心身機能の加齢性変化と 日常生活への影響.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
高次脳機能障害について 藤本大樹. 目次 1 .高次脳機能障害とは 1-1 .高次の活動・低次の活動 1-2 .高次脳機能障害の主な症状 .記憶障害 .注意障害 .持続性注意障害 .容量性注意障害 .選択性注意障害
Advertisements

キー・コンピテンシーと生きる 力 キー・コンピテンシー – 社会・文化的,技術的道具を相互作用的に活用する力 – 自律的に行動する力 – 社会的に異質な集団で交流する力 生きる力 – 基礎・基本を確実に身に付け,いかに社会が変化しようと, 自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断 し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力.
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
心身機能の加齢性変化と 日常生活への影響.
統合失調症ABC 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3.
こころの健康出前講座プロジェクト提供資料
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
今 日 の ポ イ ン ト 骨粗鬆症とは 1. 糖尿病と 骨粗鬆症・骨折の関係 2. 治療の目的は骨折を 防ぐこと 3
クイズ: 嘘! 本当? Q1:高齢化による筋力低下は、生物学的老化現象であるので、防ぐことが出来ない。 □:嘘! □:本当! Q2:脳の中にある神経細胞の数は20歳ぐらいから一定のペースで直線的に減り続けていき、増えることはないので、如何なる努力によっても脳の老化を防ぐことは出来ない。 Q3:ウオーキングやラジオ体操は低下した体力を回復する効果的な方法である。
脂肪 筋肉 骨 今回のテーマは、「体組成」です。 多 少 多 少 Q:体組成って何ですか?
教育心理学 学習と認知プロセス 伊藤 崇 北海道大学大学院教育学研究院.
スポーツ性貧血 05210141.
動悸にはこんな種類があります 心臓の動きが 考えられる病気 動悸とは、心臓の動き(心拍)がいつもと違って不快に感じることをいいます。
飲酒による人体への影響 市村 将 参考・引用文献:Yahoo!ニュース 未成年の飲酒問題
      特別支援学校 高等部学習指導要領 聴覚障害教育について.
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
6.飲酒と健康 飲酒・喫煙のカット 素材集-飲酒 「アルコール健康医学協会」 カット「アルコール健康医学協会」提供.
~未成年の飲酒~ 09311018.
平成21年度 特別支援学校新教育課程中央説明会 (病弱教育部会).
運動と呼吸 および 心機能.
薬物乱用防止教室 健康で幸せな生活を送るために.
脳性まひをもつ 子どもの発達 肢体不自由児の動作改善を目指して 障害児病理・保健学演習 プレゼンテーション資料 2000年2月24日
D18fu906pr102 社会保険制度 介護保険制度の概要.
本邦における「障害」の射程と 身体障害者手帳をめぐる問題
国内平成24年 210 万人の 認知症(⇒20年後 400万人超?) そのうち7~9割に BPSD(認知症周辺症状)出現する
糖尿病の合併症について 三大合併症 神経障害 網膜症 腎症 フットケアを日頃から 心がけましょう! 単純網膜症・前増殖網膜症
第6章 子どもを愛すること ー感情と愛着の発達ー
高齢化社会と補聴器 東北大学 医工学研究科 / 医学系研究科 川瀬哲明.
第4章 子供はものごとを どう理解するか?.
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
手話と聴覚障害について学ぼう 初心者のための手話講座.
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
神戸大学医学部附属病院 リエゾン精神専門看護師 古城門 靖子
独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
メタボリックシンドロームはなぜ重要か A-5 不健康な生活習慣 内臓脂肪の蓄積 高血糖 脂質異常 高血圧 血管変化の進行 動脈硬化
第2回 福祉の現在・現在 厚生労働省(2018) 障害者白書 厚生労働省(2016) これからの精神保健福祉のあり方に          関する検討会資料.
軽度発達障害の理解 中枢神経系における脳の機能障害である。 → 脳の発達の遅れ
第9回(第12回) 女性・中高年・障害者とスポーツ
第9回(第12回) 女性・中高年・障害者とスポーツ
1. 神経は全身に 張り巡らされている 2. 神経障害の主な症状 3. 神経障害の治療法 4. 症状をやわらげるアイデアと
学習目標 1.急性期の意識障害患者の生命危機を回避するための看護がわかる. 2.慢性期の意識障害患者の回復に向けた看護がわかる. 3.片麻痺患者のADL獲得に向けた看護がわかる. 4.失行・失認の患者が生活に適応するための看護がわかる. 5.失語症の患者のコミュニケーション方法の確立に向けた看護がわかる.
SAMPLE 1.人間の活動・運動の意義が理解できる. 2.随意運動の成り立ちが理解できる. 3.同一体位による身体への影響が理解できる.
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
認知症老人の介護   家族に対するケア 上野公園病院 高 田 靖 子.
  「高齢者の心身について」 伊丹市健康福祉部地域福祉室介護保険課 生活援助ヘルパー研修 資料3.
 認知症とは.
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
最近の国試問題における 画像診断のポイント
睡眠のメカニズムに沿った介護的アプローチ
平成23年度 身体拘束廃止施設見学資料.
経過のまとめ 家族歴、基礎疾患のない14歳女性 筋力低下、嚥下障害を主訴としてDM発症 DMは、皮膚症状と筋生検にて確定診断
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
【研究題目】 視線不安からの脱却に 影響を与える要因について
スポーツアロマテラピー.
学習目標 1.栄養代謝機能に影響を及ぼす要因について説明することができる. 2.栄養代謝機能の障害による影響を,身体,精神機能,社会活動の三側面から説明することができる. 3.栄養状態をアセスメントする視点を挙げることができる. 4.栄養状態の管理方法について説明することができる. SAMPLE 板書.
名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学分野
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
教育と発達.
タバコに含まれる物質 結局、タバコは「毒のかんづめ」 4000種類以上の化学物質 200種類の有害物質 60種類の発がん物質
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
老年看護学概論 第2回 「高齢者の理解」 担当:鈴木直美.
厚生白書 人口減少社会の到来と少子化への対応 971221 波多野宏美.
2010応用行動分析(3) 対人援助の方法としての応用行動分析
Presentation transcript:

