八洲学園大学 公開講座 次の大震災への鉄道の備え - 首都直下地震へどう備えるか - ( 株 ) ライトレール 代表取締役社長 阿 部 等 平成 24 年 3 月 11 日
1 本日の内容 1.確実に襲来する首都直下地震 2.大震災時の鉄道の被害(過去の経 験) 3.大震災時の鉄道の被害(冷徹な評 価) 4.想定される最悪のシナリオ 5.減災対策の提案 6.まとめ
2 1.確実に襲来する 首都直下地震
3 (1) 21 世紀の日本列島 地震学者 – 日本列島を含む太平洋域は 1995 年の阪神・ 淡路大震災以降、地震の活動期に入った。 記録や地層で確認される東北大震災 – 過去4回の全てで、関東大震災または東 海・東南海・南海地震が前後数十年の間に 発生 これから数十年間 – 日本列島は繰返し大震災に襲われると覚悟
4 (2) 首都圏周辺の地殻 過去に繰返し大震災が発生 1923 年の関東大震災以来 90 年近く – 歪みエネルギーが蓄積 – 遠からぬ将来に確実に大震災が襲来 – 東大地震研「首都圏 M 7級、4年以内に 70 %」 3.11 から半年間の M 3以上の地震頻度から試算 – 京大防災研「首都圏 M 7級、5年以内に 28 %」 3.11 から 10 ヶ月の M 3以上の地震頻度から試算 首都直下地震を前提に鉄道再構築を – 首都圏以外の他の大都市も同様
5 2.大震災時の鉄道の被害 (過去の経験)
6 (1) 関東大震災 国鉄の列車脱線は 23 本、死者 117 名 – 脱線は東海道線に集中( 12 本) 東海道線 74 列車(平塚・大磯)死者 8 、重傷 39 横須賀線 514 列車(沼間・田浦)死者 3 、重傷 1 熱海線 116 列車(根府川)死者 105 、重傷 2 常磐線 814 列車(東信号所)死者 1 、重傷 11 東海道線 74 列車小田原駅 「土木学会関東大地震震害調査報告掲載写真集 」
7 (2) 阪神・淡路大震災① 列車脱線は 16 本、死亡ゼロ – いわゆる「震災の帯」の中のみ。 「鉄道を巨大地震から守る」「よみがえる鉄路」( 山海堂)
8 (3) 阪神・淡路大震災② 「よみがえる鉄路」(山海堂)
9 (4) 阪神・淡路大震災③ 線路も駅も大きな被害箇所あり – 早朝6時前で本数少なく、車内もガラガラ – 大惨事に至らなかったのは幸運 線路の被害 駅の被害
10 (5) 東日本大震災 新幹線・在来線とも全列車が安全に停止 – 「早期地震警報システム」が有効に機能 –P 波と S 波の到達時間差を利用して緊急停 止 P 波(縦揺れ):速度は速く、揺れは小さい S 波(横揺れ):速度は遅く、揺れは大きい – 沿岸に設置の地震計で P 波を検知し停止指 示 以下も奏功して大惨事は1件もなし – 構造物や駅舎の耐震補強 – 新幹線の震災時脱線防止対策(車両と線 路) – 従事員の教育訓練
11 3.大震災時の鉄道の被害 (冷徹な評価)
12 (1) 日本の鉄道の大震災対策は万全 近年の大震災で壊滅的な大事故は皆無 – 多くの幸運に恵まれた 関係者に安心感が広がり、今後の本格的な対策 の手が緩むことを恐れる 阪神・淡路大震災 – 列車のほとんど運行していない早朝 新潟県中越地震で脱線した上越新幹線 – 直線かつ分岐器もホームもトンネルもな かった
13 (2) 早期地震警報システム 東日本大震災 – 複数の巨大地震が順に連動 P 波検知から2分以上後に本震が新幹線に達し た 本震により線路被害や大規模な電柱倒壊 海洋地震でなく内陸地震では、 –P 波と S 波の到達時間差を活用できない 第1波が本震の場合は、 – 高速走行のまま線路と電柱の被害区間へ
14 (3) 自動車と比べた鉄道の弱点 減速度が小さい – 緊急停止できない 目前の線路が破壊していても障害物があって も 100 km/h から30秒、300 km/h から2分 輸送単位が大きい – 事故が起きた場合の被害規模が甚大に 15両編成で285%の混雑だと6000人 乗車 10両編成で215%の混雑だと3000人 乗車 脱線すると進路制御不能 – ハンドルのない自動車と同じ
15 4.想定される最悪のシナリオ
16 (1) 平日朝8時に首都圏直下地震 多数の満員電車 – 数百人~数千人が乗車 – 数百本 – 数十 km/h ~中には100 km/h 以上で走行 も 早期地震警報システムも有効に機能せず – 直下地震 P 波と S 波の到達時間差を活用できない 第1波が本震だとどうしようもない
17 (2) 最悪のシナリオ 以下の「想定」は起きて欲しくない – 多くの人に気付いてもらい、真剣な対策 を! あらゆる路線で – 列車は次々と脱線、転覆、正面衝突 – ホームに激突、高架橋から転落 地下鉄 – 停電して照明は消え真っ暗 エスカレーターもエレベーターも動かない – 場合によっては津波で水没 死者が数十万人、怪我人は数百万人?
