6月5日(金)4,5限 第6回「教育の道徳的側面~隠れたカリキュラム~」 道徳教育(他学部) 6月5日(金)4,5限 第6回「教育の道徳的側面~隠れたカリキュラム~」
グループワーク① 「学校で学んだこと」と言われて思いつくことを挙げてみましょう。 今日のテーマは「学校の中で意識せずに学んでしまっていること」なので、教科の学びに限らず、できるだけ広い視点で考えてみてください。
隠れたカリキュラム 今日のテーマは学校の中で直接教えられずに学んでいることです。 学校で子どもが学んでいることは、教師が意図的に教えようとしていることばかりではない。 教師の意図を超えていて、子どもにとっても無意識的に学ばれていることがある。 アメリカの教育学者のフィリップ・ジャクソンはこうした教師にも子どもにも意識されないカリキュラムをhidden curriculum(隠れたカリキュラム)と名づけました。 隠れたカリキュラムは、子どもに教室でのふるまい方、対人関係のあり方などを無意識の内に学ばせる機能をもっています。 つまり、隠れたカリキュラムには善くも悪くも道徳的な意味があると考えることができます。
Philip Jackson “Life in Classrooms” 教室の中で日常的に行われていること、当たり前になっていることの中にどんな意味があるかを考える。 そのために、教師や子どもたちの学校生活をつぶさに観察し、そこで行われていることが子どもや教師にとってどのような意味をもっているかを解釈する。 教室での生活で行われることの一つひとつは何気ないことだが、それが繰り返されることにより、子どもは(多くの場合、無意識的に)学校の中で正しいとされる振る舞い、評価を得るために求められることなどを学んでいる。 家庭と社会の間に位置する学校で学ばれる隠れたカリキュラムは、社会生活で求められることを代弁する側面がある。
日常的な行為に潜む意味 文化祭や修学旅行、 学校で日常行われている何気ないこと(ex 授業中や学校生活の規則、教師と子どもの日々のやり取り)にも大きな意味があり、そこに目を向ける必要がある。 例えば、授業中に挙手して発言すること、教師による指名、チャイムが鳴ったら席に着くことなど・・。 日常的な行為は子どもが学校生活を送る中で日々繰り返され、何百万回という単位で繰り返し行われるからこそ、子どもに対する無意識の影響力がある。 隠れたカリキュラムは、このように何気なく繰り返される日常的な行為の中にこそある。
学校は監獄や精神病院に似ている? 学校という場所の制度的特徴を考えていくと、実は監獄や精神病院と似た性質があることに気がつく。 学校は望むか、望まないかにかかわらず、行かなければならない、数少ない場所の一つ。 学校で過ごすことは子どもにとって基本的には避けられないことであり、子どもは学校が彼(女)に求めるものと、自分の欲求とに折り合いをつけることを学ばなければいけない。
隠れたカリキュラム① 群れ(crowd)の中で生きること 集団生活の中で教師は教室のルールを定めざるを得ない。子どもは「群れ」の一員として生きることを求められる。 子どもはその中で「待つこと」を(ex 話す順番、宿題を見てもらう順番)学ぶ。「待つこと」は時に子どもにとって意味があるが、時に無駄に待たされることもある。 また、子どもは時間で動くことを学ぶ。時に、子どもの興味が乗る前に活動は始まり、興味が消える前に終了する。 学級という「群れ」は特殊な集団で、一緒にいながら孤独でもある。一人ひとりが教師と向き合わされる。 よくも悪くも「群れ」の中で生きることは子どもに「辛抱強さ」を求める。個人としての欲求を抑え、教室で「すべき」ことに注意を振り向けること。
孤独な群れ
隠れたカリキュラム②-(1) 評価し、評価されること 子どもは色々な場面で評価されて生きる(例えば、親の言ういい子、悪い子)が、学校での評価は複数の評価が入り混じることで、他の場所にはない特殊な特徴をもっている。 学校における評価の代表的なものといえばテストだが、それだけに尽きない。 この他に、少なくとも①学校という制度が期待することにどれだけ適応しているかの評価、②人格的な特性の評価、という二つの評価がある。 教師にとっての「いい子」は教師に求められることにどれだけよく応えるかということに基準が置かれる。
隠れたカリキュラム②-(2) 評価し、評価されること 評価の主体は教師だけではない。クラスメートも評価に参加する。また、子どもによる自己評価もある。子どもは他者に評価されるだけではなく、自分も他者を評価することを学ぶ。 評価は必ず価値を伴う。従って、評価をする人や評価が行われる教室によって、いい評価、悪い評価が異なる。教師の好みによって子どもの評価が分かれる、教師にとってはいい子でも、仲間からは教師に媚を売ってると見られるなど、複数の評価が矛盾することはよくある。 子どもは様々な評価に囲まれて生きる中で、様々な人からいい評価を得るための術を学んでいく。 この作業は子どもにとって大きな心理的負荷を伴うので、時に評価に対して無関心になり、感情的に距離を取るようになることもある。
