平成18年度 構造有機化学 講義スライド 復習: 混成軌道 軌道のs性とその応用 奥野 恒久.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
無機化学 I 後期 木曜日 2 限目 10 時半〜 12 時 化学専攻 固体物性化学分科 北川 宏 301 号室.
Advertisements

第1回 確率変数、確率分布 確率・統計Ⅰ ここです! 確率変数と確率分布 確率変数の同時分布、独立性 確率変数の平均 確率変数の分散
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
第2回:電荷と電流(1) ・電荷 ・静電気力 ・電場 今日の目標 1.摩擦電気が起こる現象を物質の構造から想像できる。
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
・力のモーメント ・角運動量 ・力のモーメントと角運動量の関係
伝達事項 皆さんに数学と物理の全国統一テストを受けても らいましたが、この時の試験をまた受けていただ きます。
伝達事項 過去のレポートを全て一緒に綴じて提出されている 方が何名かいらっします。 せっかくの過去の宿題レポートが紛失する可能性を
電子物性第1 第3回 ー波動関数ー 電子物性第1スライド3-1 目次 2 はじめに 3 電子の波動とは? 4 電子の波動と複素電圧
中学数学1年 5章 平面図形 §1 図形の基礎と移動 (7時間).
電子物性第1 第5回 ー 原子の軌道 ー 電子物性第1スライド5-1 目次 2 はじめに 3 場所の関数φ 4 波動方程式の意味
共有結合(covalent bond), 共有結合結晶 とカルコゲン、窒素、リン、ヒ素、炭素、ケイ素、ボロンなどの非金属元素
大数の法則 平均 m の母集団から n 個のデータ xi をサンプリングする n 個のデータの平均 <x>
5.アンテナの基礎 線状アンテナからの電波の放射 アンテナの諸定数
前回の内容 結晶工学特論 第4回目 格子欠陥 ミラー指数 3次元成長 積層欠陥 転位(刃状転位、らせん転位、バーガーズベクトル)
伝達事項 試験は6/6 (土) 1限目の予定です。.
電子物性第1 第6回 ー原子の結合と結晶ー 電子物性第1スライド6-1 目次 2 はじめに 3 原子の結合と分子 4 イオン結合
透視投影(中心射影)とは  ○ 3次元空間上の点を2次元平面へ投影する方法の一つ  ○ 投影方法   1.投影中心を定義する   2.投影平面を定義する
慣性モーメントを求めてみよう.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陽イオン2 奥野 恒久.
空孔の生成 反対の電荷を持つイオンとの安定な結合を切る必要がある 欠陥の生成はエンタルピーを増大させる
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陰イオン&二価炭素 奥野 恒久.
Ⅰ 孤立イオンの磁気的性質 1.電子の磁気モーメント 2.イオン(原子)の磁気モーメント 反磁性磁化率、Hund結合、スピン・軌道相互作用
3次元での回転表示について.
Ⅲ 結晶中の磁性イオン 1.結晶場によるエネルギー準位の分裂 2.スピン・ハミルトニアン
Ⅳ 交換相互作用 1.モット絶縁体、ハバード・モデル 2.交換相互作用 3.共有結合性(covalency)
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
教養の化学 第9週:2013年11月18日   担当  杉本昭子.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
物理学セミナー 2004 May20 林田 清 ・ 常深 博.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:芳香族性 奥野 恒久.
黒体輻射とプランクの輻射式 1. プランクの輻射式  2. エネルギー量子 プランクの定数(作用量子)h 3. 光量子 4. 固体の比熱.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陽イオン 奥野 恒久.
P. 1 有機化合物を構成する元素とその振舞い 2019/2/23 基礎化学B.
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
① 芳香族性と反芳香族性(Hückel則) 芳香族: π電子雲が4n+2個のπ電子を持つ Hückel則
3次元での回転表示について.
知能システム論I(13) 行列の演算と応用(Matrix) 2008.7.8.
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
主成分分析 Principal Component Analysis PCA
分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論)
最小 6.1.The [SiO4] tetrahedron
中学数学1年 5章 平面図形 §2 作図 (3時間).
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/4講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.1 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
課題 1 P. 188.
平面波 ・・・ 平面状に一様な電磁界が一群となって伝搬する波
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
速度ポテンシャルと 流線関数を ベクトルで理解する方法
進化ゲームと微分方程式 第15章 n種の群集の安定性
3.13 鉄‐ポルフィリン (Fe‐porphyrin)
逆運動学:手首自由度 運動学:速度、ャコビアン 2008.5.27
今後の予定 (日程変更あり!) 5日目 10月21日(木) 小テスト 4日目までの内容 小テスト答え合わせ 質問への回答・前回の復習
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
セラミックス 第5回目 5月 14日(水)  担当教員:永山 勝久.
今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
宿題を提出し,宿題用解答用紙を 1人2枚まで必要に応じてとってください 配布物:ノート 2枚 (p.85~89), 小テスト用解答用紙 1枚
【第六講義】非線形微分方程式.
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
行列 一次変換,とくに直交変換.
電子物性第1 第10回 ー格子振動と熱ー 電子物性第1スライド10-1 目次 2 はじめに 3 格子の変位 4 原子間の復元力 5 振動の波
化学1 第11回講義 ・吸光度、ランベルト-ベールの法則 ・振動スペクトル ・核磁気共鳴スペクトル.
生体分子解析学 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
電磁気学C Electromagnetics C 7/10講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
瀬戸直樹 (UC Irvine) 第5回DECIGOワークショップ
学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.0 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
6.8.4 Cordierite 我々がこの章で議論する最後のフレイムワークケイ酸塩はcordierite (Fe,Mg)2Al4Si5O18である。 それは変成岩中で重要な鉱物であるとともに、ひとつの構造中でのAl,Si orderingを研究する方法と熱力学に関するこのorderingの効果の良い例を与える。このことは言い換えるとcordieriteの出現が、変成度の重要な尺度である変成作用に関係するcordierite中のAl,Si.
Presentation transcript:

