消費者行動の理論 (3) 貯蓄・労働供給の決定 貯蓄の決定理論 – 2 期間モデル – 割引価値,生涯の予算制約 – 貯蓄の決定 – 利子率の変化 労働供給の決定理論 – 基本モデル – 後方屈曲的労働供給曲線 – コーナー解 – 所得再分配政策.

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Presentation transcript:

消費者行動の理論 (3) 貯蓄・労働供給の決定 貯蓄の決定理論 – 2 期間モデル – 割引価値,生涯の予算制約 – 貯蓄の決定 – 利子率の変化 労働供給の決定理論 – 基本モデル – 後方屈曲的労働供給曲線 – コーナー解 – 所得再分配政策

貯蓄の決定 2 期間モデル 第 1 期:労働期間第 2 期:引退後の期間 貯蓄  将来の消費のため 貯蓄自体が効用をもたらすわけではない 効用関数 U(C 1, C 2 ) 予算制約 C 1 +S=W 1 C 2 =W 2 +(1+r)S

予算制約式を 1 本にする C 1 +S = W 1 (1) C 2 = W 2 + (1+r)S(2) (1)+(2)/(1+r) より C 1 +C 2 /(1+r)=W 1 +W 2 /(1+r)(3) 生涯の予算制約式 割引現在価値 (present discounted value) – 将来(第 2 期)発生する 1 円の所得と現在のいくらが 同等か – 第 2 期の 1 円の割引現在価値は 1/(1+r) 円 – 将来発生する所得,消費は割引いて計算する

割引価値 discounted value 現在 1 年後 1円1円 (1+r) 円 現在 1 年後 1/(1+r) 円1円 1 年後の x 円  現在, x/(1+r) 円を保有しているのと同等 多期間での割引価値 現在の 1 円は t 年後に (1+r) t 円 t 年後の x 円  現在, x/(1+r) t 円を保有しているのと同等 1 年後に 1 円を返却するという約束で借入れできる金 額 預金しておくと 1 年後には元利合計で (1+r) 円に

割引価値 (2) t 年後の 1 円の割引価値

消費・貯蓄の決定 max U(x,y) s.t. px + qy =I と同じ問題に帰着。 1/(1+r) が C 2 の価格( C 1 の価格を 1 とした時) W 1 +W 2 /(1+r) が I に相当:生涯所得

貯蓄の決定 C1C1 C2C2 C 1 +C 2 /(1+r)=W 1 +W 2 /(1+r) 1+r E C1*C1* C2*C2* A W1W1 W2W2 S

貯蓄の決定:応用 利子率が上昇すると予算線はどう変化するか。 W 2 =0 とする。利子率の上昇は貯蓄を増やすだろ うか ? W 1 >0,W 2 >0 の場合,利子率の上昇は最適な消 費・貯蓄はどう変化させるだろうか。 W 1 +W 2 /(1+r) は同一の 2 人の個人がいる。個人 A は W 1 が多く,個人 B は W 2 が多い。 2 人の効用関数は 等しいものとする。 A と B のどちらが第 1 期に多 く貯蓄するだろうか ?

利子率変化の効果 C1C1 C2C2 A C1C1 C2C2 A 利子率の上昇 所得の経路を表す A 点がどこにあるかで,利子率上昇の所得効果は大き く異なる(購買可能領域)

利子率変化の効果 W 2 =0 のケース 当初の予算線 所得補償後の予算線 C1C1 C2C2 利子率上昇後の予算線 E F G u0u0 u1u1 E  G 代替効果 C1 から C2 への代替 G  F 所得効果 C1 , C2 ともに増加 貯蓄に与える影響ははっきり しない(所得効果と代替効果 が相殺しあったため)

消費・貯蓄の理論 恒常所得仮説 ライフサイクル仮説 遺産動機(利他主義的遺産動機) 予備的動機の貯蓄 – 所得等の不確実性  予備的動機の貯蓄

労働供給の決定 1 期間のモデルで考える 労働  自由時間(余暇: leisure )の減少 労働  金銭的な所得の獲得  消費支出 U(C, l ) 効用関数 p C = w h (狭義の)予算制約 h +l = T 時間の制約 p: 消費財の価格 C :消費 w: 賃金率 h :労働時 間 l :余暇時間 T: 利用可能時間

労働供給の決定 (2) pC=wh(1) h+l=T(2) (2) より, h=T-l. これを (1) に代入すると pC=w(T-l) 移項すると pC+wl=wT(3) pC: 消費財への支出, wl :レジャーへの支出 wT :潜在的所得 結局 Max U(C, l) s.t. pC+wl=wT 2 財の選択のモデルに帰着した。

労働供給の決定 l C pC+wl=wT w/pw/p E l*l* C*C* T h U(C,l)U(C,l)

労働供給の決定:練習問題 賃金率の変化は労働時間をどう変えるか。 比例的な賃金税は予算線をどう変化させ るか。また,最適な労働時間はどう変化 するか。 消費税 (p を割高にする)の増税は労働時間 に影響を与えるだろうか。 累進所得税(所得が高くなるほど限界税 率が高くなる)の存在が労働時間に与え る影響を論じなさい。 生活保護給付の効果を論じなさい。

賃金率変化の効果 当初の予算線 所得補償後の予算線 賃金率上昇後の予算線 E F G u0u0 u1u1 E  G 代替効果 賃金の上昇はレジャーを高 価に l から C への代替 G  F 所得効果 l , C ともに増加 労働供給に与える影響ははっ きりしない l C

賃金率変化の効果 (2) 後方屈曲的労働供給曲線 賃金率上昇の効果 賃金の低いときには代替効果が優勢 賃金が十分高くなると所得効果が優勢 l C 効用最大化点の軌跡 h w/pw/p 典型的な労働供給曲 線

非労働所得の存在 l C pC+wl=wT+I w/pw/p E I T h U(C,l)U(C,l) 非労働所得 I が大きい 場合には,賃金率上昇 の効果は代替効果が重 要になる

コーナー解 十分高い非労働所得と 低い賃金  働かないこ とを選択する 留保賃金 (reservation wage) ある水準より賃金がた かなくなると,人々は 働こうとする。留保賃 金はその閾値。

再分配政策 生活保護 l C 当初の予算線 E A u0u0 AF: 所得保障水準 労働者が働いている場 合, AF と労働所得の ギャップ分の生活保護 給付が支払われる 予算線の FD 上では,労 働所得が 1 円増加する と給付は 1 円減少 強い労働供給抑制効果  貧困の罠 B F D u1u1

負の所得税 労働供給のインセンティ ブをなるべく失わせない ような再分配政策

所得税の効果 予算線はどう変化するか – 比例的労働所得税 – 累進的労働所得税 限界税率と平均税率 – 労働供給に与える効果(特に代替効果)で重 要なのは限界税率 デフレの影響 女性の労働