心身機能の加齢性変化と 日常生活への影響

老化の特徴(Strehler) ストレイラー ・普遍性:老化は全ての生命体に認められ、決してさけて 通る事は出来ない。 ・内在性:老化は環境因子によっても影響されるが、あらかじめ 遺伝的に規程されており、成熟後に発現する。 ・進行性:老化過程は時間とともに進行し、しかも一度 おこったものは不可逆的である。 ・有害性:老化の過程で出現する現象は機能の低下を伴い、 生体にとって有害なものばかり。

老年期に体験される主なストレス現象 喪失:一過性の喪失、配偶者や友人との死別など様々な 喪失体験 侵襲:ちょっとした批判、家族や友人からの激しい敵意、疾病、 不快感、苦痛、外傷などによる心身への侵襲 抑制:本能的、生物的欲求の充足を妨げるような体力の低下、 身体的な疾患、障害、後遺症などによる制約 脅威:近い将来に起ころうとする喪失、侵襲、抑制などの 警告へのおびえ

加齢による生体機能の一般的変化 ・予備力(ストレス耐性)の低下 ・恒常性維持機能の低下 ・防御機能の低下 ・回復力の低下 ・適応力の低下

加齢による身体的変化-脳神経系- ・脳重量の減少・大脳萎縮 ・神経細胞・神経線維数の減少 ・神経伝達物質の活性低下 ・脳血流量の部分的低下 ・脳代謝活性の低下・認知機能低下

