認知心理学 認知発達 今井むつみ
問題提起 – なぜ発達を研究するのか – 子どもを対象にした認知研究は人間の認知に ついて何を教えてくれるか? – 人間の知識の源泉は何か? – 人間にとってもっとも自然な概念は何か? – 人間の「学習」とはどのようなものなのか? – 「学習」が可能なためには何を生得的にもっ ていなければならないのか?
問題提起つづき – 子供は白紙状態でうまれてくるのか? – 認知発達の道筋は生得的に決まっているの か? – 人間の子どもが学習するようなコンピュータ をつくるためには?
認知発達に対する考え方 行動主義 ピアジェ 最近の発達心理学者
赤ちゃんの認知能力を測る おしゃぶりの圧力測定法 選好振り向き法 馴化・脱馴化法 選好注視法
おしゃぶり測定法 赤ちゃんは自分が聴きたい聴覚インプットが流 れてくると激しくおしゃぶりを吸い、興味のな いインプットが流れてくるとおしゃぶりが緩慢 になる
馴化脱馴化法 赤ちゃんは同じものを見つづけるとあき てしま い、刺激を見なくなる 飽きたものでなく、別の新しいもの、あ るいは予想を裏切るものが提示されると 注意が回復する
赤ちゃんの持つ豊かな知識 物体に関する知識 言語に関する知識
物体の基本的原理の理解 (1)物体はまとまっている 遮蔽されて目に見えない部分は目に 見える部分と連続的に繋がっている (2)物体は運動の際に全体がまとまって 共に動く →Kellman & Spelke(1983) の実験
Figure 3.9 Stimuli used by Kellman and Spellke (1983). For the baby to be able to clearly “see” the bar represented below on the left, and not two segments, the two segments visible above and below the occlusion must move in concert. 乳児(生後5カ月)は棒が一つの連続したものであることを期待し、 期待に反する事象(2つに分断された棒)を見せられると長く注視 する
物体の基本的原理の理解(つづ き) (3)物体は世界に永続的に存在するもの であり、視界から隠されてもその存在は 消えない (object permanence) →Baillargeon(1987) の実験
Figure 3.14 Schematic representation of the habituation and test events used in Baillargeon (1987b). In (1b) a white object sits behind the track, and thus does not interfere with the movement of the locomotive in (1c). In (2b) the object has been shifted forward slightly and sits on the track, making the locomotive’s reappearance in (2c) impossible.
物体についての基本的原理の理解 (4)物体は堅固なものであり、ひとつの物体が別の物体を 通りぬけることはできない (物体に穴があいていない限り) スペルキー 生後2カ月の乳児がこの知識を持つことを示す。 Experimental FamiliarizationConsistentInconsistent Control FamiliarizationTest aTest b
生物・非生物の区別に関する知識 生物 → 自発的な運動が可能 非生物 → 自発的な運動はできない 外からの力が必要
Inanimate Object Condition Habituation event Contact test event No-contact test event Person Condition Habituation event Contact test event No-contact event Fig.3.7 Schematic depiction of the events for a study of infants’ inferences about the contact relations between inanimate objects or people.(After Woodward et al )
言語に関する知識 赤ちゃんは母語と外国語を新生児のうち から聞き分けることができる 赤ちゃんは生後 11 ヶ月くらいで母語の音 声的特徴をほぼ抽出し、連続的スピーチ から単語を切り出すことができる
子どもはことばをどのように おぼえるか 親が教えてそれを模倣する? ほめられようとしてことばを覚える? 何度も何度も繰り返し教えられてはじめ て覚える? 何度も間違いを直されて覚える?
ことばの意味を学習するための 前提 ことばから対象、対象からことばへのふ たつの方向性の間に対称的な関係がなり たつことを理解すること ことばは固有名詞をのぞいてはカテゴ リーを指すものであり、ひとつの状況に 限定されず般用されるものであることを 理解すること
ことばの意味の二側面 「内包」と「外延」 外延:当該のことばの指示対象の集合 内包によって決定される 内包:当該のことばが指示する概念
外延と内包の関係 内包は外延の成員の共通性から帰納され る 外延は内包によって決定される
ことばの学習のパラドックス ことばの内包をもたず、状況中のてがか りのみからことばの指示対象を同定し、 その外延範囲を決定することは論理的に は不可能 それにもかかわらず子供はことばの一事 例あるいは少数の限られた事例を与えら れただけで即座にことばに意味付与をし ているようにみえる。
カテゴリーの推論 「リンゴ」 「どれがリンゴ?」
こどもはどのように初めて遭遇 することばの意味の推論をして いるのだろうか?
子供が語に意味付与をするため にしなければならないこと ことばが発せられた状況下でことばの指 示対象を正しく同定する 覚えたことばを他の事物に般用できる。 (他のどの事物にそのことばが適用でき、 どの事物に適用できないかを正しく判断 することができる。)
指示対象を同定し、般用するた めには … まず、当該の語がどのような種類(品 詞)の語であるかどうか決定できなけれ ばならない 各々の品詞がイベント中のどの要素に対 応するのかがわからなければならない 何に基づいて般用がされるのかがわから なければならない
日本語における名詞学習の問題 日本語の場合、名詞の中の種類が文法的 に指標されない → 固有名詞対普通名詞、物質名詞対物体 名詞が形態としては区別されない 文法的手がかりの欠如は日本人幼児の名 詞の語意推論に影響を与えるのか?(つ まり欧米の子どもに比べ、日本人の子ど もは名詞の学習が困難なのか?)
知らない人工物についた 新しいことば
知らない動物についた 新しいことば
固有名詞・下位カテゴリー名の 学習 事物カテゴリーバイアス → 固有名詞の学習を阻害 相互排他性バイアス → 下位・上位カテゴリー名の学習を阻害
日本語母語児における固有名詞、 下位カテゴリー名の学習 事物カテゴリーバイアスの克服に大きな 手がかりとなる文法情報が日本語には欠 ける( Imai&Haryu , 1999; 2001)
日本人幼児における固有名 詞・下位カテゴリー名の学 習:( Imai & Haryu,2001) 英語と異なり、日本語には固有名詞・ 普通名詞を区別する文法情報がないに もかかわらず、日本語を母語とする2 歳児は – 動物についた2番目の名前は固有名詞とし て解釈する – 人工物についた2番目の名前は下位カテゴ リーを指す名前として解釈する
日本人幼児における固有名詞・ 下位カテゴリー名の学習 それまでの語意学習の経験から人工物に は(原則的に)固有名がつかないことを 学習し、文法情報の欠如を補う 既知の動物が洋服を着るなど擬人化され ていたことも影響? 「ネケペンギン」のように複合名詞にす ると既知の動物でも未知のラベルを下位 カテゴリーにマップ
子どもの語意の推論 子どもはことば(モノの名前)に対して 思い込み(スキーマ)を持っている – ことばはモノ全体の名前である – ことばはカテゴリーの名前である – 色やサイズ、素材の違いは無視して形の類似 性にしたがって般用する。(形状類似バイア ス)