平成18年度 構造有機化学 講義スライド 復習: 混成軌道 軌道のs性とその応用 奥野 恒久

混成軌道について 混成軌道を作成する上での注意点 ・混成軌道の向いている方向 ・エネルギーが等しくなるように作成する。 混成軌道内においてs軌道、p軌道の寄与は等しい ・規格直交系であること 混成軌道として規格化されていること 混成軌道間の重なり積分が零であること

sp混成軌道 ・2s軌道と2pzとを混成させる 2s軌道 2pz軌道 sp混成軌道 2s軌道の波動関数:Φs 2pz軌道の波動関数:Φpz sp混成軌道:ψ1sp, ψ2sp

sp混成軌道 ・2s軌道と2pzとを混成させる 2s軌道(球対称)の寄与は等価 ψ1sp = a Φs + b Φpz a2 + b2 = 1 (規格化) a = b = 1/√2 a2 - b2 = 0 (直交) ψ1sp = 1/√2 (Φs + Φpz) ψ2sp = 1/√2 (Φs - Φpz)

sp2混成軌道 ・2s軌道と2px, 2py を混成させる sp2混成軌道 2s軌道 2px軌道 2py軌道

sp2混成軌道 -- 幾何学的に算出する方法 -- y x ψ1sp2 = aΦs + b(1×Φpx+ 0×Φpy) 1.混成軌道を描き、軌道の先端方向にベクトルを与える。(大きさは問わない、今の場合は単位円) (-1/2, √3/2) 2.s軌道の寄与は均等にし、p軌道の寄与はこのベクトルに比例させる。 x ψ1sp2 = aΦs + b(1×Φpx+ 0×Φpy) (1,0) ψ2sp2 = aΦs + b(-1/2×Φpx +√3/2×Φpy ) (-1/2, -√3/2) ψ3sp2 = aΦs + b(-1/2×Φpx -√3/2×Φpy ) 3.規格化条件等により 係数を決定する。 a2 + b2= 1 a = 1/√3 b = 2/√3 a2 - b2/2= 1

