145 1.297 0.3189 0.606 1.227 0.2914 1.289 0.3157 0.630 1.305 0.3220 1.326 0.3304 次に、MTより、Co有効磁気モーメントを求めました。 図は、Co当りの温度(χ-χ0)グラフです。 50K~330Kで一次近似した傾きからCo当りの有効磁気モーメント、スピンを求めると、 右の表のようになりました。 N2アニーリングによって有効磁気モーメントは僅かに増加しています。 Fig. [Ca2CoO3+δ]pCoO2におけるCoの温度と(χ-χ0)-1 の依存性
A) [CaaCo3+xCo4+(1-x)O(3-δ)]pCo3+yCo4+(1-y)O2 B) [CaaCo3+xCo2+(1-x)O(3-δ)]pCo3+yCo4+(1-y)O2 A)RS層Co・・・Co3+orCo4+ (81通り) ・組成 {2a+3x+4(1-x)-2(3-δ)}p+3y+4(1-y)-2×2=0 ・磁化 {S1x+S2(1-x)}p+S3y+S4(1-y)=Savg×(1+p) B) RS層Co・・・Co3+orCo2+ (54通り) ・組成 {2a+3x+2(1-x)-2(3-δ)}p+3y+4(1-y)-2×2=0 ・磁化 {S1x+S2(1-x)}p+S3y+S4(1-y)=Savg×(1+p) Table.3-1 スピン状態 Table.3-2 スピン状態 S1 Co3+ S2 Co4+ S3 S4 High 2 5/2 Intermediate 1 3/2 Low 1/2 S1 Co3+ S2 Co2+ S3 S4 Co4+ High 2 3/2 5/2 Intermediate 1 - Low 1/2 フェリ磁性の減少、有効磁気モーメントの増加を踏まえ、 組成と比較することで、Co原子価、スピン状態を考察しました。 「P型熱電酸化物であることからCoO2層中のCoに関しては3価と4価である。」 と仮定し、RS層中のCoについてはA)3価と4価、B)2価と3価のケースを考え、 すべてのスピン状態に対し模索しました。 組成との比較については RS層中、CoO2層中のCoについて3価を変数とし、組成と、磁化の結果から連立方程式を立て、 RS層中、CoO2層中のCo3価の割合を求めました。
Air 135 9 5 3 N2 135 6 2 RS層とCoO2層のCo RS Co3+LS&Co2+LS or Co3+LS&Co4+IS CoO2 Co3+LS&Co4+LS Air 135 9 5 3 N2 135 6 2 RS Co3+LS & Co2+LS CoO2 Co4+LS CoO2層中のCoが3価と4価とすると、異なるCo原子価、スピン状態の組み合わせは 135通りになります。 組成分析の結果と磁化の結果から、解を求めた時に、 RS層中、CoO2層中のCo3価の割合が0以上1以下で求められるのが、 それぞれ9通り、6通りとなります。 ここで、NaCoO2系と同様に「CoO2層がLow spin」、 さらに、「等価なCoサイトにLow spinとHigh spinが共存しない」、と仮定すると、 N2アニーリング後のCo原子価、スピン状態は、「RS層中で2価及び3価のLS、CoO2層中で3価及び4価のLS」 の可能性が残ります。 このことから、RS層中のCo3価をlow spinとすると、 焼結後のCo原子価、スピン状態は、「RS層中で2価及び3価のLS、又は3価のLSと4価のIS」 だった可能性が考えられます。 CoO2層 ↓ Co3+&Co4+ ⅳ)RS層⇒Co3+はLow spin ⅲ)Low spin とHigh spin は共存しない ⅱ)CoO2層 ⇒ Low spin ⅰ)0≦x ≦1, 0≦y ≦1
Fig.RS層におけるCo-d(x2-y2)軌道及びO-2p(x,y)軌道の模式図 a b c Air y x z d(x2-y2) Co O Ca t2g Co2+LS 30~50% Co3+LS 50~70% Co3+LS 50~70% Co4+ IS 30~50% Fig.RS層におけるCo-d(x2-y2)軌道及びO-2p(x,y)軌道の模式図 N2 RS層中のCo原子価、スピン状態として残った可能性は左側の図のようになります。 アニーリングをすることで、 「Co2価と3価の割合が変化した可能性」と 「Co4価が含まれていたが、結局Co2価と3価になった可能性」 です。 ここで、アニーリングをすることでフェリ磁性が減少したことを再度見直します。 右図に示したとおり、RS層中においてCo-d(x2-y2)軌道及びO-2p(x,y)軌道はxy面で,軌道が重なっている可能性があります。 これらの軌道で、スピン交換相互作用が起こり、フェリ磁性が起こっていたと仮定します。 この時、 O-2p(x,y)軌道の電子が、 Co-d(x2-y2)軌道に入ってくることになります。 アニーリングにより、O欠損と共にこの電子は残ると考えられますが、 RS中のCo4価ISがアニーリングによりCo2価LSに変化したとすると、t2g軌道に電子が残ることになります。 このことを踏まえると、RS層中のCo原子は2価及び3価であった可能性の方が高いと考えられます。 RS層中で、スピン交換相互作用をおこすCo3価の減少が、フェリ磁性の減少に繋がったと思われます。 Co2+LS 75~90% Co3+LS 10~25% Fig.Coスピン状態と軌道
抵抗率及び伝導層のキャリア濃度 ※RS層Co: 2+low spin & 3+low spin CoO2層Co: 3+low spin & 4+low spin 100~300Kにおける抵抗率と、 297Kのみですが、熱起電力はアニーリングをすることにより、 それぞれ増加しました。 これは、右上のグラフに示したとおり、CoO2層中のCo4価が減少しキャリア濃度が減少したためと思われます。 Fig. 抵抗率
結論 δの減少と共にb2長さが減少し、 弱強磁性が減少することが確認できた。 また、抵抗率、熱起電力の増加が見られた。 ・N2雰囲気で800℃12時間アニーリングすることで、 δの減少と共にb2長さが減少し、 弱強磁性が減少することが確認できた。 また、抵抗率、熱起電力の増加が見られた。 ・組成分析、構造解析、磁性の変化を比較することで、 RS層(Ca2CoO3+δ)におけるCoは2価及び3価のLow spin状態、 又は4価のIntermediate及び3価のLow spin状態、 CoO2層におけるCoは3価及び4価のLow spin状態 である可能性が考えられる。 ・弱強磁性の減少がCo-d(x2-y2)とO2p(x,y)軌道のスピン交換相互作用 によると仮定すると、 RS層(Ca2CoO3+δ)におけるCoは2価及び3価 のLow spin状態である可能性の方が高いと考えられる。 ・抵抗率の増加はCoO2伝導層におけるキャリア濃度の減少 によって起こったと考えられる。