年齢階級別認知症出現割合

中核症状 周辺症状 妄想 幻覚 抑うつ 記憶障害 不安・焦燥 実行機能障害 睡眠障害 失行 失認 食行動異常 介護抵抗 失語 徘徊 物を盗まれた という 幻覚 いない人の声が 聞こえる 実際にないものが 見える 抑うつ 気持ちが落ち込んでやる気がない 記憶障害 新しいことを 覚えられない 不安・焦燥 落ち着かない イライラ しやすい 実行機能障害 段取りが立てられない 計画出来ない 睡眠障害 昼と夜が 逆転する 失行 服の着方が わからない 道具が使え ない 中核症状 失認 物がなにか わから ない 食行動異常 なんでも 食べようと する 介護抵抗 入浴や着替えを嫌がる 失語 物の名前が でてこない 徘徊 無目的に歩き回る 外に出ようとする 暴言・暴力 大きな声をあげる 手をあげよう とする 周辺症状 http://dementia.seesaa.net/article/9909088.html  より

加齢による身体的変化-心血管系- ・左室壁の肥厚⇒心肥大・高血圧 ・運動時の最大心拍数低下⇒運動耐用能力の低下 ・冠動脈硬化⇒狭心症・心筋梗塞

加齢による身体的変化-呼吸器系- ◆肺の弾性低下 ◆肺胞数の減少 ・努力肺活量の低下 (できるだけ大きく吸った後、 ・一秒量の低下 ◆肺の弾性低下   ◆肺胞数の減少    ・努力肺活量の低下     (できるだけ大きく吸った後、 ゆっくり息を吐く量)    ・一秒量の低下    ・残気量の増加          ・PaO2の低下 ・呼吸筋力低下

加齢による身体的変化-消化器系- ・咀嚼・嚥下能力の低下 ・消化管蠕動運動の低下⇒便秘 ・腸管壁の脆弱化⇒憩室、便通異常 ・腺分泌の減少 ・腸からのカルシウム吸収の低下 ・胃内容の食道への逆流(逆流性食道炎)、むねやけ

加齢による身体的変化-腎泌尿器系- ・糸球体の喪失 ・腎血流量の低下 夜間尿量の増加 ・糸球体ろ過率の低下 ・健常者では予備能力があるため、 水-電解質バラン スは維持される ・女性では腹圧性、男性では前立腺肥大による溢流性尿 失禁が生じやすい

加齢による身体的変化-骨運動系- ・骨量の減少 ⇒骨粗鬆症 (特に閉経後の女性) ・骨強度の低下 ⇒骨折しやすい ・筋弾力、腱・靭帯の硬化 ・関節液減少 ・滑膜の弾力性低下 ・筋萎縮 ⇒筋力低下 ⇒関節炎を生じやすい

加齢による身体的変化-聴覚- ・聴力:高周波数の音が聞こえにくくなり、老人性難聴増加 ・聴覚の鋭敏性:聴神経は50歳位から少しずつ低下しはじめる。 65歳以上では約30%に聴力障害 ・伝音性難聴:音が外耳及び中耳を通りにくくなるために生じる。 補聴器の装用が有効。 ・感音性難聴:内耳、聴神経、または脳の損傷に関連があるた め、治療に反応する場合としない場合がある。 ・耳の異常な雑音(耳鳴り):特に高齢者にはよくみられる症状 ☆補聴器の早期装用・早期訓練が知的作業能力、認知能力、 情緒的感覚の活性化などに繋がり、日常のコミュニケーショ ンに好影響をもたらす。

加齢による身体的変化-視覚・視力- ・角膜:透明性は維持されるが、角膜内皮細胞は脱落するため、房水 が角膜に流入し、角膜は多少厚くなる⇒光が散乱し易い ・水晶体:黄変・混濁し、弾性が低下するため、屈折変化⇒調節障害 (老視)・色覚低下(色のコントラストがつきにくい) ・瞳孔:縮瞳する⇒眼内に入る光量減少。明暗順応低下 ・硝子体:凝縮・虚脱する。 ・網膜:神経細胞の減少⇒血管の硬化 ・視力:45歳~50歳頃から低下(ロービジョン)⇒転倒リスク 60歳代0.51、70歳代0.39、80歳代0.31、90歳代0.26(80歳で視力1.0以 上は10%程度) ・視野:加齢により感度が低下し狭くなる。緑内障などではさらに狭く なる。 ・視力に影響する疾患:白内障・糖尿病性網膜症・緑内障・加齢黄斑 変性症等