sp2混成軌道 ψ1sp2 = 1 / √3 Φs + √(2 / 3) Φpx ψ2sp2 = 1 / √3 Φs - 1 / √6 Φpx + 1 / √2 Φpy ψ3sp2 = 1 / √3 Φs - 1 / √6 Φpx - 1 / √2 Φpy

sp3混成軌道 -- 幾何学的に算出 -- ・一辺2の立方体を考え、その中心を原点にとる。 z y x (-1,-1,1) (-1,1,1) (1,-1,1) (1,1,1) y (-1,1,-1) x (-1,-1,-1) (1,-1,-1) (1,1,-1)

sp3混成軌道 -- 幾何学的に算出 -- z y x ・一辺2の立方体を考え、その中心を原点にとる。 ・4つの頂点を結ぶと正四面体になる。 (-1,-1,1) (-1,1,1) (1,-1,1) (1,1,1) y (-1,1,-1) x (-1,-1,-1) (1,-1,-1) (1,1,-1)

sp3混成軌道 ・4つの頂点を結ぶと正四面体になる ψ1sp3= aΦs +b(+Φpx+Φpy+Φpz ) (-1,-1,1) (-1,1,1) ψ3sp3= aΦs +b(-Φpx-Φpy+Φpz ) (1,-1,1) (1,1,1) ψ4sp3= aΦs +b(+Φpx-Φpy-Φpz ) y x (-1,1,-1) (-1,-1,-1) a2 + 3b2= 1 (1,-1,-1) (1,1,-1) a = 1/2 b = 1/2 a2 - b2= 0

sp3混成軌道 ψ1sp3= 1/2(Φs +Φpx+Φpy+Φpz ) ψ2sp3= 1/2(Φs -Φpx+Φpy-Φpz ) ψ3sp3= 1/2(Φs -Φpx-Φpy+Φpz ) ψ4sp3= 1/2(Φs +Φpx-Φpy-Φpz )

S性とは S = a2 / (a2 + b2) ψ = a Φs + b Φp と表わせる場合、 をS性として定義する 混成軌道は一般にsa2pb2となる sp混成軌道ではS性0.5 あるいは50 % sp2混成軌道ではS性0.33 あるいは33 % sp3混成軌道ではS性0.25 あるいは25 %

S性は不連続?それとも連続?? h1 = Φpx cos(q/2)+Φpysin(q/2) 規格化はされているが、両者が直交していない! ∫h1h2dt =∫{Φpx2cos2(q/2)}dt- ∫{Φpy2sin2(q/2)}dt = cos2(q/2)-sin2(q/2) = cos q

h1 = Φpx cos(q/2)+Φpysin(q/2) s軌道の寄与を加え、両者を直交させる! a2 + b2 = 1 (規格化) ψ1 = a Φs + b h1 a2+b2cosq = 0 ψ2 = a Φs + b h2 ∫ψ1ψ2dt =∫(aΦs + b h1)( aΦs + b h2)dt = 0 a2∫Φs2dt + ab∫Φs h1dt+ ab∫Φsh2dt+b2cosq = 0 a2+(1-a2)cosq = 0 a2(1-cosq) = -cosq a2 = cosq/(cosq-1)

軌道のS性 cos q 軌道のS性= a2 = cos q - 1

シクロプロパン環の場合 問題:C-H及びC-C結合を形成している 軌道の混成状態について答えなさい。 方針:C-H結合を形成する軌道のs性 る軌道のs性を求めていく。 a2 = cosq/(cosq-1) だから 114.5º a2 = cos114.5º/(cos114.5º-1) a2 = -0.4147/-1.4147 = 0.2931 C-H結合のs性 29 %より 1 - 0.29 = 0.71 (1 - 0.29 X 2) / 2 = 0.21 1 – 0.21 = 0.79 C-H結合: s0.29p0.71 C-C結合: s0.21p0.79

シクロプロパン環の場合 問題:2つのC-C結合のなす角度を求めよ。 方針:C-C結合を形成している軌道の s性からなす角度を求めていく。 a2 = cosq/(cosq-1) だから 0.21 = cosq/(cosq-1) -0.21 = 0.79cosq 114.5º cosq = 105.4° 2つのC-C結合のなす角度は105.4°??