隠れたカリキュラム③-(1) 不平等な権力関係 子どもが生まれてから最も早く学ぶものの一つが他者の願いにいかに従うかということ。子どもは物心が着く頃には、大人の権威というものの存在を学ぶ。 子どもは、学校の教師より前にも親の権威に直面するが、両者は性質が違う。 親との関係が親密で長く続くが、教師との関係は親に比べると親密さに欠ける。教師は親のように親密ではないのに子どもに権力を行使する初めての人。 親の権威は「~しちゃ駄目」という形で表現される(危険な衝動の制限)ことが多いのに対して、教師の権威は授業や行事を成り立たせるため、「~してはいけない」と同じ程度に「~をしなさい」という形でも表現される。
隠れたカリキュラム③-(2) 不平等な権力関係 教師は子どもが人生で出会う初めての「上司(Boss)」。学校でgood workerになることは、子どもが卒業後に工場やオフィスでgood workerになることにもつながる。 しかし、誰もが苦労もなくgood workerになれるわけではない。 自己嫌悪を感じながら教師にゴマをする子どももいれば、教師の権威から距離を取ることでトラブルを避けようとする子どももいる。
隠れたカリキュラム まとめ① 隠れたカリキュラムはそもそも隠れてはいなかった。近代の学校教育の成立当初は、より明示的に学校で社会的な道徳や価値観の伝達が目指されていた。 隠れたカリキュラムが隠れるようになったのは、上記のような目的が自然に達成されるようになったから。現在では、隠れたカリキュラムは子ども一人ひとりの人格形成や能力の開発といった目的の陰に隠れながら機能している。
隠れたカリキュラム まとめ② 隠れたカリキュラムとオフィシャルなカリキュラム(ex 数学、理科、社会)は学校の中で一体になっている。 隠れたカリキュラム まとめ② 隠れたカリキュラムとオフィシャルなカリキュラム(ex 数学、理科、社会)は学校の中で一体になっている。 オフィシャルなカリキュラムよりも隠れたカリキュラムの方が、子どもの困難や問題につながっていることが多い。学業の問題に見えることが、隠れたカリキュラムの学習の失敗に原因をもつこともある(ex 数学の時間に「やる気がない」子どもは数学が嫌いなのではなく、隠れたカリキュラムに反抗しているのかもしれない)。 オフィシャルなカリキュラムと隠れたカリキュラムが両立していることもあれば、矛盾していることもあるが、学校における子どもの学びを考える上では両者の関係を見ていく必要がある。
隠れたカリキュラム まとめ③ 隠れたカリキュラムは自分の欲求を表現することと、他者の願いに従うこととのバランスを求める。 隠れたカリキュラム まとめ③ 隠れたカリキュラムは自分の欲求を表現することと、他者の願いに従うこととのバランスを求める。 これは、学校の外での生活に直結している。幼稚園の入学から子どもは「会社(The Company)」での生活がどのようなものかを学び始めている。 隠れたカリキュラムへの対応は人それぞれ。従順にそれを受け入れる子どもいれば、明確に反抗する子ども、心理的にそこから距離を取る子どももいる。 ジャクソンは抑圧的な側面もある隠れたカリキュラムを明らかにすることで単純に学校教育を批判しているわけではない。彼の目的はよりよく学校を理解すること。 隠れたカリキュラムの存在は学校という制度の中で生きる以上、ある意味では避けられないもの。教師はその存在を自覚した上で、自分が追求する教育や、子どもの幸福のために何ができるかを考え、実践していく必要がある。
グループワーク 自由にテーマを決めて、隠れたカリキュラムについて論じてみて下さい。テーマ案は使っても使わなくても構いません。 テーマ案 みなさんは、隠れたカリキュラムを学んだと思いますか?隠れたカリキュラムに対してどのような態度(従順、反抗的etc)を取りましたか? ジャクソンが挙げたものとは違う隠れたカリキュラムを思いつけますか? 隠れたカリキュラムはみなさんの人格形成にどのように影響したでしょうか? 吉國自身も意識していないこの授業の隠れたカリキュラムがあるとすればどんなものか、考えてみて下さい。それは吉國が意識しているカリキュラムと両立していますか?矛盾していますか?厳しく指摘してもらって構いません。
HP http://moral-education.seesaa.net/ 感想シート 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワークの中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまいません。 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかかわるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分などがあればその旨を記してください。 必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしくはブログを利用してください。 メール y_yoshikuni@chiba-u.jp HP http://moral-education.seesaa.net/ ユーザー名 moral-education パスワード 449281
参考文献 Phillip Jackson Life in class rooms. Teachers Colledge Press