加齢による身体的変化-味覚・嗅覚- ・味覚:酸味・苦味・甘味・塩味を感じる味覚は 加齢性変化はないといわれている。 ・嗅覚:加齢による影響を受けにくいが、副鼻腔炎等 では嗅覚障害を生じることがある。

加齢による身体的変化-造血系- ・造血機能の低下⇒赤血球、ヘモグロビン生成不足、 鉄欠乏性貧血、二次的貧血

加齢による身体的変化-免疫系- ・胸腺萎縮 ・ヘルパーTリンパ球の割合減少 ・自己免疫疾患の増加 感染防御能の 低下

加齢による身体的変化-皮膚- ・皮膚弾力の低下 ・皮膚表在感覚の低下 ・皮膚深部感覚の低下 ・汗腺数の低下⇒外気温への反応性低下 ・皮膚膜の薄化⇒バリア機能低下、ドライスキン

加齢に伴う精神心理機能の変化 あきらめ 義理堅さ 依存的 1.性格特性の変化 60歳以上の人に多く認められる性格 保守性  60歳以上の人に多く認められる性格    保守性   あきらめ   義理堅さ   依存的  75歳以上の人に多い性格 活動性の減退・身体的不自由に関する不安、不満、   短気などの訴えが多い

加齢に伴う精神心理機能の変化 2.知能の生涯発達 ・言語の流暢さ、数的処理能力は若い世代よりも 優れてる。 ・新たなことを学習したり、新しい環境に順応する 流動性知能は低下。 ・老年期の一般的な知能の低下はそれほど大きくな い。低下が目立つのは80歳以降といわれている。

加齢に伴う精神心理機能の変化 3.創造性・拡散的思考 ・ミステリー小説での犯人推理、数学の問題を 解くこと、1つの問題に対して主々の異なった   ・ミステリー小説での犯人推理、数学の問題を 解くこと、1つの問題に対して主々の異なった めずらしい答えを出すことなど独創性には他の 年齢群との差はない。   ・作曲家の室内楽の生産のピークは30代後半と 70代前半にあった。   ・画家の85%は、創造性は老年期が最高の状態とした。

加齢に伴う精神心理機能の変化 4.自己概念(意識化された自己像を高齢者がどう評価するか) ・加齢と共に上昇するという者と 低下するという者の両者がある。 5.不安特性 ・喪失と円熟の時期であり、ストレスのほうが 大きければ不安も高くなる。 ・急性不安よりも低いレベルの慢性不安がある のが通常

身体的な機能低下による心理的影響 ・活動空間の狭まり ・直接的な対人交流や物事への接触低下 ・日常生活での感動、喜びが乏しくなりがち ・事故に遭う危険性の増大 ・新たな活動への不安感により、活動から遠ざかる ★抑うつ反応 ★軽い怪我であっても心理的ショックが大 ★死が近づきつつあることの自覚をよびおこす ★同年代の親しい人の死がその不安をかきたてる

感覚機能(聴力・聴覚)の衰えによる 心理的影響 ・聴力の低下⇒言葉を介した日常のコミュニケーションに影 響 ★猜疑心を生じやすい ★他人の話しかけに対する理解力の低下 ★自閉的な状況に追い込まれる ★知的能力低下 ★記憶力を必要とする作業から遠ざかる ⇒消極的な姿勢へと変化 ★新しい課題への挑戦をためらう

社会環境の変化による心理的影響 ・定年や家庭内役割などの社会的役割の喪失 ・自己の無用感をうえつけられる(行動意欲の減退) ・人間関係から離脱(孤独感を生む) ★自己中心的になる ★役割喪失や周囲の老人扱い =「不当なもの」として認識される ★役割への固執 ★頑固老人扱いされることへの拒否 ⇒意地を張る・自己主張する ★かたくなな態度

高齢者の身体・精神・生活機能の 相互関係 身体状態 精神状態 社会生活 機能