18 (3) 大震災時の同時多発脱線・転覆 福知山線事故は7両編成 – 死亡 106 名、負傷 562 名で済んだ 首都圏の朝8時 – 数千人乗った満員電車が脱線・転覆数十箇 所 – 道路も被災かつ交通錯綜し大渋滞 救援人員も機材も現場へ着けず、病院搬送でき ず 真夏なら数万の遺体が数日で腐敗し伝染病蔓 延 真冬なら体温低下し短日時で絶命 救命・救護・遺体処理に多数の人員が奔 走 – 社会全体の復旧・復興ままならず
19 5.減災対策の提案
20 (1) 低コストで早急な対策① 道床固結剤の散布 – 有道床軌道 道床砕石・まくらぎ・レールからなる 列車運行に支障ない範囲で壊れることを前提 適正な線路の保守により安全確保 大震災時の大規模破壊は想定外 – 道床固結剤の散布で大規模破壊の確率低減 5000 円 / m × 本線 5000km ≒ 250 億円
21 (2) 低コストで早急な対策② 車輪のフランジを高く – 現行の在来線は 27mm が標準 適正な車両と線路の保守により安全確保 フランジを高くすれば脱線確率は大幅に低減 – 地上設備を更新せずに済む 35mm へ車輪交 換 200 万円 / 両 ×2 万両≒ 400 億円
22 (3) 鉄道を再構築する中長期的対策① 軌間の拡大 – 現行の狭軌鉄道 1067mm の軌間に 2900mm 幅の車両 おおむね1:3と思いのほかアンバランス 適正な車両と線路の保守により安全確保 大震災時の大振動と大規模軌道破壊は想定外 – 例えば 2500mm として走行安定性を高める 横風対策にも効果的
23 (4) 鉄道を再構築する中長期的対策② 鉄輪式リニア化 – 現行の鉄道 車輪の回転を緩めレールとの間の摩擦力で減 速 車輪とレールの摩擦力は小さく急制動では滑 走 – 鉄輪式リニア 左右レール間にプレートを敷設 地上と台車間の電磁力により減速 滑走が起きず減速度の限界なし – 目前の線路破壊や障害物に対し急制動 車内の転倒事故防止より素早い停止が優先 大震災以外の異常時の安全向上にも効果的
24 (5) 鉄道を再構築する中長期的対策③ ラダーまくらぎ化 – まくらぎを横でなく縦に敷設 軌間は数mおきの鉄棒で保持 – 鉄道発祥の頃は軌間保持に苦労し横まくら ぎ 軌間保持できるなら縦まくらぎの方が合理的 構造 – 大震災時の大きな軌道破壊を起しにくく ロングレールの張出し事故防止にも効果的
25 (6) 鉄道を再構築する中長期的対策④ フランジを大幅に高く –35mm より高くしようとすると 地上設備(踏切の敷き板や分岐器)に支障 – ①~③と同時に対応し例えば 10cm とすれ ば 大震災時の脱線確率は大幅低減 通常の線路保守ミスによる脱線確率も大幅低 減 ①~④と同時に列車を総2階建て化 – 保安度向上と同時に輸送力増強 – 真の鉄道再構築 –100 億円 / 複線 km×1000 複線 km ≒ 10 兆円
26 6.まとめ
27 次の大震災への備えは国家の最大課題 中でも鉄道の備えは極めて重要 – 過去の大震災における最大死因 関東は火災、阪神・淡路は圧死、東日本は津 波 – 次の大震災は鉄道の脱線・転覆? 想像力と科学的解析により最悪のシナリオを 想定 対策はある! 社会全体が健全な危機意識 を! 国家存亡の危機になりかねない – 致命的な国力の低下 日本社会の中枢人材の大量喪失 救命・救護・遺体処理に多大な労力 長期に渡る効率的な交通機能の喪失
28 ( 参考 ) 首都直下地震防災・減災特別P H19 ~ 23 年度の文科省からの委託研究 – 東大地震研、防災科学技術研、京大防災研 日本の地震研究の最高の英知を結集 – 首都直下地震は切迫性高く甚大被害が推定 首都直下地震の姿を明らかに 建物の耐震構造技術の向上や災害対応体制の 確立により被害軽減 – 3つのサブプロジェクトで構成 理学:首都圏周辺でのプレート構造調査等 工学:都市施設の耐震性評価・機能確保 社会科学:広域的危機管理・減災体制の構築