シクロプロパン環の場合 2つのC-C結合のなす角度は105.4 º?? C-C結合を形成している軌道は 原子間を直線で結んだ直線から 約22.7 º外側に張り出している。 105.4º バナナボンド 114.5º

S性 S軌道の電子はp軌道の電子よりも 原子核に近い領域に存在する 電子は相対的に原子核に近い 領域に高い存在確率をもつ S性が大きい 電気陰性度が大きい ことに相当する

s性がもたらす物理的影響 n C-H/Å C-C/Å ∠HCH/º C-H/s C-C/s Hc/n Δ(kJmol-1) 歪み 3 1.083 1.501 114.5 0.30 0.20 697.1 38.5 115.5 1.093 1.552 106.0 0.27 0.23 686.2 27.6 110.5 1.114 1.546 0.25 0.25 664.0 5.4 27.2 1.110 1.534 105 0.25 0.25 658.6 0 0

pKaの復習 HA + H2O A- + H3O+ [Aー][H3O+] = Ka’[H2O] = Ka [HA] pKa = -log Ka

S性を利用して何が説明されるか? pKa 49 44 25

電気陰性度で議論してはいけない場合もある 酸 pKa HF 3.2 HCl -7.4 HBr -9.5 HI -10 結合エネルギーが大きく異なる場合には、先程の議論は使えない

S性を利用して何が説明されるか? NMRのJ値 124.9 156.4 249.0 1JC-H (Hz) = 500×S

NMRデータによる炭素原子のs性を求める ・1J(13C, 1H)からs性を求める J/Hz = 500×a アルカンの場合 シクロアルカンの場合 混成による違い

フェルミコンタクト相互作用 s軌道は核からの距離0でも存在確率を有する。 距離0での核と電子との相互作用をフェルミコンタクト相互作用と呼ぶ

演習:d軌道を含む混成軌道 正八面体構造(6配位) 例:Co(NH3)63+ 27Co: 1s22s22p63s23p63d74s2 d2sp3 混成 3d 4s 4p

d軌道 z y y x x dxy, dyz, dxz dx2-y2 dz2

d2sp3混成軌道 ψ1= (1/√6)s+(1/√2) px+a1dx2-y2+b1dz2 x ψ2= (1/√6)s-(1/√2) px+a2dx2-y2+b2dz2 ψ3= (1/√6)s+(1/√2) py+a3dx2-y2+b3dz2 y ψ4= (1/√6)s-(1/√2) py+a4dx2-y2+b4dz2 ψ5= (1/√6)s+(1/√2) pz+a5dx2-y2+b5dz2 z ψ6= (1/√6)s-(1/√2) pz+a6dx2-y2+b6dz2

条件 dx2-y2の寄与を考えると、 a5 = a6 = 0 a12 = a22 = a32 = a42 = 1/4 ψ1~ψ4 の規格直交の条件 a5 = a6 = 0 a1a2, a3a4 は同符号、 両者間は異符号 a12 = a22 = a32 = a42 = 1/4 ψ5 ,ψ6 に規格直交の条件 b52 = b62 = 1-1/6-1/2 = 1/3 b5b6 = 1/3, ∴ b5 = b6 = ±1/√3 = 1/√3 dz2の寄与を考えると、 異符号(重なり積分から) b1 = b2 = b3 = b4 = ±1/√12 = - 1/√12

d2sp3混成軌道 ψ1= (1/√6)s+(1/√2) px+1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ2= (1/√6)s-(1/√2) px+1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ3= (1/√6)s+(1/√2) py-1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ4= (1/√6)s-(1/√2) py-1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ5= (1/√6)s+(1/√2) pz +1/√3dz2 ψ6= (1/√6)s-(1/√2) pz +1/√3dz2