疾患診断の概要
疾患とは何か? 疾患(英語ではdiseaseで病気,疾病と同義語)とは異常が兆候や症状を介して臨床的に明らかになったもので、異常は構造的異常と機能的異常あるいは両方を指す。 体に異常が生じたために正常で健康な状態が失われている状態。 (単に異常が生じただけでは症状が認められずに疾患を証明することができないこともある。したがって疾患とは健康な状態が失われた状態にまで達したものを指す。)
疾患の特性 全ての疾患は分類し、診断することが可能な特徴を有している。 疾患の特徴について論理的で秩序だった考え方ができるように覚えておかなければならない。 特に以下の事柄については、今後取り上げる疾患について答えられるようにするのがベターである。 病因(疾患の原因) 病原論(病変の成立機序) 病理学的・臨床的特徴(疾患の構造的、機能的特徴) 合併症と続発症 予後と治療 疫学:疾患の発生率と罹患人口分布
病因の分類 内因 ①年齢、性別、人種などによるもの ②アレルギー体質など個人的なもの ③ホルモン異常など内分泌にかかわるもの ①年齢、性別、人種などによるもの ②アレルギー体質など個人的なもの ③ホルモン異常など内分泌にかかわるもの ④遺伝・染色体異常など先天的なもの 外因 ①感染因子(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫)などの生物学的因子 ②一酸化炭素などの有害な化学物質による化学的因子 ③放射線、物理的外傷、熱傷などの物理的因子 ④栄養素の不足などの栄養障害 ⑤医療行為による医原病
病原論 病因が病理学的、臨床的兆候を生み出す仕組みのことを疾患の病原論という。病原因子のグループは、しばしば同じメカニズムを介して疾患を引き起こす。以下のようなメカニズムが含まれる。 炎症:多くの微生物や組織障害の原因となる因子に対する反応 変性:各種の細胞傷害因子によって引き起こされる細胞の反応 (最近は神経変性疾患を除いてあまり使われない。むしろ沈着とか変化) 虚血・ショック:血流の障害によっておこる 発癌:腫瘍原性因子による腫瘍発生過程 免疫反応:生体の免疫応答による組織障害
問題解決型(症状中心)アプローチと疾患中心アプローチ 患者さんを目の前にして医療従事者がまずやるべきことは、症状中心の問題解決型アプローチであろう。なぜならば患者さんは診断名を訴えてくるわけではなく、症状を訴えてくるからである。しかしながら、問題解決型アプローチによって疾患名が診断できたら、その後はその疾患について十分な知識を持っていることが要求される。つまり、臨床の現場においては、問題解決型アプローチと疾患中心アプローチの両方が必要とされる。教科書においては、症状中心に(例えば咳、頭痛など)編集することも可能であるが、疾患について正しく理解することは困難であろう。つまり、疾患中心アプローチによって疾患を正確に覚えた後に、問題解決型アプローチの方法も学ぶことが要求される。
疾患の命名法 1)原発性と続発性 原発性とは明らかな原因がなしに起きた疾患をいう。同じ意味として特発性、本 態性,原因不明が使われる。 原発性とは明らかな原因がなしに起きた疾患をいう。同じ意味として特発性、本 態性,原因不明が使われる。 続発性とは、他の病変によって起きる疾患をいう。 2)急性と慢性 急性と慢性を罹患日数で区別することは容易ではない。例えば慢性肝炎は6ヶ月 以上肝機能障害がある状態をいうし、慢性気管支炎は痰を伴う咳が1年のうち3ヶ 月以上あり、その状態が2年以上続く状態をいう。 3)良性と悪性 悪性と良性が対比されるように存在するのは腫瘍くらいであり、良性腫瘍は脳な どを圧迫しないかぎり致命傷にはならないが、悪性腫瘍は浸潤・転移して一般に 致死的である。 4)症候群 それなしでは疾患を認識・診断できないような病変の組み合わせを共通して持つ 疾患群をいう。例えばネフローゼ症候群は、各種の糸球体疾患やその他の腎疾 患で起こる蛋白尿、低蛋白血症を呈する疾患である。
医学用語(特に漢字)の読み方を正確に! 以下に示すように、医学用語には漢字の読み方が難しいものが多い 1.壊死 2.嵌頓 3.嚥下 4.嗄声 5.膝窩 えし かんとん えんげ させい しっか
打 診 左手の中指の第1関節と第2関節の中間付近を右手の中指でたたく。空気の多い臓器はポンポンと鼓音がし、水の多い臓器は濁音がする。 打 診 左手の中指の第1関節と第2関節の中間付近を右手の中指でたたく。空気の多い臓器はポンポンと鼓音がし、水の多い臓器は濁音がする。 机を叩いてみよう!!
聴 診 聴診器(ステトスコープ)を用いて、心音や呼吸音などを聞いて、心臓や肺の疾患の有無を判断する。
触 診 右季肋部に手をおいて、腹を膨らませるように深呼吸をしてもらうと、肋骨の下に肝臓を触れることがある。正常ではほとんど触れない。
バイタルサイン 英語では複数形でvital signsと表現されるように、「生きている証」は複数存在する。「意識がある」「心臓が動いている」「呼吸をしている」というような要素がその証明として知られている。 1.脈拍 2.呼吸 3.血圧 4.体温 5.意識状態
熱 型 〇発熱の程度 37.0度-37.9度(あまり数値にはこだわらず) 微熱 38.0度-38.9度 中等度熱 39度以上 高熱 熱 型 〇発熱の程度 37.0度-37.9度(あまり数値にはこだわらず) 微熱 38.0度-38.9度 中等度熱 39度以上 高熱 〇発熱の持続時間 短期発熱 長くて2週間以内、短くて数日 長期発熱 長期にわたる 〇熱の形(熱型) 稽留熱:1日の日差1度以内で持続する高熱 大葉様肺炎 腸チフス、粟粒結核 弛張熱 :1日の日差1度以上、低い時でも平熱にならない。 敗血症、化膿性疾患、ウイルス性感染症、悪性腫瘍 間歇熱:一日の日差1度以上、平熱の時もある マラリア発作熱、弛張熱と同じ疾患など
グラスゴーコーマスケール E:開眼(Eye Opening) 4点 自発的に 3点 音声により 2点 疼痛により 1点 開眼せず 4点 自発的に 3点 音声により 2点 疼痛により 1点 開眼せず V:発語(Best Verbal Response) 5点 指南力良好 4点 会話混乱 3点 言語混乱 2点 理解不明の声 1点 発語せず M:運動機能(Best Motor Response) 6点 命令に従う 5点 疼痛部認識可能 4点 四肢屈曲反応、逃避 3点 四肢屈曲反応、異常 2点 四肢伸展反応 1点 まったく動かず
嚥 下 喉頭蓋
黄 疸 本来なら白いはずだが、黄色く黄染している。ビリルビンの沈着による。
臨 床 検 査 検査の感度 検査の特異性 ある検査にて陽性になったものが10人いた場合、真の陽性者が9人で、偽陽性となった人が1人の時. 臨 床 検 査 検査の感度 ある検査にて陽性になったものが10人いた場合、真の陽性者が9人で、偽陽性となった人が1人の時. 9/10=90%で、90%の感度の検査であると判断する. 検査の特異性 ある検査にて陰性になったものが10人いた場合、真の陰性者が9人で、偽陰性となった人が1人の時. 9/10=90%で、90%の特異性の検査であると判断する. 例えば、90%の人の正常値が2−8の間に入るとした時、正常値の上限を8にすれば10人中9人が正常と判断されるが、1人は正常でも異常と判断される。一方正常値の上限を15にすれば、正常人10人中10人が正常と判断される。つまり上限を15にすると、この検査で異常あり(陽性)と判断された人の中に正常の人の偽陽性が混じることは少なくなり、感度は高くなる。しかし、陰性とされたものの中に異常のある偽陰性者が増加してしまい、特異性は下がってしまう。
検尿検査 尿検査では、pH、尿糖(にょうとう),尿蛋白(にょうたんぱく),尿潜血(にょうせんけつ)などを調べる。
免疫学的検査法 抗原と抗体の結合を用いて、ある抗原があるのかどうかを検出する検査 HIV精密検査のウエスタンブロット法 ウイルス構成蛋白を転写した膜に、検体中の抗体が反応する。左側の2本のレーンではたんぱくが染色されており、陽性と判断する。
画像診断の例 写真左がPET-CT画像。膵がんとその肝転移及び骨転移がとらえられている。写真右はその骨転移を輪切りにして見たPET(上)とCT(下)画像。PETで赤色部分が骨転移、CTでは骨の破壊はみられず、早期の骨転移であることが示唆されている
針生検 超音波診断機 乳がん この針を超音波ガイド下に乳房の病変部に刺す。 針生検で取り出された乳房組織の病理組織像:乳がん
術中迅速診断 ・術中迅速診断とは手術などで、すぐに診断結果が欲し い場合に利用される組織検査方法です。 コンピューターを用いた遠隔術中迅速診断 ・術中迅速診断とは手術などで、すぐに診断結果が欲し い場合に利用される組織検査方法です。 ・通常の組織検査と違って、組織を凍らせて薄切標本を 作ります。 ・検体提出後、約10〜15分程度で報告できます。
細胞診 腫瘍細胞 超音波(エコー)ガイド下吸引細胞診 針を刺して、細胞を吸引して回収する。 針生検より侵襲性が低い。